大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和41年(ワ)402号 判決 1971年2月08日

原告 落合一之 外二名

被告 国 外一名

訴訟代理人 河村幸登 外二名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求原因一、の事実(事故の発生)は当事者間に争いがない。

二、本件事故現場の状況と道路管理の瑕疵

本件道路(徳島駅蔵本線)は、二級国道西条徳島線(現在の一般国道一九二号線)上にあつて、徳島市元町交差点方面から徳島市佐古八番町四番二六号株式会社魚勘商店前にさしかかるまでほぼ直線でこの間の車道幅員一六米、両側に巾員三五米の歩道が設置されていること、同地点以西二〇〇米は車道幅員約六米の旧佐古道、その南側には未買収の道路拡張予定地(道路未拡張部分という。)があつてその南側には魚勘商店など住家が立ち並んでいたこと、旧佐古道と未拡張部分との間には(旧佐古道のやや南側に沿つて)本件電柱のほかそれ以西にも七本の電柱が設置されていたこと本件道路は完全舗装されて平坦である(但し旧佐古道佐古八番町以西はアスフアルト舗装である)ことはいずれも当事者間に争いがない。被告国は、本件道路中、佐古七番町先の道路は未だ供用開始処分がなされていないから、公の営造物ではないと主張するが、事実上道路として使用に供している限り供用開始がなくても公の営造物と認めるのが相当である。

<証拠省略>を総合すれば本件事故現場附近の道路未拡張部分は本件電柱より約一〇米東側南北に通ずる道路と交差した線を東限とし、(佐古七番町と同八番町の境に当る)その南北幅約一二米、既に立退きの完了した土地(別紙図面斜線部分)も家屋地盤石や空箱、石塊などの障害物が放置されたままで一般には通行できない状態にあつた。

本件道路車道の中心は本件電柱に向つてほぼ一直線上にあつて、旧佐古道よりも南側、前記道路未拡張部分の空地に通じること、本件道路車道左側部分中央線寄りを、通行して直進すると作業用ローラーに突き当るか、その北側で本件電柱東側一〇米の間の空地に突込む位置にあつたこと。また、その歩道寄りを直進すると、仮設工事事務所に突き当る位置にあつたが、いずれも、見通しの障害となるようなものはなく従つて、昼間においては、通常の注意さえ払えば本件道路の幅員が急に狭くなつている状況を相当手前から見通すことが可能である。したがつて元町交差点方面から本件道路車道左側を西進してきた車輛運転者は、本件現場にさしかかると、狭い旧佐古道に進入するためやや北西方向にハンドルを操作し道路未拡張部分に突つ込まないようにするのが通常である。

しかしながら、本件事故の発生した午後一一時四〇分ごろの時刻を基準にしてみるとき、本件事故現場附近には旧佐古道北側および本件未拡張道路部分の南側の各住家の灯り(但し道路照明としては役に立つほどのものでない)以外には、別紙図面<イ><ロ>点の各電柱に縦三〇センチ、横五〇センチのスコツチライトが二段取り付けられていただけで前記のように道路幅員が急に狭くなつている状況を示すに足りる照明、標識等は存在しなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そのため、その当時同所を西進進行する自動車運転者としては、自車の前照灯の照射により前記のような状況を認識するほかなく、前記電柱<イ>に取り付けられたスコツチライトもせいぜい本件道路左側車道中央寄りを直進して進行する車輛運転者が前照灯で照射すれば一〇〇米ないし一五〇米手前でスコツチライトの反射光を視認してこれを予知しうるにすぎなかつた(しかも対向車輛の関係で前照灯の角度を下げると前照灯の照射がスコツチライトまで届かないか、届いても視認距離は短かくなりその効用は余り期待できない)。この点、本件事故までに同種事故が起きなかつたからと言つて客観的には国道交通の安全性保持に欠けるところがあつたといわざるを得ない。

三、本件事故発生の経過

<証拠省略>を総合すれば亡紹雄は当日午後一一時ごろ、すでに相当飲酒したうえ、徳島市秋田町一丁目所在クラブ司に立寄つたところ、顔見知りで同業者の森長基と会い、さらにビール二本を飲んだ後、午後一一時二〇分ごろ、森長が呼んだタクシーに相乗りし、紹雄が本件自動車を駐車してあつた同市東山手町二丁目一番地の旅館に立ち寄り、コツプ一杯の水を飲んで、車庫から本件自動車を出し、その助手席に森長基を同乗させてこれを運転し、午後一一時四〇分ごろ本件事故現場にさしかかつた。(この間、同乗者森長に東大工町の電話局前辺りか本件事故で停止するまで居眠つていたため本件電柱に激突するに至つた状況を全く知らないこと、他に目撃者もいないから事の真相を知る術がなく、事故現場に残された諸般の状況から推断していく以外にない。)こと、<証拠省略>によれば、事故当夜に、現場を綿密に実況見分していること、本件自動車は別紙図面<イ><ロ>点の電柱を結んだ直線上を突進しているものと推認できるのに(したがつて、スコツチライトの反射もあつたのに)急制動をかけたことによるスリツプ痕はなかつたこと、さらに、<イ>点の電柱に激突してこれを根元から折損し自車前部を大破した本件自動車はさらに一三、八米先の<ロ>点の電柱まで、その間に放置されていた家屋地盤石を押しやる程の勢いで突込んで漸く停止したこと、が認められ右認定を覆すに足りる証拠はない。以上の各事実からみる亡紹雄は本件道路の左側車道中央部分を指定の制限時速毎時四〇粁をはるかに越える速度(五〇~六〇粁と推定される)で進行するうち、(東山手町を出て本件現場まで約二粁余りを無事運転してきたことは明らかであるが)坦々とした本件道路であるところへ、前記飲酒による酔いと疲労とにより一瞬睡魔に襲われたため、本件電柱に取付けられたスコツチライトから反射される光に気付かなかつたこと、(森長証言によるも対向車輛の前照灯に眩惑させられたり、自車の前照灯の角度を下げたことを認めるに足りない。)従つて急制動をかけることもなく、そのまま未買収の道路予定地に直進し旧佐古道南側にあつた電柱<イ>に自車の前部を激突させ、さらに、電柱<ロ>まで突つ込んだこと、以上の事実を推認できる。紹雄の酒酔いの程度に関する森長証言は供述内容があいまいである(同人も相当酔つていたことにもよる。)から措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四、道路管理の瑕疵と本件事故との因果関係

ところで、本件道路の瑕疵(夜間本件道路の幅員が事故現場付近で急に狭くなつていることを認識することは困難で安全性に欠ける点)と本件事故との間の因果関係が問題となる。

前認定のとおり、亡紹雄の本件事故は同人の自動車運転者として最も基本的な規律を無視した酒酔い、制限速度違反および居眠り運転に起因するものと断ぜざるを得ない。そうであるとすると本件道路に前記瑕疵が存在せず、すなわち赤ランプの点灯あるいは、その他の注意標識バリケードなどが備えられていたとしても避止できなかつたものと推認せざるを得ない、このようにみてくると本件道路管理の瑕疵と本件事故発生との間には結局相当因果関係を認めるに足りる証拠がなかつたものと言わねばならない。

五、以上のとおりであるから、爾余の点について判断するまでもなく、原告らの主張は理由がないこととなるので、原告らの請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 葛原忠知)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例