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広島高等裁判所 昭和32年(ネ)244号 判決 1959年4月20日

控訴人 原告 武村和子

訴訟代理人 小林右太郎

被控訴人 被告 田中イヨ

訴訟代理人 湯島敏助

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人より金一六六、四〇〇円の支払を受けると引換に原判決添附別紙目録記載の土地建物につき控訴人に対し所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴代理人において「控訴人は訴外亡都野瀬正市の承継人たる相続人等に対し原判決添附別紙目録記載の本件土地建物の返還を請求し得る債権者である。従つて控訴人は債権者代位権に基ずき被控訴人に対し右相続人等に対する給付を求め得るのは勿論、直接控訴人に対する給付を請求し得るものであつて、このことは民法第四二三条の精神に反するものではない。」と述べ、被控訴代理人において「控訴人が都野瀬正市の承継人に代位して本件土地建物の買戻をなすとしても、その買戻により本件土地建物の所有権は右承継人に帰属すべきものであつて直接控訴人に帰属させることは法律上許されるべきではない。従つて、控訴人に対する所有権移転登記を求める控訴人の本訴請求は失当である。」と述べた外、すべて原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

昭和二六年一〇月七日訴外都野瀬正市を売主とし、被控訴人を買主として本件土地建物につき買戻約款附売買契約の成立したこと並びに同訴外人が昭和二八年一月五日死亡したことは当事者間に争がない。

ところで、控訴人は同訴外人の承継人たる相続人等に対し本件土地建物の返還を請求し得る権利を有すると主張し、右相続人等に対する債権者として債権者代位権に基ずき右相続人等に代位して前示買戻権を行使して被控訴人に対し本件土地建物につき被控訴人より控訴人に対する所有権移転登記手続を請求しているのである。なるほど、債権者代位権を行使して債権者が相手方たる第三債務者に対し物の引渡或は金銭の支払を求める如き場合には、債務者に引渡或は支払をなすべきことを求めても債務者がこれを受領しないときは代位権行使の目的を果し得ないのであるから、債権者は直接自己に引渡或は支払をなすべきことを請求し得ることを認める必要がある。しかし、この場合においても、債権者が直接第三債務者より交付を受けたものは、債務者の権利に帰属しその債務者の総債権者の共同担保となるのであつて、その債権者個人の権利に属するものではない。一方、債権者が債務者の第三債務者に対する移転登記請求権を代位行使する場合には、不動産登記法第二七条、第四六条の二により債務者の協力を待たずして債務者名義に移転登記をなし得るのであるから、物の引渡或は金銭の支払の如く債務者の受領行為を必要とする場合と異なり、直接債権者に対する移転登記を認める必要が存在しない。それのみならず、債権者は債務者の移転登記請求権を代位行使しても自から登記権利者となり得るわけのものではないから、直接自己に対する移転登記を請求して自から登記簿上の権利者となることは許されないものといわねばならぬ。従つて、仮に控訴人が都野瀬正市の相続人等に代位して第三債務者たる被控訴人に対し前示買戻権を行使し得るとしても、その結果は本件土地建物につき被控訴人より右相続人等に対する所有権移転登記の請求が許されるのに止まり、控訴人は被控訴人に対し直接自己に対する所有権移転登記を請求することは許されないところである。しからば、被控訴人に対し本件土地建物につき直接控訴人に対する所有権移転登記を請求する控訴人の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がなく、失当としてこれを棄却すべきものである。原判決は右と理由を異にするけれども、その結果において正当に帰するから、本件控訴は理由のないものとしてこれを棄却すべきものである。

よつて、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽次 裁判官 松本冬樹)

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