大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和38年(ネ)169号 判決 1966年5月13日

主文

一、被控訴人村上真太郎、同村上コンに対する本件控訴を棄却する。

二、原判決中、控訴人等の被控訴人河野恒江に対する請求に関する部分を取消す。

被控訴人河野恒江は、控訴人等に対し、原判決添付別紙目録記載の物件のうち畑二筆につき、控訴人門田タマエ、同唐沢サダエ、同生田春江、同内海緑の持分を各六分の一、控訴人大戸十三雄、同大戸佐加恵の持分を各一二分の一とする所有権移転登記手続をせよ。

三、訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人等と被控訴人河野恒江との間に生じた部分は、同被控訴人の、控訴人等と被控訴人村上真太郎、同村上コンとの間に生じた部分は控訴人等の各負担とする。

事実

控訴人等訴訟代理人は、「原判決を取消す。控訴人等に対し、(一)被控訴人河野恒江は原判決添付別紙目録記載の物件のうち畑二筆につき、被控訴人村上真太郎、同村上コン両名は同目録中畑二筆を除くその余の各物件につき、それぞれ控訴人門田タマエ、同唐沢サダエ、同生田春江、同内海緑の持分を各六分の一、控訴人大戸十三雄、同大戸佐加恵の持分を各一二分の一とする所有権移転登記手続をせよ。(二)被控訴人村上真太郎、同村上コン両名は右目録記載の木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二七坪外二階三坪中階下表八畳の間、同七・五畳の間、二階六畳の間および附属土蔵瓦葺二階建倉庫一棟建坪六坪外二階六坪、同木造瓦葺平家建鶏舎一棟建坪四坪を明渡し、かつ昭和三二年一一月一日以降右明渡済にいたるまで連帯して一ケ月金三、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の連帯負担とする。」との判決ならびに右第二項の請求につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人等訴訟代理人は、本件控訴をいずれも棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張および証拠の関係は、左記に付加訂正するほか、原判決の事実摘示のとおり(ただし、請求原因三の(一)中四女春江とあるを五女春江と、また控訴人等提出にかかる甲第二三号証は写であつて、被控訴人等はその原本の存在と成立を認めた、と各訂正する。)であるから、これを引用する。

(控訴人等訴訟代理人の主張)

一、亡幾治郎は昭和一三年六月二七日隠居するにあたり、本件各物件を確定日付ある証書によつて財産留保したものではないけれども、当時家督相続人たる控訴人門田タマエとの間に右各物件につき財産留保の合意をなしたのであつて、この合意は少くとも当事者間においては効力を有するものと解すべきところ、同控訴人からついで控訴人生田春江、被控訴人河野恒江と順次隠居による家督相続がなされたのであつて、これら包括承継人はいずれも右財産留保の合意については、控訴人タマエと同様、その当事者と目すべきであるから、結局本件各物件は被控訴人河野恒江の家督相続によつて同人の所有に帰するいわれはない。

二、被控訴人等は昭和三三年三月四日原審準備手続期日において、被控訴人等自身の各権利の存在を主張し、控訴人等の請求を棄却するとの判決を求める旨の答弁書を陳述し、もつて裁判上の権利行使をなしたが、右のごとき裁判上の権利行使は、言わば訴訟手続における単なる防禦方法の域を出でないものであるから、消滅時効の場合ならばともかく、本件のごとく取得時効の成否が争われている場合においては、これをもつて裁判上の請求に準ずべきものとはなしえないと解するのが相当であつて、被控訴人等が右権利行使をなすことにより中断の効力が生じたと言うことはできない。のみならず、控訴人等は原審昭和三八年五月一六日の口頭弁論期日において陳述した昭和三七年一一月二七日付訴の変更申立書により、はじめて取得時効を援用する旨の主張をなしたのであつて、これより以前になされた被控訴人等の右権利行使が、その後になされた控訴人等の取得時効の主張に対する防禦方法と言いえないから、被控訴人等主張の中断を認むべき理由はなんら存しない。

三、亡幾治郎が死亡した後、昭和三二年一月六日頃被控訴人恒江において、その内縁の夫たる宮地専吾とともに本件居宅中階下表八畳の間、七・五畳の間等の部分に入居し、同年九月一六日右宮地が死亡するにいたるまでこの部分を使用していたことはあるが、当時も本件各物件の固定資産税は控訴人春江が亡幾治郎名義で完納していたのであつて、被控訴人等が主張するように本件各物件が被控訴人恒江の単独占有に帰したこと、また、ついで畑二筆を除くその余の物件が被控訴人村上真太郎、同村上コン等の占有に帰したことはない。

四、河野コトは昭和三九年五月一三日死亡し、その共同相続人たる控訴人等および被控訴人恒江は、右コトの本件各物件に対する持分を承継したので、結局控訴人等の本件各物件に対する持分は、控訴人大戸十三雄、同大戸佐加恵において各一二分の一、その余の控訴人等において各六分の一の割合となつた。

(被控訴人等訴訟代理人の主張)

一、被控訴人河野恒江は、昭和一五年一二月一七日控訴人生田春江の隠居により家督相続をなして以来、本件各物件を所有かつ占有しきたり、うち畑二筆を除くその余の物件を控訴人主張の日時頃被控訴人村上真太郎、同村上コンに売渡し、同人等は爾后これを所有かつ占有している。

二、控訴人等の主張する河野コトの死亡およびこれにともなう相続の事実は認める。

(立証)(省略)

理由

河野コトが昭和三九年五月一三日死亡し、その遺産を控訴人等および被控訴人河野恒江において共同相続したことは当事者間に争がない。そしてその他の当事者間に争のない事実および亡幾治郎のなした隠居の効力につき、当裁判所の判断は、原判決理由一、二に説示するところと同一である(ただし、四女春江とあるは、五女春江と訂正する。)から、これを引用する。

控訴人等は、本件各物件が亡幾治郎と控訴人門田タマエとの間における財産留保の合意の結果もしくは亡幾治郎の隠居した時にはじまる取得時効が完成した結果、その承継人たる各控訴人等に相続分に応ずる持分の割合で帰属することとなつた旨主張するので按ずるに、原本の存在ならびにその成立につき争のない甲第二三号証、原審における控訴人門田タマエならびに河野コトの各本人尋問の結果、右タマエの供述により真正に成立したものと認めうる甲第一六号証の一ないし三および当事者間に争のない前記各事実を綜合すれば、亡幾治郎はその娘を他に嫁がせるため、昭和一三年六月二七日隠居したが、その際従来戸主として有していた本件各物件を家督相続人たるタマエに相続させないで、隠居後も依然として自己のもとに留保すべき旨を右タマエに伝え、同人もこれに異議がなかつたこと、そして右隠居より四日目にタマエが隠居して妹の春江、さらに同人が隠居していずれも他に嫁し、最後に被控訴人河野恒江が家督相続をするにいたつたけれども、昭和三〇年四月九日右幾治郎が死亡するにいたるまで、終始同人において本件各物件を自己のものとして占有しきたつたことを認めることができ、これを覆えすに足る証拠はない。

右認定事実によれば、隠居者である幾治郎と家督相続人であるタマエとの間に本件各物件を財産留保する合意がなされたのであるから、たとえそれが確定日付ある証書によつてなされたものでなくても、右当事者間においてはその効力を認めるべきであつて、亡幾治郎の一般承継人たる控訴人等とタマエから順次家督相続を経て、これが一般承継人となつた被控訴人恒江については、ともに右財産留保の合意につき、当事者と考えてよいから、本件各物件中被控訴人恒江の所有名義となつている畑二筆は、控訴人等に対する関係において、恒江が家督相続によつてこれが所有権を取得したのではなく、幾治郎の死亡によつて控訴人等、河野コトおよび被控訴人恒江が共同相続し、各相続分の割合に応じて共有するところとなつたとなさねばならない。そして河野コトの持分は、その死亡により、さらにこれが共同相続人たる控訴人等および被控訴人恒江に各相続分の割合に応じて承継されたので、結局控訴人等主張の割合による持分が各控訴人に帰属していると言わねばならない。したがつて右物件につき、権利の実体に符合せしむべく、控訴人等の被控訴人恒江に対する所有権移転登記手続を求める請求は理由があるから、これを認容すべきものである。

しかしながら右畑二筆を除くその余の本件各物件につき、被控訴人村上真太郎、同コンは控訴人等主張の日時に、その主張のように被控訴人恒江から売買による所有権移転登記手続を経由したところ、亡幾治郎とタマエ間の前記財産留保の合意は控訴人等の主張自体確定日付のある証書によつてなされたものではないというのであるから、亡幾治郎の一般承継人たる控訴人等において、これらの物件が留保財産であること、したがつてまた幾治郎からこれを相続により取得したことを第三者たる被控訴人村上両名に対しては主張しえないものである。

そしてこれらの物件に対する控訴人等の時効取得の主張については、前記認定のとおり、亡幾治郎が隠居した後も、その死亡するにいたるまで右各物件を自らのものとして占有しきたつたのであるから、同人の有していた占有権は、その死亡によつて爾后これを承継した共同相続たる控訴人人等、亡コトおよび被控訴人恒江に、各相続分に応じて帰属することとなつたと言わねばならないけれども、被控訴人村上両名が右各物件につき、いずれも自己の所有なることを主張し、これと相容れない控訴人等の所有権を否認して同人等の本訴請求を棄却するとの判決を求める旨の答弁書を原審昭和三三年三月四日の準備手続期日において陳述したのであるから、右被控訴人等はこれをもつて裁判上の権利行使をなしたものと言うべく、控訴人等主張の取得時効は、ここに中断されたと解するのが相当である。裁判上の権利行使が中断事由たりうべきことは、取得時効の場合なると、はたまた消滅時効の場合なるとを問うことなく、また、中断事由の主張が時効の援用の前たると後たるとによつてその効力に消長をきたすいわれはない。そうだとすれば、控訴人等の被控訴人村上両名に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきものである。

以上の次第であるから、本件各控訴中、被控訴人恒江に対する部分は原判決と結論を異にするから、これを取消して、控訴人等の請求を認容すべく、その余の被控訴人に対する部分は、結局原判決を相当と認めて、これを棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例