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広島高等裁判所 平成6年(ネ)32号 判決 1995年5月24日

控訴人

日本電信電話株式会社

右代表者代表取締役

児島仁

右訴訟代理人支配人

塩田徳彦

右訴訟代理人弁護士

加藤一郎

片山邦宏

竹田穣

佐藤安男

渡邉純雄

被控訴人

原義惠

右訴訟代理人弁護士

山田延廣

飯岡久美

石口俊一

木村豊

廣島敦隆

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一四万二八九一円及び内金九万五三九九円につき平成三年三月一日から、内金三万七八七三円につき同年四月二日から、内金七五三九円につき同年五月一日から、内金二〇八〇円につき同年六月一日から、各完済の前日まで年14.5パーセントの割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金一四万二八九一円及びこれに対する平成六年七月七日から完済まで年六分の割合による金員を支払え(当審において追加された予備的請求)。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨。

第二  事案の概要

本件は、控訴人が被控訴人と締結している加入電話契約に基づき原判決添付別表(一)、(二)記載の平成三年二月ないし五月分の一般通話によるダイヤル通話料及び有料情報サービス(いわゆるダイヤルQ2)利用によるダイヤル通話料(基本料金、消費税等を含む。)を請求した事案であり(なお、控訴人は支払命令申立ての当初、有料情報サービス利用による情報提供者の情報料も併せて請求していたが、被控訴人の支払命令に対する異議申立て後に右情報料請求を放棄した。)、被控訴人は、右請求のうち、ダイヤルQ2利用による情報料及び通話料は、息子が被控訴人の了解を得ずに加入電話からダイヤルQ2を利用していわゆるパーティーラインと呼ばれる番組の提供を受けたものであり、情報提供者と電話加入者である控訴人との間に何ら情報提供に関する契約は存在せず、その支払義務を定めた約款一六二条、一六三条は郵政大臣の認可を受けていないから、少なくとも被控訴人を拘束せず、また、情報提供者と控訴人が共同してダイヤルQ2によるサービスを提供しており、情報料とダイヤル通話料は区別できず、控訴人の現実の代金請求も両者が一体として取り扱われている以上、右情報料のみならずダイヤル通話料の支払義務もないなどと主張して争った。原審は、控訴人の一般通話料に関する請求のみを認容して、ダイヤルQ2に関する通話料請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴し、当審において、被控訴人の加入電話契約上の管理義務不履行に基づく損害賠償請求を予備的に追加したものである。

第三  当事者の主張

以下に付加、訂正する以外は原判決事実摘示(原判決二枚目表五行目から同五枚目裏六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決二枚目表八行目の「加入電話契約」を「加入電話加入契約」と改め、同八、九行目の「三原局」の次に「(〇八四八)」を、同九行目の「あった」の次に「(以下、対象となる加入電話を「本件加入電話」という。)」を、それぞれ加え、同二枚目裏一行目の「公社は、」を「2 公社は、」と、同三行目の「2 そして、」を「そして、」と、同四行目の「約款(以下「約款」)が施行され、締結していた加入電話契約」を「約款(以下「約款」という。)が施行され、公社が締結していた加入電話加入契約」と、同五行目の「なった。」を「なり、その後、平成元年七月一〇日に約款一六二条、一六三条が追加され、有料情報サービス制度(いわゆるダイヤルQ2制度)が開始され、さらに、平成二年一〇月三〇日、約款二条に基づき右各条文が現行のとおり(甲一号証参照)に改正された。」と、同六行目の「右加入電話契約」を「右約款により加入電話契約とみなされることとなった加入電話加入契約」と、同四枚目表九行目の「規程」を「規定」と、それぞれ改める。

二  控訴人の主張

1  約款一一八条に基づくダイヤルQ2利用による通話料金支払義務の存在

(1) 控訴人は、第一種電気通信事業者として電気通信事業法の適用を受け、同法三一条一項により電気通信役務に関する料金その他について契約約款を定め、郵政大臣の認可を受けなければならず、これを変更するときも同様であるところ、有料情報サービス(いわゆるダイヤルQ2)による通話は控訴人の一般の電話回線(約款三条にいう「電話網」)を利用して行われるものであり、そのための特別の電話回線が別途存在するものではなく、約款の解釈上、ダイヤルQ2による通話も人の音声(概ね三キロヘルツ)を電気通信回線により送り、又は受ける通信であるから、九四条による一般通話に該当し、仮に、右通話を一般通話とは異なる「電話サービスを利用して行う通話以外の通信」とみる余地があるとしても、四条が 適用され「通話」とみなされるから、いずれにしてもダイヤルQ2による通話を一般通話でないと解する余地はない。

(2) 約款は、控訴人の民営化に伴い、従前の一般的な電話回線の利用形態である人と人との会話の通信のみならず、利用形態のいかんを問わず、全ての通信に対して等しく低廉かつ合理的な料金体系を適用することを理念として、昭和六〇年四月一日、郵政大臣の認可を受けて制定されたものであり、ダイヤルQ2による通話も約款一一八条が予定していなかった事態ではなく、ファクシミリやパソコン通信等と同様に同条の適用がある。

(3) したがって、ダイヤルQ2による通話も通常のダイヤル通話であるから、約款一一八条により加入契約者の電話回線による通話については通話者が契約者か否か、第三者が通話した場合に契約者の承諾を得ているか否か、その金額の多寡等の事情にかかわらず、契約者である被控訴人が通話料金の支払義務を負うというべきである。

2  ダイヤルQ2制度とその利用による情報料と通話料の区別について

ダイヤルQ2制度の利用による情報料と通話料とは以下にみるとおり形式的にも実質的にもまた法的にも区分されているから両者の不可分性を根拠に通話料の支払義務を否定するのは不当である。

(1) 控訴人のダイヤルQ2制度が創設されたのは、昭和六〇年四月から電気通信事業が自由化され、固有の電気通信設備を有しない事業者にも控訴人ら第一種電気通信事業者の設備を利用して第二種電気通信事業者として通信サービスを営むことが認められたことから、控訴人の料金の課金や料金回収システムを新たに他の電気通信業者に開放し、効率的な料金回収手段を持たない情報提供者の情報提供を容易にし、かつ、利用者に多種多様な情報を提供することを目的としたものであって、右制度は電気通信事業法二条六号所定の電気通信業務そのものではなく、その業務に関連する業務であるため、認可の対象とならず、控訴人は、平成元年五月三〇日、附帯業務として郵政大臣に届け出たうえ、同年七月一〇日から東京都二三区の市外局番〇三地域において右サービスを開始し、同年九月、大阪(市外局番〇六地域)、名古屋(市外局番〇五二地域)に、さらに、平成二年七月、首都圏・中京圏、関西圏、札幌、北九州、福岡に、順次対象地域が拡大され、次いで平成二年一〇月には概ね全国的に実施され、被控訴人の住所地では平成二年一〇月三〇日より利用可能となったものであり、控訴人は各情報提供者とダイヤルQ2に関する契約を締結し、収支相償の原則から一番組毎に月額一万七〇〇〇円と情報料金の九パーセントの手数料を受け取っている。

(2) ダイヤルQ2の利用に関しては、電話回線を所有する控訴人、情報提供者、加入電話契約者、情報の提供を受ける利用者の四者が存在し、加入電話契約者と利用者は同一の場合とそうでない場合があるところ、控訴人と加入契約者間は加入電話契約が締結され、電話サービス約款(約款)により処理され、ダイヤル通話料は控訴人所有の電気通信設備を使用したことの対価であり、他方、情報提供者と利用者との間は有料情報の提供と利用を目的とする売買類似の無名契約が締結され、利用者が情報提供者に支払う情報料は情報の提供を受けたことに対する対価であって、右ダイヤル通話料債務と情報料債務とは役務の内容を異にする別個の契約関係から生じる債務であって、法律上も独自性があり、互いに独立した契約関係である。

(3) 現実にも、利用者が、ダイヤルQ2を利用する際、ガイダンスにより情報料と通信料との二種類の料金が存在することが予め明らかにされており、その情報料は、約款一六二条、一六三条により控訴人が回収代行することを利用者が承諾するものとされているが、右(2)のとおり特定情報の対価として情報提供者に帰属するものであり、情報提供者が控訴人の指定した金額の範囲内で情報料の金額を設定でき、その減免についても格別の法的規制はないのに反して、ダイヤルQ2利用による通話料は、右(2)のとおり電気通信設備(電話網)の使用の対価であって、控訴人に帰属し、その金額も、通話時間と通話料金に基づき定型的に算出され(約款一一三条)、通話料金の減免も電気通信事業法三一条四項により郵政省令で定める基準に従う必要があり、同法施行規則二二条、約款一一八条三項、一二三条により緊急事態や公共的な必要性が極めて強い場合に限定されており、通話の態様や内容、料金の多寡等の事情を問題として通話料金を減免することは認められていない。

3  ダイヤルQ2制度の周知性と改善策について

控訴人は、ダイヤルQ2に関する約款が控訴人の附帯業務であり認可を要しないとされたものの、電気通信業務と密接な関係があり、利用者も広範にわたることから、認可約款と同様に控訴人の事業所に掲示し、その周知に以下にみるとおり万全を期し、ダイヤルQ2制度の健全な維持発展を図るため、種々の改善策を講じてきたものである。

(1) 控訴人は、ダイヤルQ2についての広告を、平成元年六月六日、日本経済新聞に掲載したのを皮切りに、平成二年三月一二日、日本経済新聞に、同年九月二七日及び二八日全国八大紙に、さらに、広島県内においては、同年一〇月一日、四日、三〇日に中国新聞に各掲載し、右サービスの周知徹底に努め、各事業所において、テレホンガイド、パンフレット及びリーフレットを配付し、右制度は相当量の新聞記事として報道されている。

(2) 控訴人は、平成元年七月のダイヤルQ2のサービス開始当初から、情報提供者の提供する番組の内容につき第三者機関である倫理審査機関による定期的審査を情報提供者に義務づけ、最終的に不良と判断された番組については情報提供者との契約を解約することとし、その後の番組数の増加に伴い、平成三年二月には倫理審査機関の体制も整備された。この間、平成二年一〇月三〇日からは、ダイヤルQ2を利用できなくする利用規制を実施し、平成三年三月には、ダイヤルQ2ホットラインを開設し、制度の内容、仕組み、利用方法等の案内や利用者の意見、要望を受け付けることとし、平成三年六月以降、いわゆるツーショット番組(不特定の男女の一対一の会話を目的とするもの)につき、情報提供者からの新規契約申込の受け付けを中止し、同年一〇月以降、既存番組についての契約を期間満了とともに順次打ち切ることとし、現在では全廃されており、高額利用に関する対策としても、平成三年八月以降、ダイヤルQ2の情報料とダイヤル通話料の合計額が前月の三倍以上かつ一〇万円以上に及ぶ場合に、利用額が高額となった翌々日には電話等で契約者に通知することとし、平成四年二月以降は右通知基準を前月の三倍以上かつ三万円に及ぶ場合に引き下げたうえ、平成三年一〇月以降、いわゆるパーティーラインの情報料の上限を三分間三〇〇円から三分間六〇円に引き下げ、平成三年一二月以降は、請求書、事前案内書、料金明細内訳書において情報料と通話料を区分して表示するようにし、平成四年一二月には番組冒頭のガイダンスに三分当たりの利用金額の表示を加え、さらに、平成五年一〇月から、番組を三種類のジャンルに区分し、ジャンル毎に異なる番号帯を付与するジャンル別番組提供を実施し、平成六年三月からジャンル毎に利用規制を選択できるようにした。なお、従前のシステムでは提供番組を利用者が個別の申込をした場合に限り利用できるようにすることは不可能であるためシステムを変更し、平成六年七ないし九月から一部ジャンルについて利用者の個別の申込を受けた場合に限り利用が可能とする取り扱いに変更した(甲四九号証参照)。

4  被控訴人の管理義務違反による損害賠償責任について(当審において追加された予備的請求)

(1) 本件におけるダイヤルQ2の利用を被控訴人の子である譲二が行ったものとしても、被控訴人は加入電話契約者として控訴人に対し加入電話を適正に管理する債務を負う。

(2) 被控訴人は、加入電話が親子電話であり、子である譲二が別室で利用していたとしてもその利用情況を把握できたにもかかわらず、長時間ダイヤルQ2を利用するのを放置して加入電話の管理を十分になさず、そのダイヤルQ2の利用によるダイヤル通話料一四万二八九一円と同額の損害を控訴人に与えた。

(3) よって、控訴人は、被控訴人に対し、債務不履行による損害賠償金一四万二八九一円及びこれに対する履行期後である平成六年七月六日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

三  被控訴人の主張及び反論

1  ダイヤルQ2利用による通話料金支払義務の不存在

本件におけるダイヤルQ2利用による通話料は以下にみるとおり一般のダイヤル通話料とは異なるから、信義則上、加入者に通話料金の支払義務を定めた約款一一八条を適用すべきではない。

(1) ダイヤルQ2利用による通話料は情報料の負担という別個の負担を発生させる新たな電話回線の利用形態であって、従来の利用者による架電により発生する一般のダイヤル通話料とは異なり、情報料と通話料は不可分一体ともいえる密接な関係にある。

(2) ダイヤルQ2の提供するアダルト番組などについては未成年や第三者が誘惑にかられて無断使用するおそれが高く、反公序良俗性を帯びた利用に堕し、あるいは、予想外の高額の利用料(通話料を含む。)の負担を電話加入者に強いる恐れが強いにもかかわらず、控訴人は、番組の公共性・有益性を何ら審査せず、アダルト番組などの社会的無価値ないし公序良俗に反する番組を提供させ、青少年が多数回かつ長時間利用し、その利用料の支払いをめぐって紛争が頻発し社会問題化するまで電話加入者保護のための措置を十分に行わずに放置していたものであり、本件で問題とされるダイヤルQ2の利用期間(平成三年一、二月初旬)当時、ダイヤルQ2の情報料として三分間当たり一〇円ないし三〇〇円を一二段階に分けた単位料金とその上限を定めたのみで、番組提供業者に情報料の価値を自由に設定させ、料金月ごとに集計して加入電話契約者に請求して回収を代行していたものである。

(3) 控訴人は、第一種電気通信事業者として電気通信事業法の規制を受け、同一条に照らせば、電気通信事業法における公共性は単に設備の公平かつ円滑な提供のみを意味するものではなく、利用者の利益の保護、公共の福祉等の観点から、提供されるべき情報の内容についても、それが社会的に有用であり、電気通信事業の発展に資するものであることを要請するものであるところ、ダイヤルQ2の受提供は電話による通話の内容そのものであり、それに伴う電気通信回線設備の利用は電気通信役務の提供に外ならず、電気通信事業そのものに該当するというべきものであるから、本来、電気通信事業法三一条一項により郵政大臣の認可を得る必要があるうえ、控訴人は、情報提供の選別、利用者の保護について適切な措置を講じる必要があるというべきところ、右(2)のとおり電話加入者保護のための措置を十分に行わずに放置していたものである。

(4) 有料情報の伝達は、一般通話と異なる新たな電気通信事業であって、情報提供者と控訴人との共同の営利事業として控訴人の電話回線を利用してなされる営利性の色彩を強く帯びるものであって、現に、控訴人は、情報提供者から一番組当たり一か月金一万七〇〇〇円と情報料の九パーセントを手数料として徴収したうえ、さらに、約款一一八条により通常のダイヤル通話と同様の通話料まで取得しようとするものである。

2  控訴人の管理義務違反の新主張について

控訴人の右主張は争う。本件はダイヤルQ2の利用料を取得しようとした控訴人が加入電話契約者である被控訴人に対して講じるべきであった保護措置を十分に行わなかったために発生したものであり、それを被控訴人らの債務不履行と主張するのは責任転嫁以外の何ものでもなく、控訴人の右主張はクリーン・ハンドの原則にも反する。さらに、被控訴人は、本件当時、ダイヤルQ2の受信制度自体が存在することさえ知らなかったものであり、子に対してその受信をしないよう指導することも不可能であった。長電話となった原因は、控訴人が猥褻な情報等を提供したため、その利用が反公序良俗性を帯びた利用に堕したことにある。

第三  証拠関係

本件記録中の原審における書証目録、証人等目録及び当審における書証目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人の電話料金請求について

1  請求原因1(公社との加入電話加入契約の締結)、同2(控訴人の権利義務の承継とダイヤルQ2の開始)の各事実は当事者間に争いがなく、同3のうち、原判決添付別表(一)、(二)のダイヤルQ2に関するダイヤル通話料及びそれについての消費税相当額以外の各料金(基本料金、一般通話料、明細内訳の作成料及び郵送料、消費税相当額、延滞利息)については、被控訴人において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

2  そこで、ダイヤルQ2に関するダイヤル通話料(消費税相当額を含む。)請求の当否について以下において判断する。

(一)  まず、本件におけるダイヤルQ2利用に関しては、証拠(甲二、三、八、九、一一、一八、乙三、五の1、2、被控訴人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 被控訴人が契約者である本件加入電話の月別ダイヤル通話料金は平成二年八月分(利用期間は同年六月三〇日から七月三一日)から平成三年一月分(利用期間は同年一一月二九日から一二月二六日)までの間、最高額が九四六〇円(平成三年一月分)、最低額が五五五〇円(平成二年八月分及び一〇月分)で平均約七二〇〇円程度であり、それ以前も一万円未満で一万円を越える月は稀であった。

(2) ところが、被控訴人の子・譲二(当時中学三年生)が、自宅に設置されていた本件加入電話で平成三年一月二日(以下「平成三年」を省略する。)からダイヤルQ2を利用するようになり、その回数も多いときには一日に数十回(例えば一月一八日七九回、一月二〇日七四回、一月二八日六七回、一月二七日五一回)、一回の利用時間も一時間を超え(例えば一月二〇日一時間一分三〇秒五、一月二一日一時間二六分三一秒五と一時間四分五三秒、一月二五日一時間二九分五二秒五、一月二六日二時間一三分一九秒五、一月二七日一時間一一分九秒五と二時間一四分五秒、一月二八日一時間二〇分二〇秒と一時間二四分五五秒)、情報料を含めたダイヤルQ2のダイヤル通話料金だけでも一日三万円を超えるものが、一月二〇日三万九三〇〇円、一月二一日四万一六八〇円、一月二六日五万三三三〇円、一月二七日五万二一九〇円、一月二八日六万一七三〇円、一月二九日四万一一一〇円、一月三〇日三万一八七〇円となった(一月二九日以降は一般通話料を含む。)。

(3) 譲二は、控訴人の営業所に電話して本件加入電話による通話料金を確認した直後の二日一日の夕方、家出するに至ったが、右通話料金は一月三一日、二月一日にそれぞれ二万三六八〇円、九七七〇円であったものが、家出後は二月二日三六二〇円、二月三日二三〇円、二月四日二六〇円と激減した。

(4) 被控訴人は、譲二の家出後、控訴人の営業所で本件加入電話による通話料金が従前と比べて極めて高額になり、その原因がそれまで知らなかったダイヤルQ2を譲二が利用していたことにあることをはじめて知ったが、契約者側の申出があれば利用制限が可能であることもわかったので、二月五日、直ちに右利用制限の措置を講じた。そのため、ダイヤルQ2の利用料(情報料も含む。)を含む三月分(利用期間は一月二九日から二月二八日)の請求額が一二万六九五六円であったものが、四月分は七五三九円となった。

(5) なお、譲二が本件加入電話によりダイヤルQ2を利用した平成三年一月及び二月初旬当時、控訴人の電話回線を利用して情報提供者が提供する番組にはアダルト、パーティーライン(互いに面識のない三人以上の者が同時に会話するもの)、ツーショット(見知らぬ男女間の一対一の会話を目的とするもの)等の利用額が高額化しがちであり、かつ、青少年の健全育成にとって内容上も好ましいといえない番組が相当数存在しており、右番組番号については、若者向けの週刊誌・雑誌やスポーツ新聞等の広告にも掲載されており、被控訴人は、家出から帰宅した譲二を問い質したところ、コミック雑誌に掲載されていた電話番号により見知らぬ女性と会話する番組に通話して本件加入電話でダイヤルQ2を利用していたことが判明した。

(6) 本件加入電話についての二月分(利用期間は平成二年一二月二七日から平成三年一月二八日)のダイヤルQ2の利用料(情報料及び通話料)は四二万五一七〇円、同三月分(利用期間は一月二九日から二月二八日)のそれは一〇万五四七四円であるところ、当時の控訴人の機器では右を情報料と通話料とに区分することはできず、控訴人が本訴においてダイヤルQ2の通話料として請求している二月分七万九一五〇円、三月分一万八九八五円という金額(原判決添付別表(二))は控訴人が推計によって算出したものにすぎない(控訴人の平成五年八月三〇日付準備書面参照)。

(二)  ところで、前記1の事実に証拠(甲四、六、一二、一三、二二、四〇の1ないし八、四一、四二、六四、六六、乙一、五の1)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人のダイヤルQ2の内容と制度の創設に関し、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は、昭和六〇年四月一日に解散した公社の権利義務を包括承継し、電気通信回線設備を設置して電気通信役務を提供する第一種電気通信事業者として電気通信事業法の規制を受ける者であり、その約款(電話サービス契約約款)は郵政大臣の認可を受けて効力を有するところ、ダイヤルQ2とは、控訴人が従前から有する電話料金の課金・回収のシステムを固有の電気通信設備を有しない事業者にも開放してその情報提供を容易にし、かつ、利用者に多種多様な情報を提供することを目的とし、利用者からの情報料の回収を控訴人が代行することを予定した制度である。

(2) 控訴人は、右ダイヤルQ2にかかる業務が電気通信事業法の電気通信事業そのものではなく、日本電信電話株式会社法一条二項、同法施行規則一条の国内通信事業の附帯業務であるとの見解により右情報料の回収代行業務に関する約款一六二条、一六三条を追加・変更し、平成元年五月三〇日、その旨郵政大臣に届け出て、同年七月一〇日から東京都二三区の市外局番〇三地域において右サービスを開始し、同年九月、大阪(市外局番〇六地域)、名古屋(市外局番〇五二地域)に、さらに、平成二年七月、首都圏・中京圏、関西圏、札幌、北九州、福岡に、順次対象地域が拡大され、次いで平成二年一〇月には概ね全国的に実施されるに至った。

(3) 控訴人は、右業務開始に際し、制度の開始を新聞に事前公表し、追加約款を店頭表示したものの、従前の加入電話の契約者に対してダイヤルQ2制度の内容やその後、平成二年一〇月に採用した利用規制制度の告知はなさなかった。

(4) ダイヤルQ2は、利用者が〇九九〇と番組番号(六桁)により情報提供者に電話を掛けると音声により有料であることと情報料・通話料の説明がなされた後、情報の提供が開始され、控訴人は情報料・通話料を測定し、加入電話契約者に一か月毎に合算した金額を請求し、その回収を代行し、情報提供者に支払うが、その際、控訴人は一番組当たり一か月金一万七〇〇〇円と回収代金から九パーセントの手数料を受け取るものである。

(三)  さらに、証拠(甲二、四六、四八の1、2、四九、五一、五二の1、五三ないし五八、七四、七五)によれば、控訴人は、平成元年七月にダイヤルQ2制度を実施して以後、当審におけるその主張3(2)にみるとおりの改善措置を順次講じてきたことが認められる(なお、当初、情報料は三分で一〇円、四〇円、五〇円、八〇円の四通りで、市内通話となる同一単位料金区域内の番組のみ利用が可能とされ、地域により利用番号が限定されていたが、平成二年七月一〇日以降、同一単位料金地域以外の番組の利用が可能となるとともに、情報料も三分で一〇円から三〇〇円の範囲内の一二通りに変更されている。)が、本件でのダイヤルQ2利用時点(平成三年一月及び二月初旬)は、平成二年一〇月三〇日に被控訴人の住所地においてもダイヤルQ2の利用が可能となり、他方、全国的に利用規制の受付が開始された直後であって、情報提供者の番組内容を審査するいわゆる社団法人全日本テレホンサービス協会の倫理委員会の体制も整備されておらず、倫理規程の制定(平成三年五月三一日)や倫理審査結果に基づく情報提供者とのダイヤルQ2に関する契約の解約、ツーショット番組の受付停止(平成三年六月二〇日)、契約者が支払うべき利用料のうち情報料・通話料の分計表示(平成三年一二月)などの改善措置も実施されていなかった時期であったことが認められる。

(四)  また、証拠(乙五の1、一五、一七の1ないし4)によれば、ダイヤルQ2制度の創設以前にそれと同様の電話による有料情報提供制度の先進国であるアメリカでは、ポルノ番組等の社会的に不健全な内容の利用が問題化し、昭和六二年には全国公益事業委員協会により情報料金の規制、利用(発信)規制とその周知の義務づけ、情報およびサービス内容等の規制などの利用規制を含めた対策を検討した「有料テレホンサービスに関する調査報告書」も作成され、昭和六三年にはいわゆるポルノ電話案内禁止法が成立するなど電話による有料情報提供の規制が実施されていたことが認められる。

右認定事実によれば、被控訴人はダイヤルQ2制度が創設される以前に公社と一般通話を目的とする電話加入契約を締結していたものであって、その後、公社の地位を承継した控訴人が、個別の加入電話契約者の利用意思を具体的に確認することなく、ダイヤルQ2制度を既設の電話回線により一般的に利用可能なものとして創設し、第三者利用の危険性や利用による料金の高額化がアメリカにおける利用状況からも十分予想されるのに、本件当時、制度の内容や利用規制につき契約者に告知することもなかったもので、被控訴人もダイヤルQ2の存在すら知らなかったこと、ダイヤルQ2制度の目的が情報の授受にあり、利用者は情報の受け手として情報提供時間に比例して通話料も増加していく関係にあって、この場合の通話料はダイヤルQ2の利用による情報の授受によって初めて発生し、通話それ自体から料金が発生する一般通話と通話料の発生経緯を異にし、また、ダイヤルQ2の利用による情報料と通話料は最終的な帰属者を異にするとはいえ、控訴人との加入電話の利用行為である通話により情報提供者との情報提供を目的とする契約が成立する関係にあり、本件当時、控訴人が契約者に情報料と通話料の区別なく一括して通話料金として請求しており、その具体的な区別もできないこと、本件においては計算上算定した情報料相当分が放棄されたものの、通話料相当分として請求している金額も被控訴人の従来の通話料金に比し著しく高額であり、被控訴人にとって全く予想外の金額であるとみられること、など前記認定の諸事実に鑑みると、控訴人が被控訴人に対し、その子・譲二が利用した本件加入電話に基づくダイヤルQ2の利用に伴う通話料につき約款一一八条に基づき支払を請求することは信義則上許されないと解するのが相当である。

二  控訴人の本件加入電話の管理義務違反に基づく損害賠償請求について

控訴人は、当審において、被控訴人に本件加入電話の管理義務違反があるとして予備的に損害賠償請求をするところ、被控訴人は控訴人の前身である公社と本件加入電話の加入契約を締結したものであって、当時はもちろん、控訴人が約款の認可を受けた時点においても、ダイヤルQ2サービス制度は存在しておらず、その後、平成元年七月に右制度が創設されたものの、本件で問題とされる平成三年一月及び二月初旬の利用時点までに控訴人が従前からの契約者に右制度の創設とその内容について告知したことはなかったものであり(その後、甲四五ないし四七号証、四八号証の1などにみられるように、加入電話契約者に対し請求書と共に制度の内容や利用規制についての説明書を同封したり、請求書の裏面に説明を付記したりしている。)、被控訴人自身も控訴人からの本件電話代金等の請求があるまで利用規制の方法はもちろん右制度の存在自体を認識していなかったこと、ダイヤルQ2利用による料金の高額化が判明した直後に利用規制措置を講じていることが証拠(被控訴人)及び弁論の全趣旨によって認められることに照らすと、被控訴人がその子・譲二の本件加入電話によるダイヤルQ2利用を阻止しなかったとしても、管理義務違反があるものとはいいがたく、控訴人の予備的請求は理由がない。

三  結論

以上によれば、控訴人の本訴請求のうち、ダイヤルQ2に関するダイヤル通話料(消費税相当額を含む。)請求は理由がないから棄却すべきであり、その余の請求は理由があるから認容すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴人の当審における予備的請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柴田和夫 裁判官岡原剛 裁判官佐藤武彦は転任につき署名押印できない。裁判長裁判官柴田和夫)

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