大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和33年(行)9号 判決 1965年6月30日

岡山市内山下四七番地

原告

中国水産食品株式会社

右代表者代表取締役

三宅辰三郎

右訴訟代理人弁護士

笠原房夫

岡山市弓之町

被告

岡山税務署長

右指定代理人検事

鴨井孝之

大蔵事務官 米沢久雄

田原広

中本兼三

西村盛次郎

岡野進

浅田和男

渡辺岩雄

法務事務官 福島豊

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告の申立

「被告が昭和二九年八月二〇日原告に対してなした

(一)  昭和二六年度(自昭和二六年四月一日至昭和二七年三月末日)法人税の課税標準たる所得額を金一一七万七、七〇〇円と

(二)  昭和二七年度(自昭和二七年四月一日至昭和二八年三月末日)法人税の課税標準たる所得額を金一六七万七、九〇〇円と

(三)  昭和二八年度(自昭和二八年四月一日至昭和二九年三月末日)法人税の課税標準たる所得額を金一〇一万二、五〇〇円と

各更正する処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求める。

二、被告の申立

主文と同旨の判決を求める。

第二、主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は水産食品の卸販売を業とする株式会社であるが、その法人税について被告に対し

(1) 昭和二六年度(昭和二六年四月一日から同二七年三月三一日まで)の所得額を金四九万二、三〇〇円と

(2) 同二七年度(同二七年四月一日から同二八年三月三一日まで)の所得額を金三二万五、七四〇円と

(3) 同二八年度(同二八年四月一日から同二九年三月三一日まで)の所得額を欠損金二九万二、六二九円と

それぞれ申告期日までに確定申告をしたところ、被告は昭和二九年八月二〇日付決定をもつて

(1) 昭和二六年度の所得額を金一五一万七、一〇〇円と

(2) 同二七年度の所得額を金二六九万二、六〇〇円と

(3) 同二八年度の所得額を金一〇一万二、五〇〇円と

各更正し、同月二五日原告のその旨通知した。

(二)  これに対して原告は昭和二九年九月二〇日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同三〇年一月七日右請求を棄却したので、さらに原告は同月一七日広島国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は同三三年九月四日付で

(1) 昭和二六年度の所得額を金一一七万七、七〇〇円と

(2) 同二七年度の所得額を金一六七万七、九〇〇円と

各訂正し、同二八年度については審査の請求を棄却する旨の決定をなして同月二三日原告にその旨通知した。

(三)  よつて被告のなした前記更正決定はその内容を右訂正の限度において右決定のとおり変更されたものなるところ、その決定にかかる所得額はいずれも原告の所得額を過大に評価した違法があるから、原処分庁である被告に対し右更正決定の取消しを求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

請求原因(一)(二)の各事実は認める。

三、被告の抗弁

(一)  原告に対する法人税の課税標準たるその所得額は

(1) 昭和二六年度金一二四万一、二五五円

(2) 同二七年度金一七二万一、九五一円

(3) 同二八年度金一五八万七、五三六円

であつて、その算出根基は別表(一)ないし(三)の各被告主張額欄記載のとおりであるところ、前記訂正にかかる更正決定における各年度の所得額はいずれも右所得額の範囲内であるから、右更正決定には何らの違法もない。

(二)  しかして右算出根基たる項目中原告の主張と相異る部分について、さらにその根拠を説明すれば次のとおりである。

(1) 昭和二六年度について

(イ) 利益の部「期末たな卸商品」金三九一万一、〇五七円は原告会社備えつけの帳簿に記載されている金三八二万七、八六七円(原告主張額)のほかに金八万三、一九〇円の記帳もれがあつたのでこれを加算したものである。

(ロ) 利益の部「売上商品」金四、五〇一万〇、九四一円は、原告会社備えつけの売上帳簿はその記載が不正確であつて信用しがたく、この帳簿の記載から直接正確な売上高を算定することは不可能であつたので、左記の数式により販売原価を算出し、売上高は右販売原価の一〇%増(差益率一〇%)とみなして算定したものである。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

1,724,302+43,170,005-(3,911,057+473,403)=40,509,847

(販売原価)(差益率)(売上高)

<省略>

(A) すなわち、本件係争にかかる原告の昭和二六ないし二八年度の所得について被告係官が調査したところによると、原告は他人または架空名義を用いて取引をし、その売上代金を帳簿に記載しないで、原告会社代表者個人およびその家族名義あるいは架空名義を用いて別途預金する等の方法によつて取引の一部を仮装隠ぺいし、架空の借入金を計上し、増資にあたつて払込みを仮装するなどその記帳は事実と相違しており、他方、仮装隠ぺいしている取引の全ぼうを確実に把握することも困難であつたが、被告において把握しえたものの詳細は次のとおりである。

一、別途預金

(一) 中国銀行本店に対する普通預金

(1) 小倉一郎(架空)名義(口座番号三一〇二、乙第一七号証の三)

(2) 加藤道子(同)名義(口座番号一八二、同号証の四)

(3) 小倉民子(同)名義(口座番号八一四、同号証の五・同第一九号証)

(4) 安田太郎(同)名義(口座番号八七二七、同第一七号証の六・同第二〇号証)

(5) 三宅隆子(原告会社代表者の家族)名義(口座番号二五六七、同第一七号証の七、同第二一号証)

(6) 三宅辰三郎(原告会社代表者)名義二口(口座番号二八六四および四七一二、同第一七号証の八・同第二二号証および同第一七号証の九)

(二) 同銀行に対する定期預金

(1) 安田太郎名義(口座番号八九六、乙第一七号証の一〇・同第二三号証)

(2) 三宅辰三郎名義(口座番号二一七一、同第一七号証の一一・同第二四号証)

(三)  広島銀行岡山支店に対する普通預金

(1) 小倉民子名義(口座番号一〇四九、同第一七号証の一二・同第二五号証の一、二)

(2) 三宅満子(原告会社代表者の妻)名義(口座番号二三九、同第一七号証の一三・同第二六号証の一、二)

(四)  同銀行に対する定期預金

(1) 三宅満子名義(口座番号二〇四、同第一七号証の一四・同第二七号証)

(五)  扶桑相互銀行岡山支店に対する普通預金

(1) 三宅満子名義(口座番号三三二、同第一七号証の一五・同第二八号証)

二、別途預金にも預け入れられていない売上記帳脱漏

(1) 児島郡灘崎町彦崎の三上商店を三崎商店として昭和二六年一〇月一七日から同二八年二月一一日までの間前後四回にわたつて小切手で入金した売上計金一九万四、七四六円の各一部(乙第一六号証の一、二・同第一七号証の二〇)

(2) 岡山市岩田町の藤喜商店から、昭和二七年一〇月二三日から同二八年一〇月三一日までの間前後四回にわたつて現金または小切手で入金した売上計金一五万六、九〇六円全部(乙第一四号証・同第一七号証の一九)

(3) 中央水産株式会社との間に河内商店または<タ>名義で取引をし、昭和二七年八月二四日から同二八年四月二三日までの間前後八回にわたつて現金または小切手で入金した売上計金二五万三、六〇二円全部(乙第一七号証の一六および一九)

(4) 株式会社金岡商店との間に山本商店名義で取引をし、昭和二七年六月二日から同二九年二月一二日までの間前後一三回にわたつて現金または小切手で入金した売上計金五七万五、八六一円全部(乙第七号証・同第八号証の一、二)

(5) 岡山市東中山下の時光房吉との間に<タ>または河内名義で取引をし、昭和二八年四月一九日から同年一一月二七日までの間前後六回にわたつて小切手で入金した売上計金五万八、七五〇円全部(乙第九号証・同第一七号証の一八および二一)

(6) 株式会社岡喜本店との間に<タ>名義で取引をし、昭和二八年五月二四日小切手で入金した売上金一、二六〇円全部(乙第一三号証・同第一七号証の一九)

(7) 岡山市内山下の市丸海産から昭和二八年一二月九日および同二九年二月一日に小切手で入金した売上計金五万一、九六〇円全部(乙第一〇号証・同第一七号証の一九)

三、カルシユームの別途取引

原告は岡山市廿日市の旭工業株式会社から、昭和二六年一〇月から同二七年一二月までの間に計金一五万九、七〇〇円相当のカルシユームを仕入れて販売しているのに仕入・売上ともに記載されていない(乙第六号証・同第四七、四八号証)

四、架空借入金

原告は昭和二六年八月七日から同二九年二月一二日までの間前後八回にわたつて前記別途預金の中から計金一五六万円を引出して営業資金に充て売上金の中からこれに見合う金額を別途預金にくり入れるという資金繰作をしていたが、これを第三者から借入れて返済したように仮装して記帳している(乙第五二ないし第五四号証の各二)

五、増資の払込仮装

原告会社は昭和二七年五月二一日その資本を金一〇〇万円から金二〇〇万円に増資し、その株式引受人は仕入先である中原勝治外三名(計金三五万円)・従業員である河内実外六名(計金一五万円)・原告会社代表者である三宅辰三郎(金二五万円)・第三者である大倉収次外三名(計金二五万円)となつているが、この払込みはいずれも右引受人らが現実になしたものではなく、前記別途預金のうち中国銀行本店に対する加藤道子名義の普通預金から金五一万二、二六七円を安田太郎名義の普通預金から金二万七、七三三円をそれぞれ昭和二七年五月二一日に引出したほか、原告会社手持の小切手計金三三万七、六三〇円および現金一二万三、三七〇円をもつて払込みを仮装したものである。

(B) ところで、被告の上級官庁である広島国税局長は所得額を推計する際に一般に適用するものとして商工庶業等所得標準率表を定めたが、同表においては昭和二七、二八年度における総合食料品卸売業の差益率(販売原価に対する売上高の増加割合)は一〇%とされているところ、原告会社においてはその決算書によつても二六年度の差益率は二七年度のそれよりも高い。

しかして右標準率表に定める差益率は各地域にわたつて的確に所得の実態調査を行つた相当数の実績を集計し、その平均差益率を求めたものであるから業種・業態に著しく特異な事情が存在しない限り原告の差益率は通常右平均差益率と同値であるということができるから、この差益率を適用して売上高、ひいては所得額を算定することは充分に合理的妥当性を有するというべきである。

(ハ) 損失の部「売上返品」および「売上値引」は前記差益率を求める際すでに損失として考慮されているから、さらに損失として計上すべきものでない。

(2) 昭和二七年度について

(イ) 利益の部「期末たな卸商品」金三三五万九、五六〇円は原告会社備えつけの帳簿に記載されている金三二一万五、一七〇円(原告主張額)のほかに期末商品評価減金一三万四、三九〇円があつたのでこれを加算したものである。

(ロ) 利益の部「仕入値引」金八万三、四八〇円は、原告が昭和二七年度中において大上戸商店から仕入れた商品中金七万一、二四〇円相当を返品して仕入高がそれだけ減少したのにこれを記帳せずに買掛金として放置し、また中原勝治から仕入れた商品中金一万二、二四〇円を二重に記帳していたので、右計金八万三、四八〇円は損失の部「仕入商品」から控除すべきところ、便宜「仕入値引」として利益の部に計上したものである。

(ハ) 利益の部「保険金収入」金六万二、八一八円は、原告に右同額の保険金収入があつたのに備えつけの帳簿に記載されていなかつたものである。

(ニ) 損失の部「繰越商品」金三九一万一、〇五七円は原告会社備えつけの帳簿に記載されている金三八二万七、八六七円(原告主張額)のほかに金八万三、一九〇円の記帳もれがあつたのでこれを加算したものである。

(ホ) 利益の部「売上商品」金五、三五〇万一、九四〇円は昭和二六年度について前述したと同一の理由から左記の数式により販売原価を算出し、これに前記の差益率一〇%を適用して売上高を算出したものである。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

3,911,057+47,673,729-(3,349,560+83,480)=48,151,746

(販売原価)(差益率)(売上商品)

<省略>

(3) 昭和二八年度について

(イ) 損失の部「繰越商品」金三三四万九、五六〇円は原告会社備えつけの帳簿に記載されている金三二一万五、一七〇円(原告主張額)のほかに期末商品評価減金一三万四、三九〇円があつたのでこれを加算したものである。

(ロ) 利益の部「売上商品」金六、〇一九万六、五六一円は昭和二六年度について前述したと同一の理由から左記の数式により販売原価を算出し、これに前記の差益率一〇%を適用して売上高を算出したものである。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

3,349,560+57,700,336-(6,572,252+300,739)=54,176,905

(販売原価)(差益率)(売上商品)

<省略>

(ハ) 損失の部「売上値引」は前記の差益率を求める際にすでに損失として考慮されているから、さらに損失として計上すべきものではない。

四、抗弁に対する原告の答弁

(一)  抗弁(一)の事実につき

原告の所得額およびその算出根基は別表(一)ないし(三)の各原告主張欄記載のとおりであり、このうち原告主張の金額と一致する部分は認めるが、その余の部分は否認する。

(二)  同(二)の事実につき

(1) 昭和二六年度について

(イ)の記帳もれがあつたことは否認する。

(ロ)の事実中

一、被告主張の各預金があつたことは認めるが、右はいずれも原告会社代表者三宅辰三郎、その妻満子あるいはその母隆子個人の預金であつて、原告の売上代金から別途預金したものではない。右の預金に原告会社の受取小切手金が入つているのは取引先から集金に来店した際に会社手持の現金がないときには個人の所持金をもつて立替払いし、その償還として受取小切手の交付をうけて預金することがあつたためである。

二、売上の記帳もれがあつたことは否認する。

三、原告がカルシユームの仕入・販売をしたことおよびこれを帳簿に記載しなかつたことは認めるが、その額は争う。

四、借入れを仮装したことは否認する。

五、原告会社が被告主張のとおり増資をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。右増資のうち取引先である引受人の払込みについてはこれに対する売掛代金債権をもつて充てたものもあるが、他は各引受人において現実に払込みをした。

原告会社においては取引先に交付すべき副本とともに納品書を作成し、この納品書にもとずいて正確に記帳していたのであるから、帳簿の記載から売上高を確定することは不可能でも困難でもない。しかして右納品書にもとずいて原告会社における差益率を算定すれば

昭和二六年度 六・九%

同 二七年度 六・四%

同 二八年度 六・六二%

であるから、被告が原告会社備えつけの帳簿からはその売上高を確定できないとして一〇%の差益率を適用して売上高を算出したのは不当であるのみならず、会社営業はその規模の大小・使用人の多少・資本の大小・営業方針等によつてその収益率を異にすることは理の当然であるから、右の点につきその実態を把握せず、広島国税庁が一応の目安として定めたにすぎない一〇%の差益率を適用して売上高ないしはこれを基にして所得額を算定するのは何ら合理的な根拠を有するものではない。

(ハ)の主張は争う。

(2) 昭和二七年度について

(イ)の記帳もれがあつたことは否認する。

(ロ)の事実は否認する。

(ハ)の事実は否認する。

(ニ)の事実は否認する。

(ホ)の算定方法は昭和二六年度について述べたと同一の理由により不当である。

(3) 昭和二八年度について

(イ)の事実は否認する。

(ロ)の算定方法は昭和二六年度について述べたと同一の理由により不当である。

(ハ)の主張は争う。

第三、証拠関係

一、原告

(1)  甲第一、二号証・第三号証の一ないし三を提出し、証人窪田巽(第一、二回)・同三宅満子・同河内実の各証言および原告代表者本人尋問の結果を援用する。

(2)  乙第一ないし第三号証・第四七、四八号証・第五四号証の一、二・第五五ないし第五七号証の各二・第五八ないし第六〇号証の各二および四・第六一号証の一・第六二ないし第六四号証の各二・第六八号証の四、六、八および一〇・第七〇号証の一、二・第七一号証・第七四ないし第九一号証・第九二号証の二の各成立は認めるが、その余の乙号各証の成立は知らない。

二、被告

(1)  乙第一ないし第七号証・第八号証の一ないし六・第九ないし第一四号証・第一五、一六号証の各一、二・第一七号証の一ないし二二・第一八ないし第二四号証・第二五、二六号証の各三、二・第二七ないし第二九号証・第三〇号証の一、二・第三一号証・第三二ないし第三五号証の各一、二・第三六号証の一ないし三・第三七、三八号証の各一、二・第三九号証の一ないし三・第四〇号証の一、二・第四一号証の一ないし三・第四二号証の一、二・第四三ないし第四八号証・第四九号証の一ないし三・第五〇、五一号証・第五二ないし第五四号証の各一、二・第五五ないし第五七号証の各一ないし三・第五八ないし第六〇号証の各一ないし五・第六一号証の一、二・第六二ないし第六四号証の各一ないし三・第六五、六六号証・第六七号証の一、二・第六八号証の一ないし一一・第六九、七〇号証の各一、二・第七一号証・第七二号証の一ないし四・第七三号証の一、二・第七四ないし第九一号証・第九二号証の一、二・第九三号証の一ないし三・第九四号証・第九五ないし第一〇二号証の各一、二・第一〇三号証の一ないし三・第一〇四ないし第一一〇号証の各一、二・第一一一号証の一ないし三・第一一二号証の一、二・第一一三の一ないし三・第一一四号証の一、二・第一一五号証の一ないし三、第一一六ないし第一一八号証の各一、二・第一一九、一二〇号証を提出し、証人中島清次・同定森卓二・同尾坂茂・同平田佳助・同田原広・同西村盛次郎・同中本兼三・同狩野栄の各証言を援用する。

(2)  甲第一号証の原本の存在およびその成立・同第二号証および第三号証の一中各郵便官署作成部分の成立は認めるが、同第二および第三号証の一中各郵便官署作成部分を除くその余の部分ならびに同第三号証の二、三の各成立は知らない。

理由

一、請求原因(一)、(二)の各事実は当事者間に争がない。

二、被告は原告に対する法人税の課税標準たるその所得額は

昭和二六年度(昭和二六年四月一日から同二七年三月三一日まで)金一二四万一、二五五円

昭和二七年度(昭和二七年四月一日から同二八年三月三一日まで)金一七二万一、九五一円

昭和二八年度(昭和二八年四月一日から同二九年三月三一日まで)金一五八万七、五三六円

であると主張し、その算出根基である右各事業年度における売上高については、原告会社備えつけの帳簿はその記載が不正確であつて信用しがたく、この帳簿から売上高を算定することは不可能であつたと主張するので、まずこの点について検討するのに、成立に争のない乙第五四証の一、二・同第五五ないし第五八号証の各二・同第八号証の四・同第五九、六〇号証の各二および四・同第六一号証の一・同第六二ないし第六四号証の各二・同第六八号証の四、六、八および一〇・同第七四ないし第九一号証・証人定森卓二の証言によつて真正に成立したものと認められる同第六号証・同尾坂茂の証言によつて真正に成立したものと認められる同第七号証・同第八号証の一ないし六・同第九ないし第一四号証・同第一五、一六号証の各一、二・同第四九号証の一ないし三・同第五〇、五一号証・同田原広の証言によつて真正に作成された写真であることが認められる同第一九ないし第二四号証・同第二五、二六号証の各一、二・同第二七ないし第二九号証・同第三〇号証の一、二・同第三一号証・同第三二ないし第三五号証の各一、二・同第三六号証の一ないし三・同第三七、三八号証の各一、二・同三九号証の一ないし三・同第四〇号証の一、二・同第四一号証の一ないし三・同第四二号証の一、二・同第四三ないし第四六号証・同第五二、五三号証の各一、二・同証言によつて真正に成立したものと認められる同第九三号証の一ないし三・証人中本兼三の証言によつて真正に作成された写真であることが認められる同第五五ないし第五七号証の各一および三・同第五八ないし第六〇号証の各一、三および五・同第六一号証の二・同第六二ないし第六四号証の各一および三・同第六五、六六号証・同第六七号証の一、二・同第六八号証の一ないし三、五、七、九および一一と証人中島清次・同定森卓二・同尾坂茂・同平田佳助・同田原広・同西村盛次郎・同中本兼三の各証言とに弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は本件係争年度間における売上について一応納品書および売掛元帳を備えていたが

(1)  岡山県西大寺市の株式会社金岡商店その他の取引先に対し山本商店その他の架空名義をもつて納品し、あるいは岡山県児島郡灘崎町の三上商店を三崎商店として納品するなどして取引を隠ぺいしたうえ、これらの取引先からの入金小切手を会社の帳簿に記載せず、株式会社中国銀行本店その他数ケ所の銀行に設けた原告会社代表者三宅辰三郎・その妻三宅満子・その母三宅隆子のほかに小倉一郎・小倉民子・安田太郎等架空名義の預金口座(このような預金口座があつたこと自体は当事者間に争がない)に小切手で預け入れ、あるいは現金化して営業資金にあて、さらには第三者から営業資金を借り入れたかのように仮装し、売上代金小切手をもつてその支払にあてたように記帳してその実この小切手を右の別途預金に入れ、また昭和二七年五月二一日にその資本を金一〇〇万円から金二〇〇万円に増資した際、従業員や取引先を株式引受人としながら、その払込みの一部に右別途預金をあてるなどして、帳簿の記載が不正確であつたのみならず、他の証憑書類から売上金の行方を追及して取引の実態を把握することは困難であつたこと

(2)  これに対して原告会社代表者三宅辰三郎は岡山税務署あるいは広島国税局の係員の調査に対し記帳の不正確であることを認めながら、適確な資料も示さず、殊に別途預金については妻満子のしたことでよくわからないと称して調査に協力せず、前記の審査決定時においては別途預金の元帳が廃棄されていたこともあつて、原告会社備えつけの帳簿その他の証憑書類からその売上高を算定することは不可能であつたこと

が認められる。

これに対して原告は、前記の各預金は原告の別途預金ではなく、三宅辰三郎および三宅隆子個人の預金であつて、この預金に原告の受取小切手が入つているのは原告に対する立替金の返済として受領した小切手をそのまま預け入れたことがあることによる旨主張し、証人三宅満子・同河内実および原告会社代表者本人は交々右主張にそうよう供述するが、右各供述はいずれも前顕各証拠にてらしてとうてい措信できないのみならず、右立替払いについて何らの記帳もなされていないことは右各供述自体からうかがわれるところであつて、原告の右主張は採用の限りでなく、他に前記認定をくつがえすにたりる証拠はない。

三、そして本件に顕われた全証拠によつても本件係争年度における原告の売上高を確知することはできないから、結局原告の売上高は何らかの方法によつて推計するほかないというべきところ、被告は広島国税局長が所得額を推計する際の基準として定めた商工庶業等所得標準率表のなかの総合食料品卸売業における差益率(売上高と敗売原価との差額の売上高に対する比率)にしたがつて、原告の係争年度における差益率を一〇%と推計して算定したことは被告の主張自体から明らかであるから、以下右の推計方法がはたして合理的であるかについて考えるのに、

(一)  証人狩野栄および同田原広の各証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四、五号証および同第九五ないし第一〇二号証の各一、二・同第一〇三号証の一ないし三・同第一〇四ないし第一一〇号証の各一、二・同第一一一号証の一ないし三・同第一一二号証の一、二・同第一一三号証の一ないし三・同第一一四号証の一、二・同第一一五号証の一ないし三・同第一一六ないし第一一八号証の各一、二と証人定森卓二・同尾坂茂・同田原広・同西村盛次郎・同狩野栄の各証言とに弁論の全趣旨を綜合すれば、

(1)  広島国税局長は昭和二七年以来毎年同国税局管内の各税務署に命じて各業種別に同種の個人営業者のうち正確に記帳しているものを抽出してその所得の実態を調査させ、その事績を総合検討して売上に対する所得額の割合(所得率)および販売原価に対する売上増の割合(差益率)等を算定し、これを商工庶業等所得標準率表として管内各税務署に対し所得等推計の基準として適用するよう指示通達しているが、右所得標準率表によれば、総合食料品卸売業における標準差益率は昭和二七、二八年度とも一〇%と定められていること

(2)  岡山市内における原告と同程度の規模の同業会社においても昭和二六ないし二八年度における差益率はいずれも一〇%前後で大差はないことが認められ、この認定に反する証拠はない。

右の事実からすれば、原告の昭和二七、二八年度における売上高について右一〇%の差益率を適用する被告の推計方法は合理的であると推認すべきところ、原本の存在およびその成立に争のない甲第一号証(乙第九二号証の二はその原本)および証人窪田巽の第一、二回証言をもつてしても右推認をくつがえすにたりず、他に適切な反証もない。

(二)  しかして原告の昭和二六年度における差益率が同二七、二八年度におけるそれよりも高かつたことは原告の自陳するところであるから、昭和二六年の売上高についてもまた前記一〇%の差益率を適用して妨げないというべきである。

四、そこで売上高については差益率一〇%を適用して推計することとして昭和二六ないし二八年度における原告の所得額について検討してみよう。

(一)  昭和二六年度について

(1)  別表(一)のうち利益の部「期末たな卸商品」および「売上商品」を除くその余の科目、損失の部「売上返品」および「売上値引」を除くその科目については当事者間に争がない。

(2)  利益の部「期末たな卸商品」金三九一万一、〇五七円のうち金三八二万七、八六七円は原告の自認するところであるが、証人平田佳助の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第六九号証の一、二と同証人の証言とによれば、原告は右のほかに「いりぼし」一七七貫金八万三、一九〇円相当(貫当り金四七円)の期末たな卸商品があつたことが認められ、この認定に反する証拠はないから、この科目は被告主張のとおり金三九一万一、〇五七円となる。

(3)  利益の部「売上商品」は左記の数式により販売原価を算出し、これに差益率一〇%を適用すると被告主張のとおり金四、五〇一万〇、九四一円(円未満切捨)となる。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

1,724,302+43,170,005-(3,911,057+473,403)=40,509,847

(販売原価)(差益率)(売上商品)

<省略>

(4)  損失の部「売上返品」および「売上値引」について、証人尾坂茂の証言によれば、右は前記の差益率を求めるにあたつてすでに損失として考慮されていることが認められ、これに反する証拠はないから、差益率を適用して売上高を算定する場合にはさらに損失として計上すべきものでないことは当然である。

(5)  しかして原告には当期において計上すべきものは利益・損失とも他に存在しないことは弁論の全趣旨から明らかである。

そうすると原告の当期における利益は別表(一)認定額欄記載のとおり計金四、九六一万一、一七九円、損失は計金四、八三六万九、九二四円となるから、その所得額は右の差額金一二四万一、二五五円となる。

(二)  昭和二七年度について

(1)  別表(二)のうち利益の部「期末たな卸消耗品」、および「雑収入」、損失の部「繰越商品」を除くその余の科目については当事者間に争がない。

(2)  利益の部「期末たな卸商品」金三三四万九、五六〇円のうち金三二一万五、一七〇円は原告の自認するところであるが、証人平田佳助の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第七三号証の一、二と同証人の証言とによれば、原告には右のほかに金一三万四、三九〇円相当の期末たな卸商品があつたことが認められ、この認定に反する証拠はないから、この科目は被告主張のとおり金三三四万九、五六〇円となる。

(3)  前顕乙第七三号証の一、二と証人平田佳助の証言とによれば、原告には当期「仕入値引」として計上されるべき金八万三、四八〇円の利益があつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(4)  成立に争のない乙第七一号証・証人田原広の証言によつて真正に成立したものと認められる同第七二号証の一ないし四と同証人の証言とによれば、原告には当期金六万二、八一八円の保険金収入があつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(5)  損失の部「繰越商品」は前期の「期末たな卸商品」が金三九一万一、〇五七円であつたことは前説示のとおりであるから、当期繰越商品が右と同額であるべきは当然である。

(6)  利益の部「売上商品」は前期同様左記の数式によつて販売原価を算出し、これに差益率一〇%を適用すると被告主張のとおり金五、三五〇万一、九四〇円となる。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

3,911,057+47,673,729-(3,349,560+83,480)=48,151,746

(販売原価)(差益率)(売上商品)

<省略>

(7)  しかして原告には当期において計上すべきものは利益・損失とも他に存在しないことは弁論の全趣旨から明らかである。

そうすると原告の当期における利益は別表(二)認定額欄記載のとおり計金五、七一七万八、九七三円、損失は計金五、五四五万七、〇二二円となるから、その所得額は右の差額金一七二万一、九五一円となる。

(三)  昭和二八年度について

(1)  別表(三)のうち利益の部「売上商品」損失の部「繰越商品」および「売上値引」を除くその余の科目については当事者間に争がない。

(2)  損失の部「繰越商品」は前期の「期末たな卸商品」が金三三四万九、五六〇円であつたことは前説示のとおりであるから、当期繰越商品が右と同額であるべきは当然である。

(3)  利益の部「売上商品」は前同様左記の数式によつて販売原価を算出し、これに差益率一〇%を適用すると被告主張のとおり金六、〇一九万六、五六一円となる。

(繰越商品)(仕入商品)(期末たな卸商品)(仕入値引)(販売原価)

3,349,560+57,700,336-(6,572,252+300,739)=54,176,905

(販売原価)(差益率)(売上商品)

<省略>

(4)  損失の部「売上値引」についてはこれを損失としてさらに計上すべきでないこと前述のとおりである。

(5)  しかして原告には当期において計上すべきものは利益・損失とも他に存在しないことは弁論の全趣旨から明らかである。

そうすると原告の当期における利益は別表(三)認定額欄記載のとおり計金六、七四二万三、二九九円、損失は計金六、五八三万五、七六三円となるから、その所得額は右の差額金一五八万七、五三六円となる。

五、してみれば被告の原告に対する更正決定にかかる昭和二六ないし二八年度における各所得額はいずれも右認定の各所得額の範囲内にあるから、何ら違法はないというべく、被告の右更正決定は原告の所得額を過大に評価した違法があるとしてこれが取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柚木淳 裁判官 井関浩 裁判官金野俊雄は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 柚木淳)

別表(一)(昭和二六年度)

<省略>

以上

別表(二)(昭和二七年度)

<省略>

以上

別表(三)(昭和二八年度)

<省略>

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例