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広島地方裁判所 昭和44年(行ク)2号 決定 1969年3月19日

申請人 三宅寛 外一名

被申請人 広島市長

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

申請人らは「被申請人が昭和四三年一一月二〇日付でなした別紙物件目録記載の土地前歩道から別紙図面記載のとおりその向側歩道に横断歩道橋を架設する旨の処分に基づく歩道橋架設工事の執行は本案判決が確定するまでこれを停止する。」との裁判を求め、その理由は次のとおりである。

一、被申請人は広島市通学路交通安全施設等緊急整備計画に基づく昭和四三年度の事業として、昭和四三年一〇月一七日申請人三宅所有の別紙物件目録記載の土地前歩道から別紙図面記載のとおり、その向側歩道に横断歩道橋を架設することを決定し、同年一一月二〇日建設業者と右架設請負契約を締結し、昭和四四年二月一四日右工事に着工せしめた。

二、しかし、右横断歩道橋架設処分は申請人らの財産権を公権力の行使によつて直接に侵害する違法の処分であるから、申請人らは昭和四三年一一月九日右処分の取消の訴を広島地方裁判所へ提起した。

三、しかし、右工事は現在続行中であるところ、右工事が完成すれば、申請人らは次のとおりの損害を蒙ることになる。

(一)  申請人三宅所有の別紙物件目録記載の土地は立地条件の秀れた特殊角地であるため、申請人三宅所有の元地に対して基準以下の交付率をもつて仮換地されたものであるところ、右仮換地の前面に右歩道橋が架設されると、右土地の利用価値は激減し、地価は三〇パーセント以上の低下をきたし、右は申請人三宅の受忍の限度を越えた損害というべきである。

(二)  申請人第一不動産株式会社は別紙物件目録中(一)の土地上に鉄筋コンクリート造四階建地下一階建の建物(延面積一七七坪四合五勺)を所有し、これを株式会社リコーに賃貸しているところ、右建物は右リコーの注文に基づき、申請人第一不動産株式会社が右リコーの営業商品の宣伝に適合するように設計建築させたものであるが、右歩道橋の架設により、右建物のシヨーウインドウのある一階部分及び二階の相当部分が外部から観望しがたくなり、右宣伝効果は激減し、さらには車両の進入、荷役にも不便をきたす等右建物の利用価値は大幅に低下する。そのため、右リコーは右建物から退去せざるを得なくなり、右リコーが右建物から退去するときは、申請人第一不動産株式会社は右リコーと同一条件で新に賃借人を得ることは困難となり、かりに右リコーが右建物から退去しないとしても、改訂期にある右建物の賃料の増額は困難となり、右はいずれも申請人第一不動産株式会社にとつて、受忍の限度を越えた損害というべきである。

そして、申請人らの右各損害はいずれも回復困難な損害というべきであるから、右歩道橋架設工事の執行を停止すべき緊急の必要があるため、申請人らは申請の趣旨記載の裁判を求める。

当裁判所の判断は次のとおりである。

本件及び本案記録によれば、申請人三宅が別紙物件目録記載の土地を所有し、申請人第一不動産株式会社が右土地上に右申請人主張の建物を所有し、これを株式会社リコーに賃貸していること、被申請人が通学路に係る交通安全施設等の整備及び踏切道の構造改良等に関する緊急措置法に基づく昭和四三年度の広島市通学路交通安全施設等緊急整備計画により、昭和四三年一〇月一七日申請人三宅所有の別紙物件目録記載の土地前歩道から別紙図面記載のとおり向側歩道に横断歩道橋を架設することを決定し、昭和四三年一一月二〇日建設業者と右工事の請負契約を締結し、昭和四四年二月一四日右工事に着工せしめ、現在架設工事中であることが疎明される。

ところで、申請人らは右歩道橋設置処分が抗告訴訟の対象となりうる行政処分であるとして、右本案訴訟を提起しているところ、抗告訴訟の対象となりうる行政庁の処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、国民の法律的地位に変動を及ぼすものをいうと解されるところ、被申請人の右歩道橋の架設に関する一連の行為は既存道路内における改良工事であつて、直接申請人らの財産権を目的とするものではなく、かりに右行為によつて、申請人らに申請人ら主張の損害が生ずるにしても、右をもつて申請人らの法律的地位に変動が生じたものとはいいがたいことからすると、右一連の行為は抗告訴訟の対象たる行政庁の処分にあたらず、申請人らの本案は不適法とみえるので本件申請は行政事件訴訟法第二五条第三項後段の「本案につき理由がないとみえるとき」にあたるものというべきであるから、却下を免れない。

よつて、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷川茂治 北村恬夫 篠森真之)

(別紙物件目録省略)

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