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広島高等裁判所 平成11年(ラ)91号 決定 1999年9月08日

申立人 X

主文

一  原審判を取り消す。

二  本件を広島家庭裁判所尾道支部に差し戻す。

理由

一  本件抗告は、抗告人において、抗告人の出生日が、戸籍上昭和20年○月○日と記載されているものの、その記載は錯誤に基づくものであって、真実の出生日は、昭和22年○月○日であるから、その旨訂正することの許可を求めたのに対し、原審が、これを認めなかったことを不服とするものである。

二  そこで、これにつき判断する。

1  記録によると、次の事実が認められる。

(一)  申立人の実母は、戸籍に記載されているとおり、Aである。申立人の実父は、Bであり、戸籍上の父であるCの妻で、抗告人の養母となっているDの実弟である。

(二)  申立人の出生届は、出生日を「昭和20年○月○日」、出生地を「広島県豊田郡<以下省略>」、届出人を「同居者B」として、昭和26年9月17日、届け出られている。

(三)  実際に右出生届をしたのは、B及びDの母で、当時抗告人を養育していたE及び後に養母となったDの両名である。その際、Dは、Eに言われるままに、抗告人の出生年月日を「昭和20年○月○日」と記載した。

(四)  抗告人の実父Bは、昭和18年に出征し、昭和20年の春ころ復員し、昭和21年ころから、Aと関係を持ち、抗告人が出生したころ以降は、ずっと旅役者として各地を転々とする生活を送っていた。

2  右事実によると、抗告人が、Bが復員する前である昭和20年○月○日に出生したものと認めるのは困難であるから、抗告人の戸籍の出生日の記載には錯誤があるというべきである。

3  ところで、原審判は、「記録上、抗告人の出生年月日を昭和22年○月○日と認定するに足りる証拠がない以上、抗告人の戸籍の記載に錯誤があると認めるに由ないものといわざるを得ない。」として、抗告人の本件申立を却下している。

しかし、性質上、非訟事件に属する家事審判事件においては、家庭裁判所は、合目的性を旨として、必要もしくは適当と認める処分をなすべきであって、本件のような戸籍訂正申立事件において、戸籍の記載に錯誤があることが明らかになった場合には、単に申立人の主張している事実を確認しうる証拠がないとの理由で申立を却下することなく、審理を尽くし、その結果真実と認められるところがあれば、それに従って錯誤のある戸籍の訂正を許可すべきと解するのが相当である。

そして、これを本件についてみるに、記録によると、Bは、調査官の電話による事情聴取に対し、「昭和20年春ころ復員し、昭和21年ころにAと交際して、抗告人をもうけた。抗告人は、○○の△△という土地で生まれ、出産の際、自分は傍にいた。誕生日は寒い時期と覚えているが、○月○日との由、その日付と思う。」旨のかなり具体的な回答をしていることが認められるのであるから、実母Aは、平成2年5月30日に死亡しているものの、更に嘱託等の方法によりBに対する事実調査等を行うことにより、抗告人の申立の真否を探求することは可能であるというべきである。

三  よって、原審判は相当でないからこれを取り消し、前記の点につき更に審理を尽くさせるため、本件を広島家庭裁判所尾道支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 日高千之 裁判官 野々上友之 太田雅也)

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