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岡山地方裁判所 昭和43年(わ)302号 判決 1970年2月06日

被告人 小野清

昭一二・三・二七生 無職

主文

被告人を懲役四月に処する。

公訴事実中別表番号1については被告人を免訴する。

証人村上始に支給した分を除くその余の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は常習として、別表番号2 3 5及び6記載のとおり昭和四二年一二月二六日頃から昭和四三年二月七日頃までの間前後四回に亘り、同市福田町松江六九七番地大橋明治方外二個所において、木村尚三らと共に、張札を使用して金銭を賭け、俗に「手本引」と称する賭銭博奕をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(別表番号4事実に対する判断)

別表番号4の公訴事実は「被告人は昭和四二年一二月二六日頃、倉敷市林二、〇四五番地岡本朝義方において、木村尚三ら十数名と共に、張札を使用して金銭を賭けて、俗に手本引と称する賭銭博奕をしたものである」というにあり、これにそう被告人の司法警察員に対する昭和四三年五月二八日付及び同月二九日付各供述調書、逮捕状及び勾留尋問調書並びに岡本朝義及び奥田輝明の検察官に対する各供述調書が存し、殊に被告人は司法警察員に対し、木村尚三に誘われて同人らとともに岡本方に赴き、木村らと共に手本引博奕をした模様を詳細に供述しており、一応被告人が岡本方において木村らと共に賭銭博奕をした疑は否定できない。

しかしながら、証人木村尚三及び長谷川次郎は当公判廷において、被告人が岡本方において行われた右賭銭博奕に加わつていないと供述している上、証人木村は通常は賭客が三、四〇人参集するが、右岡本方の場合には参集者が少かつたため右記憶は明らかである旨証言していること、右岡本方における賭銭博奕は、昭和四二年末頃から昭和四三年三月頃までの間数十回に亘つて倉敷市等で数十人が行つた一連の賭銭博奕の一つであることは明らかな事実であるが、かかる多数人による多数回に亘る賭博の事実にあつては、犯人自身のことは格別、他の者が賭博に加わつたか否かは特別に記憶に残るような事情のない限り記憶が曖昧であることは当然であり、しかも、証人中道哲哉の証言によれば、右一連の賭博をした疑で逮捕された多数の被疑者は一室に集められて、右賭博事実につき互に話合つて記憶を喚起した上取調を受けたことが認められるが、かような方法によると記憶が喚起されることがある反面、その席にいなかつた犯人に関する部分については、その犯人の弁明の機会もないことから、誤って得た知識を真実と信じてそのまま捜査官に供述する虞がないとはいえないこと、また被告人の司法警察員に対する弁解録取書によれば、被告人は逮捕当初から岡本方で賭銭博奕をしたことを自白していないこと等を併せ考えると、被告人が当公判廷において供述するように、被告人は他の者らより遅く逮捕、勾留されたため、既に右のような方法によつて取調済の被疑者らが、被告人が岡本方における賭銭博奕に加わつていると供述しているため、已むなくこれを自白するに至つたのではないかとの疑念を払拭し得ない。また岡本朝義及び奥田輝明の検察官に対する右供述記載は、前記諸点及び調書自体に同人等において被告人が岡本方で賭銭博奕をしたことを記憶するに足る特別の事情が示されていない点に照らせば、信頼性が薄弱であるといわざるを得ない。

以上認定の如く別表番号4の公訴事実は、証明が十分なされたとは認め難いけれども、右公訴事実に係る所為は、本件常習賭博罪の一部であるから、主文において無罪の言渡をしない。

(法令の適用)

判示所為

刑法第一八六条第一項

訴訟費用負担

刑事訴訟法第一八一条第一項本文

(免訴の理由について)

別表番号1の公訴事実は「被告人は昭和四二年一一月中旬頃倉敷市呼松町三六〇番地中道哲哉方において、木村尚三ら十数名とともに前記手本引と称する賭銭博奕をしたものである」というにある。

ところで、右事実は、被告人の当公判廷における供述、被告人の司法警察員に対する昭和四三年五月三〇日付(一番目に編綴分)供述調書並びに高畠忍及び安田千年の司法警察員に対する各供述調書謄本によれば、これを認めることができる。しかしながら、検察事務官作成の前科調書及び略式命令謄本二通によれば、被告人には、昭和四二年八月二日倉敷簡易裁判所において、同年一一月七日岡山簡易裁判所においてそれぞれ賭博罪により罰金刑に処せられた前科が存すること、更に、被告人は同年一二月九日付略式命令をもつて岡山簡易裁判所において、同年五月二〇日頃から同年六月四、五日頃までの間前後四回に亘り手本引と称する賭銭博奕をした賭博罪により罰金二万円に処せられ、右命令謄本は同月一二日までに訴訟関係人に送達されて、右命令は同日外部的に成立し、ついで同月二六日に確定したことが認められる。右事実及び前判示事実によれば、右確定裁判を経た賭博罪と別表番号1の賭博罪及び同表番号2 3 5 6の常習賭博罪との間には約五月の間隔が存するけれども、右賭博の前科、賭博の種類、回数等によれば、両者は常習一罪の関係にあるというべきである。

ところで、確定裁判の既判力の標準時は、時期の明確性及び第一審裁判が外部的に成立した後確定に至るまでの事実をも処罰しうる点を考慮すれば、原則として第一審裁判が外部的に成立した時即ち通常手続事件においては第一審判決が言渡された時或は略式手続事件においてはその命令が訴訟関係人に送達された時と解するのが相当であるところ、別表番号1の公訴事実はこれと常習一罪の関係にある右確定に係る賭博罪の略式命令が外部的に成立した昭和四二年一二月一二日以前に敢行された賭博行為であるから、右確定裁判の既判力が及び再度の訴追は許されないことに帰するので、刑事訴訟法第三三七条第一号を適用して免訴の言渡をすることとする。

別表(略)

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