大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和27年(ネ)52号 判決 1957年9月18日

第一審原告 (第四七号事件被控訴人 第五二号事件控訴人) 西部興業株式会社

右代表者 岩城義郎

<外一名>

右代理人弁護士 小林右太郎

<外一名>

第一審被告 (第四七号事件控訴人 第五二号事件被控訴人) 宮原稔昌

右代理人弁護士 今西貞夫

<外一名>

右復代理人弁護士 川尻二郎

第一審被告(第五二号事件被控訴人) 正岡武

第一審被告(第五二号事件被控訴人) 河村峯蔵

右両名代理人弁護士 小野実

主文

一、第一審被告宮原に対する部分につき

原判決中第一審原告勝訴部分を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

第一審原告の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共第一審原告の負担とする。

二、第一審被告正岡、同河村に対する部分につき

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

第一審原告会社が元商号を徳山開港株式会社と称したが昭和二十四年十一月二十五日その商号を沖部産業株式会社と変更し昭和二十六年五月十三日更にその商号を西部興業株式会社と改称し現在に至つていること、別紙目録記載の水面埋立地は第一審原告会社が徳山開港株式会社時代これを所有していたところ、この土地につき訴外宮原惣吉は昭和十八年十二月十九日同会社との売買に因り同年十二月二十二日所有権移転登記を受け、同人の長男第一審被告宮原が昭和二十年八月六日惣吉の死亡に因り家督相続をなし、昭和二十五年五月六日本件土地全部につき所有権取得登記を経由したこと、第一審被告正岡は同日右土地中同目録記載の(1)及び(2)につき、第一審被告河村は同月八日右土地中同目録記載の(3)乃至(6)につき何れも昭和二十四年十二月二十三日附の第一審被告宮原との各売買を原因としてそれぞれ所有権移転登記を受けていることは当事者間に争がない。

第一審原告は第一審原告会社と宮原惣吉との間の本件土地の売買は相通じてなした仮装行為であり、同時に第一審原告会社当時の代表取締役楠本庄太郎が自己の利益を計るためなした特別背任罪又は業務上横領に該当する犯罪行為であるから無効であると主張し、第一審被告等はこれを否認し、第一審被告宮原は右は始め信託譲渡により後売買契約に更改されたものであると抗争するので先づ此の点につき考察してみるに、成立に争のない乙第十一号証の一乃至六、第十二号証の一乃至四、第十三号証、甲第九号証の一、二、当審証人千々松秀二、中村年朗(一、二回)、長尾精、宮原鹿蔵、楠本庄太郎の各証言に本件弁論の全趣旨を綜合すれば次の事実が認定される。第一審原告会社が徳山開港株式会社の商号を有していた当時の昭和十八年末頃相当の負債があり役員等に対する給料も支払われずこれが金策を計つたが困難だつたので当時の社長長尾精は重役会に図り協議した結果やむなく会社所有土地の一部を売却(最低価格を坪当り金四十二円と定めた)して始末をつけることとし、専務取締役であつた楠本庄太郎に土地の売却その他の方法による金策方一切を委任した。そこで楠本は予ねて知合の宮原惣吉に相談した結果、本件土地を担保に広島信用組合から金融を受けることとなり、その手段として昭和十八年十二月十九日本件土地を右惣吉に対し信託譲渡し同月二十二日惣吉名義に所有権移転登記手続をなした上組合員である惣吉が同組合から昭和十九年二月二十五日右土地に第一、第二順位の抵当権を設定して金四万円と金三万五千円計金七万五千円を借受け、これを第一審原告会社に交付し、その後第一審原告会社はこれを弁済して同年十月二十二日右抵当権設定登記は抹消されたが、その間同年十月三日第一審原告会社の当時代表取締役となつていた楠本は本件土地を含む会社所有土地を目的として訴外市村栄一との間に土地投資契約(会社所有土地を売却して純益を折半する、売却は楠本が担当して同人の取得利益の半分を第一審原告会社に交付する)を結び同人より金六万五千百七十九円六十二銭の出資を得、右土地を売却できない場合これを売渡担保とすることにしたが、楠本は右契約に基き土地売却に努力し昭和二十四年四月頃既に惣吉に対し信託譲渡してある本件土地を同人に対し金六万五千円で売却することとし前記信託譲渡を売買契約に更改しその代金の一部金四万六千円を受領した。然し前記市村が右土地に対し仮処分仮登記をしたため残代金の支払を得ないまま経過し、本件土地の所有権は惣吉に移転したまま第一審被告宮原がこれを相続して居り、第一審原告会社としては右残代金の請求もしなければ右売買契約を解消させる何等の措置もとらなかつた。以上の事実が認められる。右認定に反する部分の原審証人田沼秀男、原審並びに当審証人幸仁助、藤島百郎、前顕楠本庄太郎、千々松秀二の各証言、甲第九号証の二の記載は措信し難く、又甲第三、四号証、第八号証の一、二、三によると前示認定の市村栄一と楠本庄太郎の土地投資契約で投資金六万五千百七十九円六十二銭についてはその配当利益及び投資金の返還を確保するため貸金の形として本件土地等を売渡担保としていたが市村は楠本の債務不履行を理由に本件土地等は市村の所有に帰したとして所有権移転登記手続を求め第一審原告会社と宮原惣吉を相手方として山口地方裁判所に訴訟を提起し、その昭和二十年十一月二十八日の口頭弁論期日に第一審原告会社と右惣吉の訴訟代理人千々松秀二は市村栄一の請求を認諾し、市村が完全に所有権を取得した事実を認め、改めて市村と第一審原告会社間に示談を遂げ同人より第一審原告会社が本件土地等を金八万円で買受けたことになつているから(右期日より三ヵ月以上前に惣吉は死亡して居り右訴訟代理人は死亡前惣吉が本件土地が自己の所有なることを主張していたことを知つていながら死亡後その相続人第一審被告宮原に何等連絡することをしないで認諾したことが前顕各証拠により認められるから結局右代理人は当時第一審原告会社代表取締役であつた幸仁助と相談の上勝手に惣吉の意思に反してその代理人として認諾したことが推断される)、右認諾の既判力の効力として一応市村と第一審被告宮原との間では本件土地の所有権は同被告に存しないことになつているが、第一審原告会社は本件土地を市村から買受けても登記手続をなさず対抗要件を備えていないので第三者に対し本件土地につき市村の承継人たることを主張し得ない結果(前記宮原の認諾の既判力は第一審原告に及ばない)本件においても第一審被告宮原の自己に所有権が存したと言う主張を打破し得ないから右甲号各証も前記認定の妨げとならずその他前記認定を覆すに足る証拠はない。尚前記認定のように楠本庄太郎において会社のためばかりでなく自己の利益を計るため市村と土地投資契約を結ぶ等多少背任的所為が認められないわけでないが、これがため前記信託又は売買行為が無効となるものでないことは謂うまでもない。然らば第一審原告会社と宮原惣吉間の本件土地の譲渡は始め信託譲渡により後にこれを売買契約に更改したものであることが明白である。

従つて本件土地譲渡が仮装行為又は不法行為で無効であることを前提とする本訴請求は爾余の争点につき判断する迄もなく失当であること勿論でその請求は棄却を免れない。然らば第一審被告正岡、同河村に対する請求全部を棄却した原判決はもとより相当であるから本件控訴は理由なく、又第一審被告宮原に対する請求を一部認容した部分の原判決は失当で該部分は取消を免れず、且つ第一審原告の控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第九十五条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 松本冬樹)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例