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広島地方裁判所 昭和24年(行)18号 判決 1949年10月15日

広島県豊田郡戸野村大字戸野三千九百二十番地

原告

中岡宗夫

同村同字九百五十五番地

原告

中光乙五郞

同村同字

原告

迫田久

同村同字

原告

高山寬一

右四名訴訟代理人

弁護士

原田香留夫

広島県豊田郡戸野村

被告

戸野村長

藤原隆

右当事者間の昭和二十四年(行)第一八号村民税賦課取消請求事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は「被告が昭和二十三年十一月三十日原告等に対し、なした村民税賦課はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のように陳述した。

被告は昭和二十三年十一月三十日原告等に対する同年度村民税賦課額を原告中岡宗夫金二百円、同乙五郞金三百円、同久金金二百円、同寛一金五百円とそれぞれ決定し、同年十二月十日徴税令書を交付した。

併し右賦課は(一)いわゆる見立推量によつてなされたものであるばかりか(二)戸野村村民税條例第六條第一項所定の村民税の総額の五分の一は均等割、同五分の一は資産割、同五分の三は所得割とする旨の村民税賦課基準にも違反し、(三)更に賦課の基礎に錯誤があり、違法であるので原告等はそれぞれ同月二十一日から同月二十七日までの間被告に対し異議の申立をなしたが、現在にいたるも被告は何等の決定をしない。そこで右賦課の取消を求めるため本訴請求に及ぶ次第である。

被告の抗弁に対し、被告が決定しないので原告等は広島県知事に訴願もしていないが、それは、被告が原告等に宛てた「未納金督促の件」と題する文書によると、広島県においては軍政部協力のもとに徹底的な未納税金の整理にあたる意図が示されたので、原告等としては、訴願をしても何等その効なく却つて不利益を蒙る虞があると考えて訴願しなかつた。従つて原告等には行政事件訴訟特例法第二條但書にいう訴願の裁決を経ないことにつき「正当な事由」があるから本訴は適法である。又被告は前記の通り原告等の異議の申立に対し決定をしなかつたが、仮に決定があつたとしても、それは村議会の議決を経てないから無効であると述べ

立証として甲第一号証を提出した。

被告は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、地方税法第二十一條第五項によれば、本訴は、その前提として、広島県知事の訴願の裁決を受けなければならないのに、これを経ることなく出訴されているから不適法であると述べ、本案に対する答弁として、原告等主張のように被告が原告等に対し村民税の賦課をなし、徴税令書の交付をしたこと、原告等からその主張のように異議の申立がなされたことは認めるが、その余は否認する。被告は右異議の申立に対し棄却の決定をなし、その旨を昭和二十四年二月八日付「未納金督促の件」と題する文書をもつて原告等にそれぞれ通知している。村長が村民税賦課に対する異議の申立につき決定するには、村議会に諮る必要はないと解するので、被告は本件についても議会に諮ることなく、議会の議員をもつて構成する協議会の審議に付したのみであると述べ、甲第一号証の成立を認めた。

理由

原告等から昭和二十三年度村民税賦課につき被告に対し、異議の申立がなされたこと及びその後被告から原告等に「未納金督促の件」と題する書面の送達されたことは当事者間に争がなく原告は右申立に対する被告の決定が無いと主張するのに対し、被告は右文書の送達により該決定の通知をしたと主張するので、先ずこの点について判断する。

右書面はその標題の示すごとく未納県村税の納税方を督促することを主眼としているものでむしろ地方税法第二十二條所定の督促状とみるを相当とすべきことは、その文意自体に徴して明かであつて同書中原告等の異議申立については県村民税賦課に対する異議申立が却下された旨の記載があるだけでその異議を斥けた理由については何等示すところがないから、地方税法第二十一條第八項で準用する地方自治法第二百五十七條第三項に照し、右書面は異議決定書に該当せず、従つて原告等の異議申立に対しては決定がないものと称するのが相当である。

そして異議の決定がないとき、その申立を斥ける旨の決定があつたものとみなすことができる(地方税法第二十一條第八項で準用する地方自治法第二百五十七條第二項)ところ原告は広島県知事に訴願しても、その効なく却つて不利益を蒙る虞があるので、右訴願を経ず直ちに出訴するに正当の事由があると主張するけれども、前記「未納金督促の件」にもある如く広島県が納税運動を企て軍政部協力のもとに徹底的に未納整理に当るということは、違法に賦課した税金までも有無を言わさず取り立てて了うのではなく正当に賦課された税金で未納なものは徹底的に徴收する意味であることは明かで原告主張のような違法があるのにこれを無視して県知事が訴願を却下すると考えることは原告等の独断であつて正当な理由となすにたらない。

而して原告等が広島県知事に対し右決定につき訴願の申立をなすことなく本件出訴に及んでいることは原告等の自認するところであつて、地方税法第二十一條の規定によれば、行政事件訴訟特例法第二條の規定に拘らず異議の決定及び訴願の裁決を経た後でなければ裁判所に出訴できないことは明かであるから本訴は右の点において不適法である。

よつて原告等の本訴を不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十三條を適用し主文の通り判決した次第である。

(裁判長裁判官 三宅芳郞 裁判官 淺賀栄 裁判官 熊佐義里)

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