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広島高等裁判所 平成元年(ネ)358号 判決 1991年6月20日

主文

一  原判決主文第二項を次のように変更する。

1  別紙物件目録記載の各不動産は、控訴人の単独取得とする。

2  被控訴人井町タクミは、控訴人から金四一三万一五〇〇円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録記載の各不動産についての同被控訴人の持分三分の一及び井町文一の持分三分の一の更に二分の一につき、被控訴人井町嘉伸、同土田日名子、同井町公彦は、控訴人からそれぞれ四五万九〇五六円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を受けるのと引換えに、右各不動産についての井町文一の持分三分の一の更にそれぞれの三分の一につき、控訴人に対し、それぞれ所有権移転登記手続をせよ。

3  控訴人は、被控訴人井町タクミに対し、別紙物件目録記載の各不動産についての同被控訴人の持分三分の一及び井町文一の持分三分の一の更に二分の一につき同被控訴人が控訴人に対して所有権移転登記手続をするのと引換えに、金四一三万一五〇〇円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被控訴人井町嘉伸、同土田日名子、同井町公彦に対し、同被控訴人らが、それぞれ別紙目録記載の各不動産についての井町文一の持分三分の一の更にそれぞれ三分の一につき控訴人に対して所有権移転登記手続をするのと引換えに、それぞれ金四五万九〇五六円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実

一  控訴人訴訟代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、仮に共有物分割請求が認容されるとすれば、いわゆる価格賠償の方法によるべきであると述べ、被控訴人ら訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり追加するほかは、原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の追加主張)

仮に、民法二五八条の規定による共有物分割請求が認められるとしても、その方法は競売による換価の方法によるのではなく、いわゆる価格賠償の方法によるべきである。すなわち、民法二五八条による共有物分割において現物分割ができない場合においても、遺産分割の場合と同様、いわゆる価格賠償の方法によることも許されると解すべきところ(最大判昭和六二年四月二二日民集四一巻三号四〇八頁以下参照)、本件不動産は、永年控訴人の生活と営業の基盤をなしてきたもので、控訴人の年齢、営業、家族関係からいって、同人は今後ともここに居住して営業を続けていく必要があるのに、これが競売により売却されることになれば、控訴人は営業と居住の場を失ってその生活の基盤を根底から覆えされることになること、本件不動産の所在する地域においては不動産の流通性は著しく低く、競売による換価は困難であること、被控訴人らはいずれにせよ本件不動産それ自体ではなく、共有持分に相当する対価を取得できれば良いところ、控訴人には本件賠償金を支払う資力はあるから、価格賠償の方法によっても被控訴人らの不利益にはならないことからである。

而して本件不動産の正常価格は金四二〇万円である。従って被控訴人井町タクミは、控訴人から、自己の持分一八分の九に相当する金二一〇万円の支払を受けるのと引換えに、その余の被控訴人らは、いずれも控訴人からそれぞれの持分各一八分の一に相当する二三万三三三三円の支払を受けるのと引換えに、本件不動産の各持分につき控訴人に対し所有権移転登記手続をすべきである。

(追加主張に対する被控訴人らの認否、反論)

すべて争う。価格賠償は、現物分割の微調整的な方法としてのみ許されるのであって、本件の如くおよそ現物分割が不可能である場合に、それに代えてすべての共有物について価格賠償の方法により共有物分割をすることは許されない。

理由

一  被控訴人らの本訴請求についての認定判断は、次のとおり改めるほかは、原判決がその理由の第一及び第二において説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏末行の「初め」を「始め」に改め、同八枚目裏三行目の「推認されるものの」の次に「、後記説示のとおり、共有物分割の方法として、いわゆる価格賠償の方法によることも可能であるから、共有分割請求が認められたからと言って、直ちに控訴人の生活の本拠及び生活手段が奪われることにはならないし」を加え、同九行目の「共有持分権確認請求及び共有物分割請求はいずれも」を「共有持分権確認請求は」に改める。

2  原判決八枚目裏一〇行目の次に行を改めて次のように加える。

「四 本件不動産につき控訴人が共有物分割協議に応じなかったこと並びに本件不動産をそれぞれの持分に応じた現物をもって分割することができないことは前認定のとおりであるが、民法二五八条の規定による共有物の分割の場合においても、現物分割が不可能である場合において、共有物の種類及び性質、各共有者の年齢、職業、生活の状況その他の事情を考慮して当該共有物を共有者のうちの一人の単独所有あるいは数人の者の共有にするのを相当とする特別の事情があると認めるときは、共有者の一人又は数人に共有物の全部を取得させる代りに、他の共有者に対し債務を負担させて競売による代金分割に代えることができると解するのが相当である。

けだし、共有物分割の訴えもいわゆる形式的形成訴訟に属し、当事者は単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、裁判所は、当事者が現物分割を申し立てているだけであっても、これに拘束されず競売による代金分割を命ずることもできるのであって、その本質は非訟事件であり、その点においては非訟事件である遺産分割事件と異ならないところ、遺産分割事件においては「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもってする分割に代えることができる。」旨規定されている(家審規一〇九)のに、民法二五八条の共有物分割の場合には、現物を持分に応じて分割することができないか又はそれができても著しく価格を損ずる虞れがあるときは、価格賠償の方法による途はなく、競売による代金分割によるほかないというのは不都合であり、民法は共有物分割訴訟の非訟事件としての性質上、現物分割の一態様として価格賠償の方法を許しているものと解されるからである。

従って、現物を物理的に分割することが不可能であるか又は分割により著しくその価格を損ずることになる場合であっても、前示のとおり、共有物の種類及び性質、各共有者の年齢、職業、生活の状況その他の事情を考慮するときは、競売による代金分割の方法によることが相当ではなく、かつ、価格賠償の方法によるも、共有者間の公平を害する虞れがないと認められるときは、共有物の分割を求められた裁判所としては、現物分割の一態様として前示のいわゆる価格賠償の方法による分割を命ずることができるものというべきである。

これを本件について見ると、前認定のとおり、控訴人は昭和四八年以来目録記載四の建物に居住していること、現在目録四記載の建物南側に付属する平家において薬局を開いていてその営業収入をもって生活を立てていること、従って本件不動産は控訴人にとってその生活の本拠となっていることが認められ、右事実によれば、共有物分割の方法として競売を命ずれば控訴人はその生活の本拠を失うことになるから、控訴人の立場だけからは価格賠償の方法によるのが相当である。

他方、被控訴人井町タクミ、同井町嘉伸各本人尋問の結果並びに前認定の事実によれば、被控訴人らはそれぞれ余所に家を構えていて本件不動産を現実に取得する必要は全くないところ、同人らが本件訴訟提起に及んだのは、本来井町家を継ぐべきであると被控訴人らが考えている訴外英次の子供にその財産の一部でも取得させたいことがその主要な動機となっていることがいちおう認められるが、右目的は単なる心情的なものにすぎず、かつ、右目的は現物分割によるほかは達成できない筈であるのに被控訴人らが却って競売による代金分割の方法に固執するというのは到底理解できないところであって、被控訴人らの本心が真に同人らがその動機として主張する点にあるのかどうか極めて疑わしいと言わなければならないから、被控訴人らの本件共有物分割の目的が右の点に存するというだけでは、その価格が公平なものと考えられる限り、価格賠償の方法によることを全然妨げるものではないというべきである。

そうして、鑑定の結果によれば、本件不動産の価格は八二六万三〇〇〇円と認められるところ、仮に競売を命じた場合、より高価に売却できる可能性があることを認めるに足る証拠はないから、右鑑定価格に従って価格賠償の方法により本件不動産の分割を命じても、何ら共有者間の公平を害するおそれはないものと認められる。」

二 以上の次第で、被控訴人らの共有持分権確認請求は理由があるからこれを認容すべきである。また、共有物分割請求については、いわゆる価格賠償の方法によってこれを分割するのが相当であるから、共有者の一人である控訴人に本件不動産を単独取得させ、被控訴人に対してはその代償として被控訴人らに対し本件不動産の価格八二六万三〇〇〇円に前示被控訴人らの各共有持分割合を乗じた金額を支払わせることとする。また、被控訴人タクミの不当利得返還請求は前示(本判決で引用する原判決九枚目表一行目から同裏一行目まで)の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

よって、本件不動産につき競売を命じた原判決はその限りで不当であるから、原判決主文第二項を変更して、前示のとおりの価格賠償の方法で本件不動産の分割を命ずることとする。控訴人のその余の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(物件目録は第一審判決添付のものと同一につき省略)

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