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岡山地方裁判所津山支部 昭和43年(ワ)164号 判決 1969年6月20日

原告 坂田登喜雄

右訴訟代理人弁護士 横林良昌

被告 草刈多津美

右訴訟代理人弁護士 井口先友

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、昭和四二年五月三日午前八時三〇分頃、津山市川崎一五〇の四番地先国道上において、原告の運転する二輪車と被告が運転する被告所有の普通乗用車が衝突したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、右衝突のため原告がその主張のような傷害を受けたことが認められる。

二、被告の自動車損害賠償保障法第三条但書の免責の主張について検討する。

≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

1、道路状況など

現場は東西に通ずる国道五三号線に、玉琳に至る北東への道路が鋭角に交わる変形丁字路の交差点であり、交差点より西側道路は東行一方交通とされて、交通点西端附近の南側路肩に西行車両に対し車両進入禁止の道路標識が設置されている。交差点より西側道路はほぼ直線状、幅員五・四m、舗装部分約四・五m。交差点より東側道路はほぼ直線状、幅員一三・四m、舗装部分約八m、舗装部分の中央附近にペイントの断続線で示す中央線の道路標示があり、その西端は交差点中央部から更に前記車両進入禁止標識の東方一五m附近まで達している。道路状況を総じてみると、西側道路と東側道路の幅員の相違のために東側道路の中央線の延長線に近いところに西側道路の舗装部分北端線が位置する。東西道路に鋭角に交わる北東への道路は、舗装、幅員八m。いずれの道路も平坦で、交差点附近に見とおしを妨げる障害物は存しない。附近の交通規制は速度制限最高速度時速四〇km。事故当日の天候は晴天、路面乾燥、交通量は中程度。

2、被告運転の普通乗用車(以下乙車という)の動き

車両はプリンス六三年型、六人乗りのところ当時四人乗用。国道五三号線を米子市へむけて現場交差点にいたり、交差点東側道路を西方へ、道路中央線より南側(左側)部分を、先行する同型普通乗用車(以下丙車という)に数メートルの車間距離を保ちつつ、時速約四〇kmで交差点に差しかかったところ、被告は現場附近の交通規制を知らなかったが、先行する丙車が大阪府の車両番号標を取付けているのに交差点を北東方向への道路へ右折したためけげんに思い、速度を減じつつ交差点に進入して、左前方に車両進入禁止標識を発見し、それとほぼ同時に前方から自車進路上に進入して来る原告運転の二輪車を発見し、道路舗装部分南側(左側)に寄りつつ急制動し、約六・四m進行して停車した。原告二輪車との衝突は停車直前か停車と同時頃に生じ、停車位置は車両進入禁止標識から東方約一四・六m、道路南端から北へ三・七m、舗装部分南端から北へ一mの地点に車両左前端部が位置する場所であり、車両前半部が前記ペイント標示の中央線西端から西側へ突出するような地点(交差点中心点よりやや西寄り)である。乙車左前端部分と原告二輪車左側中央附近(運転者の足の位置附近)とが衝突した。乙車の制動能力は時速三〇kmで七・四mないし九・二mである。

3、原告運転の二輪車(以下甲車という)の動き

車両はホンダドリーム二五〇cc。原告は津山市内(東方)へ向って国道五三号線を西側から、道路中央部よりやや北側(左側)附近を時速約四〇kmで走行し、交差点にいたった。甲車の後方相当距離をおいて乗用車が進行して来ていたほかには附近に通行している車両はなかった。交差点に差しかかったところ、東側から進行して来た前記丙車が北東方向への道路へ右折したのを見、それに追随して来ていた乙車をも見たが、原告は西側道路へは西行車両の進入が禁止されていることを知っていたため、乙車は甲車に引き続いて右折して北東方向への道路に進出するとのみ思い、道路南側(右側)部分へ進出してこれを回避しつつ進行継続しようと考えて、進路変更の合図をすることなく、やや速度を減じながら、衝突地点より約一〇m西側附近から進路を右(南)に転じ、道路南側部分へ進出したところ、意外にも乙車は右折することなく直進してくるのでハンドルをふらつかせつつ更に道路南側へ回避すべく転把したが前記の地点で前記部位が乙車の前記部位に衝突し、右側を下に転倒して、乙車左前端部附近の道路非舗装部分に転倒停止した。

三、右認定の事実によってまず、被告(乙車)の行為について考えるに、被告は交差点にさしかかり、先行する丙車の動きに不審を覚えて速度を減じ、約二一m前方に前方道路進入禁止の交通標識を発見し、同時に甲車が進路上に進入して来るのを発見し、道路南側(左側)に寄りつつ急制動して右交通標識より手前(東側)一四・六mの地点に停車したものであるところ、交差点の道路状況から考えて被告には甲車が中央線を超えて自車進路上に進入して来ることを予想すべき注意義務はなく、又、甲車発見後道路南側(左側)に寄りつつ急制動した運転措置も当然であって、中央線を超えて右側へ転把回避すべき注意義務をまで被告に要求できる状況ではない。この理は衝突時期が乙車の停車後であったとしても、停止前の進行中であったとしても左右されるものではない。とすると被告に交通標識発見の遅れや、交通標識および甲車発見後の運転措置の不適切など、交通法規の不遵守、運転上の注意義務違反があるということはできない。

他方原告(甲車)の行為についてみるに、原告が交差点にさしかかったときには、乙車に先行する丙車が既に右折態勢にあったのであるから、直進しようとしている原告はこの既右折車の通行を優先させるため一時停止或いは徐行し、これに後続する乙車の動向をその方向指示器によって確認し、交差点での安全を確かめたうえ、道路の北側(左側)を通行すべき運転上の注意義務があったものであるのに、乙車は右折合図もしていないのにこれが丙車に引き続いて右折するものとのみ誤信し、一時停止或いは徐行による安全確認を怠って、単にこれを右(南)へ進路を転じて回避しつつ進行を継続しようとし、進路変更の合図もすることなく乙車の前方一六・四mの地点から中央線の道路標示よりも右(南)へ転把進入し、道路南端附近に達して乙車と衝突したものであるから、右衝突は、全く原告の交通法規不遵守に原因するものというべきである。

右判断によれば、結局甲車と乙車との衝突については、被害者である原告に過失があり、被告は自動車の運行に関し注意を怠らなかったものというべく、被告運転の普通乗用車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことは原告の争わないところであるから自動車損害賠償保障法第三条但書の証明があったものと認められる。

現場参考見取図

とすると同法第三条にもとずく原告の請求は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中昌弘)

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