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新潟地方裁判所 平成元年(行ウ)7号 判決 1991年6月25日

新潟市礎町通一の町一九六六番地シャトー礎三一〇号

原告

木村レイ子

新潟県村上市三之町一一番一号

被告

村上税務署長 富澤幸夫

右指定代理人

若狭勝

丹下浩

前島俊一

酒井秋雄

石和田一郎

嶋田恵一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告が原告の昭和六二年分の贈与税について昭和六三年八月一〇日付けでした贈与税決定処分を取り消す。

二  被告が原告の昭和六二年分の所得税について平成元年五月一〇日付けでした所得税更正処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、訴外木村サダエ(以下「サダエ」という)の実子であり、昭和六一年一二月三一日以前は、サダエが新潟県村上市上町一番三〇号所在の店舗兼住宅(以下「本件店舗兼住宅」という)において営む呉服小売業(以下「本件事業」という)の事業専従者として働き、昭和六一年分以前の原告の所得については、サダエを源泉徴収義務者とする源泉所得税が納付されていた。

2  ところが、被告は、原告に対し、昭和六二年一月一日に原告がサダエから、本件事業にかかる棚卸商品、売掛金、買掛金及びその他の販売用の財産(以下「本件事業用財産」という)を対価を支払うことなく取得したとして、原告の昭和六二年の贈与税につき、昭和六三年八月一〇日付けで、本件事業用財産の課税価格を四八八万二六八五円とした贈与税決定処分(以下「本件決定処分」という)を行い、また、昭和六二年一月一日以後の本件事件の事業主は原告であり、本件事業から生ずる所得は原告に帰属するとして、昭和六三年八月一〇日付けで、昭和六二年分の総所得金額を五七一万六〇五八円とした所得税決定処分を行つた。原告は、本件決定処分について、昭和六三年八月一七日に異議申立てを行つたが、同年一一月二一日に棄却され、同年一二月一七日に国税不服審判所長に対し審査請求を行つたが、平成元年八月三一日に裁決で棄却された。また、原告は、昭和六二年分の所得税決定処分に対し、昭和六三年八月一七日に異議申立てを行つたところ、被告は、同年一一月二一日付けで、右所得税決定処分を一部取消し、原告の昭和六二年分の総所得金額を四一五万八六二九円とする異議決定を行い、更に被告は、平成元年五月一〇日付けで、原告の総所得金額を三一三万九七二九円とする所得税減額更正処分(以下「本件更正処分」という)を行つた。なお、原告は、国税不服審判所長に対し、昭和六三年一二月一七日に審査請求を行つたが、平成元年八月三一日に棄却された。

二  争点

1  本件の争点は、昭和六二年一月一日以後の本件事業の事業主が原告であるか否かである。

2  この点について、原告は、昭和六二年一月一日以後も本件事業の事業主は従前どおりサダエであり、したがつて、昭和六二年一月一日は、原告がサダエから本件事業用財産の贈与を受けて、本件事業の事業主となつたことを前提として、被告が原告に対し行つた本件決定処分及び本件更正処分はいずれも違法であると主張している。

3  これに対し、被告は、本件事業の事業主であるサダエが、昭和六一年一二月三一日をもつて本件事業を廃業すること、及び同年分の所得税限りでみなし法人課税の選択を取り止めることを被告に届け出たうえ、原告に本件事業の廃業と本件財産の原告に贈与する意思を表示し、同年末で本件事業を廃業した事実、及び原告がサダエの右廃業以降も本件事業に従事し、自己の危険と計算において本件財産の管理、販売等を行い、本件事業から生ずる利益を得ていた事実から、昭和六二年一月一日に、原告はサダエから対価を支払わないで、本件事業用財産を取得したとして、右財産の贈与があつたものとみなし(相続税法九条)、また同日以後原告が本件事業の事業主となつたと認め、本件決定処分及び本件更正処分を行つたのであり、右各処分はいずれも適法であると主張する。

なお、被告は、本件決定処分については、昭和六二年一月一日に、サダエから原告に対し、本件事業用財産を贈与する旨の契約がなされた事実が認められるので、この理由によつても本件決定処分が適法であると主張する。

第三争点に対する判断

一  証拠(乙一ないし一三号証、証人宮村、原告本人)によると次の事実が認められる。

1  サダエは、本件店舗兼住宅において、本件事業を営んでいたが、老齢のため本件事業を自ら営むことが困難になり、昭和五九年に本件店舗兼住宅から転出したが、そのころには、原告が、本件事業に関する仕入から販売まで一切を行い、本件事業によつて生ずる利益は、同人が実質上取得していた。サダエは本件事業の実態が右のようになつていることから、本件事業の主体名義を原告に引き継ぎたいと考え、税理士に相談し、同税理士を介して、原告に対し、本件事業の事業主を原告に変更したい旨の意思を表明した。だが、原告がこれを拒否したことから、サダエは、昭和六一年分まで本件事業から生ずる所得を自己の所得として確定申告を行つた。しかし、サダエは、昭和六一年一二月末日をもつて本件事業を廃業することを決意し、同月二五日に、被告に対して、右旨記載した廃業届け及び昭和六二年分の所得税からみなし法人課税選択をとりやめる旨の届出書を提出し、同日限りで本件事業を廃業し、原告に対してもそのころ右各届出書を提出した旨告げた。そして、サダエは、昭和六二年分からは、本件事業による事業所得を自己の所得として計上することなく所得税確定申告をした。

2  サダエは、原告に対し、何度かにわたつて本件事業用財産を贈与する旨の自己の意思を伝えていたが、右意思表示を明確にしておいた方がよいという税務署員の助言に従い、昭和六二年一二月二二日、原告宛に、昭和六一年一二月三一日の時点で本件事業用財産一切をサダエから原告に贈与していることを確認する旨の贈与通知書を内容証明郵便で送付した。

3  原告は、前記1記載のとおりの経緯から、昭和五九年ころからサダエが本件事業を原告に贈与したい旨の意思を有していることを知悉しており、昭和六一年一二月末ころは、サダエから廃業届けを提出した旨の連絡を受け、サダエが本件事業を廃業したことを知つていたにもかかわらず、昭和六二年一月一日以後も本件事業をやめることなく、引き続き原告の危険と計算において本件事業用財産の管理、商品の仕入れ、販売、売上の管理、税金の支払い、現金管理、預金管理等本件事業に関する一切の業務を行つた。原告は、サダエの右廃業後も本件店舗兼住宅に居住し、昭和六二年ころは、本件店舗兼住宅の加入電話料金の支払い名義契約をいずれもサダエから原告に変更した。また、原告は、昭和六三年分の所得税確定申告において、本件事業による事業所得を自己の所得として申告し、同年八月三日には原告名義で本件事業の廃業届けを被告に提出した。

二  以上の事実によると、原告は、サダエが本件事業を昭和六一年一二月三一日付けで廃業したこと及び右廃業にあたつては、原告に本件事業用財産を贈与し原告に本件事業を事業主として継続してもらいたいとの意思を有していたことを知りながら、右廃業後も自ら主体となつて独占的に本件事業用財産を利用して、本件事業を継続し、本件事業から生じる利益を享受していたことが認められるのであつて、右事実によれば、原告はサダエが本件事業を廃業した日の翌日である昭和六二年一月一日に、サダエから対価を支払うことなく本件事業用財産を譲り受け、同日以後、自ら本件事業の事業主として、本件事業を営んでいたと認めることができる。

よつて、昭和六二年一月一日に原告がサダエから本件事業用財産を対価を支払わないで譲り受けたとして被告が行つた本件処分、及び右同日以後の昭和六二年分の本件事業による所得が本件事業主たる原告に帰属するとしてなした本件更正処分はいずれも適法である。

(裁判長裁判官 吉崎直彌 裁判官 定塚誠 裁判官 鈴木信行)

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