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広島高等裁判所 昭和29年(ラ)7号 決定 1954年4月27日

抗告人(申請人) 神谷勝人

相手方(被申請人) 帝国人造絹糸株式会社

(仮処分申請) 広島地方昭和二八年(ヨ)第九四号(例集第五巻第一号(4)参照)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は原決定を取消す、相手方が昭和二十八年十一月十六日抗告人に対してなした解雇の意思表示の効力を停止する、申請費用は第一、二審共相手方の負担とするとの裁判を求め、その抗告理由の要旨は次の通りである。

本件解雇の無効を主張する第一点は不当労働行為であること、即ち抗告人が刷新同盟の一員として組合活動を刺戟し且つ職場において正当な労働者の権利を卒直に主張し、この為会社側から同僚と差別されてひそかに監視され且つ会社調査機関が特別の身辺調査を行つた、かかる差別待遇は明かに不当労働行為である。そもそも会社側がなした特別調査並に監視は専ら就業規則第九十九条の規定のどの項かに該当する違反事実を補促乃至捏造して抗告人を職場から追放することが目的である。即ち実質的には抗告人をその組合活動の故を以て解雇するための形式的口実を作るため特別調査と監視を行つたもので抗告人の前歴詐称が右不当労働行為陰蔽のため形式的要件を充たしているに過ぎない。第二点はこれに関連して就業規則の適用が不当苛酷であることである。原決定は就業規則第九十九条但書を以て使用者により一方的に評価されるべきものとしているが苟くも法的規範である限りいかなる細部においても当事者一方の恣意に委ねらるべきでなくそれはあくまで客観的妥当性をもつ適用でなくてはならぬ、右但書は形式的該当者が不当苛酷に処分されることを防止してその適用の公正を保障さる趣旨である。然るに他の解雇例と比較するも抗告人の如く入社後既に五年近く無事故に勤務している者に対してなされた例は不当労働行為該当の一、二例の外には皆無であり、極刑である懲戒解雇処分に附することは不当苛酷なこと明かである。

尚原決定中抗告人が服役中平和生命保険株式会社に勤務せるものと相手方会社を欺いたことを自認したかの如き記載があるがこれは誤解である。現実に入社まで抗告人は平和生命保険会社に勤務しておりこの事実を経歴に誌したものである。要するに右二点に対する原決定の判断は著しく矛盾撞着して到底承服し難いから本件抗告に及んだと謂うに在る。

然れども本件解雇が経歴詐称を決定的要因としこれに対する就業規則の正当な適用によつてなされた処分であることは当裁判所も亦全疎明により原審と同様に考えるので原決定理由中の説示をここに引用する。尤も右説示中就業規則第九十九条但書の解釈として情状において軽減することを相当と認めるか否かの判断権は会社側の主観に白紙的に委託されているとなす点は少しく言い過ぎであつてやはり所論のように客観的妥当性を必要とし情状酌量すべきものがあれば会社側としては軽い処分に付すべき拘束を受けるものと解するのが相当で、右に違背して全く会社側の恣意主観的感情によつて軽い情状を無視して懲戒解雇の挙にでることは解雇権の濫用として違法性を帯びること明かである。尚抗告人は相手方会社が抗告人の前歴詐称を不当労働行為陰蔽の口実とした旨主張するがこれも前段説示のように会社が抗告人の前歴詐称を発見した道程において多少不当労働行為的疑がないわけではないが本件解雇の決定的要因が抗告人の前歴中岡山刑務所に窃盜罪等により一年間服役した事実を秘した点であり、右は懲戒解雇の要件に該当していることが明かであり又これに対して就業規則第九十九条第一号を適用し同条但書の情状による軽減をしなかつたことが客観的妥当性を欠くものとは認められず、依て特に不当であり苛酷であるとは到底認められないから何れにせよ本件解雇を無効ならしめるものではない。

然らば抗告人の抗告理由は何れも採用し難く、抗告人の仮処分申請を却下した原決定は相当で他に何等違法の点がないから本件抗告を棄却すべきものとし民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して主文のように決定した。

(裁判官 植山日二 佐伯欽治 松本冬樹)

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