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広島地方裁判所 昭和48年(行ウ)2号 判決 1974年8月27日

原告 戸田千代太郎

被告 広島東税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  双方の申立

(一)  原告

(1)  被告が原告に対して昭和四六年一〇月二八日付でなした昭和四五年度分所得税の更正処分(たゞし確定申告額を超える部分のうち異議申立に対する決定により取消された部分を除く)および加算税の賦課処分(たゞし異議申立に対する決定により取消された部分を除く)を取消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  被告

主文と同旨。

二  双方の主張

(一)  請求の原因

(1)  原告は、その所有し、且つ居住している広島市新天地一ノ九所在の建物(居宅兼店舗)およびその敷地となつている宅地四五一・二四平方メートルの持分一、三六五分の二〇五(以下本件譲渡資産という)につき、株式会社竹中工務店との間で昭和四五年八月二六日売買契約を締結し、同年一一月二八日その引渡しをなした。その結果原告は、譲渡所得を得たので昭和四五年分所得税の確定申告に当り租税特別措置法(昭和四四年法律一五号による改正後のもの。以下単に措置法という)三五条により譲渡所得の金額から一、〇〇〇万円の特別控除をして確定申告をなしたところ被告は、同条の適用を否認して昭和四六年一〇月二八日付で所得税額を一〇〇万円増加して更正するとともに過少申告加算税五万円の賦課処分をした。

(2)  原告は、右処分を不服として昭和四六年一二月一一日被告に異議申立をしたところ、被告は本件譲渡資産は居住用財産ではないとして措置法三五条の適用を否認したが、同法三一条の適用があるとして長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円を控除し、その結果本税額を一〇万円、加算税を五、〇〇〇円各減額して、右処分の一部を取消し、その余を棄却した。さらに原告は、昭和四七年三月二四日国税不服審判所長に審査請求をしたが棄却の裁決を受け、同年一一月一六日ごろその旨の通知を受けた。

(3)  しかしながら原告は、昭和四五年一〇月一〇日頃から同年一一月二八日の引渡しの日まで本件譲渡資産を居住の用に供していたもので、右譲渡資産については措置法三五条一項の適用があるというべきであるから、本件更正処分および加算税賦課処分は違法で取消を免れない。

(二)  請求原因に対する認否

請求原因事実(1)のうち、原告が本件譲渡資産を居住の用に供していたことは争うが、その余の事実は認める。同(2)は認める。同(3)は争う。もつとも原告がその主張の期間本件譲渡資産のうちの建物に起居していたことは認める。

(三)  被告の主張

(1)  原告の右資産譲渡における収入金額および必要経費は、別表(一)譲渡所得計算表記載のとおりであり、同人の昭和四五年度の不動産所得、雑所得、給与所得および所得控除額は、別表(二)課税処分表記載のとおりである。ところで原告は、株式会社竹中工務店に譲渡した本件譲渡資産が措置法三五条一項に規定する居住用財産に該当するから同条を適用すべきであるとして、別表(二)課税処分表の確定申告額欄記載のとおり譲渡所得金額から特別控除額一、〇〇〇万円を控除して昭和四五年分所得税の確定申告をした。

(2)  しかし右譲渡資産に関しては、次に述べるとおり措置法三五条一項の適用は受けられない。

(イ) 本件譲渡資産の建物(以下本件建物という)は、木造三階建で、一、二階は訴外株式会社ダイヤカンパニーライフに賃貸し同社支店「える」の営業所として使用され、三階には、独立して生計を営む原告の長男戸田紀秀とその家族(妻子三名)が昭和四〇年四月五日から居住しており、原告は、その妻戸田ヨシミとともに広島市本通四番七号所在の建物三階(現居宅)に居住していた。

(ロ) ところで原告は、さきに広島市新天地三番一三号所在の不動産を譲渡して昭和四四年九月一〇日右の現居宅を取得した際、昭和四四年法律一五号による改正前の租税特別措置法(以下旧措置法という)三五条の規定の適用を受け、同条一項の規定により現居宅を一年間居住の用に供しておかなければならなかつたため、その期間の経過をまつて、次には本件譲渡資産につき措置法三五条一項の適用を受ける目的で昭和四五年一〇月一〇日頃から本件建物三階に起居するようになり、同建物引渡しの日である同年一一月二八日までの約五〇日間長男戸田紀秀の家族と同居していた。その間原告夫婦は午後八時、九時頃右建物に来て夕、朝食を同所で摂つていたほかは従前の本通りの居住を廃したとみるべき事跡はなく、譲渡資産引渡後は再び現居宅に専住し続けている。

(ハ) しかも原告は、本件建物に住民登録をしたことはなく原告の確定申告には、措置法三五条二項、同法施行規則(昭和四五年大蔵省令三二号による改正後のもの)一八条の三に規定する、本件建物に住居したことを証すべき住民票の写の添付をも欠いていた。

(ニ) 原告は、確定申告書に法令所定の住民票写の添付を欠いていたから、原則として本件譲渡資産につき措置法三五条一項の適用を受けえないのであるが、そのことだけでなく、前記(イ)、(ロ)の事実および原告が本件建物に住民登録をしていなかつたことからすると、原告が居住の用に供していた家屋は前記本通り所在の建物で、原告の本件建物での起居は寄寓、仮住いの域を出ないものというべきである。しかして措置法三五条において規定する居住用財産の譲渡所得の特別控除は、住宅供給を円滑にすることをその目的の一つとしてはいるが、他面同一人が連年通用を受けることを制限しているのであつて、その趣旨からしても原告の前記作為的本件建物使用をもつて、居住の用に供していたものとすべきではない。

したがつて本件譲渡資産については措置法三五条一項の適用はない。

(ホ) 仮に本件建物が原告の居住の用に供していた家屋であるとしても、原告は前記本通所在の建物を居住の用に供することを廃止したとみるべきではなく、主として居住の用に供していたのは右本通所在の建物であるというべきであるから、措置法三五条の適用はない(措置法施行令二三条一項)。

(3)  以上のとおり、本件譲渡資産は措置法三五条の規定による居住用財産に該当しないので、被告は、原告申告の特別控除額一、〇〇〇万円を否認して別表(二)課税処分表の課税処分額欄記載のとおり更正処分をするとともに、国税通則法五六条一項の定めるところにより過少申告加算税五万円を賦課決定した。

(四)  被告の主張に対する原告の答弁

(1)  右主張事実(1)は認める。同(2)のうち、原告の長男戸田紀秀とその家族が本件建物三階に居住し、原告が妻ヨシミとともに本通所在の現居宅に居住していたこと、原告が広島市新天地三番一三号外所在の不動産を昭和四四年九月一〇日譲渡し、同年一〇月六日同市本通四番七号所在の建物および敷地を買換え、旧措置法三五条の適用を受け、その関係でその取得日から一年間右建物に居住していたこと、その後昭和四五年一〇月一〇日頃から本件建物三階に起居するようになり、同建物引渡しの同年一一月二八日まで右長男の家族と同居していたこと、原告が本件建物所在地に住民登録をしていなかつたこと、そして、本件譲渡資産の引渡し後は現居宅に専住し続けていることは認めるが、その余は争う。被告主張事実(3)のうち被告がその主張するとおりの更正および加算税賦課の処分をしたことは認める。

(2)  原告は、その居住および事業の用に供していた広島市新天地三番一三号所在の不動産の譲渡による買換資産として昭和四四年一〇月六日広島市本通四番七号の店舗兼居宅およびその敷地を買受け、旧措置法三五条所定の居住用財産買換えによる課税の特例の適用を受けているのであるが、右規定の適用を受けるには買換資産取得後一年間同建物に居住していなければならないものと思い、同建物が居住に適さないのに不便を忍びながらもその間居住していた。そして本件建物の譲渡につき、措置法三五条の適用を受ける条件を充たすためもあつて、右期間経過後の昭和四五年一〇月一〇日頃本件建物に起居するにいたり、同建物を居住の用に供したものである。ところで措置法三五条の規定の適用を受けるのは、家屋の所有者が譲渡の時点においてその家屋を居住の用に供している場合で、こゝに譲渡の時点とは譲渡物件の引渡の日をいうのであるが、原告は本件譲渡資産の引渡日である昭和四五年一一月二八日当時その譲渡資産を居住の用に供していた。そもそも措置法三五条の居住用財産の譲渡所得の特別控除に関する規定は、住宅の供給を円滑にすることを目的とし、この規定による特別控除を国民に期待させることにより効果的に行政目的を推進遂行しようとするものであるから、同条の適用を受けるためには譲渡時期に譲渡資産としての建物を居住の用に供しておれば足り、譲渡者に同条の適用を受けるための作為があつたか否かは無関係である。

(3)  被告は、本件建物の三階は原告から独立して生計を営む同人の長男戸田紀秀がその妻子とともに昭和四〇年四月五日から居住の用に供しているものであり、原告夫妻の本件建物における起居は約五〇日の短期間であつて、寄寓、仮住いの域をでない旨主張するが、本件建物は、原告の所有、かつ支配するもので、長男が独立して生計を営むといつてもその基本である住については未だ経済的に充分ではなく、父である原告の援助により本件家屋を無償で使用し住んでいたのであつて、原告が右家屋の支配を長男に委ねていたものではない。そして、原告が自己の便宜上、同家屋に起居するにいたり、それとともに長男らに同居を許していたのである。家屋を居住の用に供するとは、その当人がその家屋に自ら住む意思をもつて現実に同家屋に寝起することをいうのであり、本件の場合、右の事実が認められるのであるから、本件家屋は居住の用に供されているというべきで、このことは原告が生活に必要な家財道具の一部を本通りの家屋に保管していたとしても異なるものではない。また、措置法三五条の適用においては居住の用に供している期間の長期、短期を問うものではない。

(4)  被告は、原告が従来本通りの建物三階を居住用に使用し、本件建物引渡後も本通りの居宅に専住しているから本件建物を居住の用に供してはいなかつたと主張し、本件建物譲渡前後の本件建物以外の建物での居住の状況により本件建物が居住用財産であるか否かの判定をしようとしているが、本条適用の可否は、本件建物譲渡時に現に原告が居住の用に供していたかどうかにより決すべきであるから右被告の主張は失当である。原告が本件譲渡家屋に譲渡時まで約五〇日間引続き起居し、夕朝食も同所で摂つていたことは被告も認めているところであるから、たとえそれ以外の時期に本通りの家屋の三階部分を居住の用に供していたとしても本件建物譲渡につき措置法三五条適用の支障となるものではない。

(5)  更に、被告は、仮に本件建物が原告の居住の用に供している家屋であるとしても本通りの家屋を居住の用に供することを廃止したとみるべきでなく、主として居住の用に供していたのは本通りの家屋であるから、本件建物に居住用財産譲渡による特別控除の適用はないと主張するが、措置法施行令二三条にいう「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合」とは、譲渡時に二以上の家屋を居住の用に供している場合で、隔日あるいは二、三日おきに交互にそれらの家屋に起居している場合等をいうのであつて、本件の場合、原告は引続き本件建物に起居して居住の用に供し、その間、本通りの家屋三階部分は全く居住の用に供されていないのであるから、右規定にいう「居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に該当しない。

(6)  被告は、原告の確定申告には措置法三五条二項、同法施行規則一八条の三に規定する、本件建物に居住したことを証すべき住民票の写の添付をも欠くと主張するが、同法条に規定する住民票とは必ずしも譲渡家屋に居住したことを証するものであることを要するものではなく、譲渡後に作成された当人の住民票であれば足りるのである。しかして原告は、本件建物譲渡後に作成された住民票の写を確定申告書に添付しているのであるから、右法条に定める手続違背はない。

三  証拠<省略>

理由

一  原告がその所有する本件譲渡資産、すなわち広島市新天地一ノ九所在の土地、建物につき株式会社竹中工務店との間で昭和四五年八月二六日売買契約を締結し、同年一一月二八日その引渡しをしたこと、右資産の譲渡所得の計算における収入金額、必要経費が別表(一)譲渡所得計算表記載のとおりであること、原告が本件譲渡資産について措置法三五条一項の規定の適用があるとし、譲渡所得の金額から一、〇〇〇万円の特別控除をして別表(二)課税処分表の確定申告額欄記載のとおり確定申告をしたこと、被告が昭和四六年一〇月二八日付で本件譲渡資産については措置法三五条一項の規定の適用はないものとして、右申告の特別控除額一、〇〇〇万円を否認し、所得税額を一〇〇万円増額して更正するとともに過少申告加算税五万円の賦課処分をしたこと、これを不服とした原告の異議申告に対する決定において、被告が措置法三一条(長期譲渡所得の課税の特例)の規定を適用して特別控除額一〇〇万円を控除し、本税一〇万円、加算税五、〇〇〇円を各減額して原処分の一部を取消し、その余を棄却したこと、これに対し原告は昭和四七年三月二四日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが棄却の裁決を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件譲渡資産の譲渡に関し措置法三五条一項(居住用財産の譲渡所得の特別控除)の規定の適用があるか否かの点について検討する。

(一)  措置法三五条一項は、個人が居住の用に供している資産(家屋及びその敷地に関する権利)を譲渡した場合の譲渡所得の計算に関する特例を認めたものであるが、譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期は譲渡資産に関する所有権その他の権利が譲受人に移転する時期であるというべきであるから、譲渡資産に関する権利移転の時期ないしこれに接着する時期に至るまで、これを居住の用に供しておれば措置法三五条一項の適用があるものといわなければならない。これを本件についていえば、弁論の全趣旨によると本件譲渡資産に関する売買契約においては売買代金が完済された時点において所有権が移転する旨の特約があり、原告が本件譲渡資産を引渡した昭和四五年一一月二八日に売買代金が完済されたことが認められるので、原告が右引渡時期まで本件譲渡資産を居住の用に供していたとすれば措置法三五条一項の適用を受け得ることになる。

(二)  次に右引渡時期に至るまでの原告の本件譲渡資産についての使用の態様等について考察する。

(1)  まず原告の長男戸田紀秀とその家族(妻子三名)が本件建物三階に居住していたこと、原告とその妻ヨシミは、本通四番七号所在の建物三階に居住していたが、昭和四五年一〇月一〇日頃から本件建物引渡しの日である同年一一月二八日まで本件建物三階に起居し、右長男戸田紀秀の家族と同居していたこと、しかし原告とその妻ヨシミは本件建物所在地には住民登録(転居届)をなさず、同建物引渡し後は再び本通所在の前記建物に専住し続けていること、また、原告が昭和四四年秋広島市新天地三番一三号所在の不動産を譲渡し、その買換資産として本通四番七号所在の建物を取得した際、旧措置法三五条(居住用財産の買換えによる課税の特例に関する規定)の規定の適用を受けていることは、いずれも当事者間に争いがない。

(2)  次に成立に争いのない乙第四号証の一、第五号証、第六号証、証人福田宏、同戸田紀秀の各証言、原告戸田千代太郎の本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、本通四番七号所在の前記建物は木造三階建で、一、二階は原告が代表者である株式会社ダイヤ・カンパニー・ライフの本店営業所として事業の用に供され、三階が居住の用に充られていて、原告は昭和四四年秋から同建物の三階に居住していたもので、その三階部分には六畳、四・五畳各一間と炊事場、風呂場があつたこと、本件建物も木造三階建で、一、二階は右会社の支店営業所として事業の用に供され、三階が居住の用に充られていて、同所には右会社から給料を得て独立の生計を営んでいた原告の長男紀秀が昭和四〇年三月から家族と共に居住していたもので、同建物の三階部分には、一〇畳、八畳、三畳各一間と灯事場があつたこと、原告は、昭和四五年五月頃株式会社竹中工務店から本件建物および敷地の売却方を懇請され、原告も代りの適当な場所があり、しかも課税額が多くないのであれば売却してもよいものと考え、税理士正木某に相談した結果、同建物に原告が居住しておれば、税法上の特例が適用され、譲渡所得について一、〇〇〇万円の特別控除を受けることができることを知つて、本件譲渡資産を売却することにふみ切り、前記のように昭和四五年八月二六日売買契約を締結して引渡期日を昭和四五年一一月一五日と約するにいたつたこと、他方原告は買換えとして本通四番七号の建物を取得した際、旧措置法三五条の規定の適用を受けていた関係上、同建物の取得日から一年間はこれに居住することを要するものと考え、その期間の経過をまつて本件譲渡資産についても、税法上の特典を受けるべく、昭和四五年一〇月一〇日頃から夜間のみ原告の長男およびその家族の住む本件建物三階に来て同人らと夕、朝食をともにし、寝泊りをして同居するようになつたこと、しかし、原告と妻ヨシミが本件建物に起居するに当つては、本通所在の前記建物三階にあつた同人らの家財道具のすべてを移転したわけではなく、僅かに茶碗やフトン類を持ち運んだに過ぎず、また、原告夫婦が寝泊りに使用したのは本件建物三階の各部屋のうち長男の家族が従来使用していたのをやめて原告夫婦のために空けた一〇畳の部屋一間であるが、その部屋には同人らの寝具を収納する場所がなく、そのため寝具は部屋の片隅に置かれている状態であつたこと、そして、買受人株式会社竹中工務店に本件譲渡資産を引渡した昭和四五年一一月二八日以後は原告夫婦だけは再び本通所在の前記建物三階に起居するようになり、現在まで引続き同所に専住していることがそれぞれ認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は本通四番七号所在の建物を収得するについて旧措置法三五条の適用を受けていた関係上同建物に一年間居住することを要するものと考えていたとはいいながら、本件譲渡資産の引渡を前提とした売買契約を締結した後、格別同建物に居住する生活上の必要もないのに引渡しを目前に控えた時期に、同建物を居住の用に供していた長男紀秀から右本通所在の建物に比し、日常生活上も不便な僅か一室の提供を受け、寝具、食器類を若干運んで僅々五〇日程度寝泊りしたというに過ぎないのであつて、そのことと原告が本件建物に住民登録(転居届)をせず、同建物の引渡し後は直ちに本通所在の前記建物に移りこれに専住し続けていることからすると、原告の本件建物についての使用の態様は単に措置法三五条一項の適用を受ける目的のみをもつて本件建物を居住の用に供しているかのような外形をととのえようとしたものに外ならず、真に本件建物に居住する意思をもつて起居したものではなく、客観的にも本件建物を生活の拠点にしていたものとはいい難い。

(三)  ところで措置法三五条一項は、譲渡資産に対する居住の動機、期間については別段の制限を設けていないので、居住者が同条項の適用を受ける意図の下に居住した場合であつても、また居住期間が長期間にわたる場合でなくても、そのこと自体は同条項を適用する上の障害にはならないものというべく、その点は原告主張のとおりである。しかし措置法三五条一項が居住用資産の譲渡による譲渡所得の計算上一、〇〇〇万円の特別控除を認めたのは、一つには居住用資産を譲渡した場合居住用代替資産を取得する蓋然性が高いことと普通程度の家屋であれば特別控除額の範囲内で取得できるであろうとの配慮から居住用資産の譲渡者が所得税の負担なくして普通程度の居住用代替資産を取得することを可能にする趣旨に出たものということができるし、また措置法三五条一項が特別控除について連年の適用を認めず、三年間に一度の適用を認めたのにとどまるのは、居住用代替資産取得の場合これを三年程度の短期間に譲渡することは通常考えられないことと連年適用を認めると例えば数戸の家屋の所有者が一年毎に居住家屋をかえることによつて特別控除制度を濫用し譲渡益の脱漏をはかる等の弊害を生ずるのを防止するための制限であると解されるのであるが、このような特別控除、連年適用制限の制度の趣旨からすると、措置法三五条一項の適用を受けるためには、譲渡資産に短期間臨時に或いは仮住まいとして起居していたというのみでは足らず、真に居住の意思をもつて客観的にも或る程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要するものと解するのが相当である。

したがつて原告の本件建物についての使用の態様程度をもつてしては、未だ原告が本件建物を居住の用に供していたものとすることはできない。

以上の説示からすると、原告が確定申告書に法令所定の書類を添付していたか否かの判断に及ぶまでもなく、原告の本件譲渡資産の譲渡に関しては措置法三五条一項の適用はないものという外ない。

三  しかして本件譲渡資産の譲渡による収入金額、必要経費が別表(一)譲渡所得計算表記載のとおりであり、また原告の昭和四五年分不動産所得、雑所得、給与所得および所得控除額が別表(二)課税処分表記載のとおりであることは当事者間に争いがないから、これらを基礎として計算すると、課税総所得金額は、三、五〇二、〇〇〇円、分離課税の課税長期譲渡所得金額は八五、八〇二、〇〇〇円、これらに対する算出税額の計は九、三四三、九〇〇円となり、(措置法三一条、所得税法の一部を改正する法律(昭和四五年法律三六号)附則三条)また過少申告加算税は四五、〇〇〇円となるから(国税通則法六五条一項)被告の異議決定、国税不服審判所長の審査決定によつて維持された限度においては被告が昭和四六年一〇月二八日付でなした更正処分および加算税賦課処分には違法はなく、適法であるということができる。

よつて原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 高升五十雄 安次嶺真一)

別表(一)、(二)<省略>

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