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広島高等裁判所 昭和43年(う)192号 判決 1969年3月06日

控訴人 原審弁護人

被告人 山中茂

弁護人 中場嘉久二

検察官 菊池慎吾

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は記録編綴の弁護人中場嘉久二作成名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は広島高等検察庁検察官検事菊池慎吾作成名義の陳述書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨第一点の一(法令適用の誤りの主張)について。

所論は要するに、公職選拳法第二二五条第一号にいわゆる「選挙に関し」とは、当該選挙の開票終了時までをいうものであつて、本件犯行は開票終了後のものであるから、同法条を適用することは許されないのに、これを適用処断した判決は、法律の解釈適用を誤つたものである、というのである。

よつて案ずるに、公職選拳法第二二五条は、広く公職の選挙の自由に影響を及ぼすべき危険のある所為を処罰する趣旨の規定であつて、同条第一号の選挙人らが選挙後に暴行等を加えられるのを怖れることもまた選拳の自由公正に影響を及ぼすものである。同条にいわゆる選挙に関し選挙人らに暴行を加えたというのは、投票をなさんとする選挙人のみならず、既に投票をなした選挙人をも含めて、それらの者に対する暴行等が、当該選挙に関係ある事項に起因する場合をいうものであり、その暴行等が行われた時期を、所論のように当該選挙の開票終了時までと限定して解すべきものとは思料されない。

本件犯行は昭和四二年一一月一八日午前一時過頃なされたものであり、原判示選挙の開票終了時刻は、その前日一七日午後一一時一〇分頃であるから、その間二時間位を経過しているのであるが、未だ選挙管理委員会が、選挙長から開票結果についての報告を受け、正式に当選人の住所、氏名等の告示をする前のことにかかり、少くともかかる開票終了の直後頃で当選の告示前になされた本件所為は、同条にいわゆる選挙に関しなされたものと解するのが相当である。

所論引用の大審院昭和三年四月一二日判決は、衆議院選拳法第一一五条(公職選拳法第二二五条に相当)のいわゆる「選挙に関し」とは、これを狭く選挙期日における投票終了前のみに限るものと解すべきものに非ずして、投票終了後といえども、尠くともその開票終了に至るまでは、同法条にいわゆる選挙に関するものなることを判示したものであつて、右判決が「選挙に関し」ということを、直ちに開票終了時までに限定した趣旨を判示したものとは解せられない。従つて被告人の本件所為を公職選拳法第二二五条第一号に問擬処断した原判決は正当であり、原判決には所論のように法律の解釈適用を誤つた違法はない。論旨は理由がない。

論旨第一点の二(法令適用の誤りの主張)について。

所論は要するに、公職選拳法第二二五条第一号の規定が開票終了後も適用されるとしても、原判示鈴木守、藤原覚一、神本竜一に対する暴行は選挙に関しなされたものではないから、同人らに対する暴行については同法条は適用されないのに、これを適用した原判決は法律の適用を誤つたものである、というのである。

しかしながら、原判決拳示の各証拠を総合すれば、被告人は原判示鈴木守、藤原覚一、神本竜一も、対立候補者を支持した信家昇の一派だと思つて暴行を加えたものであることが認められるから、被告人の同人らに対する暴行も選挙に関しなされたものであり、これに対しても公職選拳法第二二五条第一号を適用した原判決は正当であり、原判決には所論の法令適用の誤りはなく、論旨は理由がない。

論旨第二点(量刑不当の主張)について。

所論は、原判決の量刑は重きに過ぎる、被告人に対しては罰金刑を科するのが相当である、というのである。

しかしながら、本件犯行の動機、罪質、態様並びに被告人には昭和二二年一二年二日広島高等裁判所において恐喝罪により懲役一年、四年間執行猶予に処せられた後、昭和四〇年五月一九日広島地方裁判所尾道支部において公務執行妨害、暴力行為等処罰に関する法律違反罪により懲役四月及び懲役一年二月に処せられるまでの間、四回にわたり傷害、暴行等の暴力事犯により懲役刑に各処せられた前科歴のあることなど記録に懲し認められる諸般の事情を考慮すれば、所論被告人に有利なすべての事情を参酌しても原判決の量刑はやむを得ないところであり、重きに過ぎるとは思料されない。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹島義郎 裁判官 浅野芳朗 裁判官 岡田勝一郎)

控訴趣意書

第一求める判決

原判決を破棄し

(一) 被告人に対し無罪の判決を

(二) (予備的に)無罪の言渡しのないときは、罰金刑を選択して罰金刑の判決を賜りたい

第二理由

一、無罪の理由

(一) 原判決は公職選挙法第二二五条第一号にかんする大審院の判例に違反するものである。

(1)  昭和三年四月一二日大審院判決は

「法第一一五条(公選法二二五条)に所謂「選挙に関し」とは選挙期日に於ける投票終了前にのみ限るものに非ずして投票終了後と雖も尠くとも其の開票終了に至るまでは同法に所謂「選挙に関するもの」とす。又同条に所謂選挙人には独り投票を為さんとする人のみならず既に投票を為したる人をも包含するものとす」

というのであり、選挙の自由妨害罪の終期は投票終了後、最大限、当該開票終了と解さなければならない。しかして

(イ) いまだ右判例は変更されていない。また、最高裁昭和四一年(あ)一八六三号昭和四三年四月三日大法廷判決が「選挙運動を総括主宰した者」につき候補者における正式の立候補届出又は推薦届出前の段階において法律上選挙運動の総括主宰者なるものは認められない旨の限定的見解を示したことに徴しても開票終了後においても公選法第二二五条第一号の犯罪が成立するように判例を変更するものとは考えられない

(ロ) もつとも行政実例によれば

(a)  司法省は当選人が「当選の承諾を為す迄に延長解釈してよい」旨の通達(司法省決定=帝国地方行政学会発行「選挙関係実例判例集(1) 」一七五〇頁)を出しているが、現行法では当選の承諾、辞退の規定は存しないから右通達自体無意味というほかない。

(b)  また自治省選挙局「公職選拳法逐条解説」一一八五頁は本件終期を「現行法上は当選人の告知後であつても、たとえば法第百四条の規定による請負関係を有しなかつた旨の届出をするまでの間は該当すると解すべきである」としているが、全く模糊たる解釈というほかない。けだし本件のように三原市長当選者である長尾正三が地方自治法第百四条に規定する関係を有しないときは、何時をもつて終期とするのか全く不明である。

(2)  本件市長選挙において立候補者桑田健一の落選(したがつて対立候補の長尾正三の当選)確定したのは昭和四二年一一月一七日午後一一時一〇分であり(三原市選挙管理委員会委員長の回答書)本件起訴状記載の被告人の暴行が行われたのは同日午後一二時過(証人信家昇、同鈴木守の各証言-もつとも証人信家昇の司法警察員に対する供述調書では同年一一月一八日午前一時過ぎ頃となつている。また、証人神本竜一は午前一時前後と証言している)そうすると被告人に対する起訴状記載の事実は公選法第二二五条第一号の犯罪構成要件に該当しないことになり、無罪であることは明らかである。

(注) 公選法第九五条の「当選人とする」とは投票の完了によつて客観的に定まることを意味すると解され、この意味においては「投票開始後選挙会における当選決定までの間に当選人が死亡し又は被選挙権を失つた場合においても選挙会においては、その者について一応形式的に当選人に決定する行為をなし然る後、法第九十九条の規定による失格の手続を行う」べきものとされている(前掲「公職選拳法逐条解説」四三四頁~四三五頁参照)

(二) 以下省略

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