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岡山地方裁判所 昭和42年(ワ)165号 判決 1969年12月16日

原告 大野耕一郎

右訴訟代理人弁護士 山根吉三

被告 長瀬千吉

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の建物を収去し、別紙目録記載の土地を明渡せ。

被告は原告に対し、金六四円および昭和四一年五月三日から右明渡ずみに至るまで一ヵ月金三、六九八円(一坪あたり二〇〇円)の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

主文第一、四項同旨ならびに

被告は原告に対し、金六四円および昭和四一年五月三日から土地明渡ずみに至るまで一ヵ月一坪あたり八三〇円の割合による金員を支払え。

右金員請求が認められないときは、被告は原告に対し、別紙目録記載の土地の賃料が月額七、三七七円(一坪あたり三九九円)に増額されたことを確認し、かつ、金六四円および昭和一四年五月三日以降右土地明渡ずみに至るまで一ヵ月七、三七七円の割合による金員を支払え。

との判決と仮執行の宣言。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

≪以下事実省略≫

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、原告から被告に対し、昭和四一年五月一日付書面をもって、同月一日以降本件地代を一ヵ月坪あたり八三〇円に値上げする旨の意思表示をし、その意思表示が翌二日被告に届いたことは当事者間に争いがない。

先ず従来の本件土地の地代の推移について考えてみる。≪証拠省略≫によると、本件地代は、同二九年六月月額四九〇円、同三二年七月月額七五〇円にそれぞれ増額され支払われてきたところ、原告より被告に対し同三七年五月二二日付書面で従来の地代は不相当に低額であるとして一ヵ月坪あたり二〇〇円に増額する旨通知し、次いで岡山簡易裁判所に地代増額の調停申立におよんだけれども、被告は地代家賃統制令の適用があり統制額以上の請求に応じられないと主張し応じなかったため不調に終ったこと、その後同四〇年四月被告から月額一、〇〇〇円の値上に応ずる旨申出があったのでやむをえずこれを承諾し、その月から月額一、〇〇〇円となったが、原告としてはいずれにしても低額にすぎると考え、その後同四一年五月一日前記増額請求におよんだことが認められ、格別反対の証拠はない。

よって、右増額請求時の相当地代額について考えてみる。

≪証拠省略≫によると、従前の地代月額一、〇〇〇円が合意された同四〇年四月と増額請求のなされた同四一年五月との間における本件土地の地価(更地価格同四〇年の坪あたり三三万三、〇〇〇円、同四一年坪あたり三五万六、五〇〇円であり、その後急速の騰貴を見ているようである)の上昇率は約一、〇六倍、公租公課の上昇率は約一、三六倍にすぎないことが認められ、他にこの間の経済事情の変動あることの資料に乏しい。しかしながら、従前の地代月額一、〇〇〇円は前段認定の地代増額の経過ならびに≪証拠省略≫によると、地代家賃統制令の適用があることを前提とする被告の申出を原告がやむなく承諾して定められた統制額程度の額であって、本来は、同三七年五月二二日付の地代増額請求によって客観的に相当な額に値上げされているべきはずのものであったこと、また右従前の地代は本件土地に対する公租公課を支払って残り少ないものであり、前記地価を基準として算出される一応の経済的地代と比べると甚だしく低額に失するものであることが認められる。さらに≪証拠省略≫によると、本訴係属中本件土地に隣接する原告賃貸土地(別紙目録見取図甲地)につき、原告と賃借人中島寛二との間に地代を同四三年々末まで一ヵ月坪あたり二五〇円、同四四年一月から一ヵ月坪あたり三〇〇円とする旨の調停が成立したことを認めることができ、反対の証拠はない。以上諸事情を合せ考えると前記増額請求によって形成された地代は一ヵ月坪あたり二〇〇円(月額三、六九八円)と見るのが相当である。

被告は本件地代について地代家賃統制令の適用があり、同令による統制額を弁済供託しているから被告に賃料債務の不履行はない旨主張する。先ず同令適用の有無について考えてみるのに、本件建物が同二五年七月一一日以前に建築された床面積三〇坪以下の居住事業併用建物であることは当事者間に争いがない。しかし、地代家賃統制令第二三条同法施行規則第一一条によると、同令の適用をうける併用住宅というためには、その住宅の借主がそこに居住して事業を営んでいることが要件であり、右要件を欠くときは事業用建物として同令の適用をうけないとされている。従って、本件のように、借地上に住宅を所有しその一部で自ら事業を行っている場合には、全体の坪数、事業用部分および居住用部分の床面積に関係なくその建物は同令の適用除外となるから、その敷地もまた適用除外となり、その敷地の地代は統制をうけないというべきである。したがってこの点の被告の主張は失当である。

三、原告より被告に対し同四一年一一月二日到達の書面をもって、同年五月一日から同年一〇月末日までの間の坪あたり月八三〇円の割合による延滞賃料八万四、八八二円を同年一一月五日までに支払えとの催告ならびに同年一一月一一日到達の書面をもって右賃料債務不履行を理由とする賃貸借契約解除の意思表示(第一次契約解除という)がなされたこと、さらに、原告から被告に対し、同四四年八月一九日到達の書面により同四一年五月一日以降同四四年七月末日に至る間の一ヵ月坪あたり三九九円の割合による延滞賃料を同四四年八月末日までに支払うべく、若し右期限を徒過するときは右期限の経過とともに賃貸借契約を解除する旨の催告ならびに停止条件付契約解除の意思表示(第二次契約解除という)のなされたこと、これに対し、被告より原告に本件地代として同四一年五月から同四三年一月まで月額一、二〇〇円、同四三年二月以降月額一、五一七円を弁済供託していることはいずれも当事者間に争いがない。

そこで、第一次契約解除の効力について考えてみるのに、相当地代額一ヵ月三、六九八円(坪あたり二〇〇円)に対し被告の供託額は一、二〇〇円にすぎないから、一応賃料債務の不履行があることを否定できない。ところで、≪証拠省略≫によれば、原告の地代増額請求に際し、岡山市役所や岡山県庁の係官について、あるいは各種法律相談等において、本件賃貸借に地代家賃統制令の適用があるかどうかを確め、同令所定の統制額を支払えば債務不履行にならないと信じて前記供託を続けたことが認められる。そして、同令の規定自体素人が一見して適用の有無を判断しがたいものであり、被告が右確信をいだいたこともむりからぬと考えられること、原告のした増額請求額坪あたり月八三〇円は明確な根拠のない過大請求であり、客観的地代相当額の算定も容易でないこと等の事情を合せ考えると右地代の不履行を理由として本件賃貸借を解除することは信義則に反し許されないというべきである。よって、原告の第一次契約解除の主張は理由がない。

次に、原告の第二次契約解除の効力について判断する。≪証拠省略≫によれば、第二次契約解除の前提となる催告のなされた当時には、既に増額請求時の相当地代について鑑定報告書が証拠として提出され、原告は右報告書に基づき坪あたり月三九九円の割合による地代の支払を催告したこと、また原告訴訟代理人において本件地代が地代家賃統制令の適用をうけないことを具体的根拠を示して説得し、被告において虚心にこれを検討すれば同令の統制をうけないことを容易に知りえたはずであるのに、被告は依然として同令の適用あることを固執し、前示月額一、二〇〇円若しくは一、五一七円の供託を続けたにすぎないことが認められる。右事実関係によると、もはや原告において被告との賃貸借関係を継続できないと考えるのもむりからぬことであって、第二次停止条件付契約解除の意思表示を信義に反するものということはできず、結局本件賃貸借は右催告期限である同四四年八月末日の経過とともに解除され終了したというべきである。

四、してみると、被告は原告に対し、本件建物を収去し本件土地を明渡すとともに、同四一年五月一、二日分延滞賃料六四円および同年五月三日から右明渡ずみまで一ヵ月三、六九八円(坪あたり二〇〇円)の割合による延滞賃料または賃料相当の損害金を支払う義務があるといわなければならない。よって、原告の被告に対する請求は右の限度でこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫)

<以下省略>

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