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広島高等裁判所 昭和52年(う)36号 判決 1977年6月27日

被告人 佐竹章男

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

原審における未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人畠山勝美作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する(なお弁護人は、被告人の提出した昭和五二年三月二九日付書面は控訴趣意書としては陳述しない旨付陳した)。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

弁護人の論旨は、原判決の量刑不当を主張するものであるが、論旨に対する判断に先だちまず職権をもつて調査するに、記録によると、原判決はその主文第三項において被告人が所持していた覚せい剤結晶性粉末の一部(原裁判所昭和五一年押第九号の三、四、五及び九)を、覚せい剤取締法四一条の六により没収していること明白である。しかし、記録を精査しても、右覚せい剤が被告人の所有であることを認めるに足る確たる証拠はなく、原判決挙示の関係各証拠によれば、むしろ第三者である仁科親志の所有に属することが推認できるところ、覚せい剤取締法四一条の六本文には「前五条の罪にかかる覚せい剤又は覚せい剤原料で、犯人が所有し、又は所持するものは、没収する。」と規定されており、犯人が所持する以上、その所有に属しなくても没収すべきもののようであるが、同条はいわば没収に関する実体規定であつて、犯人が所持してはいるが第三者の所有に属する覚せい剤またはその原料を、同条により直ちに没収できると考えるのは正当ではなく、そのような場合には、検察官において、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法(昭和三八年法律第一三八号)に則り、第三者に対し告知または公告により参加の機会を与えたうえでないと、裁判所としてもこれを没収することはできないと解するのが相当である(同法二条、七条参照)。そうすると、本件においても、検察官が前記仁科親志に対し参加の機会を与えたうえでないと、原審としては、被告人が所持していた本件覚せい剤を覚せい剤取締法四一条の六により没収することはできないことになるが、記録を検討しても、検察官において仁科親志に対し参加の機会を与えたことを窺わせるなんらの資料も発見できず、さらに本件覚せい剤は、刑法一九条によつても前同様の理由でやはり没収できないというべきである。従つて本件覚せい剤を没収した原判決には、没収に関する法令の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、全部破棄を免れない。

次に、原判決のした未決勾留日数の本刑算入の適否について考察するに、記録によると、被告人は昭和五一年一〇月一九日覚せい剤不法所持の被疑事実によつて勾留され、同月二八日勾留延長のうえ、同年一一月六日右勾留の基礎となつた事実と同一性のない覚せい剤不法所持の公訴事実(原判示第四の事実)で起訴され、起訴状に付記された「求令状」の表示により即日勾留されると共に、先に勾留されていた被疑事実については同日釈放され、その後右事実については起訴されていないこと、そして被告人は、同年一一月二二日再び覚せい剤譲り受けの被疑事実で勾留され、同月二九日身柄拘束のまま同事実により公訴を提起され(原判示第一ないし第三の事実)、同年一二月二日各保釈許可決定により即日釈放されたこと、原審は起訴された事実全部を有罪と認定して被告人を懲役七月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中四〇日を本刑に算入し、その旨を原判決主文第二項に掲記していることがそれぞれ認められる。ところで、刑法二一条により本件に算入できる未決勾留の日数は、原則として、その本刑の科された罪について発せられた勾留状による拘禁の日数を指すものと解すべきであり、そうすると、被告人の原審における未決勾留の日数は、前叙のとおり昭和五一年一一月六日から同年一二月二日までの二七日であるといわざるを得ない。尤も、起訴されていない前記被疑事実による勾留の日数をも加えると、それは合計四五日となり、原審は、右被疑事実による勾留期間中に事実上本件公訴事実についての捜査がなされたことを理由として、右四五日のうち四〇日を本刑に算入したものと推測される。しかしながら、起訴されなかつた被疑事実について発せられた勾留状による未決勾留は、たとえそれが実質上起訴された公訴事実の捜査に利用される結果を生じたとしても、右公訴事実の罪の本刑に算入することはできないというべく(昭和五〇年(あ)第三八八号 最(三小)決、同五〇・七・四 最高裁判所裁判集刑事第一九七号一頁参照)、従つてこれと異る措置にでた原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであつて、この点でも原判決は全部破棄を免れない。

よつて弁護人の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に則り当裁判所においてさらに次のとおり判決する。

原判決が確定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示第一ないし第三の所為はいずれも覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に、同第四の所為は同法四一条の二第一項一号、一四条一項に各該当し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い原判示第四の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断すべきところ、被告人は執行猶予中であるのに原判示各犯行に及び、その取扱つた覚せい剤も少量とはいいがたく、犯情悪質であつて、記録上認められる被告人に有利な一切の事情を斟酌しても、実刑はやむを得ない事案であるが、本件は被告人のみの控訴であるから不利益変更禁止の原則を勘案したうえ、前記刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中二〇日を右刑に算入することとして、主文のとおり判決する(なお原判決二丁目の裏五行目中「司法警察員」とあるのは、「司法警察員(謄本)」の誤記と認める)。

(裁判官 干場義秋 谷口貞 横山武男)

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