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広島高等裁判所 平成7年(行コ)6号 判決 1997年7月18日

山口県小野田市中央一丁目二番二〇号

控訴人

御馬舎宏道

右訴訟代理人弁護士

平岡雅紘

山口県宇部市常盤町一丁目八番二二号

被控訴人

宇部税務署長 石原明男

右指定代理人

内藤裕之

徳岡徹弥

木原邦夫

木村宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が平成二年八月二八日付けで控訴人の昭和六〇年分、同六一年分、同六二年分、同六三年分及び平成元年分の所得税についてした<1>各更生処分のうち左記1の金額を超える部分、<2>各過少申告加算税賦課決定処分、<3>各重加算税賦課決定処分のうち左記2の金額を超える部分をいずれも取り消す。

1  昭和六〇年分 総所得金額 一億一五七九万二九六六円

同六一年分 総所得金額 一億一五四二万二九九六円

同六二年分 総所得金額 一億一七五六万八四八七円

同六三年分 総所得金額 九三〇〇万〇九九八円

平成元年分 総所得金額 一八二一万六八七六円

2  昭和六〇年分 重加算税対象所得金額 二一〇万九〇〇〇円

同六一年分 重加算税対象所得金額 二二三万六五〇〇円

同六二年分 重加算税対象所得金額 二三二万七四〇〇円

同六三年分 重加算税対象所得金額 二四三万〇六〇〇円

平成元年分 重加算税対象所得金額 二五一万八八〇〇円

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決が「第二 事案の概要」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四枚目表六行目の「事業所得」の前に「控訴人において、」を加え、同六、七行目の「算入すべきものではなく、これを」を「算入すべきものでないことを自認している。したがって、被控訴人が、事業所得の金額の算出に際して右各金額を必要経費として認めなかったこと、また、右各金額を」と改める。

二  同四枚目裏末行の「孝彦の母」の後に「柴田寿子」を加える。

三  同五枚目表七行目の「証人倭玖子」の前に「甲一八、」を、同行の「同孝彦」の後に「(原審及び当審)」をそれぞれ加える。

四  同五枚目裏四行目の「証人孝彦」の後に「(原審)」を加え、同行の「、同倭玖子」を削除する。

五  同九枚目裏一〇行目の「当時は」の前に「本件係争年」を加える。

六  当審における主張

1  控訴人

(一) 正彦に対する報酬の必要経費該当性(争点1)について

正彦は昭和四五年から、同五〇年、同五一年の二年間を除いて現在に至るまで小野田心和園に勤務しているところ、控訴人は、昭和四七年から同五九年までの間、同人に対する報酬として、昭和四七年分一五六万円、同四八年分二〇六万円、同四九年分三〇三万九〇〇〇円、同五三年分五一〇万円、同五四年分から同五九年分までは約六〇〇万円から八〇〇万円を支払っていた(甲四の別紙柴田正彦給与表参照)。そして、その間、三年か四年おきに一回は税務調査があり、控訴人は、正彦の賃金台帳等の必要帳簿はすべて提出していたが、被控訴人から同人の報酬が高すぎるという指摘は全くなかったものであり(証人孝彦(原審16項))、被控訴人は、昭和五九年分までの事業所得については控訴人が必要経費として正彦に右のような報酬を支払うことを認めていたものである。

にもかかわらず、被控訴人が本件係争年である昭和六〇年分ないし平成元年分について、突然、控訴人が正彦に支払った報酬を大幅に否認し、その必要経費該当性を否認することは、信義則ないし禁反言の法理に反するもので許されない。

(二) 倭玖子に対する給料等の必要経費該当性(争点2)について

倭玖子の給料等の支払についても、前記(一)と同様であって、昭和五九年分まで給料等の支払を認めながら、本件係争年分について、その必要経費該当性を否認するのは、信義則ないし禁反言の法理に反し、許されない。

2  被控訴人

租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則ないし禁反言の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用は慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するというような特別の事情が存する場合に、初めて右法理が適用されるべきものである。

そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠である(最高裁昭和六二年一〇月三〇日第三小法廷判決・判例時報一二六二号九一頁)。

しかし、本件については、本件係争年以前の事業所得についての調査の際、被控訴人所部係官が、控訴人に対して、正彦に対する報酬、倭玖子の給料の支払等の全部又は一部を必要経費に算入することを否認しなかったのは、控訴人(実際は孝彦)が、控訴人備付けの賃金台帳等を示したうえ、正彦は派遣医、倭玖子は看護助手である旨の勤務状況(職種)についての説明をしたため、被控訴人所部係官が個々の従事状況までを調査するには至らず、右支払を必要経費に算入すべきでないことを指摘(修正申告又は更生の措置)するまでに至らなかったにすぎず、被控訴人所部係官が、正彦らの勤務の実態を十分に把握したうえで、正彦らの報酬等を必要経費に算入することを適正と認めたものではない。

もとより、税務調査の理想からいえば、納税者の備付け帳簿、事業の概況その他の状況等をことごとく調査して、真実の所得金額を把握することが望ましいが、大量回帰的な事案う処理する税務職員において、納税者の申告内容をことごとく調査し、その是非を判断することは、その対象数と税務職員数との関係からもおのずと限界があることは当然のことであって、税務調査の結果、ある項目について何らの指摘がなかったとしても、それ故をもって納税者に対して、たとえ当該項目が法律に反する取扱いであっても、これを将来にわたって是認することまで意味するものではないから、後にこれに反する課税処分を行ったからといって、信義則あるいは禁反言の法理に反するものということはできない。

第三争点に対する判断

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決が「第三 争点に対する判断」と題する部分に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一〇枚目裏一〇行目の「同孝彦」の後に「(原審及び当審)」を加える。

二  同一一枚目裏二行目の「内科部長」を「内科医長」と改める。

三  同一二枚目表末行の「証人孝彦」の後に「(原審)」を加える。

四  同一三枚目表四行目の「できないし」から同裏二行目の「採用しがたい」までを「できない。また、正彦が小野田心和園に非常勤医師や看護婦の斡旋をしてその確保に尽力したとの主張については、甲二、四、七ないし一三にこれに副う記載があり、証人正彦(原審)、同孝彦(原審及び当審)もこれに副う証言をするが、右斡旋についての正彦の具体的な貢献度は必ずしも明らかではないうえ、仮に正彦が右斡旋にある程度の貢献をしていたとしても、正彦が控訴人の従兄弟であり、事務長である孝彦の実弟であることをも考慮すると、正彦の右斡旋行為は、親族間の情愛あるいは相互扶助の精神からなされたものと推認されるから、他の非常勤医師に対する前記報酬額を大幅に超える報酬を正彦に支払うべき業務上の必要性が客観的に存在していたものとまで認めることはできない。さらに、正彦が夜間等に緊急の内科診療をしていたとの主張についても、甲二、四にはこれに副う記載があり、証人正彦(原審)、同孝彦(原審及び当審)はこれに副う証言をするが、右記載及び証言は、いずれも正彦が診療を行ったとする日時や診療内容が明らかにされていない抽象的なものであり、しかも、病院日誌等にも正彦が実際に緊急の内科診療を行ったことを示す記載は一切存在せず、右証人らが、原審において、緊急に診療をした場合には診療録に記載がある旨証言し、証人孝彦は右診療録は証拠として提出できると証言していたにもかかわらず、結局、本件訴訟において右診療録の提出はなされなかったこと等に照らせば、右記載や証言はにわかには採用しがたいから、正彦が夜間等の緊急の内科診療を行っていたことを前提として、そのための報酬を正彦に支払う業務上の必要性があったものと認めることはできない」と改める。

五  同一三枚目裏七行目の「五の1、2」の後に「、一八」を、同行の「証人孝彦」の後に「(原審及び当審)」を、同末行の「証言」の後に「(原審)」をそれぞれ加える。

六  同一四枚目表八、九行目及び同裏四行目の「補助看護婦」をいずれも「看護婦の補助者(看護助手)」と改め、同九行目の「五、」の後に「一三、」を加える。

七  同一五枚目裏四行目の「証人孝彦」の後に「(原審)」を加え、同七行目の「補助看護婦等」を「看護婦の補助者として勤務していた北村、西村等の元従業員」と改める。

八  同一六枚目裏五、六行目の「週五、六日、」の後に「午後二時から同五時までの間、」を加える。

九  同一六枚目裏末行、同一七枚目表一行目の「右証言と大きく食い違っていること」を「右証言は必ずしも信用しがたいこと、しかも」と、同六行目の「証言をし」を「証言もしているところ」とそれぞれ改める。

一〇  同一九枚目裏六行目の「証人孝彦」の後に「(原審)」を加え、同末行の「一二、」を削除し、同行の「証人孝彦」の後に「(原審)」を加える。

一一  同二〇枚目裏一行目の「当然行うべきものであって」を「行われたものであって」と改める。

一二  同二一枚目裏四行目の後に行を改めて次のとおり加える。

3 信義則ないし禁反言の法理違反について

課税処分は、もともと租税法規に基づいて客観的に定められるべき処分であるから、右処分について信義則ないし禁反言の法理違反があるというためには、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼して行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われたため経済的不利益を受けることになったというような特別な事情のあることが必要と解される。

そこで、検討するに、証拠(乙一四、一八、一九、証人西川、同和田、同山本(いずれも原審))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が昭和五九年分以前の事業所得について、正彦の報酬及び倭玖子の給料の支払の必要経費への算入を否認しなかったのは、被控訴人所部係官の税務調査の内容が個々の従業員の勤務状況の把握までに至らず、控訴人の正彦に対する報酬及び倭玖子に対する給料の支払が実際の勤務実態に合致しているかどうかを十分把握していなかったことによるものであって、被控訴人が正彦らへの右報酬等の支払を適正なものと認めたり、また、将来にわたって右報酬等を必要経費に算入することを是認する旨の公的見解を表示していたことによるものではないことが認められる。

したがって、前記認定のとおり、被控訴人が、本件係争年分の事業所得についての税務調査を行った結果、正彦及び倭玖子の勤務実態が控訴人の申告内容と異なることが判明したため、被控訴人が、右税務調査の結果に基づいて、正彦らに対する報酬の一部及び給料の支払の必要経費該当性を否認し、本件各更正処分等を行ったとしても、控訴人が被控訴人の表示した公的見解を信頼したことにより経済的不利益を受けたというような特別な事情があることにはならないから、本件各更正処分等が信義則あるいは禁反言の法理に反するものということはできない。

よって、控訴人の右主張は理由がない。

一三  同二一枚目裏五行目の「3」を「4」と改める。

一四  同二二枚目表一行目の「別表1」の前に「ところで、控訴人には、前記第二の一3(一)のとおり、」を加える。

第四結論

以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 金子順一 裁判官 亀田廣美)

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