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岡山地方裁判所 昭和43年(タ)17号 判決 1969年3月20日

本籍並住所 岡山県玉野市

原告 大田葉子(仮名)

国籍 カナダ国 住居所不明

被告 ドナルド・クラグストン(仮名)

主文

原告と被告とを離婚する。

原告と被告との間の長男ジョン・健治・クラグストン、次男ルース・正治・クラグストン両名に対する親権者を原告と定める。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告は日本人で肩書地に本籍と住居を有する者であるが、昭和三三年六月頃当時米国船の船員であつたカナダ国々籍を有する被告と岡山県○○市で知り合い、交際しているうちその関係を深め、昭和三三年一二月下旬より東京都渋谷区○○にアパートを借りて事実上の婚姻関係に入り、次いで翌昭和三四年一月一六日東京都渋谷区長に対し婚姻の届出を行ない法律上の婚姻をなした。

二、被告は船員をやめた後、昭和三四年六月米国に本店を有するピー・エス工事会社日本営業所に就職したが、在留期間の制限もあつた関係上間もなく韓国に渡り同国釜山市にある米軍基地で同社の勤務に従事することとなつたので、原告も前記アパートを引き払い肩書地住居へ帰り洋裁店を営むかたわら被告が生活資金を充分蓄積して無事帰還するのをひたすら待つ身となつた。なお、原告はこれより以前被告の長男ジョン・健治・クラグストンを懐妊し、被告の渡韓後である昭和三四年一〇月二〇日出産した。ところで、被告は渡韓後約一年間は毎月原告宛生活費の送金を行ない、また昭和三五年八月頃および昭和三七年八月頃の二回にわたり我が国へ一時的に帰還し、第一回目は二ヵ月、第二回目は二週間いずれも原告の肩書地本籍に滞在して原告と生活を共にしたが、第一回目の滞在期間中原告は再び被告の次男ルース・正治・クラグストンを懐妊し、昭和三六年六月三日出産した。

三、しかるに、被告は第二回目の帰還後三たび韓国へ渡つたまま原告のもとへ帰らないのみか、生活費も送らないようになり、遂に昭和三九年七月一七日付の同国京城市から原告宛の便りを最後として音信不通となり、以後その所在が不明となつた。原告は被告の捜索のため英国の駐韓大使館に照会するなど手を尽したが、その行方は分らず今日に及んでいる。

四、そこで原告は、被告に対し、民法第七七〇条第一項第二、三、五号の各事由により被告との離婚を求めると共に、原被告間の長男ジョン・健治・クラグストン、次男ルース・正治・クラグストン両名は、出生から現在に至るまで終始原告が養育監護してきたものであるから、その親権者に原告を指定することを求める。

と述べ、証拠として甲第一ないし第六号証を提出し、証人大田美智代の証言および原告本人尋問の結果を援用した。

被告は公示送達による呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他準備書面を提出しない。

理由

一、先ず職権をもつて本件に対する一般(国際)管轄権について判断する。その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一号証(住民基本台帳)、第二号証(戸籍謄本)、第四、五号証(いずれも登録済証明書)、第六号証(書留郵便物受領証)、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨により真正な成立を認められる甲第三号証(手紙)の各記載に、証人大田美智代の証言および原告本人尋問の結果を総合すると、原告主張の請求原因事実をすべて認めることができる。

そうすると、原告が、被告の渡韓に伴い被告との共同生活の場所であつた東京都渋谷区○○のアパートを引き払い、岡山県○○市の現住居へ帰り同所で洋裁店を営むようになつてからも、被告は当初同所に生活費を送金し、かつ昭和三五年および昭和三八年の二回にわたり韓国から原告のもとへ帰還し同所で相当期間原告と生活を共にしたのであるから、原告が我が国に住所を有することは疑問の余地がなく、原被告間の夫婦共同生活体の本拠も我が国にあると認めるのが相当である。しかも、被告は昭和三九年以来所在不明なのであり、このような場合にもいたずらに被告の住所がわが国にあることの原則に固執することは、国際私法における正義公平の理念にもとる結果を来たすから、本件について我が国の裁判所は一般(国際)管轄権を有すると解すべきである(最判昭和三九年三月二五日民集一八巻三号四八六頁参照)。

次に、特別(国内)管轄権について検討する。人事訴訟法第一条第一項は、離婚事件について夫婦が夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻が普通裁判籍を有する地の地方裁判所が専属管轄を有する旨規定している。ところで、右規定は、これの適用により管轄裁判所を特定できるのは婚姻の効力により夫婦の氏について我が国の法律(民法第七五〇条)が準拠法となる場合であるとの趣旨を定めたものと解するのが最も自然である。そうすると、本件の如くたとえ妻たる原告が日本国籍を有していたとしても、夫が日本国籍を有していない場合には法例第一四条により右我が国民法の規定は適用されないから、結局人事訴訟法第一条第一項の規定もその適用を排除されることになる(もつとも同条項にいう「氏」をもつて、必らずしも我が国法上のそれのみを指すのではなく、いわゆるフアミリー・ネーム的なものも含まれると解する見解もないではないが、その場合においても夫婦間において称氏者の定めのなされていることが要件となるのであり、本件において右の点に関する取り決めが原、被告間になされたことを認めるに足りる証拠はない。)。しかし、このような場合民事訴訟法の一般原則に帰りその管轄を決定することは一般の財産事件、ことに債権関係の規律を目的とした、その処理に関する原則を、非訟事件的性格を有する人事訴訟に及ぼしその特質を没却するものであるうえ、本件の如く被告が原告を遺棄し、所在不明であるような国際私法生活上の円滑、安全をはかるべき特殊事情が存する点に鑑みると合理的とはいえない。むしろ、人事訴訟法第一条第一項は、称氏者の住所が通常は夫婦共同生活体の本拠であるとの立場を前提としている趣旨と解されるから、称氏者がない場合でも夫婦共同生活体の本拠が存在すると認められる場合には、この本拠をもつて管轄決定の基準とするのが妥当である。そして、本件における原被告夫婦共同生活体の本拠が岡山県○○市にあると解されることは前記のとおりであるから(被告が原告を遺棄し、かつ所在不明であることは右の本拠が既に消滅している根拠とはならない。けだし、被告は自己の恣意により、すなわち原告との合意に基づくことなく右の本拠を脱しているに過ぎず、一方原告は右本拠において被告の帰還を待ち望んでいたからである。)結局当裁判所は本件について特別(国内)管轄権を有することになる。

二、そこで、本件離婚の準拠法について判断する。

法例第一六条によると、離婚はその原因たる事実の発生した時における夫の本国法によると定めているから、本件では被告の本国たるカナダ国の法律によるべきところ、同国は法例第二七条第三項にいう「地方により法律を異にする国」に該当するので、被告の本源住所(domicile of origin)があるバンクーバー市の所属するブリティッシュ・コロンビア州(この事実は、前記甲第四、五号証より認められる。)の法律をもつてその準拠法とすべきである。ところで、職権調査の結果によると、ブリティッシュ・コロンビア州法上、離婚については夫の住所(domicile)の存する法廷地法を適用すべきこととされているので、本件離婚における反致の有無が問題となる。原被告の夫婦生活共同体の本拠が我が国にあることは前認定のとおりであるが、これと被告が同州法上の意味における選択住所(domicile by choice)を我が国に有するかは一応別個の問題と考えるべきであり、被告は船員として我が国に出入国管理令に基づく在留資格を得て入国し原告と婚姻関係に入り、在留期間の更新を法務省へ申請していた事実は原告本人尋問の結果から窺われるが、永住許可もしくは帰化の申請をなした形跡はなく、果して被告が我が国を永住の地とする確定的意思を有していたか否かはいずれとも即断し難いことに照すと、被告は未だ我が国に選択住所を有していないと認めるのが相当である。したがつて、本件離婚については法例第二九条による反致の成立する余地はなく、やはりブリティッシュ・コロンビア州法を準拠法としなければならない。よつて同州の婚姻法を検討してみると、同州離婚法(British Columbia Divorce Act, 1937)は、協議離婚は姦通を原因とするものしか認めないが、裁判上の離婚は、(1)姦通、(2)残虐行為の他に(3)二年以上にわたる理由のない遺棄を原因として許される旨規定しており、前認定の被告の行為が右(3)に該当することおよび右規定の適用は我が国における公序(法例第三〇条)に反しないことは明らかであると同時に、我が国民法第七七〇条第一項第二号に定める「配遇者から悪意で遺棄されたとき」にもあたるといえるから、原告の本件離婚請求は理由があるといわなければならない。

三、離婚の場合における未成年者の子の親権者ないし監護者の決定に関する法律関係の性質は、離婚に必然的に伴う効果として法例第一六条の適用を受けるとの見解も有力であるが、右の問題は離婚を一つの契機として生じた新たな親子間の法律関係と解しうる余地もあり、その主眼とするところは離婚当事者たる父母にあるのではなく、子の利益と福祉にあると考えられるから、法例第二〇条の適用される法律関係と解すべきである。そして、法例第二〇条は、親子間の法律関係は父の本国法によると定めているので、前同様ブリティッシュ・コロンビア州法が準拠法となるが、同州法は子の後見(gurdianship)に関しては子の住所の存する法廷地法を適用すべきものと定めており(英国法系のブリティッシュ・コロンビア州法においては、我が国法上の親権と後見の区別が必ずしも明白でないが、同州法上の後見をもつて未成年者の心身の監護とその財産管理を含む広い意味での親権と同視して差し支えないと解される。)原被告間の子ジョン・健治・クラグストン、ルース・正治・クラグストン両名の住所(domicile)が我が国にあることは前認定事実より明らかであるから、法例第二九条による反致が成立し、結局我が国民法が準拠法となる。そうすると、本件離婚判決に際しては右両名の親権者の指定をなすべきであり、前認定事実からみると原告に右両名の監護教育等にあたらせるのが相当であるから、民法第八一九条第二項により原告をその親権者に指定する。

四、よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五十部一夫 裁判官 金田智行 裁判官 大沼容之)

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