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岡山地方裁判所 昭和33年(ヨ)13号 決定 1958年3月12日

申請人 井上一郎

<外七名>

右八名代理人弁護士 寺田熊雄

被申請人 株式会社三和相互銀行

右代表者 立林文二

主文

被申請人が申請人等に対して昭和三十二年十二月二十六日附をもつてなした解雇の意思表示の効力を停止する。

理由

本件申請の趣旨は主文同旨の裁判を求めるというにあり、その理由の要旨は

第一、被申請人会社は相互銀行法に基く相互銀行であり、申請人等はいずれもその職員であつて、申請人井上一郎は主事、片上支店長、同中村和男は主事補、和気支店長、同国定市男は主事、岡山市東支店長、同槇本栄治は主事、玉野支店長、同寺岡憲一は主事、福山支店長、同林栄は主事補、津山支店長、同河西九一郎は主事補、本店営業部契約課長、同綱島吉男は主事補、本店検査部検査役である。

第二、被申請人会社代表取締役社長立林文二は昭和三十二年十二月二十六日午前中、申請人等に対し午後社長室に出頭すべきことを命じたので、申請人等のうち林及び綱島以外の者はいずれも同日午後三時より五時までの間に社長室に出頭したところ、他の取締役等立会の上社長より経営の合理化を理由にいきなり退職して貰うことになつたから辞職願を出してくれと言渡された。林及び綱島を除く申請人等はその理由を尋ねたが経営の合理化のためであるというのみで納得できず、いずれもこれを拒否した。ところが社長は同日付をもつて申請人等に対し書留内容証明郵便により業務の都合により解雇する旨の解雇の意思表示をなした。

第三、就業規則第五十五条第二号によれば「止むを得ない業務上の都合による」ときは解雇し得るが、第五十四条の明定する如く職員は正当な理由なくして解雇されることはない。しかるに申請人等には全然解雇される理由がない。本件解雇は経営の合理化のための人員整理の形式をとつているが解雇以前において人員整理が問題にされたことはなく勿論解雇基準を示されたこともなく、解雇は全く突然にしかも常識を逸する程早急に且つ冷酷な方法によつてなされた。およそ企業整理のための解雇においては整理基準が定められ、それに基いて行われるのが普通であり、人員整理である以上当然に老令者、成績不良者等が先ずこれに該当するものとして解雇されるべきである。本件解雇は従業員総数五百五十余名中僅かに申請人等八名のみを該当者としてなされたが、当時被申請人会社には相当数の老令者(就業規則の停年を越えているもの)或は勤務成績の不良な者があつた。これに反し申請人等はいずれも平素より職務に精励し成績抜群であつたものばかりである。申請人等の勤務成績が優秀であつたことは申請人等が或は社団法人全国相互銀行協会長より、又は大蔵大臣日銀総裁若くは社長等より表彰されている事実によるも明らかであり、又就業規則第一条所定の如く試用期間満了し、又成績優秀にして任用されて書記補となり、書記補として三年以上勤務し、業務に練達した者より選ばれて書記となり、書記として四年以上勤務して業務全般に精通し、人格識見ともに備わり、責任者として適格と認められた者が主事補となり、主事補として三年以上勤務し人格高潔にして社員の師表とするに足るものが主事となるのであるから被申請人会社も主事又は主事補である申請人等が優秀であることは自らこれを認めているところである。

第四、かように極めて成績優秀であるところの申請人等が企業合理化の名のもとに解雇されたのは、申請人等がいずれも被申請人会社の職員であると同時に株主であつて一部重役と意見を異にする他の株主有志により計画された会社の自主再建を目的とする臨時株主総会招集のための準備運動に賛同したため、一部重役の不興をかつたことが決定的動機となつたものと考えるより外に何等の理由も見出せない。被申請人会社は従前より株主である職員に対し当然のことながら株主権の行使を認容していたのであり、右は会社の自主再建を念願した株主としての正当な権利の行使に過ぎず、しかも申請人等はこれがため業務の執行に支障を来すようなことは全くしていないのである。

第五、叙上のとおり就業規則に定めた停年により退職すべきもの又は成績不良にして退職さすべきものをそのままとし、特に成績優秀な申請人等に対してなされた本件解雇は、前記就業規則第五十四条所定の正当理由も又その必要もなく、表面企業合理化による整理解雇を装いながら申請人等の株主としての正当な行為を非難し、一部重役の指示によりこれを実質的な理由としてなされたものであり、就業規則に違反した解雇権の濫用であつてその効力はない。

第六、申請人等は右解雇の無効確認を求むる本訴を提起すべく準備中であるが、申請人等は平素より僅かな月給に甘んじて会社のため精根を尽して働いて来たので、生活上の余裕は全くないのに加えて年令的に子供が或は大学に、或は高校、中学に通学しており、このままでは生活に窮し申請人等としても又子供等の一生にとつてもとり返すことのできない損害を蒙るし、精神的にも重大な苦痛であるから、本案の判決確定に至るまで仮に本件解雇の意思表示の効力を停止する旨の裁判を求めるため本申請に及んだというにある。

よつて按んずるにかかる疏明によれば申請人等の申請は一応理由があると認められるのでこれを認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 林歓一 裁判官 藪田康雄 野曽原秀尚)

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