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広島高等裁判所松江支部 昭和24年(控)92号 判決 1950年8月30日

(一)

会社に対する判決

本店所在地

鳥取県西伯郡境町大正町三十九番地ノ一

境港海陸運送株式会社

右代表者

岡田洋二

右の者に対する法人税法違反被告事件について鳥取地方裁判所米子支部が言渡した判決に対し被告から控訴の申立があつたので当裁判所は検察官赤松新次郞関與の上審理を遂げ次の通り判決する

主文

原判決中被告会社に対する部分を破棄する

被告会社を罰金百万円に処する

原審における訴訟費用はこれを二分しその一を被告会社の負担とし当審における訴訟費用は全部被告会社の負担とする

理由

弁護人四方田保取び上原阜三の控訴の趣意は別紙各控訴趣意書記の通りであるからこれに対し当裁判所は次の通り判断する。

(一)  上原弁護人の控訴の趣意第三点一、訴追前の納税と追徴税納付について所論法人税追徴税を納付したということはあくまで税法上の問題でありこの行為が別に法人税所定の罰則に該当するときはこれに対し刑罰を以つてのぞみ得ることは憲法第三十九條の趣旨に照らし疑の余地ないところであつて論旨は採用できない。

(二)  四方田弁護人の控訴趣意第一点取び上原弁護人の控訴趣意第一点事実誤認の主張について所論は要するに所謂機密経費(又は仮空経費)十三万五千五百十円帳簿外雑收入十一万六千八百九十円三十五銭、省炭追加料金百六十九万六千三百十五円七十五銭(原判決では後二者を現実に債権が発生し又は現金收入のあつた金百八十一万三千二百五円の所得と認定する)について脱税の犯意がなかつたと主張するに帰するのでその各点について判断する

(1)  所謂機密経費十三万五千五百十円について会社の運営上必要な交際費接待費等が入用であれば会社正規の予算に計上しこれを支出し得た筈であるに拘わらず本件全員はことこゝに出でず会社の帳簿と支出したように記載ししかもその支出先を調査したところによれば一として右帳簿の記載に符合するものがないこと本件記録によつて明瞭であるかつ現実に支出したとの被告人等の主張は單なる弁解であつて脱税の犯意の下に左様な行為に出たものと断ぜざるを得ない。この点に関する弁護人等の論旨は総て理由がない。

(2)  所謂帳簿外雑收入十一万六千六百九十円三十五銭について

原審第四回公判調書中証人大野時治の供述記載によれば本件金員は被告会社の建築に使用したセメントの空袋や材木の余つたものを売つた金等であることが窺われ果して然らば右金員は被告会社の本来の営業によつて取得したものではなくても営業に附隨する行為によつて取得した被告会社の金員があるかつ会社正規の帳簿に計上し納税の対象とせねばならぬに拘わらずこれを検査に対する被告人岡田洋三の供述記載によつて認め得るやうに同被告人が右金員を單なるメモにし被告会社経理簿に正規に登載せず現金を一時所持していたが結局順次同被告人、被告会社々長及び衫山專務等の各自が預金していたのであるから脱税の犯意がなかつたと云うのは單なる強弁であつてこの点は関する弁護人の論旨は総て理由がない。

(3)  所謂省炭追加料金百六十九万六千三百十五円七十五銭について当審における証人大野時治の「省炭料金は債権が確定したのは昭和二十三年三月二十三日である、債権が発生したならば当然その年度の收益として計上すべきものだと思ふ」旨の供述、原審第二回公判調書中証人安田良男の「会社は債権主義であつたと思ふ。この地方では現金主義の会社は殆どない。私が今迄やつておる会社では現金主義の会社はない。税務署の方針も債権主義なり。被告会社個人名義にして別途に経理していたから逋脱しようとの意思があつたと思う。それは二重帳簿によつても認められる」旨の供述記載検事に対する岡田洋三の供述調書中「昭和二十三年三月十五日付で大阪の鉄道炭作業会社への追加料金の請求をしたがそれは二十二年度に債権発生したもので二十二年度に計上すべきものであると考えていた。省炭関係收入金は重役個人名義の預金としていた。これは重役個人の所得とするのではなく次期以降の年度に於て順次会社の経理面に出すつもりであつた。然しさような操作は二十二年度の税法違反になる事はわかつていた。」旨の供述記載当審における証人の安田良男の「昭和二十三年十月に境港海陸運送を調査に行つた際私達は岡田洋三のメモの様なものを見つけた。私の方では会社の帳簿と岡田のメモを対照してみる事により額面上合致しない事を知り別途收入があるのではないかと思いこれはどうしたものかと云うと社側ではこれは省炭作業が値上になつたとの差額金であると云つた。それでは計算書はないかといつたら計算書はないと云つた。

右調査に行つたとき省炭関係は全然帳簿は記載してなかつた。本件被告会社は債権主義をとつていたものと思う。自分は現金主義をとつておる会社にまだ一度も出会つた事がない。省炭料金はその事情如何に拘わらず昭和二十二年度の收益として計上すべきものだと思う。申告期間も会社の決算もいづれも相当期間の猶予があり債権主義による整理が出来ないと云うような事は絶対にない筈である」旨の供述を綜合すれば脱税の犯意があつた事を認定するに充分であつてこの点に関する弁護人の論旨も採用できない。

(三)  四方田弁護人の控訴趣意第三点及び上原弁護人の控訴趣意第四点量刑不当の主張について、本件訴訟記録及び原裁判所当裁判所において取り調べた証拠を精査検討し本件犯行の動機態様脱税額犯行後の状況被告会社の資産状態その他一切の事情を級此考量するときは原審が被告会社に対して罰金百五十万円を以つてのぞんだ事は量刑酷に失すると云わねばならぬ。弁護人の論旨理由あり。原判決はこの点において到底破棄を免れない。よつて弁護人その余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七條第三百八十一條を適用し原判決中被告会社に対する部分を破棄し同法第四百條但し書により被告事件について更に判決をする。被告会社は肩書地で資本金百万円(金額拂込済当時)を以つて汽車貨物自動車等による貨物の運搬取扱港湾荷役の請負作業を営む事を業とするものであり。原審相被告人岡田洋三は被告会社の業務に関しその営業に係る所得を計上するに際し法人税を免れる意図の下に被告会社の昭和二十二年四月一日より翌二十三年三月三十一日までの事業年度(昭和二十五年度)において債務の発生していない金十三万五千五百十円についてこれが支配を為したような架空の経費を計上とし及び現実に債権が発生し又は現金收入のあつた金百八十一万三千二百五円余の所得について或は伝票を作成し又は別日経理等の名下に不正に右所得を隠匿して(以上合計金百九十四万八千七百十五円)昭和二十三年六月十一日所轄米子税務署長に対し該事業年度における所得を金三十二万六千八百四円これに対する税額を金十五万六千八百九十九円二銭なる旨の虚僞の確定申告を為して法人税金百二十六万千百六十一円余の支拂を免れたものである(昭和二十二事業年度における被告会社の資本の金額を金百十万六十三円所得税法第十條による控除額を金五百二十三円五十九銭と認定する。)以上の事実は左の証拠を綜合してこれを認定する事が出来る。

(一) 証人安田良男の当公廷における供述

(二) 証人大野時治の当公廷における供述の一部

(三) 原審第二回公判調書中証人安田良男の供述記載

(四)  原審第三回第四回各公判調書中証人大野時治の供述記載の各一部

(五)  検察事務官に対する山崎民夫、遠藤喜代美、松下整吉の各供述調書中の供述記載

(六)  検察事務官に対する岡田洋三の第一回供述調書中の供述記載の一部

(七)  検事に対する岡田洋三の供述調書中の供述記載の一部

(八)  昭和二十二年度所得申告書写(証第一号)記載

法律に照すと被告会社の所為は昭和二十二年三月三十一日法律第二十八号(改正前のもの)法人税法第五十一條第四十八條第一項に該当するから脱税金額の三倍以下の罰金額の範囲内において主文掲記の刑を量定処断し原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一條第一項を適用して主文掲記の通りその一部又は全部を負担せしめる

よつて主文の通り判決する

(裁判長裁判官 平井林 裁判官 久利馨 裁判官 藤間忠顯)

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