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広島地方裁判所尾道支部 昭和48年(ワ)40号 判決 1976年1月27日

原告

石井弘

ほか一名

被告

森島建設有限会社

ほか二名

主文

1  被告らは、各自原告石井弘に対し金二一六万五、〇〇〇円、原告石井美代子に対し金一八九万五、〇〇〇円及びこれらに対する昭和四八年四月一八日から完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決1項は、被告石田章同金山佳生に対して仮に執行することができ、原告らが被告森島建設有限会社に対し金八〇万円の担保を供するときは、同被告に対して仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

被告らは各自原告石井弘に対し金二七二万五、〇〇〇円原告石井美代子に対し金二四二万五、〇〇〇円及びこれらに対する昭和四八年四月一八日から完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

<被告森島建設有限会社>

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決及び被告敗訴の場合仮執行免脱の宣言を求める。

<被告石田章同金山佳生>

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決及び被告ら敗訴の場合担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

(請求の原因)

一  (事故の発生)

被告金山佳生は、昭和四七年三月一五日午後四時三〇分ごろ、因島市鏡浦町八三番地先交差点において、普通貨物自動車(広一り三五〇六号・ダクプカー、以下被告車という。)を北に向けて後退運転中、後方確認を怠つた過失により、おりからその後方を通行中の石井大三に被告車後部を衝突させて同人を道路上に転倒させ、その後輪で同人の頭部を轢き、脳挫傷等により同人を死亡させた。

二  (責任)

1  被告金山は、民法七〇九条に基づき後記損害の賠償責任がある。

2  被告石田は、被告車を所有し、被告金山をその専属運転手として雇用して、自己の業務である因島市鏡浦市道改修工事の土砂運搬作業に従事させていたとき、本件事故が発生したものである。よつて被告石田は、主位的に自賠法三条に基づき、予備的に民法七一五条に基づき後記損害の賠償責任がある。

3  被告森島建設有限会社(以下被告会社という。)は、自己の請負つた因島市鏡浦市道改修工事につき、被告金山と被告車をその土砂運搬業務に従事させてこれを指揮監督していた際、本件事故が発生したものである。よつて被告会社は、主位的に自賠法三条に基づき、予備的に民法七一五条に基づき後記損害の賠償責任がある。

三  (損害)

1  逸失利益 金七六一万円

亡大三は、昭和四〇年六月九日生れ(本件事故当時六歳九月)の健康な男子であり、生存しておれば、少くとも高校を卒業し、一八歳から六三歳まで四五年間稼働することが可能であつた。

労働省統計調査部昭和四六年賃金センサス第一巻第一表によれば、高校卒の全産業全男子労働者平均月間給与額は金七万三、〇〇〇円であり、生活費は収入の五割とみるのが相当であるから、亡大三の年間純収入は金四三万八、〇〇〇円である。

73,000×12÷2=438,000

亡大三の四五年間の純収入からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した現価は金七六一万円(一万円未満切捨)である。

438,000×(26.5952-9.2151)=7,612,483

2  相続

原告らは亡大三の父母であつて、亡大三の損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した。

3  原告らの慰謝料 各金一五〇万円

亡大三は原告らの長男であり、六年九月間手塩にかけて育ていつくしんできた愛児を失つた原告らの精神的苦痛を慰謝するには各金一五〇万円が相当である。

4  葬儀費 金三〇万円

原告石井弘は亡大三の葬儀費として金三〇万円を支出した。

5  弁護士費用 各金一七万円

原告らは、被告らが損害賠償金の支払に応じないので原告ら代理人に本訴提起を委任し、着手金各七万円、謝金各一〇万円の支払を約した。

四  (損害填補等)

1  亡大三の養育費として一ケ月金一万円(年間金一二万円)を要するが、原告らは、亡大三が満一八歳に達するまでの一二年間の養育費の支出を免れたところ、これから前記三項の1と同様の計算方法で中間利息を控除した現価は金一一〇万円であるから、原告らの損害額から右の各二分の一を控除する。

2  原告らは、自賠責保険金を各二五〇万円受領したから、これを原告らの損害額から控除する。

五  (結論)

よつて、原告石井弘は被告らに対し各自金二七二万五、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四八年四月一八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告石井美代子は被告らに対し各自金二四二万五、〇〇〇円及びこれに対する右同様の遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する認否)

<被告会社>

一  請求の原因一項を認める。

二  同二項の3のうち被告会社が因島市鏡浦市道工事(但し改修工事ではなく新設工事である。)を請負い、被告車が同工事の土砂運搬業務に従事していた際本件事故が発生したことは認めるが、その余は否認する。

被告会社は、因島市から請負つた右道路新設工事のうち土砂石搬出業務を被告石田章に下請させ、被告石田は自己の保有するブルドーザー一ないし二台、シヤベルローダー一台およびダンプカー二台(被告車を含む。)をその台数に応じた自己雇用の被告金山ら運転手とともに現場に派遣して右下請工事を施行していたものであつて、被告会社は、被告車に対する運行支配関係を有しないからその運行供用者ではなく、また被告金山に対する指揮監督関係を有しないから同被告の使用者でもない。

三  同三項のうち2を認め、その余は不知。

四  同四項を認める。

<被告石田>

一  請求の原因一項のうち被告金山の過失を否認する。

二  同二項の前段を認める。

三  同三項のうち2を認め、その余を争う。

四  同四項の2を認める。

<被告金山>

一  請求の原因一項のうち被告金山の過失を否認し、その余を認める。

二  同二項の1を争う。

三  同三項のうち2を認め、1、3は不知、4を争う。

四  同四項のうち1は不知、2を認める。

(抗弁)

<被告会社>

一  本件事故現場は、本件事故当時道路新設のための土石切取搬出等の作業中であつて、いまだ道路として完成していなかつた。被告金山は、交差点南端附近からその北方にある土石積込み地点へ向けて被告車を後退運転しはじめたところ、その直後に、それまでは同交差点の北西角附近で遊んでいた亡大三が被告車の進路へとび込み轢過されたものであつて、亡大三には大きな過失がある。

二  亡大三と原告らの住居は本件事故現場から南西約二〇〇メートルのところにあるが、原告らは、いずれも本件事故当時船員として乗船し六歳の亡大三の世話をその祖母に委せきりにし、右祖母は亡大三の監護を十分なし得なかつたために、思慮浅く行動のみ活な被害児をして危険な場所へ立入らせてしまつたものであつて、保護義務者である原告らには大きな過失がある。

<被告石田同金山>

原告らは、満六歳の亡大三の監護をすべてその祖母である石井カツノにまかせていたところ、同女が監護義務を怠り寝ている間に、亡大三が戸外に出て後退している被告車の後方に漫然と出てきたため本件事故に会つたものであつて、監護義務者である石井カツノには大きな過失がある。

(抗弁に対する認否)

被告らの抗弁を争う。

(証拠)〔略〕

理由

一  (事故の発生と被告金山の責任)

請求の原因一項については、原告らと被告会社との間に争いがなく、被告石田において被告金山の過失の点を除き、明らかに争わないので民訴法一四〇条によりこれを自白したものとみなされ、被告金山との間において同被告の過失の点を除き争いがなく、成立に争いのない甲一号証、丙二、三号証及び被告金山佳生本人尋問の結果によれば、被告金山は被告車を後退運転する際後方の安全確認を怠つた過失により本件事故を発生させたことが認められる。

従つて、被告金山は、民法七〇九条に基き損害賠償義務がある。

二  (被告石田の責任)

請求の原因二項前段の事実は原告と被告石田との間に争いがないから、同被告は自賠法三条に基づき被告車の運行供用者として損害賠償義務がある。

三  (被告会社の責任)

成立に争いのない甲一号証、乙一ないし四号証、丙二、三号証、証人丹治康次郎の証言及び被告金山佳生本人尋問の結果(いずれも左記認定に反する部分は採用しない。)によれば次の事実が認められる。

1  被告会社は因島市から同市鏡浦市道工事を代金三九五万二、〇〇〇円で請負つた(右請負の事実は原告と被告会社との間に争いがない。)ところ、同工事は従前の道路のうち約二〇〇メートルの間の幅員を拡張し、土盛りし、側溝を設けて新道路を造成するものであり、被告会社は右工事のうち工事現場近くの山を掘削して右土盛り用の土砂を道路造成個所へ運搬する作業を被告石田章に代金一三五万円で下請させ、その余の作業は被告会社が直接施行した。

2  被告石田は、その所有するブルドーザー一台、シヨベルカー一台、ダンプカー二台(被告車を含む)とその雇用する被告金山ら運転手合計三、四名の者を工事現場に派遣し、被告金山と他の一名が被告車と他のダンプカーをそれぞれ運転して土砂を運搬し、他の者がブルドーザーとシヨベルカーで山の掘削とダンプカーへの土砂の積込みを担当したが、掘削個所の堅い岩盤の破砕は被告会社の作業員が被告会社所有のコンプレツサーを用いて実施した。

3  被告会社は、その雇用する作業人夫約一〇名を使用してその直接施行する作業を被告石田の作業と平行して実施し、工事現場の一角には被告会社名を表示した工事中の立看板を設置していた。

4  被告会社は、同社因島出張所に常駐する主任技師をして工事全般の監理と作業の指揮監督にあたらせ、被告石田の下請作業については被告石田の被用者浜田某が現場責任者として被告金山らを指揮したが、被告会社の主任技師らも、被告石田の作業員に対して山の掘削やダンプカーで運搬する土砂の降し場所について具体的に指示し、被告金山は被告会社の者から切取つた岩盤を被告車で運搬することを依頼されたこともあつた。

5  本件事故は、被告金山が掘削した土砂を被告車で運搬する往復の途中で発生した。

右認定事実からすれば、被告石田の担当する作業は被告会社の施行する道路造成工事の有機的一環としてなされ、被告会社においても、被告石田の担当作業に対して直接間接に関与してこれを指揮監督しており、被告車に対する運行支配と運行利益を有していたと解するのが相当であるから、被告会社は自賠法三条に基づき被告車の運行供用者として損害賠償義務がある。

四  (損害)

1  逸失利益

成立に争いのない丙一号証及び原告石井弘本人尋問の結果によれば、亡石井大三は昭和四〇年六月九日生れの健康な男子であり、生存しておれば少くとも高校を卒業し、一八歳から六三歳まで四五年間稼働することが可能であつたことが認められる。

労働省労働統計調査部「昭和四六年度賃金センサス」によれば、高校卒の全産業全男子労働者平均月間給与額は金七万三、〇〇〇円であり、生活費は収入の五割とみるのが相当であるから、亡大三の年間収入は金四三万八、〇〇〇円と認められる。

そこで、亡大三の四五年間の純収入からホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した現価は金七六一万円を下らない。

438,000×(26.5952-9.2151)=7,612,483

2  相続

請求の原因三項の2の事実は当事者間に争いがない。

3  原告らの慰謝料

原告石井弘本人尋問の結果によれば、亡大三は原告らの長男であり、小学校入学を目前にしていたのに、本件事故で幼い命を奪われたものであり、これによつて原告らは大きな精神的苦痛を受けたことが認められるところ、これを慰謝するには各金一五〇万円が相当である。

4  葬儀費用

原告石井弘本人尋問の結果によれば、同原告は亡大三の葬儀費用として金三〇万円を下らない費用を支出したことが認められる。

五  (過失相殺)

前記争いない事実認定事実と甲一号証、丙二、三号証、被告金山佳生原告石井弘各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  被告金山は、被告車を運転し他の一台のダンプカーと共に本件事故現場交差点の北方にある山の掘削現場から同交差点南方の道路造成個所まで土砂を運搬する作業をしていたが、右掘削現場では車の方向転換ができないところから、土砂を降して掘削現場へ引きかえすときは被告車を後退運転していた。

2  本件事故現場から北方へ掘削現場まではいまだ道路造成中で被告車と他のダンプカーとが離合することが困難であつたところから、被告金山は本件事故現場の亡大三との衝突個所の約九メートル南方に一時停止して他のダンプカーが掘削現場から南進しているのを二、三〇秒間待つたが、その間運転台の窓から首を出して右後方を見たところ、同被告から約八メートル離れた地点に亡大三が一人で北方にいる他のダンプカーの方を向いて立つているのを認めた。しかし、同被告は、亡大三がそのまま佇立しているものと軽信し、それ以上同児の動静を注意しないまま、他のダンプカーが接近しているのを左サイドミラーで見ながら時速約二キロメートルで後退発進したところ、被告車の右後輪で亡大三を轢過した。

3  亡大三の立つていた地点と衝突地点との距離は一・九メートルである。

4  亡大三は、昭和四〇年六月九日生れで本件事故当時満六歳九月であり、心身の発育状態は正常であつた。

5  亡大三の住居は事故現場から約一〇〇メートル位のところにあるが、同児を監護していた祖母は同児に本件事故現場は工事中で危険であるから近寄らないように指示していた。ところで、民法七二二条二項に定める過失相殺を適用する場合において、被害者たる未成年者の過失を斟酌するには、未成年者に事理を弁識するに足りる知能が具つていれば足りると解されるところ、右認定事実からすれば、亡大三は、本件事故現場交差点にはいり或は横断する際被告車らダンプカーの動静に注意しなければ危険であることを弁識する能力があつたと認めるのが相当である。

而して、右認定事実からすれば、亡大三は、被告車の存在は認識していたが、その動静に注意しないままその後方に進出したと推認されるから、この点は損害額の算定につき斟酌するのが相当であるが、しかし、同児が被告車が進行しているのを知りながらその直前に飛び出したと認めることのできる証拠はなく、かえつて右認定事実からすれば、同児は、被告車はそのまま停止しているか或は後退発進することはないと考えてその後方へ進出した可能性が強いことを考慮すれば、右斟酌の割合は、ほぼ被告金山が九、亡大三が一とするのが相当である。

なお、亡大三に過失相殺能力が認められる以上、原告らないし亡大三の祖母の過失は斟酌すべきではない。

そこで具体的損害額を検討すると、右四項の1の損害(逸失利益)は、金六八五万円と認められ、原告らはそのうち各三四二万五、〇〇〇円を相続承継したこととなり、同項の3の損害(慰謝料)は、原告ら各自につきそれぞれ金一三五万円と認められ、同項の4の損害(葬儀費用)は、金二七万円と認められる。

六  (損害填補等)

亡大三の養育費として一ケ月金一万円(年間金一二万円)を下らない費用を要することは経験則上明らかであり、原告らは、同児が満一八歳に達するまでの一二年間の右費用の支出を免れたところ、これからホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除した現価は金一一〇万円と認められるから、その二分の一を原告らの相続逸失利益損害からそれぞれ控除するのが相当である。

120,000×9.2151≒1,100,000

また、原告らが、自賠責保険金を各二五〇万円受領したことは当事者間に争いがないから、これを原告らの損害額から控除すべきである。

結局、原告石井弘は合計金一九九万五、〇〇〇円、原告石井美代子は合計金一七二万五、〇〇〇円の損害賠償請求権を取得したこととなる。

七  (弁護士費用)

原告石井弘本人尋問の結果によれば、原告らは、被告らが損害賠償請求に応じないところから原告代理人に本訴の提起追行を委任し、その報酬として金一七万円の支払を約したことが認められるところ、本件事案の難易、認容額その他諸般の事情を考慮すれば、右の額も本件事故により原告の受けた損害と認めるのが相当である。

八  (結論)

以上によれば、原告らの本訴請求のうち、被告らに対し各自原告石井弘は金二一六万五、〇〇〇円、原告石井美代子は金一八九万五、〇〇〇円及びこれらに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年四月一八日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、その余の部分は理由がないから棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用し、なお仮執行免脱の宣言の申立については、相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 仲渡衛)

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