大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和61年(行ウ)7号 判決 1991年10月23日

岡山県笠岡市北木島町九六四〇番地

原告

奥田満

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

岡山県笠岡市五番町五-四八

被告

笠岡税務署長 松下能英

右指定代理人

大西嘉彦

安友源六

工藤真義

森脇基紀

豊田耕輔

大里裕

岡田克彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年三月七日付で原告の所得税についてした更正処分及び過少申告加算税各賦課決定のうち、昭和五四年分につき所得金額二六九万円を超える部分、昭和五五年分につき所得金額二一九万八六〇〇円を超える部分、昭和五六年分につき所得金額二二一万三八六九円を超える部分(昭和五五年分及び昭和五六年分については審査裁決により取消された部分を除く。)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、石材の加工販売を業とする者であるが、昭和五四年分ないし昭和五六年分(以下「本件各年分」という。)の所得税につき、別表一の一ないし三の各「確定申告」欄記載のとおりの申告をしたところ、被告は昭和五八年三月七日付で同表の各「更正」欄記載のとおり、本件各年分につき各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした。そこで、原告は、本件各処分を不服として、同年四月四日、被告に対し異議申立をしたが、同年六月二九日、右異議申立は棄却されたので、同年七月一九日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は昭和六一年四月二四日付で、同表の各「審査裁決」欄記載のとおりの裁決をし、右裁決は同年五月二〇日、原告に到達した。

2  しかし、原告の各年度における所得は、いずれも右申告のとおりであるから、本件各処分はいずれも違法であり、取り消されるべきである。

3  また、本件各処分には、以下の違法があり、取消しを免れない。

(一) 本件各処分は、原告が西備民主商工会(以下「民商」という。)の会員であることを理由とした差別的不利益処分であり、憲法一四条、一九条に反した違法な処分である。

(二) 本件各処分は、原告が、民商の会員である赤瀬甫の課税処分取消請求訴訟の証人として申請されたことを理由として懲罰的になされたものであり、憲法三一条、一三条に反する違法な処分である。

(三) 本件各処分は、調査段階において、何ら調査理由が示されず、また、一方的に取引先(取引関係のない者も含めて)を調査し、原告の信用を著しく害したものであり、憲法三一条、三〇条に反する違法な処分である。

4  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2、3の各事実は否認する。

3  同4は争う。

三  被告の主張

1  推計の必要性について

(一) 原告は、笠岡市北木島町九六三九番地において石材の加工販売を営む白色申告者であるが、被告に対して、本件各年分の所得税について、別表一の一ないし三の各「確定申告」欄記載のとおりの確定申告をした。しかし、原告から提出された本件各年分の確定申告書には、その「事業(営業)所得金額」欄に各年分の事業専従者控除額及び所得金額が記載されているだけで、収入金額、必要経費は記載されていなかった。このため、本件各年分の所得の計算内容は不明であったが、確定申告書に記載された所得金額は端数まで記載されており、帳簿などを基に算出されたことが窺われた。そこで、被告は、原告から申告された事業所得の金額が正しいか否かを確認するため、昭和五七年八月二日から被告の係官(以下「係官」という。)に調査を行わせた。

(二) 係官は、右同日、原告の住居の隣接している工場に臨場し、原告に対し、長期間調査がされていないことと、本件各年分の確定申告による事業所得金額が端数まで計算されているものの所得計算の内容が不明なので、申告が正しいかどうかを判定するために必要があるとの調査理由を明らかにして本件各年分の所得税調査を行う旨を告げたうえ、原告の事業に関する帳簿及び証ひょう書類を提示するとともに所得税調査に協力するよう要請した。ところが、原告は、「帳簿類は申告が済んだら捨ててしまった。申告は民商を通じて行っている。私のもとには帳簿はないが、民商の事務局のほうに申告時の資料の控えがあると思うので、それを見てくれ。今日は仕事が忙しい。盆が過ぎたら仕事は暇になるからその時分にしてくれ。次はこちらから連絡させてもらう。」などと申し立て、係官の要請に全く応じなかった。

(三) その後、係官は、原告と事前に調査日時を打合せ、同年九月六日及び同月一四日に原告宅へ臨場し、再び調査理由を示して帳簿書類の提示を求め、調査に協力するよう要請したが、原告及び同席していた民商会員らは、「帳面はつけているが、具体的な調査理由を聞かせてもらえないと見せるわけにはいかない。」と調査理由を示すよう繰り返し主張するのみで、結局、係官に対して帳簿書類を提示しなかった。

(四) 右のように、原告が調査に全く協力しないため、被告は、原告の本件各年分の事業所得の金額を実額によって計算することができなかった。このため、被告は、やむを得ず係官をして可能な限り原告の得意先を把握し、書面照会を行うなどして売上金額を調査したうえ、原告と業種、業態及び事業規模等の類似する同業者(以下「類似同業者」という。)一の平均所得率を適用して推計の方法により原告の本件各年分の事業所得の金額を算出した。所得税の課税標準となる所得金額の計算については、納税者が帳簿書類等によって収入及び支出を明らかにし、調査に対し誠実な協力があって初めて可能であるところ、被告は、右のような状況の下では原告の所得金額を実額で計算することはできないと判断して、やむを得ず原告の所得金額を推計の方法により算出したものであって、他に合理的な計算方法がない以上、本件各処分は適法である。

2  推計の合理性について

(一) 事業所得金額の算出根拠等について

原告の本件各年分の事業所得の金額の算出経過は別表二記載のとおりであり、右事業所得の金額は、別表三の合計欄に掲げる本件各年分の収入金額に、別表四に掲げる本件各年分の平均所得率を乗じて算出所得金額を求めた後、この金額から別表五の本件各年分の合計額及び事業専従者控除額八〇万円をそれぞれ控除して算出したものである。

(1) 昭和五四年分について

<1> 収入金額 一億四七五万三七七四円

<2> 類似同業者の平均所得率 一二・三パーセント

<3> 算出所得金額 一二八八万四七一四円

<4> 事業所得の金額 九七七万五六六七円

(2) 昭和五五年分について

<1> 収入金額 一億一七七三万八九一八円

<2> 類似同業者の平均所得率 一四・三パーセント

<3> 算出所得金額 一六八三万六六六五円

<4> 事業所得の金額 一一八〇万二五一七円

(3) 昭和五六年分について

<1> 収入金額 一億六〇九万八九〇九円

<2> 類似同業者の平均所得率 一〇・五パーセント

<3> 算出所得金額 一一一四万三八五円

<4> 事業所得の金額 六〇一万三四三〇円

(二) 類似同業者の抽出の合理性について

(1) 被告が採用した類似同業者は、広島国税局長が笠岡税務署長に対し、原告と同様、石材の加工販売を営む個人のうち、本件各年分の所得税の各確定申告について所得税法一四三条(青色申告)の承認を受けて青色申告書を提出している者で、本件各年分を通じて、次の<1>ないし<4>のすべての条件に該当する者を対象として、それらの者の各年分の収入金額、売上原価の額、差益金額、一般経費、差引金額、特別経費、青色事業専従者の人数及び給与額、従事員数について、報告を求めることにより選定された同業者である。

<1> 本件各年分を通じて石材加工販売を営んでいること(但し、次のア又はイに該当する者を除く。)。

ア 本件各年分の中途において、開廃業、休業又は業態を変更した者

イ 更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法(以下「通則法」という。)又は行政事件訴訟法の規定による不服申立中又は訴訟中の者。

<2> 当該事業所得の収入金額が、五〇〇〇万円以上一億五〇〇〇万円以下の範囲の者。

<3> 従事員数(事業主を含む。)が四名以上一〇名以下の範囲の者。

<4> 青色事業専従者が二名ないし三名の範囲の者。

(2) 右通達によって報告された類似同業者は、別表六のとおり三名であり、これらは、右抽出基準の範囲内の者全員を抽出したものであって、原告と業種、業態、事業規模等の類似性及び資料の正確性がある。また、右によって選定された類似同業者A、B及びCの本件各年分に係る収入金額、算出所得金額により別表四の「<5>所得率」欄のとおり各所得率を算出し、小数点二位以下を切り捨てて求めた類似同業者の本件各年分の平均所得率(同表の「<5>所得率」欄の本件各年分の「平均所得率」)を適用して、原告の本件各年分の事業所得の金額を算出する推計の方法には、類似同業者の抽出過程及び推計計算に関して被告の恣意性が介在する余地はなく合理性がある。

3  推計の基礎数値としての収入金額について

被告が、原告の本件各年分の事業所得金額を算出するにあたり、推計の基礎とした原告の収入金額の内容は、以下のとおりである。

(一) 被告は、原告の取引先である中国銀行笠岡支店(以下「中銀」という)、広島銀行笠岡支店(以下「広銀」という)及び玉島信用金庫笠岡支店(以下「玉信」という)(以下、これらの各金融機関を「各取引銀行」という。)において銀行調査を実施し、原告の当座預金に入金されている商業手形から取引先を把握したうえで、各取引先に対して書面照会を行うなどして取引金額を把握した。そして、被告は、この取引金額と各取引銀行の入金額とを照合検討するなどしたうえ、原告の収入金額を認定したものであり、認定した取引先別の収入金額は別表三のとおりである。

(二) 右のとおり認定した収入金額の算出方法は、次の四つの観点から分類し説明できる。

(1) 原告の受取手形等から把握した収入金額

(2) 書面照会及び入金状況等により把握した収入金額

(3) 原告が大阪方面で集金した金員を中銀及び広銀に送金した金額のうち、取引先は特定できないが収入金額と認められる金額

(4) 各取引銀行の原告の当座預金(一部普通預金を含む。)へ入金されている現金のうち、取引先は特定できないが収入金額と認められる金額

(三) 右の分類に従って各取引先ごとの収入金額を明らかにすると、以下のとおりである。

(1) 原告の受取手形等から把握した収入金額

<1> 堀内誠一からの収入金額

原告は、堀内誠一(以下「堀内」という。)から、別表七の一、二のとおり、昭和五四年中に二九枚額面合計四五四七万一八八円、昭和五五年中に一三枚額面合計二〇〇九万円の手形を受け取り、そのうち別表七の一の14及び22の手形を除き、その外はすべて中銀及び広銀において割り引き、それぞれ原告名義の当座預金口座へ入金した。堀内の原処分調査の際の答述によれば、右受取手形の全部が石材販売代金の決済に係る商取引上の手形であって、融通手形は全くないものと判断されるから、各年中の受取手形の額面金額の合計額をそれぞれの年中の収入金額と認定した。

<2> 谷川雅己からの収入金額

原告は、原告の義弟である谷川雅己(以下「谷川」という。)から別表八のとおり手形(一部小切手を含む。)を受領している。異議調査時の谷川の答述によれば、谷川は原告と、本件各年分中は字彫りと包装資材の販売の取引のみならず石材の仕入取引をも行っていた。そうすると、原告の谷川からの受取手形等はいずれも商品の販売代金の決済に係るものなど営業取引に基づくものと認められるので、被告は、谷川からの受取手形等の全額(昭和五四年分一四四九万四〇〇〇円、昭和五五年分九六四万七六〇〇円、昭和五六年分六一六万円)を原告の谷川からの収入と認定した。

(2) 書面照会及び入金状況等により把握した収入金額別表三の3ないし37までの各取引に係る収入金額については、取引先に対する書面照会及び取引銀行の入金状況の検討から把握した。

(3) 原告が大阪方面で集金した金員を中銀及び広銀に送金した金額のうち、取引先は特定できないが収入金額と認められる金額

原告の取引先からの売上金決済のうちには、かなりの金額について現金及び小切手による受取があり、その預入先は直ちには明らかではない。また、原告の当座預金の入金には、各取引先からの振込入金及び受取手形の割引入金のほかに、原告自身が大阪方面の銀行から振り込んでいる多額の金員が見受けられる。ところで、国税不服審判所の裁決書によると、原告は、毎月末に大阪方面へ売上代金の集金のため出張し、集金額は送金している旨答述していることから、原告自身が大阪方面から送金した金員は、すべて石材販売代金を集金した金員から送金したものと認められるので、収入金額とすべきものといえる。ただ、右送金額のうちには、別表三の各取引先のうち、大阪方面の取引先から受け取った現金及び小切手の集金額が含まれていると考えられるので、送金の都度、その資金源泉と認められる右取引先の現金及び小切手集金の額を送金額から差し引いた上で、その残額の合計額を被告がいまだ取引先を把握していない大阪方面の取引先からの収入金額と認定した。右の考え方に基づき作成した計算表が、別表九の一ないし三であるが、「<1>金額」欄には、原告が大阪方面の銀行から原告の当座預金に振り込んだ額をすべて記載した。また、別表三記載の各取引先のうち、大阪方面に所在し、現金及び小切手により決済を行った取引先は、別表三の8ないし9、15、17ないし20、22、29、35の一五社であり、別表九の一ないし三には、これらの取引先からの現金及び小切手集金の明細を各取引先ごとに記入した。このようにして作成した別表九の一ないし三において、原告が月末に大阪方面で集金した現金及び小切手の合計額(同表「<2>合計」欄の金額)を大阪方面から振り込んだ金額(同表「<1>合計」欄の金額)から差し引いた結果、差引不足額を生じた場合(同表「差引<1>-<2>」欄の△で表示したもの)には、同表に記載した取引先から集金した金額のうちの一部を同表記載の銀行から振り込み、残余の金員は原告が現金又は小切手で持ち帰ったものと推定し、また、差引残額を生じた場合(同表「差引(<1>-<2>)」欄の△のついていない金額)には、同表に記載した取引先から集金した金額だけではなく、いまだ被告が把握することのできない大阪方面の取引先から集金した金員をも含めて、その合計額を同表記載の銀行から振り込んだものと推認した。したがって、同表の各年分の「差引(<1>-<2>)」欄の金額のうち、差引残額を生じたものの合計額(昭和五四年分二一七万八〇〇〇円、昭和五五年分八三万八七〇〇円、昭和五六年分一四八万八四〇〇円)が、取引先は特定できないが、収入金額と認められる金額であり、別表三の38の「その他の取引先<1>」に計上した金額である。

(4) 各取引銀行の原告の当座預金(一部普通預金を含む。)へ入金されている現金のうち、取引先は特定できないが収入金額と認められる金額

原告の当座預金の入金状況を検討すると、各取引銀行ともにかなりの現金入金がある。これらの現金入金の資金源泉は、原告が各取引銀行から現金を引き出して預け替えたもののほかは、石材販売代金を集金していた金額を預け入れたものと考えられるから、右現金入金額から既に判明している取引先から集金した金員を預け入れたと認められる金額と、原告の当座預金及び普通預金から現金を引き出して、預け替えたと認められる金額を差し引いた残額は、集金先は明らかでないが、現金集金による石材販売代金を現金入金したものと認定した。このような考え方に基づいて作成したのが、別表一〇の一ないし三である。同表各欄の「<1>現金入金」欄には、本件各年分における原告の各取引銀行の当座預金への現金入金がすべて入金年月日順に記載されている。また、前記(3)で説明した別表九の一ないし三記載の大阪方面の取引先から集金した金額のうちの一部を同表記載の銀行から振り込んだ後、現金又は小切手で原告が持ち帰ったものと推認される残余の金額(同表「差引(<1>-<2>)」欄において△で表示された金額)と、同表記載の取引先以外の取引先(笠岡市周辺の取引先)から現金で集金した金額(別表一一のとおり)とを右現金入金から差し引くため、別表一〇の「判明している集金先から」欄に計上した。また、前述のとおり、右現金入金のうちには、原告の当座預金及び普通預金から現金引き出しをして預け替えた金額があると推認されるから、当該現金出金額を明らかにするために、被告は、本件各年分における各取引銀行の原告の当座預金からの振出小切手について裏書を調査し、そのうち、本人及び家族が裏書し現金払いをしたものを抽出して同表の「当座預金からの現金出金によるもの」欄に各取引銀行別に記載した。さらに、原告の当座預金以外の現金から引き出された金額を同表の「その他の預金から出金」欄に記載した。このようにして、現金入金額(同表の「<1>現金入金」欄の金額)から現金入金の資金源泉となる可能性のあるすべて手持現金の合計額(同表の「<2>合計」欄の金額)を差し引いた残額(同表の「差引入金額(<1>-<2>)欄のうち「不明収入金」欄の金額)が、資金源泉の明らかでない現金入金である。これらの金額は、被告が把握できなかった売上取引先からの現金集金によるものと考えるほかはないから、前述のとおり原告の石材販売代金であり、原告の本件各年分の収入金額と認定した。ただ、別表一一記載の平山繁正(以下「平山」という。)からの現金入金額(昭和五四年中三一万七〇〇〇円、昭和五六年中四六万円)は現金入金の日が明らかでないため、別表一〇に計上して個別の現金入金額から差し引いていないので、同表の「不明収入金」欄の合計額から、平山からの現金入金額を差し引いた後の金額(昭和五四年分三四三万三九三〇円、昭和五五年分二〇三九万八五九〇円、昭和五六年分二一四九万三三九七円)を取引先は明らかでないが、本件各年分の現金取引による収入金額と認定し、別表三の9の「その他の取引先<2>」に計上した。

(四) 以上のとおり、原告の本件各処分の収入は、別表三「合計」欄のとおり、昭和五四年分が一億四七五万三七七四円、昭和五五年分が一億一七七三万八九一八円、昭和五六年分が一億六〇九万八九〇九円である。

4  税務調査の手続と課税処分の効力との関係等について

(一) 原告は、本件各年分は、原告が民商の会員であることを理由とした差別的不利益処分であり、また、原告が民商の他の会員の課税処分取消請求訴訟の証人として申請されたことを理由として懲罰的になされたものであり、憲法一三条、一四条、一九条及び三一条に反した違法な処分である旨主張するが、原告の本件各年分の事業所得についての調査は、長期間調査がされておらず、また、本件各年分の確定申告による事業所得の金額が端数まで計算されていながらその所得計算の内容は不明であったことから、申告が正しいかどうかを確認する必要があるために行ったものであり、その結果、原告の申告に係る本件各年分の事業所得金額が過少と認められたので、本件各年分をしたものであって、本件各処分は差別的不利益処分でも懲罰的になされたものでもないから、原告のこの点に関する主張は失当である。

(二) 原告は、本件各処分は調査段階において、何ら調査理由が示されず、また、一方的に取引先を調査し、原告の信用を著しく害したものであり、憲法三一条及び三〇条に反する違法な処分である旨主張するが、所得税法二三四条一項の規定は、国税庁、国税局又は税務署の調査権限を有する職員が、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業形態等諸般の具体的事情を考慮して、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同条一項各号規定の者に対して質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである。本件においては、(一)で述べたとおり、長期間調査が行われておらず、また、所得計算の内容が不明であることから、原告の申告が正しいかどうかを確認する必要があると認められたのに、原告が調査に全く協力せず、原告本人に対する調査ができなかったため、係官は、取引等のいわゆる反面調査を行ったものであり、正当な調査権限の行使である。また、取引先等のいわゆる反面調査に当たり、事前に納税者の承諾を得なければならない旨を定めた法令の規定はなく、質問検査権の行使に際し、理由ないし必要性を被質問者に開示ないし告知することは法律上一律の要件とされていないし、反面調査を実施する際事前に納税者の承諾を得ておかなければならないものでもないと解するのが相当であるところ、係官は、前述した調査理由を原告に明らかにした上で、本件各年分の事業所得の調査を行ったものであるから、この点に関する原告の主張も失当である。なお、国税通則法二四条、所得税法二三四条ないし二三六条等に規定された税務調査の手続は、課税庁が課税要件を充足する具体的事実の存否を調査し確認するための手続にすぎず、調査手続自体が所得の存否又はその多寡を問題とする課税処分の要件になることは、いかなる意味においてもあり得ないから、仮に、調査手続に違法があったとしても、それに基づく課税処分が違法になることはない。

5  本件処分の適法性について

被告が主張する原告の本件各年分の事業所得の金額は、別表二のとおりであるところ、本件各更正処分に係る事業所得金額は別表一の一ないし三の「更正」欄に掲げる所得金額のとおりであって、いずれも被告主張の範囲内であるから、被告がした本件各更正処分は適法である。また、原告が本件各年分の所得税を過少に申告していたことにつき、通則法六五条四項に定める正当な理由がある場合に該当しないから、同法六五条一項に基づき、本件各更正処分により納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて被告が行った過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張1(一)の事実のうち、原告が前記住所において石材の加工販売を営む白色申告者であること、原告が被告に対して、本件各年分の所得税について、別表一の一ないし三の各「確定申告」欄記載のとおりの確定申告をしたこと、原告から提出された本件各年分の確定申告書には、事業専従者控除額及び所得金額が記載されているだけであったこと、係官が調査したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同1(二)の事実は否認する。

(三) 同1(三)の事実のうち、原告及び同席していた民商会員らが係官に対して調査理由の開示を求めたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同1(四)の事実のうち、係官が原告の得意先を調査したこと、被告が原告の本件各年分の事業所得を推計計算したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) 同2、3の各事実のうち、昭和五四年分の原告の収入金額については、別表三の3ないし15、38の全額及び同表の1につき三二一七万一八八円の限度で、同表の2につき三〇万円の限度でそれぞれ認めるが、同表の1、2のその余の各金額及び同表の39はいずれも否認する。

同2、3の各事実のうち、昭和五五年分の原告の収入金額については、別表三の8ないし8、10、14、16ないし29、38の全額及び同表の1につき一四〇九万円の限度で、同表の2につき三〇万円の限度で認めるが、同表の1、2のその余の各金額及び同表の39はいずれも否認する。

同2、8の各事実のうち、昭和五六年分の原告の収入金額については、別表三の3、4、6、8、9、11、12、16、18ないし20、22ないし24、26、28ないし38の全額及び同表の2につき三〇万円の限度でそれぞれ認めるが、同表の2のその余の金額及び同表の39はいずれも否認する。

同2、3のその余の各事実は否認する。

(六) 同4、5は争う。

2  原告の反論

(一) 被告は、本件訴訟において、原処分、異議決定、裁決によって認定された収入金額を大幅に上回る収入金額の主張を追加した。原告は、本件訴訟の当初において、争点を明確にし、審理の対象を明らかにしていた。これに対し、被告の追加主張は総額主義に基づくが、これまでの処分経過をほとんど白紙に戻したともいえる内容のものであり、原処分や裁決の正当性の根拠そのものを自ら放棄するものである。

(二) 堀内誠一に対する売上

(1) 昭和五四年分について

被告主張額は、四五四七万一八八円であるが、このうち一三三〇万円は、原告が堀内振出の融通手形を銀行で割り引いて利用した借入金であり、原告の売上は三二一七万一八八円である。右融通手形は、別表七の一のうち、広銀で割り引いた4、8、10、12、15、17、19、20の八通の手形(額面額合計一〇八〇万円)及び中銀で割り引いた額面二五〇万円の手形である。中銀で割り引いた額面二五〇万円の手形は合計五通存在するが、このうち一通を特定することは現時点では困難である。

(2) 昭和五五年分について

被告主張額は二〇〇九万円であるが、このうち六〇〇万円は(1)と同様に堀内からの融通手形であり、原告の売上は一四〇九万円である。右融通手形は別表七の二のうち、額面三〇〇万円の手形三通のうちの二通であるが、それ以上の特定は現時点では困難である。また、右売上のうち、一二〇二万六〇〇〇円が貸倒損失である。

(三) 谷川雅己に対する売上

被告は、谷川からの受取手形の金額を原告の収入金額と主張する。しかし、本件の国税不服審判所の裁決も指摘するように、谷川は石材の字彫り及び包装資材の販売業者であり、原告の石材の売上は微々たるものである。原告の谷川に対する石材の売上は、各年分とも三〇万円を超えることはない。

(四) 原告の当座預金への現金入金について

被告は、原告の当座預金への現金入金を原則として石材販売代金とした。ところで、被告は、別表一〇の一ないし三で不明収入金のみを取り上げたが、「不明収入金」欄の右に「現金持出し」欄がある。これは、現金入金に対応する集金ないし当座からの出金を照合した結果、現金入金額を上回る額を「現金持出し」欄に記入したものである。これをみると、相当な額が非現金入金となっており、手持ち現金が多額にのぼっていたことがわかる。もちろん、そのすべてが手持ちとなっていたわけではない。しかし、右別表がいみじくも示すように、当座に入金しない現金が多額に存在していたことは、必要があればいつでも当座に現金入金できる条件が備わっていたものとみることができる。被告は「不明収入金」のみを問題とするが、原告の入出額の全体像をみるためには、「現金持出し」分を無視することは許されない。これを見落とすことは全くの片手落ちである。被告は、現金入金額から、取引先からの集金と当座等からの出金を差し引いた金額を「不明収入金」としたが、入金の可能性のあるものを差し引くのであれば、「現金持出し」分を何故全く無視することができるのであろうか。手持現金が入金可能性において集金に劣るとする理由はどこにもない。右別表は、むしろ原告に多額の手持現金があったことを証明するものであり、これによる現金入金の可能性を明らかにし、結局、「不明収入金」を打消す決定的な資料となるものである。

五  原告の反論に対する被告の再反論

1  原告の融通手形の主張について

原告は、堀内から振り出された手形について、本件各年分のうち昭和五四年に受領した手形中、一〇八〇万円については、売上代金の決済に係る商業手形ではなくて融通手形であると主張するが、これに副う原告の供述は不明確で矛盾しており、到底信用できず、従って右主張は失当である。

2  原告の貸倒損失の主張について

原告は、昭和五五年分における堀内に対する売上のうち、一二〇二万六〇〇〇円は貸倒れになったものであるから、右金額は事業所得の計算上、貸倒損失として控除されるべきであると主張する。しかし、右金額は、以下に述べるとおり、所得税法上、原告の右年分の貸倒損失等として必要経費に算入することはできない。

(一) 所得税法上の貸倒損失等

個人の営む事業所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権(以下「貸金等」という)の貸倒れにより生じた損失の金額は、その者のその損失が生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費の額に算入することとされており(所得税法五一条二項)、債務者の支払不能に起因して貸金等が消滅した場合は貸倒れとなるのであるが、税務執行上、企業の健全性保持の観点から、これに準ずる事情を生じた場合も貸倒損失等として必要経費に算入することを認める取扱を行っており、その概要は次のとおりである。

(1) 法律上貸金等が消滅した一定の場合の必要経費への算入

貸金等の貸倒れとは、原則として貸金等が法律上消滅した一定の場合である。すなわち、貸金等について<1>和議法の規定による和議の決定等法令の定める整理手続により貸金等の全部又は一部が切り捨てられた場合、<2>法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定で合理的な基準により貸金等の全部又は一部が切り捨てられた場合、<8>金融機関等のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が<2>に準ずる場合、<4>債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その賃金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対して債務免除額を書面により通知した場合等には、その金額は貸倒損失として必要経費に算入する(昭和四五年七月一日直審(所)30「所得税基本通達」五一-一一(昭和五二年直所三-三三による改正後のもの)(以下、右通達を「基本通達」という。)

(2) 法律上貸金等は存在するが事実上回収不能である場合の必要経費への算入

税務執行上は、基本通達において例外的に、右の原則に準じる取扱として、法律上貸金等は存在するが、事実上その金額が回収できない場合には、その金額を貸倒損失として必要経費に算入することにしている。すなわち、貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合には、当該債務者に対して有する貸金等の全額について貸倒れになったものとして、当該貸金等に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する(基本通達五一-一二)。

(3) 債権償却特別勘定の設定による場合の必要経費への算入

法律上貸金等が存在する場合には、基本通達五一-一二の規定では、その貸金等の全額が回収不能でなければ貸倒損失として必要経費に算入できないところ、この貸倒処理の例外として、次のとおり一定の条件に該当する場合には、債権勘定はそのまま存置しながら、その貸金等のうち一定の金額を債権償却特別勘定(一種の引当金)を設定し、その引当金への繰入額を必要経費に算入できることとし、実質上、部分的な貸倒処理を認めている。

<1> 貸金等に係る債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがないこと、その他当該債務者に一定の事実が発生し、当該賃金等の額の相当部分について回収の見込みがないと認められる場合において、回収の見込みがない金額としてあらかじめ税務署長の認定を受けたときには、その認定を受けた金額をその認定を受けた年において債権償却特別勘定へ繰り入れ、必要経費に算入することができる(基本通達五一-一八)。

<2> 賃金等にかかる債務者について破産又は和議の開始の申立て等一定の事実が生じた場合には、税務署長の認定を要することなく、一定の範囲内の金額を債権償却特別勘定へ繰り入れ、必要経費に算入することができる(基本通達五一-一九、五一-二〇)。

<3> 賃金等が法令の定める整理手続等に基づいて、たな上げ又は年賦償還されることとなった場合には、当該賃金等の額のうち、これらの事実のあった年の翌年一月一日以後五年を経過した日以後に弁済されることとなる金額を当該年において債権償却特別勘定へ繰り入れ、必要経費に算入することができる(基本通達五一-二一)。

<4> 以上のほか、「状況が変化した場合等の債権償却特別勘定の積増し」(基本通達五一-二二)、「割賦未収金等についての債権償却特別勘定の設定」(基本通達五一-二二の二)の取扱いにより必要経費への算入を認めている。右(1)、(2)の税務執行上の取扱いは、多くの事例について広く一般に適用され、定着している。

(二) 原告の堀内に対する売掛債権の貸倒れの有無等

右のとおり、所得税法上、賃金等の貸倒損失の必要経費への算入については、法律上賃金等が消滅した一定の場合のほか、法律上賃金等は存在していてもその回収が事実上不可能である場合にも、一定の条件のもとに貸倒処理を認め、あるいは債権償却特別勘定を設定することによってその範囲を広げている。これを本件についてみると、少なくとも本件各年分においては、次のとおり右(一)の(1)ないし(3)のいずれかの場合に該当するとは認められないから、原告の貸倒れに関する主張は失当である。

(1) 売掛債権の法律上の存在

堀内が営んでいた堀内石材店の倒産(昭和五五年五月)時における原告の堀内に対する売掛債権額は、原告が堀内の在庫商品を売掛金の一部として回収した額を控除した後の金額である一二〇〇万円ないし一三〇〇万円と認められるところ、右債権については、堀内石材店の倒産後間もなく、原告と堀内との間において、その返済についての話し合いが持たれ、その結果、当該債権が存在することを再確認するとともに五年間で返済することを内容とする借用書が作成され、さらに、昭和六〇年八月には、右借用書は更新されているのであるから、本件各年分においては当該債権は法律上存在している。

(2) 売掛債権が事実上回収不能か否かの認定

法律上売掛債権は存在するが、その回収が事実上不可能である場合の必要経費への算入を認める取扱いは、債権が法律上消滅した一定の場合に準ずるものとして例外的に認められているのであるから、本件の場合、貸倒損失が認められて必要経費となるかどうかは、原告の堀内に対する売掛債権が、事実上その全額が回収不能であるか否かによって決せられる。そして、事業所得の算出上、ある年度に債権の貸倒れが生じたとして、その額を当該年度の必要経費に算入することができるのは、債務者の行方不明、刑の執行、破産又は和議手続の開始、事業の閉鎖、債務超過の状態が相当期間継続し事業再起の見通しがないこと、その他これらに準ずるなどして債権の回収の見込みがないことが当該年度中に確実になった場合に限られると解すべきところ、右債権は、少なくとも本件各年分において、その全額が直ちに確実に回収不能になったと認めることはできず、仮に貸倒損失が認められるとしても、その時期は堀内が所在不明となった昭和六一年八月以降である。その全額が回収不能となったときの判断は、課税の公平を維持するために公正な時点をとらえなければならない。なぜならば、その判断の時期が早すぎると、必要経費を繰上計上することになり、その判断が遅すぎるときには、必要経費の計上が繰り延べられるから、ときには損失金額の繰越期間の実質的延伸が工作される弊害も予想され、課税の公平を損なうことになるからである。

原告の堀内に対する売掛債権は、右(1)で述べたとおり、五年間で返済することを内容とする借用書が堀内石材店の倒産後に作成されており、さらに、昭和六〇年八月には右借用書は更新されているのであるから、その返済期限は、少なくとも昭和六〇年八月まで猶予されていると認められる。また、返済については、右債権の存在を前提として、昭和六〇年八月、昭和六一年七月及び同年八月の三回にわたって合計三〇万円ないし四〇万円の返済があり、この返済の事実については原告も自認しているところであって、右返済以外にも、原告は堀内に対し、度々その債務の返済を催促していると認められる。

さらに、堀内には、堀内石材店の倒産後の昭和五六年から昭和六一年八月までは給与収入(月収一五万円)があるところ、債権は、債務者の資力不足によって現実に取立不能のものであっても、債権者において債権の放棄又は債務の免除をせず、これを取立る意思のある限りは、その債権者の所得というを妨げないと解すべきであって、原告は未だ堀内に対する売掛債権の放棄をしておらず、かつ、昭和六一年八月までは当該債権の一部を回収しているのであるから、当該債権は、前記年分において、その全額が回収不能になったと認めることはできない。

(3) 債権償却特別勘定の設定による必要経費算入の適否

債権償却特別勘定の設定により必要経費へ算入できる場合として原告に該当するのは、右(一)の(3)の<1>(基本通達五一-一八)の場合のみであるが、これによる場合は、債権償却特別勘定の設定について税務署長の認定が必要条件となっているうえ、当該認定を受けて債権償却特別勘定を設定するか否かは納税者の選択に委されており、原告の場合は税務署長の認定を受けていないから、同通達適用の余地はない。

3  別表一〇の一ないし三の「現金持出し」に関する原告の主張について

原告は、別表一〇の一ないし三の「現金持出し」欄について、これは現金入金に対応する集金ないし当座からの出金を照合して現金入金額を上回る額を「現金持出し」として記載したものであり、このことから、当座預金に入金しない現金が多額に存在していたことは、必要があればいつでも当座預金に現金入金できる条件が備わっていたとみることができるから、「不明収入金」を検討するについて、「現金持出し」分を全く無視することはできないと主張する。しかし、同表の「現金持出し」欄を検討すれば明らかなように、「現金持出し」から次の現金入金までの期間が二週間ないし三週間と相当な期間があることから、この期間多額の現金を預金もせずに手元に置いておくということは、通常の商取引上からは極めて不自然なことであり、また、現金入金がほとんど毎月末、もしくは月初めに集中していることからみても、この現金入金は石材の販売代金と認められるから、原告の主張は失当である。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実及び原告が前記住所において石材の加工販売を営む白色申告者であること、原告から提出された本件各年分の確定申告書には、事業専従者控除額及び所得金額が記載されているだけであったこと、係官が調査したこと、原告及び同席していた民商会員らが係官に対して調査理由の開示を求めたこと、係官が原告の得意先を調査したこと、被告が原告の本件各年分の事業所得を推計計算したことは、当事者間に争いがない。

二  本件税務調査の適法性及び推計の必要性

原告は、本件各処分が、原告が民商の会員であることを理由として差別的不利益処分であり、また、原告が他の民商会員の課税処分取消請求訴訟の証人として申請されたことを理由として懲罰的になされたものであって、憲法一三条、一四条、一九条、三一条に反する違法な処分であると主張する。しかし、本件全証拠によっても、被告が、原告が民商の会員であること等を理由に本件各処分をしたとは認められないから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、本件各処分が、その調査段階において何ら調査理由が示されず、一方的に取引先を調査し、原告の信用を著しく害したもので、憲法三一条、三〇条に反する違法な処分であると主張するので検討する。

前記一の争いのない事実に、成立に争いのない乙第三七号証の一、二、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各年分の所得税について、別表一の一ないし三の各「確定申告」欄記載のとおりの確定申告をしたが、右確定申告書には、本件各年分とも事業専従者控除額及び所得金額のみが記載され、収入金額、必要経費は記載されていなかったこと、このため、所得の計算内容は不明であったが、右確定申告書に記載された所得金額は端数まで記載されていたことから、係官は、原告が帳簿等に基づいて所得金額を算出したものと判断したこと、そこで、被告は、その以前の数年間、原告に対して税務調査をしていなかったことや右申告が正しいか否かを確認する必要があると考え、昭和五七年八月二日頃、係官が原告方を訪問し、原告に対して、本件各年分の所得税調査を行うことを告げたうえ、帳簿書類を提示するよう求めたこと、これに対して、原告は、調査理由を開示するよう要求し、帳簿書類の提示には応じなかったこと、その後、係官は、同年九月七日頃及び同月一四日に原告方を訪問し、帳簿書類の提示を求めたが、原告や同席していた民商会員は、調査理由を開示するよう要求し、帳簿書類の提示に応じなかったこと、このため、係官が原告の得意先に書面照会を行うなどして原告の売上金額を調査したことの各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、係官は、原告方を訪問して調査するに当たり、予め原告に対して本件各年分の所得税調査を行うことを告げたうえで帳簿書類の提示を求め、原告がこれに応じなかったことから原告の得意先に書面照会を行うなどして原告の売上金額を把握しようとしたものであるから、右調査に基づく本件各処分が憲法三一条、三〇条に反し違法であるとの原告の主張は理由がない。

さらに、右認定事実によれば、原告は係官の税務調査に対し、本件各年分の所得を実額で算定するために必要な帳簿書類等の提示をせず、調査について非協力的態度に終始したため、被告は原告の本件各年分の所得金額を実額で把握することができなかったのであるから、本件各処分時において、推計課税の必要性があったというべきである。

三  次に、原告の本件各年分の事業所得金額について、以下順次検討する。

1  推計の合理性について

被告は、原告の取引先や当座預金等の調査から原告の本件各年分の収入金額を把握し、これに類似同業者の平均所得率を乗じて算出所得金額を求めたうえ、その金額から支払利子割引料及び事業専従者控除額を控除して本件各年分の事業所得金額を算出しているので、まず、その推計の合理性について検討する。

成立に争いのない乙第三五号証、証人村中豊の証言及びこれにより成立の認められる乙三六号証の一ないし三、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  広島国税局長は、昭和六二年二月二〇日付で被告に対し、「類似同業者の事業内容等の報告について」と題する通達を発し、原告と同様に石材の加工販売を営む個人のうち、本件各年分について、原告と事業規模の類似性及び資料の正確性を確保するため、次の(1)ないし(6)の各条件に該当する者の事業内容等について報告を求めた。

(1) 所得税の確定申告を青色申告書により提出することの承認を得ている者

(2) 本件各年分の中途において開廃業、休業又は業態の変更をしていない者

(3) 本件各年分に係る所得税について、不服申立て又は取消訴訟を提起していない者

(4) 当該事業所得の収入金額が五〇〇〇万円以上一億五〇〇〇万円以下の範囲の者

(5) 従業員数(事業者を含む)が四名以上一〇名以下の範囲の者

(6) 青色事業専従者が二名ないし三名の範囲の者

(二)  右通達の条件に該当する同業者は、本件各年分ともに別表四記載の三名のみであったので、被告は、昭和六二年三月二七日付で広島国税局長に対し、右三名を同業者として報告した。右三名の同業者の本件各年分における事業内容等は別表六記載のとおりである。そして、右三名の同業者の本件各年分の収入金額から売上原価、一般経費、特別経費(外注費、給料賃金、地代家賃、減価償却費等)を控除して別表四の「算出所得金額」欄記載のとおりに所得金額を算出した(なお、同業者のOのみは、売上原価の中に外注費が含まれている。)。右所得金額の収入金額に対する比率(所得率)は別表四の「所得率」欄記載のとおりであり、右三名の同業者の本件各年分における平均所得率は、同表の「平均所得率」欄記載のとおりである。

右認定事実によれば、右同業者の選定基準は、業種、事業所の所在地、事業規模の点から同業者としての類似性を求めようとするものであって合理性があり、しかも、右同業者の選定に当たって被告の恣意が介在する余地は認められず、また、右各同業者は、いずれも本件各年分を通じて事業を継続する青色申告者であって、その申告が確定していることから、右同業者の所得金額等の算出根拠となる資料の正確性も高いと解されることからすると、右三名の同業者の所得率を適用して原告の本件各年分の事業所得金額を推計することは、合理性があるというべきである。

2  収入金額について

(一)  昭和五四年分の原告の収入金額のうち、別表三の3ないし15、38記載の全額及び同表の1につき三二一七万一八八円の限度で、同表の2につき三〇万円の限度で、また、昭和五五年分の収入金額のうち、同表の3ないし8、10、14、16ないし29、38の全額及び同表の1につき一四〇九万円の限度で、同表の2につき三〇万円の限度で、さらに、昭和五六年分の収入金額のうち、同表の3、4、6、8、9、11、12、16、18ないし20、22ないし24、26、28ないし38の全額及び同表の2につき三〇万円の限度でそれぞれ収入があったことは当事者間に争いがない。

(二)  堀内に関する融通手形の主張(別表三の1)について

原告は、別表七の一、二記載の受取手形のうち昭和五四年については、広銀で割り引いた別表七の4、8、10、12、15、17、19、20の八通の手形と現時点では特定できない中銀で割り引いた額面二五〇万円の手形一通が、昭和五五年については、別表七の二の2、4、7のうちの二通(額面合計六〇〇万円)が融通手形であると主張するので、以下検討する。

成立に争いのない甲第一号証、第二、第三号証の各一ないし三、乙第一三、第一六、第三八ないし第四一号証、証人村中豊の証言及びこれにより成立の認められる乙第五、第七号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一四、第一五号証、原告本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告は、堀内から、昭和五四年に別表七の一記載の手形を、昭和五五年に別表七の二記載の手形をそれぞれ受け取っている。原告は、昭和五四年及び昭和五五年当時、堀内との間で石材の取引があり、原告は、その代金の支払として堀内から約束手形を受け取っていた。

(2) 原告は、昭和五四年頃、約四五〇〇万円の費用で石材工場と自宅を新築したが、その費用の大部分は借入金でまかなわれた。

(3) 堀内は、昭和五五年五月に事実上倒産したが、その時点で、原告は堀内に対し、在庫品の引き揚げ額を除いて、一二〇〇万円程度の売掛代金債権を有していた。もっとも、原告が堀内から受け取った堀内振出にかかる手形のうち、右倒産に伴って不渡りとなった手形は、額面合計二一四〇万円(昭和五四年振出分四六〇万円、昭和五五年振出分一六八〇万円)であり、右未回収売掛代金債権額を約九〇〇万円上回っている。

(4) 本件各年分当時における原告の取引銀行は、中銀、広銀、玉信であったが、このうち主な取引銀行(いわゆるメインバンク)は中銀であった。原告の中銀の当座預金に対しては、昭和五四年には原告の一一の取引業者から、昭和五五年には二一の取引業者から、昭和五六年には一八の取引業者(昭和五四年、昭和五五年には堀内を含む。)から手形、小切手による多数回の入金がある。原告の広銀の当座預金に対しては、昭和五四年、昭和五五年分に限ると、堀内と谷川から入手した手形に対する入金がほとんどであり(昭和五四年においては、堀内から四回、谷川から五回、昭和五五年においては、堀内から三回、谷川から五回)、その他の取引業者から入金はごくわずかである。

(5) 前項の入金のうち、堀内振出の手形については、中銀と広銀に同日付、あるいは一日違いで入金されていることが相当回数あり、しかも、その手形の手形番号が中銀と広銀で相互に連番になっていたり、後の番号の手形の振出日が前になっていることが多く、かつ支払期日も同一になっている。これに対し、他の取引業者については、谷川振出の手形の中に同様の状況が散見されるのを除いては、堀内の場合のような入金状況の特徴は見受けられない。

右認定事実によれば、昭和五四年及び昭和五五年当時、原告には融通手形を利用して資金を入手する必要性のあったことが窺われるうえ、堀内が倒産した当時、堀内振出の手形で不渡となった金額が、その時点における原告の堀内に対する残債権額を上回っていたこと、原告の各取引銀行における当座預金の入金状況には、前記の特徴的な傾向が見受けられ、これに、原告は中銀をメインバンクにしていたので、原則として、実際の商取引の決済のための商業手形は中銀を決済場所にし、融通手形は広銀を決済場所にしていた旨の原告本人尋問の結果を考慮すると、堀内振出の手形には融通手形が存在したことは否定できない。

しかして前記認定の不渡となった堀内振出の手形が堀内に対する残債権額を約九〇〇万円上回ること、広銀割引にかかる手形の番号、振出日、支払期日、入金日等を併せ考えると、原告が融通手形であると主張する各手形のうち昭和五四年分については、別表七の一の4、8、10、12、15(額面合計六三〇万円)、昭和五五年分については、別表七の二の7(額面三〇〇万円)が融通手形であると認めるのが相当であり、これに反する原告本人尋問の結果は信用しない。そうすると、被告が主張する原告の昭和五四年分及び昭和五五年分の各収入から右融通手形分を控除すべきである。

(三)  堀内に関する貸倒損失の主張(別表三の1)について

原告は、昭和五五年分の売掛金のうち、一二〇二万六〇〇〇円については、堀内が同年五月に倒産したことに伴い貸倒れとなったと主張する。

ところで所得税法五一条二項により貸倒損失として必要経費に計上できるのは、債務者に対し債務免除の意思表示をした等債権が法律上消滅した場合又はその債務者の資産状況、支払能力等からみて債権が回収できないことが明らかになった時など法律上債権は存在するが、その回収が事実上不可能である場合のいずれかに該当することが必要である。

そこで検討するに、前記乙第四〇、第四一号証、証人村中豊の証言、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 堀内は、昭和五五年五月三一日に手形不渡による銀行取引停止処分を受けて事実上倒産し、その後しばらく残務整理をしていたが、昭和五六年から昭和六一年八月頃までは、奈良県内の会社に勤務し、その間、一五万円程度の給料を得ていた。

(2) 右倒産後間もなく、堀内の原告に対する売掛代金債務の存在及び金額を再確認し、右債務をある程度の期間にわたって返済する目的で、原告を債権者、堀内を債務者、堀内の息子である堀内一裕を連帯保証人とし、五年間で右債務を完済するとの内容の借用書を作成した。

(3) 右借用書の作成から約五年後の昭和六〇年八月頃、右借用書を更新することになり、堀内のもう一人の息子である堀内郁夫が新たに連帯保証人に加わり、月三万円ないし五万円程度を返済するとの内容の借用書を作成するとともに、その際、原告は堀内から一〇万円の返済を受けた。

(4) 原告は、昭和六一年七月頃と同年八月頃の二回にわたり、堀内から合計二〇万円ないし三〇万円の返済を受けた。

(5) 最初の借用書の作成から借用書を更新するまでの間、原告やその関係者が堀内に対し、電話で再三にわたって支払を請求していた。また、借用書を更新後、昭和六一年八月頃までの間も、原告の関係者が堀内宅を訪れて支払を請求し、あるいは原告やその関係者が電話で再三にわたって支払を請求していた。

(6) 堀内は債権の取立を避けるため、昭和六一年八月頃に転居し、詳しい住居は家族にもわからない状態になっている。

(7) 原告は堀内に対し、債務を免除する旨表明したことはないが、現在では、右債権の回収を諦めている。原告は、堀内に対する右債権につき、被告から、債権償却特別勘定の認定(基本通達五一-一八)を受けたことはない。

右認定事実によれば、原告の堀内に対する昭和五五年分の売掛債権は、法律上有効に存在しているうえ、堀内は、昭和六一年八月頃まで給与収入があり、実際にもその頃までに三回わたって堀内から返済を受け、その間、借用書も更新しているのであるから、昭和五五年及び昭和五六年中に右債権の回収が事実上不可能であったとは認められず、また、原告は被告から、債権償却特別勘定の認定も受けていないのであるから、右勘定による必要経費への算入はできないというべきであり、原告の貸倒損失の主張は理由がない。

(四)  谷川に対する売上(別表三の2)について

被告は、別表八に記載された谷川からの受取手形(一部小切手を含む。)の全額が谷川に対する売上である旨主張し、原告は谷川に対する売上は、本件各年分ともに三〇万円を超えるものではない旨主張するので、以下検討するに、前記争いのない事実前記甲第一号証、乙第一三ないし第一六号証、証人村中豊の証言及びこれによって成立の認められる乙第六、第七号証、原告本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第一五号証の一ないし二七、第一六号証、官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分につき弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二、第三号証、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、証人村中豊の証言のうち右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 谷川は原告の妹婿であり、本件各年分当時、石材製品の梱包資材の販売と字彫り(墓石に文字を彫ること)を主に営んでいた。原告が本件各年分につき谷川から受け取った手形等は別表八記載のとおりである。右手形等の中には小切手(同表の昭和五五年分の6、昭和五六年分の1、2)が含まれている。また、同表記載の手形の中には、額面の下四桁が零でない手形が昭和五四年分につき合計二三五万四〇〇〇円(同表の同年分の5、8、11、17)、昭和五五年分につき合計二〇八万七六〇〇円(同表の同年分の10ないし12)、昭和五六年分につき合計三〇四万円(同表の同年分の6ないし9)存在している。そして、同表記載の手形等の多くが原告のメインバンクである中銀に入金されている。

(2) 谷川が、本件各年分当時、原告との間で、石材の梱包資材の取引と字彫りの取引の外に、石材の取引もしていた。

(3) 谷川の実兄である藤原力(以下「藤原」という。)は、谷川から、大阪方面における石材の販路拡張や得意先との折衝について協力を求められ、昭和五五年頃から約二年間、石材の販売に従事した。右営業においては、藤原が顧客から石材を受注し、これを谷川に連絡すると、谷川は字彫りを伴なうものについては谷川から注文先に商品を送り、字彫りを伴わないものについては谷川の判断で、谷川自身を受注者にする場合と原告を受注者にする場合とに分けていた。藤原は注文主である顧客から集金したものは、谷川や原告に送金していた。原告の収入のうち藤原からのものは、別表三の19記載のとおり、昭和五五年分が二七三万三〇〇〇円、昭和五六年分が三三六万一〇〇〇円である。

(4) 谷川は、昭和五四年頃に得意先が倒産し、一〇〇〇万円程度の貸倒れが発生したことから、原告に依頼して融通手形を振り出してもらった。右手形の決済は、谷川が原告に直接現金を持参して来たり、原告の預金口座に入金して行っていた。原告が谷川に融通した手形の方が多く、また原告が谷川に振り出した約束手形と谷川が原告に振出した約束手形にはその振出年月日、支払期日及び額面金額の類似するものが多い。右認定事実によれば、別表八記載の手形等のうち、通常商取引の決済に使用される小切手(同表の昭和五五年分の6、昭和五六年分の1、2)及び額面金額の下四桁が零ではないことから商取引の決済に使用された可能性が高いと解される各約束手形(昭和五四年分につき二三五万四〇〇〇円、昭和五五年分につき二〇八万七六〇〇円、昭和五六年分につき三〇四万円)を除く各手形は融通手形であると解するのが相当である(なお、原告本人尋問の結果中には、石材の販売代金が融通手形の金額に含まれていたとの部分が存在するが、右供述部分は信用できない。)。そうすると、谷川からの収入金額は、昭和五四年分が二三五万四〇〇〇円、昭和五五年分が二四三万七六〇〇円、昭和五六年分が四〇四万円と認めるのが相当である。

(五)  各取引銀行の原告の当座預金(一部普通預金を含む。)へ入金されている現金のうち、取引先は特定できないが収入金額と認められる金額(別表三の39)について

前記乙第一三ないし第一六号証、証人村中豊の証言及びこれによって成立に認められる乙第八、第一〇ないし第一二号証、によれば、原告の各取引銀行の当座預金(一部普通預金を含む。)への現金入金額は、別表一〇の一ないし三の「<1>現金入金」欄記載のとおりであり、また、判明している取引先から集金した金額と原告が現金を預け替えるために当座預金(一部普通預金を含む。)から引き出した金額との合計額が別表一〇の一ないし三の「<2>合計」欄記載の金額であることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、被告は、別表一〇の一ないし三の「<1>現金入金」欄記載の金額から同表の「<2>合計」欄記載の金額を差し引いた後の残額を同表の「不明収入金」としてそのまま原告の収入金額(別表一一記載の平山繁正からの現金入金額については、入金日が特定できないために別表一〇の一ないし三に計上できないので、「不明収入金」から右現金入金額を差し引いた額を収入金額としている。)とし、「<1>現金入金」欄記載の金額から「<2>合計」欄記載の金額を差し引いた結果、マイナスになる場合の金額(同表の「現金持出し」欄記載の金額)については、「<1>現金入金」から一切控除していないが、この点について、原告は、「現金持出し」欄記載の金額は、手持現金としていつでも当座預金へ入金が可能であったから、「不明収入金」を検討する際に「現金持出し」を無視できないと主張するので、以下検討する。

前記各証拠によれば、別表一〇の一ないし三の「現金持出し」欄記載の金額は、原告が集金しながら各取引銀行の当座預金に入金せずに、手持現金として手元に置いていた金額であることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。この「現金持出し」額が、その後に当座預金に入金されていないかが問題となるが、同表の「現金持出し」日から次の現金入金までに二週間以上の間隔のあるのがかなりの割合を占めており、原告がこれらの多額の現金を二週間以上も預金せずに手元に置いておくということは不自然であり、また、原告が手形による融通を受けていたことも合わせ考慮すれば、次回の現金入金までに二週間以上の期間のある「現金持出し」欄記載の金額については、その金額を次回の現金入金から控除する必要はないというべきである。これに対して、「現金持出し」から次回の現金入金までの期間が二週間未満のものについては、次回の現金入金に回された可能性があり、次回の現金入金額から控除する必要があると解される。もっとも、これらの金額中、次回の現金入金について「不明収入金」が生じていないものについては、次回の現金入金から控除しても、原告の収入としての「不明収入金」の金額に影響を与えないのであるから、次回の現金入金により「不明収入金」が生じているものについてのみ、次回の現金入金から控除するのが相当である。そうすると、昭和五五年分の「現金持出し」については、六月一〇日の三七万二五〇〇円、七月二五日の六万二五〇〇円、九月四日の六一万二〇二五円のうち三〇万円(次回現金入金による「不明収入金」)、昭和五六年分の「現金持出し」については、二月二〇日の四七万一三〇〇円のうち一万円(次回現金入金による「不明収入金」)、六月一六日の五万円がそれぞれ「不明収入金」の金額から控除されるべきである。したがって、別表三の39の「その他の取引先<2>」は、昭和五四年分が三四三万三九三〇円、昭和五五年分が一九六六万三五九〇円、昭和五六年分が二一四三万三三九七円となる。

四  以上検討したところによれば、本件各年分の原告の収入金額は、昭和五四年分が八六三一万三七七四円、昭和五五年分が一億六七九万三九一八円、昭和五六年分が一億三九一万八九〇九円となるところ、証人村中豊の証言並びに弁論の趣旨によれば、本件各年分の利子割引料の金額は別表二の各<4>記載のとおりであり、事業専従者控除額は八〇万円と認められるから、右各金額に別表二記載の算出経過に基づいて原告の本件各年分の事業所得を算出すると、昭和五四年分が七五〇万七五四七円、昭和五五年分が一〇二三万七三八二円、昭和五六年分が五七八万四五三〇円となる。そうすると、本件各更正処分(昭和五五年分及び昭和五六年分については審査裁決により取消された部分を除く。)は、本件各年分の事業所得の金額の範囲内であって、これを上回るものでないから、違法はなく、また、原告が本件各年分の所得を過少に申告していたことにつき、通則法六五条四項所定の正当な理由があったと認められないから過少申告加算税の賦課決定処分にも違法はない。

五  よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 安原清蔵 裁判官 遠藤邦彦)

別表一の一

課税処分経過表(昭和五四年分)

<省略>

別表一の二

課税処分経過表(昭和五五年分)

<省略>

別表一の三

課税処分経過表(昭和五六年分)

<省略>

別表二

事業所得の金額の算出経過表

<省略>

別表三

収入金額の明細表

<省略>

別表四

類似同業者の比較表

<省略>

別表五

支払利子割引料の明細表

<省略>

別表六

類似同業者の選定表

<省略>

別表七の一

堀内誠一からの受取手形等一覧表

1 昭和五四年分(手形番号順)

<省略>

別表七の二

堀内誠一からの受取手形等一覧表

2 昭和五五年分(手形番号順)

<省略>

別表八

谷川雅己からの受取手形の状況

昭和54年分

<省略>

昭和55年分

<省略>

昭和56年分

<省略>

表九の一

大阪市内からの本人振込の解明表 昭和54年分

<省略>

表九の二

大阪市内からの本人振込の解明表 昭和55年分

<省略>

表九の二

大阪市内からの本人振込の解明表 昭和55年分

<省略>

表九の三

大阪市内からの本人振込の解明表 昭和56年分

<省略>

別表一〇の一

現金入金の解明表 昭和54年分

No.1

<省略>

別表一〇の一

現金入金の解明表 昭和54年分

No.2

<省略>

別表一〇の二

現金入金の解明表 昭和55年分

No.1

<省略>

別表一〇の二

現金入金の解明表 昭和55年分

No.2

<省略>

別表一〇の二

現金入金の解明表 昭和55年分

No.3

<省略>

別表一〇の三

現金入金の解明表 昭和56年分

No.1

<省略>

別表一〇の三

現金入金の解明表 昭和56年分

No.2

<省略>

別表一〇の三

現金入金の解明表 昭和56年分

No.3

<省略>

別表一一

笠岡市周辺からの現金集金一覧表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例