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広島高等裁判所 昭和30年(ネ)114号 判決 1958年6月17日

控訴人 長崎県水産業会

右代表者 田中恕一

右代理人弁護士 神代宗衛

被控訴人 鳥取県農業会

右代表者 農林中央金庫松江支所

右支配人 各務文雄

参加人 鳥取県経済農業協同組合連合会

右代表者 三橋誠

右代理人弁護士 三浦強一

同 君野駿平

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

控訴人は参加人に対し金二十四万円及びこれに対する昭和二十三年五月十三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

参加人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一審の分を三分し、その一を控訴人、その二を被控訴人、第二審及び上告審を通じてこれを三分し、その一を控訴人、その二を被控訴人並に参加人の各負担とする。

この判決は参加人勝訴の部分に限り参加人において金八万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

成立に争のない甲第一、二、三号証、乙第四、五号証、原審証人浜口一(第一回)、当審並に原審証人井上松蔵(原審第一、二回)の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すれば被控訴人の代理人である訴外井上松蔵(当時被控訴農業会岩見支部資材係長)が被控訴農業会員に配給するため昭和二十二年十月十三日訴外南都商事株式会社との間に煮干いわし三千三百貫を価格一貫当り三百二十円納入期日同月十八日代金支払方法長崎県北松浦郡平戸町平戸港において船積と同時に支払うことの約にて買受契約をなし、同日訴外会社に手附金として金三十万円を支払つたところ同会社は煮干いわしの出荷を受け得られないため期日迄に船積をしないので被控訴人は同会社にその履行を督促する一方同月二十五日頃被控訴人と同会社との煮干いわし売買契約につきその出荷斡旋の労をとる控訴水産業会北松支所長事務取扱田中仁作に対し出荷の促進方を依頼して金七十六万円を預託すると共に煮干いわしが同会社に出荷せられたときは残代金に相当する金七十五万六千円を同会社に交付されたい旨委任をなし、右田中仁作はこれを承諾し、右約旨に基いて被控訴人はその頃金七十六万円の現金を親和銀行福岡支店において控訴水産業会北松支所の預金口座に払込んだ事実が認められ右認定に反する部分の原審証人松延清澄、植本正安、浜口一(第一、二回)、原審並に当審証人田中仁作の各証言、乙第六、七号証の記載も措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで以上認定の被控訴水産業会北松支所長事務取扱田中仁作との間の右金七十六万円の委託契約が控訴人に対して有効に成立しているか否かの点について考察するに成立に争のない乙第一、二号証、第三号証の一乃至四、第四号証、原審証人松延清澄、浜口一(第一回)、植本正安、原審並に当審証人田中仁作の各証言に本件弁論の全趣旨を綜合すれば次の事実が認められる。元来控訴人は水産業の整備発達を図り且つ会員の事業発達に必要な行為をなすことを目的とし、その目的を達するための事業として会員の生産販売する物の加工、保蔵、運搬又は販売に関する施設をなし得たので、昭和二十二年七月始め頃訴外田中仁作は控訴水産業会北松支所長事務取扱として控訴人を代理して当時公認荷受機関であつた奈良県水産株式会社の出先機関の仕事をして控訴人と取引をしていた訴外南都商事株式会社と交渉し、会員に配給する撰別炭百屯の提供を受けると共にその見返りとして二千五百貫の煮干いわしを出荷販売することを約した。而して右石炭は同年八月中に受領して控訴人の下部組織である漁業組合の煮干いわし製造用石炭として配分したので控訴人としては見返品の煮干いわしを訴外会社を経由して奈良県水産株式会社へ出荷するよう申請手続を了しこれを早急出荷販売する義務を負担していたところ、同年八月十五日以降は新に同年八月一日施行された加工水産物配給規則により控訴人は指定水産加工品の集荷販売の権能を喪失し、従前の販売業務一切は新に控訴人より分離設立された長崎県公認集荷機関である長崎県水産物集荷組合に引き継がれるに至つた。従て控訴人としては前記煮干いわしの出荷販売は不可能となつたが前記訴外会社との契約の事後処理として煮干いわしを出荷するように右集荷組合に依頼しその促進をはかることが当然の義務となつていたので前記田中仁作は引続き控訴人を代理して右事務処理の仕事を担当していた。ところで被控訴人と訴外南都商事株式会社との間の売買契約の目的物である煮干いわしは控訴人会員の生産に係るものであり、その中二千五百貫は前示の訴外会社より入手した石炭の見返りとして控訴人が出荷販売することになつていたものであつて、これを訴外会社が奈良県水産株式会社に送る代りに被控訴人に差向けることを約していたものである。かくして前段認定したような経緯により右代金支払のために本件七十六万円の委託契約がなされたのであるが、結局控訴人の代理人として訴外会社と前示の通り石炭と煮干いわしとの交換契約を締結した田中仁作は、右契約の事後処理のために、訴外会社と被控訴人との間の前記契約につき、右集荷組合より訴外会社に対する煮干いわしの出荷を斡旋することになり、右金七十六万円の委託をも受けるに至つたものである。以上の事実が認められ右認定に反する部分の前示田中仁作、浜口一、植本正安の各証言は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。従て右委託契約は控訴水産業会の業務行為の事後処理の一部であつて関連又は附帯業務として当然控訴人の目的の範囲内の行為に属し、これを為すにつき田中仁作が控訴人の代理権を有していたことも明かである。然らば前記委託契約は被控訴人と控訴人の間に有効に成立したものと謂うべく、控訴水産業会が公認集荷機関でない一事を以て直ちに右委託契約を控訴水産業会の目的範囲外の行為として無効と断ずることはできない。

ところで被控訴人と訴外南都商事株式会社間の前記煮干いわし売買契約はその後全然履行せられず結局昭和二十三年三月三十一日に至り合意解除になつたのでその結果同年五月四日被控訴人は控訴人に対し七十六万円の委託契約を解除する旨通知し併せてその委託に係る七十六万円の返還を請求したことは成立に争のない甲第八号証及び原審証人井上松蔵(第一回)の証言により明かである。然るに成立に争のない乙第四号証、当審証人田中仁作の証言に本件弁論の全趣旨を綜合すれば、昭和二十三年二月十九日頃長崎県水産物集荷組合は金五十二万円に相当する煮干いわし二千百五十貫を平戸港において訴外南都商事株式会社代表者平井清澄に引渡し、右代金五十二万円は田中仁作が前記委託金七十六万円のうちから右平井清澄の手を経て右集荷組合に支払い、田中仁作は平井清澄に対し右煮干いわしを被控訴人に対し至急送荷するよう指示したが訴外会社は右指示に反してこれを被控訴人に送荷せず奈良県水産株式会社に送荷するに至つた事実が認められるから訴外会社が債務不履行の責を負うは別として控訴人としては右委託金七十六万円のうち五十二万円については委任事務を既に処理したものと認めるのが相当である。従つて前示のように委任契約を解除してもその効力は遡及しないからその残額についてのみ返還義務が生ずるものと謂うべく、結局控訴人としては右残額金二十四万円及び右解除の日以後である昭和二十三年五月十三日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務あるものと謂わねばならない。

控訴人は本件金員が控訴水産業会北松支所長、田中仁作と被控訴人間に授受されたのは控訴人と訴外南都商事株式会社との間で統制法規に違反する煮干いわしの売買契約をなしその代金支払に関してなされたものであるから民法第七〇八条の不法原因給付に当り被控訴人にその返還請求権はないと抗争するので考えてみるに、原審証人松延清澄、植本正安、当審証人井上松蔵、鹿島義明の各証言に本件弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人は鳥取県における公認の海産物荷受機関ではあつたが当時煮干いわしは加工水産物配給規則により統制を受けて居り、自由な取引はできなかつたところ、出荷割当を受けるか、物資のリンクによる入手は可能であつたから昭和二十二年八月頃訴外南都商事株式会社と交渉に及び、たまたま一部前段認定した通り訴外会社は控訴人に対し撰別炭百屯を提供し、これとリンクして控訴人より出荷義務を引継いだ長崎県水産物集荷組合より煮干いわし二千五百貫の出荷を受けることが確定して居り、他の煮干いわしは別に割当を受ける可能性があるものと思われたのでこれ等の煮干いわしを目的として被控訴人と右訴外会社とが本件売買契約を締結したものであつて、訴外会社と控訴人は前記集荷組合に対し出荷指図書発行方を依頼し被控訴人に対し出荷するよう尽力することを約し、現物出荷の場合代金支払を至急処理できるよう控訴水産業会北松支所が本件七十六万円の預託を受けた事実が窺われるから、右煮干いわしの取引が統制法令違反をなすことを目的とするものでなく、又公序良俗に反するものでもないから右売買契約を無効とすることはできないし、右契約の履行促進を目的とした右七十六万円の委託契約ももとより有効であつてこれが不法原因給付であるとする控訴人の抗弁は理由がない。

以上の次第によつて控訴人は被控訴人に対し前記金二十四万円及びこれに対する昭和二十三年五月十三日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あるところ、被控訴人は右債権(債権の表示は元金七十六万円となつているが右二十四万円を包含することは謂うまでもない)を昭和二十五年十二月十四日参加人に対し譲渡し、昭和二十六年一月二十日付内容証明郵便でその旨控訴人に対し通知したことは被控訴人及び参加人間に争がなく、該債権譲渡の通知があつたことは控訴人の認めるところであるから右債権は被控訴人から参加人に適法に譲渡されたものと推認される。そうすると控訴人は参加人に対し右金二十四万円及びこれに対する昭和二十三年五月十三日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、これが支払を求める範囲の参加人の請求は正当であるが、その余の請求及び被控訴人の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべきである。よつて右と結論を異にした第一審判決は取消を免れないから民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九四条、第九二条、第八九条、第一九六条を適用して主文のように判決した。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 松本冬樹)

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