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岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)704号 判決 1970年2月23日

原告 広井謙吉

右訴訟代理人弁護士 黒田充洽

右訴訟復代理人弁護士 久枝壮一

被告 今宮正実

右訴訟代理人弁護士 横田勉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

被告は原告に対し、別紙目録記載の土地につき、金一九二万円の支払と引換えに、昭和四一年一二月三〇日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、請求の原因

一、原告は被告から昭和四一年一二月三〇日別紙目録記載の農地(単に本件土地ともいう)を買受けた。そして、原被告の申請に基づき、同四二年二月二七日岡山県知事は右農地の宅地転用のための所有権移転を許可(単に農地転用許可ともいう)した。

二、そこで、原告は被告に対し、右売買を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁

請求原因一の事実は認める。

第四、被告の抗弁

一、本件土地売買契約の内容は次のとおりである。

(1)、代金

三・三平方メートルあたり二万円合計四〇〇万円

(2)、代金支払方法

契約時に一〇〇万円を支払い、農地転用許可あり次第残額三〇〇万円を所有権移転登記手続と引換えに支払う。

(3)、土地引渡期日

同四二年三月一日、被告は速かに農地転用許可申請をする。

そして、被告は契約当日内金一〇〇万円を原告から受領した。

二、被告は同四二年三月一日頃所有権移転登記手続に必要な書類を整え、農地転用許可の通知を待っていたところ、原告は同月初め右許可通知書の交付を受けたにもかかわらず契約に定めのない事由を主張し残代金の支払をしなかった。そこで被告は原告に対し、同四二年三月八日付書面で、同月一五日午前一〇時岡山地方法務局登記課受付に一切の登記手続書類を準備して待つから、原告においても代金残額を持参支払うよう催告し、原告がやむをえない事情により出頭できないときは右履行日より一週間以内の期間をかぎり取引期日の変更の申出に応ずるが、若し原告がこれをなすことなく右履行日を徒過するときは、同日をもって本件売買契約を解除する旨あわせて通知し、右書面はその頃原告に到達した。被告は右日時の場所に所有権移転登記に必要な書類を整え履行の提供をしたが、原告はついに現われず右期間を徒過した。したがって、本件売買契約は右期間の経過とともに解除された。

第五、抗弁に対する原告の認否と再抗弁

一、抗弁一の事実は認める。

二、同二の事実は否認する。

三、右売買契約の際、原告は被告に対し、付近に都市計画による土地区画整理事業の有無および本件土地がその事業計画の区域に含まれているかどうかたしかめたところ、被告はそのようなことはないと否定したので、原告はこれを信用して買受けた。ところが、原告は右転用申請の過程において、本件土地を含む一帯の土地を対象としてかねて組合施行により土地区画整理事業が計画され、組合設立の推進母体として、昭和三九年夏今地区開発促進協議会が、次いで区画整理組合設立発起人組合が発足したこと、その事業計画によると区域内の土地は換地により二割七分の減歩を見る予定になっていることを知った。右組合の設立は内部事情で延び延びになっていたが、岡山市の指導により近く組合設立認可申請書を提出し、岡山県知事の認可をうけ、事業を実施する手はずになっている。

四、本件は数量を指示してした売買であるところ、原告は右区画整理事業が実施されるときは、本件土地のうち二割七分に相当する土地一七八・可一二三平方メートル(五四坪)を減歩により失い、契約どおりの地積を確保することができなくなること必至である。

そこで、原告は被告に対し民法第五六五条に基づき、同四二年三月減歩されるはずの右不足分につき三・三平方メートルあたり二万円の割合で算出した一〇八万円を代金より減額するよう請求した。これにより残代金は一九二万円となったので、原告はその支払と引換えに所有権移転登記手続をするよう求めたが、被告において応じないものである。

第六、再抗弁に対する原告の認否と再々抗弁

一、再抗弁三の事実中、被告が原告から契約時に区画整理事業の有無をたしかめられたことおよびこれを否定したことは否認し、その余は知らない。

二、同四の事実中本件売買が数量指示売買であることは格別争わないが、その余の事実は否認する。被告は履行期に約定した地積の土地を引渡すことができ、原告はこれを取得することができるのであって、目的の土地に数量の不足はない。また将来都市計画が実施されるであろうことは予測できても、いまだ土地区画整理組合の結成はなく、したがって事業計画も具体化しておらず、本件売買は現在有姿のままで取引されたものにほかならないから、代金減額請求権が発生する余地はない。

三、若し、原告主張の代金減額請求が認められるものとすれば、被告は本件売買は要素に錯誤があり無効であることを主張する。すなわち、被告は本件土地を現在有姿のまま代金四〇〇万円で売渡したのであって、それが土地区画整理の実施が予測されるという一事で予想減歩率により一〇八万円という多額の代金減額に応じなければならなくなることは思いもよらぬことである。被告において契約当時そのことを知っていれば、原告に対し四〇〇万円の代金で売買することはおろか、売買契約に応ずることすらありえないといえるからである。

第七、再々抗弁に対する原告の認否

錯誤に関する事実は争う。

第八、証拠関係≪省略≫

理由

一、原告が被告から同四一年一二月三〇日本件土地を買受ける契約をしたこと、右農地を宅地転用の目的で所有権移転するにつき、同四二年二月二七日岡山県知事の許可があったことは当事者間に争いがない。

二、よって、被告主張の右売買契約解除の抗弁について判断する。

(一)、本件売買代金が三・三平方メートルあたり二万円合計四〇〇万円であって、契約時に一〇〇万円を支払い残代金は農地転用許可あり次第所有権移転登記手続と引換えに支払う約定であったこと、原告は契約時に右一〇〇万円を被告に支払ったことは当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によると、被告は所有権移転登記手続に要する書類を整え農地転用の許可の通知を待っていたところ、同四二年三月二日頃原告から土地区画整理の問題等を理由に売買契約を解除し二〇〇万円の違約金を請求する旨の書面を受取ったので、同月五日付書面をもって、原告の申出の理由のないことおよび転用許可もあり移転登記に必要な書類を完備して待っているから同月一〇日までに残代金を支払うよう通知したこと、ところが原告は前同様の理由で重ねて違約金二〇〇万円の請求を繰り返えすのみであったため、被告は原告に対し、同月八日書面により、「同月一五日午前一〇時岡山地方法務局登記課受付前に必要な登記書類を準備して待つから残代金三〇〇万円を持参支払うよう、なおやむえない事情で出頭できないときは同日から一週間以内の期間をかぎり期日変更の申出に応ずるが、万一原告が同日までになすところなく放置するときは、右一五日の経過とともに売買契約を解除する。」旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示をし、右意思表示はその頃原告に到達したこと、被告は右日時に登記書類を揃え指定場所で原告を待ったが、原告は期日変更の申出をすることもなくこれを徒過したことを認めることができ、格別反対の証拠はない。

(二)、ところが原告は本件は数量を指示してした売買であるところ、土地区画整理が実施されるときは二七パーセントに相当する減歩が必至であるからその不足分につき、同四二年三月被告に対し代金減額請求をし、減額請求後の残代金と引換えに移転登記を求めたが被告が応じないものであると主張する。よって、代金減額請求権の有無について考えてみるのに、本件売買が数量を指示してした売買であることは当事者間に争いがないが、原告が数量に不足があるというのは、要するに、本件土地の地積に現に不足があるというのではなく、目下設立準備の進められている岡山市今地区土地区画整理組合が岡山県知事の認可をえて発足し、区画整理が実施されたあかつきには、仮換地指定により本件土地中約二七パーセントに相当する部分の使用収益を制限され、最終的には換地によりこれを失うはずであるということにつきる。

ところで、民法第五六五条に数量を指示して売買した物に不足があるというのは、契約の当時既に目的物の数量が不足している場合のことを指すのであるから、かりに原告主張の区画整理施行による目的土地の減少が数量の不足にあたるとしても、契約の当時区画整理の施行を見ていない本件の場合がこれにあたらないことは原告の主張自体明白である。そればかりでなく、売買の目的土地に契約の当時既に土地区画整理法による仮換地の指定がある場合であっても、従前の土地の所有者は換地処分の効力が生ずるまで、その土地の所有権を失うものではなく、その使用収益を制限されるものである。このような行政上の用途制限は売買の目的物にその所有権を制限する公法上の権利がある場合にほかならないから、そのような制限のあることを知らないで売買契約をした買主は売主に対し、売買の目的物にその使用収益を妨げる私法上の権利がある場合に売主に担保責任を認める規定である民法五六六条を類推適用し、損害賠償を請求することは格別、同法第五六五条に基づき目的物に数量不足ありとして代金減額請求をすることは許されないものである。

(三)、なお、原告において、本件契約の際被告が本件土地について将来土地区画整理が施行され減歩を見るようなことがないことを特に保証したことを主張するものと考えてみても、その合意の内容や代金減額請求との関係が明らかでないうえ、原告本人尋問の結果によるも被告がこのような合意をしたことを認めるに十分でなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。≪証拠省略≫によれば、同三九年頃から岡山市今地区に組合を設立し土地区画整理を施行する企てが進められていたが、反対する者もあって設立はのびのびとなっており、本件売買契約当時その設立の見とおしはばくぜんとしたものであり、被告としても近い将来に組合が設立され区画整理が行われるとは思っていなかったこと、その当時被告が右のような企てを案じて本件土地を早急に売却しなければならないような事情はなかったこと、その後も組合設立を前進させる方向に準備が進められているが、いまなお設立認可申請の段階にいたっていないことが認められ、被告が将来区画整理の施行がないことまで特に保証したとはとうてい考えられない。よって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(四)  してみると、本件売買契約は、原告の債権不履行により、同四二年三月一五日の経過とともに解除され終了したということができる。

三、以上の次第で、被告に対し売買契約の存在を前提とし、本件土地につき所有権移転登記手続を求める原告の請求は他の判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫)

<以下省略>

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