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広島高等裁判所 昭和53年(行コ)4号 判決 1981年7月15日

控訴人(原告) 株式会社東和製作所

被控訴人(被告) 呉税務署長

訴訟代理人 原伸太郎 藤田典人 外一名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が控訴人に対して昭和四九年五月一五日付でなした、昭和四六年五月分、同年七月分、同年九月分、同年一二月分、昭和四七年二月分、同年四月分、同年六月分、同年九月分、同年一〇月分、同年一二月分、昭和四八年二月分、同年四月分、同年七月分、同年九月分、同年一二月分の物品税の決定処分並びにこれらの各月分にかかる無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり附加するほか原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の当審における陳述)

仮に、本件が「製造」に該当するとしても、本件の場合には、長年にわたり物品税法三条所定の製造に該当しないものとして、非課税の取扱いを受けており、控訴人(納税者)は、これを信頼して、「修理」をする意思で「製造」に従事して経済活動をなしていたものであるから、「信義誠実の原則」により、過去に遡つてまで課税処分を行うことはできない。

(右に対する被控訴人の反論)

控訴人は、昭和四四年三月一七日付けで呉税務署長に対し、物品税法三五条二項の規定により、ぱちんこ機の「製造業開始申告書」を提出している(従つて、控訴人は自己の行為が製造に該当する旨の一応の認識のあつたことが推認される。)事情にあり、また、決定処分が行われたのは昭和四六年五月分以降の月分であるが、それまでのものについて課税されていないのは、製造行為に該当しないからではなく、物品税法施行令六条一号により課税標準価格が課税最低限(当時は一個当り四〇〇〇円)以下であつたことによるものであつて、本件課税を信義則違反というには当らない。

(証拠)<省略>

理由

一  原判決理由一及び二の(一)に説示するところは、原判決七枚目表四行目の「ぱちんこ機」以下同七行目の「構成していること」まで及び同八枚目裏三行目の「ローズから」以下同十行目の「供されていたこと」までを削除するほか、すべてこれを引用する。

二  物品税法三条二項にいう「製造」については、同法に特別な定義付けがなされていないから、一般概念に従い、材料または原料に物理的、化学的変化を与え、若しくは操作を加えて新たな物品を造り出す行為をいうものと解され、従つて、本件ぱちんこ機のように中古の機械を加工することが「製造」といい得るためには、加工後の機械が新たな機械であり、加工前と加工後の機械に同一性がない(加工後の機械に対する関係で加工前のそれは実質的には材料としての意味しか有しない)ことが必要であるといえる。そして、機械が加工によつて機械としての同一性を失う場合としては、(1)旧と全く別種の機能を有する機械が造られた場合、(2)機械としての機能を全く失つてスクラツプ化した加工前の機械から正常な機能を有する機械が造られた場合、(3)機械を構成する素材の大部分又は主要部分がとり替えられた場合等が考えられる。

被控訴人は、本件ぱちんこ機の加工にあたり、機械が解体、再組立された点を重視してこれを「製造」であると主張するもののようであるが、機械の修理において、これを解体(従つて当然に再組立)する必要のあることは、時計の修理を例にあげるまでもなく、多々見られるところであり、何ら異とするに足りない。また、同時に多数の同種ぱちんこ機が加工される場合、その再組立にあたつて、或機械の部品が他の機械にいれ替つて装着されたとしても、そのことは通常、加工前の機械と加工後の機械の同一性を判定する上において、特別の意味を有しない。例えば、A、B、Cの三台の同種機を同時に解体修理した場合、Aの部品がBに、Bの同種部品がCに、Cの同種部品がAに装着され、再組立されたとしても、右各部品にそれぞれ個性があり、修理の目的上右いれ替えが意図的になされたとみられるような特段の事情のある場合は別として、それによつて修理の目的が達せられるとすれば、それは右部品が同一規格のものであつて個性がなく、もともとA、B、Cいずれの機械にも適合するからに過ぎず、このような場合には、A、B、Cは全体として、実質的には旧部品をもつて再組立されたものと解するのが相当である。本件において、右の特段の事情あることを窺う証拠は全くない。結局、問題となるのは、本件ぱちんこ機の解体再組立に際し、どれだけの旧部品が廃棄され、これに代つて新部品(新品、古品は問わない)が用いられたかという前記(3)に関する点のみであるが、この点につき右いれ替え部品は新部品にはならない。

三  ところで、本件ぱちんこ機の加工が右(1)の場合にあたらないことはいうまでもなく、また右(2)の場合にも、そのまま該当するものでないことは、弁論の全趣旨に照らして明らかである。

そこで右(3)について検討するに、本件ぱちんこ機の加工にあたつてとり替えられた部品が、主として表側台板及びこれに装着される部品であることは、前認定のとおりであるところ、日本遊技機工業組合に対する調査嘱託の結果によれば、一般的に、その部品代は、これにヤクモノ代を全部加えても、ぱちんこ機の全資材価格に対する割合は、昭和四六年では約二七パーセント、昭和四八年ではそれ以下であることが認められ、また成立に争いない乙第四号証によれば、本件ぱちんこ機の加工において投与された新品部品(表側台板部分以外の部品を含む)の価額は、一台当り平均、昭和四六年一二月の分では二〇〇〇円、昭和四七年中の分では最高一七九六円から最低一三六七円まで、昭和四八年中の分では最高二七一五円から最低一七〇五円までであり、機によりこれに若干の中古部品の投与が加えられたことが認められるが、一台あたりの資材価格(前記調査嘱託の結果により窺うことができる)からみて、到底素材の大部分がとり替えられた場合に該当するものということはできない。(もつとも、個々の機械についてみた場合、極めて少数のものについて、或は素材の相当部分がとり替えられたとの疑いがないではないが、その内容及び台数を的確に把握する証拠がない。)

次に、本件加工の中心である表側台板部分がぱちんこ機の主要部分といえるかどうかについて考える。ぱちんこ機の主要部分がどの部分かということは一義的に明確ではないが、ぱちんこ機も一つの機械である以上、機械としての機能の主たる部分を受け持つ裏側台板部分を主要部分とする考え方は、一応成立し得るかも知れない。しかし、表側台板部分は、最も人目につき易い部分であり、客寄せの外観上無視できない面のあることは否定されないとしても、それだけで同部分をぱちんこ機の主要部分とすることは疑問である。乙第一一号証(裁決書)は、機能面では裏側台板部分が主要部分であるが、商品価値又は使用価値の面からみると表側台板部分が主要部分であるとするが、右見解の後段については、その趣旨自体あいまいであり、格別根拠ある立論とは解されないので、俄かに賛同し難い。従つて、本件加工は前記(3)に該当する場合であるということもできない。

ところで、原審証人眞田節彦は、本件ぱちんこ機は、いわゆる二落ち(再下取品)以下の機械で、その価格は三〇〇円ないし五〇〇円程度であるが、加工後ローズへの移出価格は五〇〇〇円ないし七〇〇〇円程度である旨の証言をしている。

経済的に極めて低価値となつた中古ぱちんこ機が、加工により飛躍的な価値の増大を来した場合には、前記(2)の場合に準じて、同一性を失つたものとし、これを「製造」と解することも、理論上はあながち不当であるとはいえまい。ただ、この場合注意すべきことは、加工前後の機械(殊に加工前のそれ)の価値を客観的に評価することが必須の前提となることである。加工による価値の変化についての考え方は、基本的には、例えば、五の価値ある物件に加工費(加工賃を含む)五を加えられた物件の価値は一〇であり、加工費五を加えられて一〇の価値ある物件が生成されたとすれば、もとの物件の価値は五であるべき筈である。(加工にあたり特別な創意工夫がなされた場合は例外であるが、本件はかような場合ではない。)もつとも、単なる加工のみではなく、そこに取引が介在すると、市場の関係から現実の取引価格は右の原則通りにはならないであろうが、少くとも「製造」の要件となる非同一性を判定するための価値の比較に関する限り、右の基本的な考え方に立脚するのが正当であり、限られた市場における取引価格を以て直ちに客観的な価値であるとすることは許されないものと解する。そして、右のような考え方に立つても、極めて低価値となつた中古機に数倍の加工費を投じればその価値が大きく変化するともいい得るが、ぱちんこ機の寿命(当審証人山下真揮人の証言によれば、機械としての寿命は五年程度であると認められるが、その型式において流行ないし顧客の嗜好に支配されることの大きい遊技機械であるぱちんこ機の営業上の寿命は更に短い場合が多いと思われる。)からみて、かような場合業者はむしろ新しい機械を求めるのが得策であり、前記のような加工がなされることは通常考えられない。

以上の考察によると前記真田証言は、たやすくこれを採用しがたいものというほかなく、他に本件加工による価値の飛躍的増大を認めるに足る資料はない。

四  そうすると、本件加工は前記(1)ないし(3)のいずれにも該当せず、他に本件加工がぱちんこ機の同一性を失わしめる根拠についての主張立証はないから、本件加工は前記物品税法の規定にいう「製造」にあたらないというべきである。

むしろ、一般にぱちんこ機の寿命が前記のとおりであり、しかもその間に表側台板部分のとり替えが屡々なされる(前掲山下証言によれば、ローズにおいては少くとも年一回はとり替えられることが窺われる。)のが実状であるとすれば、ぱちんこ機において、表側台板部分は当初から営業上とり替えが予想されている消耗品的性格のものであり、そのとり替えは修理ないし改装とみるのが、社会通念に適合した考え方であるといえよう。

五  よつて、本件ぱちんこ機の加工がぱちんこ機の「製造」であることを前提とする被控訴人の本件処分は違法であつて、取消を免れないから、これと判断を異にする原判決を取消して控訴人の本訴請求を認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 胡田勲 土屋重雄 高升五十雄)

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