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徳島地方裁判所 昭和54年(ワ)246号 判決 1981年11月26日

原告 高谷菅道

被告 国 ほか一名

代理人 武田正彦、国沢康男、丸西仁、桑原定信、小林正治 ほか九名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告国は原告に対し金八六六万三、五〇〇円及びこれに対する昭和五三年一一月一九日以降支払済みに至るまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。被告鳴門市は原告に対し金二九八万五、七三〇円及びこれに対する昭和五三年一一月一九日以降支払済みに至るまで年七・三パーセントの割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決並びに第一、二項につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

一  被告らは原告に対し原告が昭和四八年度及び昭和四九年度に原告所有の不動産を売却して譲渡所得を得、これについて昭和四八年分につき昭和四九年三月一四日、昭和四九年分につき昭和五〇年三月一三日、いずれも確定申告をしたとして、おのおの、次のとおり課税した。

(一)  被告国(譲渡所得税)

昭和四八年度 金一五六万〇、六〇〇円

昭和四九年度 金四一四万八、一〇〇円

(二)  被告鳴門市(市県民税)

昭和四九年度 金一五七万七、〇四〇円

昭和五〇年度 金一四一万一、六九〇円

そして被告国は昭和四九年七月二四日付及び昭和五〇年五月一日付をもつて、又被告鳴門市は昭和五〇年二月七日付をもつて、おのおの原告所有の塩田等に対し右各課税の滞納処分として差押えをした。

二  しかし原告は三歳の頃脳膜炎のため外因性精神薄弱となり、知能の発達がそのまま停止した結果、現在においても重症痴愚、知能指数は三九前後、知能年齢は満六歳三月の能力を示すにとどまり、そのため昭和四九年一〇月二九日、徳島家庭裁判所において禁治産の宣告を受け、妻ハルミがその後見人に選任された。

三  現在に至るまで原告には行為能力なく、後見人も又原告不動産を売却処分したことはなく、本件につき納税申告をしたこともない。右各課税の原因となつた売買はハルミが保管していた原告の実印を原告の実弟高谷智が無断で持ち出し、これを冒用して行つたものであり、又右確定申告も高谷智が右実印を冒用して原告名義の確定申告書を偽造してなしたものであつて、原告の関知するところではない。

四  昭和五三年一一月一八日、原告は本件税金はいずれも原告に支払義務のないものである旨異議をとどめたうえ、被告らに対し次のとおり支払つた。

(一)  被告国

昭和四八年度譲渡所得税 金一五六万〇、六〇〇円

右延滞金(昭和五三年一一月一八日まで)

金七五万〇、六〇〇円

計      金二三一万一、二〇〇円

昭和四九年度譲渡所得税 金四一四万八、一〇〇円

右延滞金(昭和五三年一一月一八日まで)

金二二〇万四、二〇〇円

計      金六三五万二、三〇〇円

合計          金八六六万三、五〇〇円

(二)  被告鳴門市

前掲市県民税の合計金二九八万八、七三〇円

五  被告鳴門市に対する右納付金のうち各年度金一、五〇〇円宛及び督促手数料金一六〇円合計金三、一六〇円の課税は正当であるが、その余の金二九八万五、七三〇円は被告国の前掲譲渡所得認定に基づいて課税されたものであるから、右課税処分は無効である。

六  よつて原告は被告国に対しては右金八六六万三、五〇〇円、被告鳴門市に対しては右金二九八万五、七三〇円並びにこれらに対する前掲納付日の翌日たる昭和五三年一一月一九日以降完済に至るまで、被告国に対しては国税通則法五八条一項、被告鳴門市に対して地方税法一七条の四第一項各所定率年七・三パーセントの割合による各還付加算金の支払いを求めると述べ、被告ら主張事実をいずれも否認し、さらに本件各売買は高谷智が原告に無断で行い、その代金の全てを着服したものであり、原告にはこれによる所得を、直接にも間接にも、なにも受けていない。それ故本件各課税は収益を享受せざる者に対してなされたもので無効であると述べた。

被告らは主文同旨の判決を求め、請求認容の場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求め、請求の原因に対する答弁として、

一  請求原因一項の事実を認め、

(一)  被告国は、

1  昭和四八年一一月下旬ごろ、鳴門税務署は昭和四八年分土地登記資料せんの収受により原告が左記のとおり訴外鳴門地所株式会社ほか二名に土地を売却した事実を確認した。

譲渡資産

番号

所在地及び地番

地目

地積

(平方メートル)

登記年月日

(昭和、年、月、日)

登記原因

元所有者

取得者

<1>

鳴門町三ツ石芙蓉山下八一の三

塩田

一、九八三

四八、九、六

売買

高谷菅道

鳴門地所株式会社

〃八一の四

一、四八七

<2>

〃八一の五

三三〇

四八、九、二五

鳴門市農業協同組合

〃番外四の五

一一三

<3>

〃八一の六

塩田

二三一

四八、一〇、一

山本謹吾

〃番外四の六

五七

2  これにつき、原告より昭和四九年三月一四日、同日付の左記昭和四八年分の所得税の確定申告書及び譲渡所得計算明細書が鳴門税務署長(以下署長という)に提出された。

申告者氏名 高谷菅道

所得金額  配当所得           金一一万三、七〇〇円

分離課税の長期譲渡所得 金三、二〇六万五、二九〇円

申告納税額               金四六九万〇、四〇〇円

3  右昭和四八年分の所得税の確定申告書に記載の課税標準及び税額は別紙一のとおり適正であり、右申告にかかる昭和四八年分譲渡所得金額の計算は別紙二の如く同書添付の右譲渡所得計算明細書に記載されたとおりであることを確認した。

4  昭和四九年一〇月上旬ごろ、鳴門税務署は昭和四九年分土地登記資料せんの収受により原告が左記のとおり訴外宮崎徹二ほか一名に土地を売却した事実を確認した。

譲渡資産

番号

所在地及び地番

地目

地積

(平方メートル)

登記年月日

(昭和、年、月、日)

登記原因

元所有者

取得者

<4>

鳴門町三ツ石芙蓉山下八一の八

塩田

二、一八一

四九、三、二九

売買

高谷菅道

宮崎徹二

〃番外二の三

二三五

四九、七、二四

鳴門地所株式会社

<5>

〃 〃四の二

一六九

〃 〃四の三

四三

〃 〃四の四

一五

5  これにつき、原告より昭和五〇年三月一三日、同日付の左記昭和四九年分の所得税の確定申告書及び譲渡所得計算明細書が署長に提出された。

申告者氏名 高谷菅道

所得金額  配当所得          金二二三万六、七一九円

分離課税の長期譲渡所得 金二、二二八万一、六四〇円

申告納税額               金四一四万八、一〇〇円

6  右昭和四九年分の所得税の確定申告書に記載の課税標準及び税額は別紙三のとおり適正であり、右申告にかかる昭和四九年分譲渡所得金額の計算は別紙四の如く同書添付の右譲渡所得計算明細書に記載されたとおりであることを確認した。

7  署長は原告が法定納期限までに右国税を納付しなかつたので、昭和四九年四月一一日、原告に対し督促状を発付し、次いで同年七月二四日付で原告所有の訴外不動産を差押えた。しかし右差押不動産には原告の実弟五名を権利者とする仮登記が経由されていて換価困難であり、また右の仮登記に基づく本登記も予測されたことから右国税を徴収するうえで十分な財産差押えと認められなかつたので、同年八月二日、原告が訴外鳴門地所株式会社に対して有していた不動産の売却代金支払請求権三一二万九、八〇〇円を差押えし、同年九月三〇日、右会社からその全額を取立て、もつて原告の昭和四八年分の未納税額本税を金一五六万〇、六〇〇円とした。

(二)  被告鳴門市は、

1  昭和四九年三月下旬から四月上旬ごろ鳴門税務署において原告の右昭和四八年分の確定申告書を供覧し、これにより原告に別紙五(一)欄記載のとおりの所得があることを把握したので、同紙(三)欄記載のとおり地方税法所定の控除をしたうえ、同紙(五)欄記載の課税標準額について、同紙(六)欄、(七)欄各記載のとおり市民税並びに県民税の各所得割額を算出し、同紙(八)欄、(九)欄各記載の市民税及び県民税の均等割額を加えて、昭和四九年度市県民税を金一五七万七、〇四〇円と決定し、これにつき原告宛の納税通知書を送付した。

2  被告鳴門市は、昭和五〇年三月下旬から四月上旬ごろ鳴門税務署において原告の右昭和四九年分の確定申告書を供覧し、これにより原告に別紙六―一(一)欄記載のとおりの所得があることを把握したので、同紙(二)欄記載のとおりの控除をしたうえ、同紙(三)欄記載の総合所得の課税標準額について、同紙(五)欄、(六)欄各記載の市民税及び県民税の所得割額を算出し、同紙(四)欄記載の譲渡所得の課税標準額について、同紙(七)欄、(八)欄各記載の市民税並びに県民税の所得割額を算出し、それぞれを合計した(九)欄、(一〇)欄の各所得割額に(一一)欄、(一二)欄の各均等割額を加えて、昭和五〇年度の市県民税を金一三九万三、〇四〇円と決定し、これにつき原告宛の納税通知書を送付した。

3  その後訴外医療法人敬愛会(通称南海病院)の給与支払報告により原告の妻高谷ハルミが昭和四九年中に給与として金八八万六、一二三円を受取つていたことが判明したため、配偶者控除を取消し、それにより、別紙六―二のとおり、市民税所得割額が金九三万九、九二〇円、県民税所得割額が金四七万一、二七〇円になるため、原告に対する昭和五〇年度市県民税を金一四一万一、六九〇円に昭和五〇年一一月一二日付で更正し、これにつき納付書をそのころ原告に送付した。

と述べ、

二  請求原因二項、三項の各事実は不知、

三  同四項の事実は認める。

四  同五項、六項の事実は争う

と述べ、主張として、

一  本件各売買及び本件各納税申告は、原告の実弟高谷智が原告を代理して行つたものである。

すなわち智は昭和四九年一一月ごろまで原告と同じ屋敷内に居住し原告の委任を受けて父高谷兵三郎死亡後の原告方の家政一切を取り仕切つており、右権限に基づいて本件各売買及び本件各納税申告をした。

二  仮に然らずとしても、原告の代理人である弁護士原秀雄が本件納税申告を追認した。すなわち本件所得税の徴収事務は当初鳴門税務署長の管轄であつたが、昭和五〇年四月一六日、高松国税局長にこれの引き継ぎがなされ、以後は同局長において本件所得税の徴収を担当することになつたものであるところ、原弁護士は、昭和五三年八月二五日、同局で徴収担当職員との本件滞納国税の納付交渉の過程において、国の差押にかかる訴外不動産を任意売却し、その代金をもつてこれを納付する旨並びにこれに伴う延滞税免除の要請を行ない、もつて本件納税申告の追認をした。

三  右事実が認められないとするも「税法の見地においては、課税の原因となつた行為が、厳格な法令の解釈適用の見地から、客観的評価において不適法、無効とされるかどうかは問題ではなく、税法の見地からは、課税の原因となつた行為が関係当事者の間で有効なものとして取り扱われ、これにより現実に課税の要件事実がみたされていると認められる場合であるかぎり、右行為が有効であることを前提として租税を賦課徴収することはなんら妨げられないものと解すべきである」(最高裁第三小法廷昭和三八年一〇月二九日判決)ところ、原告は、本件各売買及び本件各納税申告は智において原告に無断で行つたことを知りながら、その各買主に対し本件各売買の無効を主張してその目的物件の返還請求をなさないのみならず、兵三郎の遺産に関し智を含むその相続人間で遺産分割の協議が行われるに至るや、昭和五三年七月二日、原告ら智以外の相続人は訴外物件を売却した代金で本件国税、地方税を納付する、智は原告に対し遺留分減殺請求権を放棄し、相続権を放棄する旨の約定をなし、もつて智の右各行為を容認し、且つ智からその対価も含めて経済的利益を得ていることなどからすると、税法上の見地からは、本件各納税申告及び本件各課税(市、県民税)はいずれも有効と解すべきである。

四  仮に右各主張が認められないとしても、課税要件事実が無効の場合、当該物件を売買取引直前の状態に復した後に国税通則法二三条二項又は所得税法一五二条所定の更正請求を行い、納付税金の返還を求めるのが現行法における手続であるのに、原告は右手続に出ず、且つ本件各売買の目的物件につき未だにその返還請求をしておらず、原告の代理人原は、昭和五三年八月二五日、被告国の徴収官に対し相手方に迷惑をかけるので右の返還請求はしないと言明し、現にこれを行つていない。そして被告らは本件につきいわゆる滞納処分を行つたが原告は不服申立をしないのみか、原は被告国の徴収官に対し昭和五〇年五月から昭和五三年一〇月までの間終始本件国税の納付義務を認めたうえでその納付交渉をしてきた。そして本件の昭和四八年分国税については国税通則法七〇条、七二条の期間経過後、又昭和四九年分国税については右期間経過直前に至つて本訴を提起した。右の諸事情によると原告の本訴請求は信義則に違反し権利の濫用にわたるものであると述べた。

証拠関係は一件記録中書証目録並びに証人等目録に記載のとおりである。

理由

一  原告に対し、被告国が昭和四八年度の譲渡所得税として金一五六万〇、六〇〇円、昭和四九年度の譲渡所得税として金四一四万八、一〇〇円、被告鳴門市が昭和四九年度の市、県民税として金一五七万七、〇四〇円、昭和五〇年度市、県民税として金一四一万一、六〇九円をそれぞれ課税し、そのため原告が昭和五三年一一月一八日、被告国に対しては昭和四八年度譲渡所得税一五六万〇、六〇〇円と同日までのこれが延滞金七五万〇、六〇〇円の合計金二三一万一、二〇〇円並びに昭和四九年度譲渡所得税四一四万八、一〇〇円と同日までのこれが延滞金二二〇万四、二〇〇円の合計金六三五万二、三〇〇円、以上合計金八六六万三、五〇〇円、被告鳴門市に対しては前掲市、県民税の合計金二九六万八、七三〇円を納付したことは当事者間に争いがない。

而して、<証拠略>によると、被告国の右各課税は、原告所有にかかる同被告主張1項掲記の各不動産が同項掲記のように売却され、これにつき、原告作成名義にかかる昭和四八年分の所得税の同被告主張の確定申告書及び譲渡所得明細書が鳴門税務署長に提出せられ、さらに同被告主張4項掲記の各不動産が同項掲記のように売却され、これにつき、原告作成名義にかかる昭和四九年分の所得税の同被告主張の確定申告書及び譲渡所得明細書が右署長に提出せられたが、右各申告にかかる税額、譲渡所得金額の計算はいずれも、同被告主張のように、適正であるところ、右昭和四八年分の国税については被告国において内金三一二万九、八〇〇円を別途取立てて、その未納税額本税を金一五六万〇、六〇〇円としたものであること、被告鳴門市の右各課税は、右各確定申告書を同被告において供覧した結果、原告に同被告主張の所得があることを把握し、これに基づいて同被告主張にかかる市、県民税の算出経過を経たうえで決定されたものであるが、その税額の計算はいずれも適正であることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  右不動産の売却並びに確定申告につき、原告は、これらはいずれも原告の実弟高谷智が原告の名を冒用してなしたものであり、且つ原告は右売却並びに確定申告のころは知能指数三九前後の精神薄弱による行為無能力者であつた旨主張するが、<証拠略>によると、原告の右主張事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。被告らは、高谷智は原告を代理して右各行為をしたと、代理権の存在を主張するが、右認定のように、原告はそのころ行為無能力者であり、高谷智に右代理権を授与した事実もないものである。

三  そこで以下被告ら主張の追認の事実につき検討を加えるに、<証拠略>によると、原告については昭和四九年一一月一三日禁治産宣告の裁判が確定してその妻ハルミが後見人に就職したものであること、本件各不動産はいずれも昭和二三年ごろ売買を原因として原告のため所有権移転登記が経由されていたものではあるが、実質的にはその実父兵三郎の遺産に属するものも存し、かかる遺産は本件各不動産以外にも存在していて、兵三郎の死後、原告名義の不動産を智が原告の印を無断使用して勝手に原告名で売却することがあり、且つは被告国より本件所得税の納付についての督促状による督促がなされるに及んだため昭和四九年四、五月ごろ、原告の遠戚に当たる松浦寛六は弁護士原秀雄に対し原告のための善後策を依頼するに至つたこと、これを受けて原はまず徳島家庭裁判所に対し原告の禁治産宣告の申立をなし、さらに前記の如く原告の後見人に就任したハルミより、順次、右国税並びに智によつて売却された不動産の取扱い、兵三郎の相続人らによつて提起された遺留分減殺並びに遺産分割の要求に関する処置その他これに関連する一切の措置をなすことの委任を受けたこと、その間被告国は原告所有名義の訴外不動産を差押えるなどして滞納中の本件所得税の徴収の手続を進め、昭和五〇年四月一六日には高松国税局長が鳴門税務署長から原告の右滞納税金徴収の引き継ぎを受けてその徴収の所轄庁となり、同年一一月二五日、高松国税局国税徴収官坂本光夫がハルミに面会した際同人より本件税金の納付及び原告の財産の管理は全て原に委任した旨告知されたので、さらに同年一二月一六日、原の事務所におもむき、原に対してこれが納付の交渉をしたところ、原は、本件不動産の売却は智がしたものであるが、これについては買主の立場もあるのでその取り戻しを求めることはしない。本件滞納税金のことはよく承知しているから、訴外塩田が土地区画整理事業の対象になつているのでこれが処分されれば、納付したい。ただし右土地には原告の実弟高谷宗雄のための仮登記がされているので、その抹消、従つて又右土地の処分には若干の日時を要するが、しばらく納付を猶予してもらいたい旨、右坂本に対して申しむけたこと、高松国税局はその後も原に対し何度かにわたつてその後の経過を徴し且つ本件滞納税金の納付方を促してきたところ、原は、昭和五三年八月二五日、同局国税徴収官木下卓に対し、智が売却した本件各不動産を取り戻すための訴訟を提起することは勝訴した場合譲渡した相手方に対し迷惑がかかるのでこれをしないことにきめた。同年七月二日に、前掲差押中の物件の一部を分筆し、そのうち約一、五〇〇坪を、これについての他の相続人の遺留分減殺請求を認めてこれを相続人五名の共有物件となし、鳴門市農業協同組合に売却し、その売却代金をもつて本件国税及び本件市、県民税を納付することについて原告の兄弟五名(兵三郎の相続人)の同意が得られたのでこれを納付する。但し右売却代金の使途については原に一任されているが他の抵当権者等に対する支払いもあり、本件国税については五〇〇万円、本件市、県民税については二八三万四、〇〇〇円を充てる計画である旨を告げ、その後も同局の国税徴収官に対し本件滞納税金を納付する意向を示していたところ、同年一一月一八日に至つて、本件各売買は智が原告に無断でしたものであり、原告にはなんら所得がないので、本来原告において、本件滞納税金はこれを支払う義務がないものである旨の異議をとどめたうえで、被告らに対し、おのおの、本件滞納税金並びに延滞金の支払をしたものであること、そして前記七月二日には右相続人間において、右の他さらに、智は訴外建物について負担していた負債を原告が代位弁済したことに伴い原告に対し求償債務を負担しているので、これが代物弁済として右建物を原告に譲渡し、これに伴う原告に対する所有権移転登記並びに右建物の引渡しをなすことは、智は原告に対する遺留分減殺請求権を放棄し、兵三郎名義の遺産についても相続権を放棄することなどが約されたことを認めることができる。証人原秀雄の証言中右認定に反する部分はその余の前掲各証拠に対比してこれを措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によると、被告ら主張のとおり、原告の代理人原は高松国税局長に対し、おそくとも昭和五三年八月二五日、智が権限なくして行つた本件各確定申告の追認をしたものと解するのが相当である。そして右のようにして本件各確定申告が有効となつたことに伴い、これを基礎とする被告鳴門市の本件市、県民税の課税処分も又その瑕疵が治癒されて有効なものとなつたと解すべきである。

四  原告は本件各課税はいわゆる実質課税の原則に違反して無効であるというが、右主張は、原告が本件各売買をした事実がないとして課税原因を争つたことの経済的側面を指摘するに帰し、それ故これが本件につき独立した法律的主張をなすものとは解せられない。而して前認定にかかる原告の追認は前掲のように本件各確定申告にかかわるものであつて、未だ本件各売買を追認したものとは解せられないが、右追認により本件各納税申告が有効となつた以上、本件各売買の有効無効は右申告の効力に直接にはなんらの消長をきたす所以のものではない。

五  以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本喜一)

別紙 一、二、三、四、五、六 <略>

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