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徳島地方裁判所 昭和30年(行)6号 判決 1956年3月07日

原告 竹内永助

被告 鴨島町長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告が原告に対する昭和二十五年度町民税一、二、三期分税額千二百十円及びこれが延滞金等を徴収するため昭和三十年七月二十一日徳島県麻植郡鴨島町の原告住所において、普通自転車一台及び丸型柱時計一個に対してなした差押はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、被告は請求の趣旨記載の滞納税金等を徴収するため、昭和三十年七月二十一日原告住所においてその所有に係る普通自転車一台及び丸型柱時計一個を差押えた。しかしながら右差押は次の点において違法である。(一)被告は、滞納処分をなすに先立ち国税徴収法第九条に規定する督促は勿論その他何等の督促もなしていない。(二)本件差押執行には国税徴収法第二十一条に規定する成丁者二人以上の立会がない。右にいう立会は苟も家屋内である限り、目前に存する物件を差押える場合にも必要である。(三)本件差押は過剰差押である。蓋し原告の滞納金額は町民税千二百十円、これと同額の延滞金及び督促手数料九十円であつて以上合計二千五百十円に過ぎない。右金額は被告が差押えた物件の内自転車一台をもつてすれば優にこれを償い得べく、時計一個は過剰差押というべきである。(四)原告は製麺業者であつて、差押に係る自転車はその営業に必要欠くべからざるものである。よつて原告は差押に際し係員に対し、その旨申出で、その代りに原告の店舖内の小麦及び店頭に積み重ねてあつた木炭を指示し、必要なだけ差押えるよう懇請したが、肯じないので更に柱時計一個及び二階にあつた時計一個を差押えるよう申出たが故なく拒否して敢て本件差押に及んだのであるから、国税徴収法第十七条に違反するというべきである。よつて原告は右処分に不服ありとして昭和三十年七月二十六日被告に対し、異議の申立をなしたが却下せられたので本訴請求に及んだと述べた。(証拠省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として被告が原告主張の滞納処分としてその主張の日時場所においてその主張の物件を差押えたことを認め、原告の主張に対し(一)被告は、滞納処分をなすに先立ち、一、二、三期分につきそれぞれ期限を指定して督促状を発布している。該督促状は被告の使丁により送達した。(二)本件は係員が原告方へ滞納処分に赴いたところ、原告が玄関に座つていたので滞納金額の納付を求めたが、応じないので滞納処分をなす旨を告げ、玄関の間の目の前にあつた自転車一台と時計一個を差押えたものであつて、差押物発見のため捜索処分をなしていない。捜索処分によらざる差押であるから、立会人を要せず(国税徴収法第二十条、第二十一条)従つて同法施行規則第十六条第一項の調書を作成すれば足るものを誤つて同条第二項による如き調書を作成したのである。

仮りに然らずとするも、滞納者たる原告は終始玄関の間に座り、立会つていたのであるから、別に法定の証人の立会を必要としない。(三)本件差押に係る自転車、時計はいづれも中古品であり、これを換価のため公売処分に付すときは滞納処分費、督促手数料、延滞金及び町民税を満たす程度のもので決して著しく超過する財産の差押ではない。若し万一換価金の内から税金滞納金等を差引き残余を生ずるときは国税徴収法第二十八条により滞納者に交付すれば足りるのである。(四)原告は農家から小麦を預りこれを製麺製粉する委託加工を業とするものであつて、業態柄自転車をもつて小麦の集荷に廻つたり、製品の配達に行つたりしているものではない。自転車は原告が外出の際乗用しているもので、営業上必要なものでないから国税徴収法第十七条に違反しない。のみならず原告が本炭や小麦の差押を希望したのは、徴税吏員が自転車と時計の差押をなし、差押調書を作成し、執行完了後申出たもので徴税吏員が原告の希望を容れなかつたとするも何等違法はないと述べた。(証拠省略)

理由

被告が原告に対する昭和二十五年度町民税一、二、三期税額千二百十円及びこれが延滞金等を徴収するため、昭和三十年七月二十一日徳島県麻植郡鴨島町の原告住所において普通自転車一台及び丸型柱時計一個を差押えたことは当事者間に争なく、原告が右処分を不服として、法定期間内に異議の申立をなしたが、却下せられたことは被告の明かに争わないところである。よつて按ずるに

第一、町民税に係る督促について

成立に争ない乙第三号証の一、二と、証人古谷琢磨の証言を綜合すると被告は本件滞納処分をなすに先立ち、地方税法第三百二十九条に従い適法に督促をなしているものと認むべく、右認定を左右するに足る証拠はない。なお本件督促については国税徴収法第九条に規定する督促を要せず地方税法第三百二十九条に規定に準拠するをもつて足るものと解するから(地方税法第三百三十一条参照)原告のこの点に関する主張は理由がない。

第二、滞納処分の立会人について

証人弘田昇、同古谷琢磨の各証言を綜合すると、鴨島町書記古谷琢磨、同山下徳市は徳島県税務課主事弘田昇を伴い原告の住所に臨み、原告に対し国税徴収法の規定による滞納処分の例によつて処分する旨告げた際、原告が立会を拒否する旨放言したに止り、事実は終始現場に居合せたことが認められるのみならず、原告が当時現場において収税吏員に対し、小麦、木炭等差押うべき物件を指示し、国税徴収法第十七条に規定する差押の制限を為すべきことを主張したことは原告の自認するところであるから、差押調書(甲第二号証)の記載如何に拘らず、原告は本件滞納処分に立会つたものというべきであるから、爾余の点について判断するまでもなく、別に法定の証人の立会を要しないものと解すべく(国税徴収法第二十一条参照)原告のこの点に関する主張も理由がない。

第三、過剰差押について

本件差押物件が中古自転車一台及び丸型柱時計一個であることは当事者間に争なく、前示甲第二号証と証人古谷琢磨の証言を綜合すると、原告の滞納金額は、町民税と延滞金及び督促手数料を併せて合計二千五百十円にして差押物件の価格が徴収金額に比し著しく過大であるとはいい得ないものと認むべく、差押物件の価格が徴収金額を超過するも、その超過額が著しく過大にして衡平の理念に背反する如き場合は格別然らざる限り、必ずしも常に該差押を違法ならしめるものではないから(国税徴収法第二十八条参照)この点に関する原告の主張も理由がない。

第四、差押制限違反について

国税徴収法第十七条は職業又は営業に必要な器具材料の類は他に十分な物件を提供した場合に限り、義務者の希望により差押を免れることを得る旨規定しているのであつて、証人古谷琢磨の証言によれば、原告は農家から小麦を預り、これを製麺製粉する委託加工を業とするものであること、原告が提供した物件は時計一個、小麦及び木炭若干であることを認め得るところ、右提供物件の内、小麦の所有権は果して原告にあるか、委託者たる農家に存するか疑わしく、且つ木炭は、国税徴収法第十六条第一項第二号所定の差押禁止物に該当するの疑あり他に特段の主張立証のない限り、原告が他に滞納処分費及び税金を償うに足るべき充分な物件を提供したものとはなし難いから、爾余の判断をまたずしてこの点に関する原告の主張も理由がない。

よつて原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小川豪 宮崎福二 高木積夫)

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