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岡山地方裁判所 平成9年(ワ)1037号 判決 1999年9月30日

広島県<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

田中千秋

東京都千代田区<以下省略>

被告

株式会社大和証券グループ本社(旧商号 大和証券株式会社)

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

瀧賢太郎

主文

一  被告は、原告に対し、金三三二万六五五〇円及びこれに対する平成九年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は、原告に対し、金七三〇万三一〇〇円及びこれに対する平成九年一〇月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、証券会社である被告からワラントを購入した原告が、被告の従業員に説明義務違反等の過失があったとして、債務不履行ないし使用者責任に基づき損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実

1  当事者

(一) 原告は、昭和一六年生まれの男性であり、株式会社a工場長をしている者である。

(二) 被告は、証券業を営む株式会社である。

2  原告は、平成元年四月四日、岡山市<以下省略>所在の被告岡山支店において、被告従業員B(以下「B」という)の勧誘により、大林組ワラント(以下「本件ワラント」という)を六六五万三一〇〇円で購入した。

3  本件ワラントは、購入後値下がりを続け、権利行使も転売もされないまま権利行使期限の平成五年三月一七日を経過したため、無価値になった。

二  争点

本件の争点は、被告の使用者責任ないし債務不履行の成否及び消滅時効の成否である。

1  原告の主張

(一) 被告は、証券取引の専門業者として、左記のとおり顧客を保護すべき義務があるというべきところ、Bはこれに違反する態様で勧誘行為を行い、原告に本件ワラントを購入させた。したがって、被告は、Bを雇用する者として、原告に対し、使用者責任ないし債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。

(1) 説明義務違反

Bは、平成元年三月一六日頃電話で原告に本件ワラントの購入を勧めたが、その際、ワラントの危険性についての説明を全くしなかった。

(2) 断定的判断の提供

Bは、右勧誘に際し、「大林組の株が上がっている。このまま上がり続けるので、必ず儲かるから大林組のワラントを買わないか。これまでの損失を取り戻すことができる」などと言って断定的判断を提供した。

(3) 虚偽表示・誤導表示

Bは、ワラントが極めてリスクの高い投資商品で権利行使期限が過ぎると無価値になることを知りつつ、虚偽もしくは甚だ根拠に乏しい情報を提供し、重要な事実の告知を怠った。

(4) 適合性原則違反

証券会社は、顧客の属性、資産、投資目的、知識、経験等を調査した上で、当該取引に適合する条件を具備する顧客にのみ証券取引を勧誘すべき義務があったところ、Bは右義務を怠って、ワラント取引の適合性に欠ける原告に取引を勧めた。

(二) 損害

原告は、本件ワラントの購入代金六六五万三一〇〇円の損害を被った。また、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は六五万円である。

2  被告の反論

(一) 原告の主張事実はいずれも否認し、法的主張は争い、特に以下の点を反論する。

(1) 証券会社の負う説明義務は、投資家の調査活動と判断を故意に妨害してはならないという内容のものに過ぎず、それ以上に証券会社が積極的な援助義務を負うものではない。投資家は、自らの責任においてワラントの理解を深めるための調査をすべきであって、ワラントそのものの理解ができなかったり、具体的取引についての利害得失の判断が困難と判断すれば、取引をしなければ済むことである。

また、ワラントは、株式の現物取引・信用取引、外国株取引、転換社債と類似する面を有しており、これらの投資経験を有する者であれば、ワラントの特性を理解して具体的投資の是非を判断することは充分可能である。

(2) 適合性の原則は、大蔵大臣の行う行政処分の要件の一つに過ぎず、証券会社やその従業員に私法上の義務を課すものではない。

(二) 本件ワラントの権利行使期限の平成五年三月一七日から不法行為の消滅時効が進行し、本件訴訟は、時効期間の三年を経過した平成九年一〇月一六日に提起された。被告は、平成一〇年二月二五日の本件口頭弁論期日において、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

3  原告の再反論

原告は、法的知識の欠如からBのワラントの勧誘態様が不法行為に該当することを知ることができず、平成九年六月一三日にワラントに関する新聞記事を見て、初めて被告の行為が違法であることを知った。したがって、消滅時効は同日から進行し、消滅時効は未だ完成していない。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲三、四、乙七の2、八、一〇の1、2、一一、一三の1、2、証人B)によれば、以下の事実が認められる。

ワラントは、あらかじめ定められた一定の期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定の数量(権利行使株数)の新株を引き受ける(買い受ける)ことのできる権利(新株引受権)ないしはこれを証券化したものをいう。ワラント債(新株引受権付社債)には、新株引受権と社債とが結合した非分離型と、両者を分離して新株引受権の部分のみを証券化した分離型があり、また、国内において円建てで発行されたものである国内ワラント債と海外において外貨建てで発行された外貨建ワラント債がある。

ワラントの価格は株価の動きに影響を受けるが、一般的にその変動率は株価の変動率に比べて大きくなる傾向にあり、株価が上昇するとワラントの価格は株価の上昇率よりも大きな率で上昇するから、株式に比べて少額の資金で多額の利益を得られ、株式投資以上の投資効率を享受することもあるが、一方、株価が下落した場合には、ワラントの価格は株価の下落率よりも大きな率で下落して株式投資以上の損失を被り、場合によっては投資額全額を失うことがある。ただし、損失の額は最大でもワラントの購入代金に制限される。ワラントは、株価と権利行使価格から理論価格(パリティ)を算出することができるが、実際には、将来の株価上昇の期待によりプレミアムが付加された価格で取引がされている。更に、外貨建ワラントの価格は、為替相場の影響を受ける。

ワラント債は、昭和五六年商法改正によって採用されたが(同年一〇月一日施行)、日本証券業協会は、同年九月三〇日、理事会決議により、分離型ワラント及びワラントについては、流通市場の受入体制が整備されるまでの措置として、取引を行わないとの自主規制をした。その後、昭和六〇年一〇月三一日に右自主規制は廃止された。そして、平成元年四月一九日、理事会決議により、顧客に対し予め説明書を交付して取引の概要や危険性を説明すると共に、説明内容を理解して顧客の判断と責任において取引を行う旨記載した確認書を徴求することとなり、被告においても同年五月からそのような確認書を徴求するようになった。また、被告は、同年九月三〇日に顧客管理規程を変更し、外国新株引受権証券取引顧客の資力基準として預かり資産額が一〇〇〇万円以上又は顧客カードにより当該顧客の金融資産額が一〇〇〇万円以上と認められるときという基準によりワラント取引を勧誘していた。なお、被告は、平成二年四月一日、顧客管理規程を変更して、顧客が行う新株引受証券の取引について、その数量が当該顧客の預かり資産又は金融資産の額の範囲内でかつ過大な取引とならないようその的確な把握に務めるものとし、顧客が新株引受権証券の買付けを行った場合は、当該顧客に対し、当該新株引受権証券の権利行使期間について告知するものとする、顧客から新株引受権証券の保護預りを受けている場合は、当該顧客に対し、当該新株引受権証券の最終権利行使期限の六か月前に権利行使期限の到来について書面をもって通知するものとする、という規程を新たに設けた。

二  事実経過

証拠(甲八ないし一二、乙二、四の1、2、五、六、一五の1ないし4、一八、一九、二一の1ないし19、二六、証人B、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、昭和一六年生まれの男性であり、高校卒業後、昭和三六年にa社に就職し、昭和六一年頃業務課長に就任し、現在は工場長を務めている。原告の昭和六一年頃の年収は約五〇〇万円で、投資可能な資金は年間一〇〇万円くらいだった。

2  原告は、被告との間で、以下のとおり証券取引をした。

(一) 原告は、昭和六一年一月頃、勤務先の会社と取引関係のあった中国銀行b支店の支店長から、同人が長年中国銀行の株式を保有しており、配当を得られる上に利ざやもあると聞いて株式取引に興味を抱くようになり、新聞広告を見て被告の岡山支店に電話をかけて中国銀行の株式の購入を依頼し、同年一月二九日に単価一二〇〇円で一〇〇〇株を購入した(支払金額一二一万四六〇〇円)。

もっとも、右支店長の取引態様は、いわゆる資産株として長期間保有する目的で勤務先の株式を購入したものであって、投機的な取引ではなかった。

原告の最初の担当者はCだった。

(二) 同年六月一一日、中国銀行の株式を単価一二〇〇円で一〇〇〇株売却した(入金額一一七万八八〇〇円、三万五八〇〇円の損失)。

(三) 昭和六二年五月六日、新日本製鉄の株式を単価三八〇円で五〇〇〇株購入した(支払金額一九二万一九五〇円)。

(四) 同年一〇月一五日、東芝の株式を単価八三〇円で二口計五〇〇〇株購入した(支払金額計四一九万二三五〇円)。

(五) 昭和六三年三月二日、新日本製鉄の株式を単価四三八円で五〇〇〇株売却した(入金額二一五万四〇五五円、二三万二一〇五円の利益)。

(六) 同年三月二四日、松下電器産業の株式を単価二六七〇円で一〇〇〇株購入した(支払金額二六九円八七〇〇円)。

(七) 同年五月六日、東芝の株式を単価八八三円で三〇〇〇株売却し(入金額二六〇万五九四一円、九万〇五三一円の利益)、日本電信電話の株式を単価二五一万円で一株購入した(支払金額二五三万七一〇〇円)。

(八) 同年五月二〇日、東芝の株式を単価八七六円で二〇〇〇株売却した(入金額一七二万二八四四円、四万五九〇四円の利益)。

(九) 同年六月二九日、シチズン時計の株式を単価九〇七円で一〇〇〇株(支払金額九一万七八八四円)、三菱重工業の株式を単価八九五円で二口計二〇〇〇株購入した(支払金額計一八〇万九九〇〇円)。

(一〇) 同年七月四日、日立造船の株式を単価四八九円で一〇〇〇株購入した(支払金額四九万四八六八円)。

(一一) 同年七月五日、日立造船の株式を単価五一九円で九〇〇〇株購入した(支払金額四七一万八〇三九円)。

(一二) 同年七月七日、松下電気産業の株式を単価二六一〇円で一〇〇〇株売却した(入金額二五六万七五四五円、一三万一一五五円の損失)。

(一三) 同年七月一三日、三菱重工業の株式を単価九七一円で二口計二〇〇〇株売却した(入金額計一九〇万九八九九円、計九万九九九九円の利益)。

(一四) 同年七月一四日、日本電信電話の株式を単価二三五万円で一株(入金額二三一万一五七五円、二二万五五二五円の損失)、シチズン時計の株式を単価九〇三円で一〇〇〇株(入金額八八万七一九八円、三万〇六八六円の損失)、日立造船の株式を単価五四二円で二口計一万株(入金額計五三三万七〇四〇円、計一二万四一三三円の損失)売却し、日本郵船の株式を単価八七〇円で三口計一万株購入した(支払金額計八七七万七七五〇円)。

(一五) 同年七月二一日、三菱電機の株式を単価一〇三〇円で三〇〇〇株購入した(支払金額三一二万二八一〇円)。

(一六) 同年八月五日、三菱電機の株式を単価九四八円で三〇〇〇円株売却し(入金額二七九万七九一八円、三二万四八九二円の損失)、藤倉無線の株式を単価一四九〇円で二〇〇〇株購入した(支払金額三〇一万一八〇〇円)。

(一七) Cの異動により、昭和五九年四月に被告に入社して昭和六〇年一月に岡山支店営業部に配属されたBが昭和六三年八月三一日から原告を担当し、顧客勘定元帳に基づいて原告の直前の取引内容を調査し、証券取引を勧誘した。原告は、同年九月一二日、日本郵船の株式を単価七二六円で二〇〇〇株売却し(入金額一四二万七四九四円、三二万八〇五六円の損失)、ステップを八八万円で購入した。

(一八) 同年九月一三日、呉相銀の株式を単価九五五円で一〇〇〇株購入した(支払金額九五万五〇〇〇円)。

(一九) 同年九月二〇日、日本郵船の株式を単価七七七円で六〇〇〇株(入金額四五九万二〇二二円、六七万四六二八円の損失)、単価七七八円で二〇〇〇株(入金額一五三万二六四四円、二二万二九〇六円の損失)、藤倉電線の株式を単価一二五〇円で二〇〇〇株売却し(入金額二四五万九二五〇円、五五万二五五〇円の損失)、カシオの株式を単価一四四〇円で六〇〇〇株購入した(支払金額八七一万七三〇〇円)。

(二〇) 同年一〇月三日、呉相銀の株式を単価九九〇円で一〇〇〇株売却し(入金額九七万二六七五円、一万七六七五円の利益)、ニッセンの株式を単価一五五〇円で一〇〇〇株購入した(支払金額一五六万七五〇〇円)。

(二一) ステップを同年一〇月二四日に九四万円、平成二年一月二三日に二万九〇〇〇円、平成七年一二月四日に三八六六円でそれぞれ売却した(計九万二八六六円の利益)。

(二二) 昭和六三年一〇月二五日、カシオの株式を単価一二〇〇円で六〇〇〇株売却し(入金額七〇九万三九〇〇円、一六二万三四〇〇円の損失)、クライスラーの株式を単価三四四〇円で六口計二〇〇〇株購入した(支払金額計六九四万四一〇〇円)。

(二三) 同年一二月六日、ニッセンの株式を単価一二七〇円で一〇〇〇株売却し(入金額一二四万八三一五円、三一万九一八五円の損失)、三菱自動車工業の株式を単価一三一〇円で一〇〇〇株購入した(支払金額一三二万五一〇〇円)。

(二四) 同年一二月二二日、三菱電線工業の株式を単価九三二円で一〇〇〇株購入した(支払金額九四万三一八四円)。

(二五) 同年一二月二七日、クライスラーの株式を単価三二二〇円で二口計六五〇株売却し(入金額計二〇五万七六六九円、計一九万九一六四円の損失)、山下汽船の株式を単価三七九円で五〇〇〇円購入した(支払金額一九一万五九五〇円)。

(二六) 同年一二月二八日、山下汽船の株式を単価四一四円で五〇〇〇株売却し(入金額二〇三万五九一五円、一一万九九六五円の利益)、三井建設の株式を単価九九八円で二〇〇〇株購入した(支払金額二〇一万七九六〇円)。

(二七) 平成元年一月四日、クライスラーの株式を単価三一四〇円で七五〇株(入金額二三一万六七三五円、二八万七三〇一円の損失)、単価三一七〇円で一〇〇株売却し(入金額三一万一八五〇円、三万五三五五円の損失)、ジャパンラインの株式を単価二六三円で一万株購入した(支払金額二六五万八三〇〇円)。

(二八) 同年一月六日、ジャパンラインの株式を単価二八五円で一万株売却し(入金額二八〇万三八二五円、一四万五五二五円の利益)、ソニーの転換社債を単価一二七・九円で二〇〇〇購入した(支払金額二五八万八二八一円)。

(二九) Bは、原告の累積の損失が増加したため、損失を取り戻させる目的で、昭和六三年一二月頃からワラントの購入を勧めるようになり、電話で一回につき一〇分から一五分位かけて、ワラントは新株引受権のことをいい、新株引受権付社債から分離して独立して売買の対象となっているものであること、権利行使期間があること、ハイリスクハイリターンの商品であることや、ワラントと社債部分の関係をグリコのおまけという比喩を用いて説明し、分離型ワラントのパンフレットを送付した。

その結果、原告は、平成元年一月九日、ソニーの転換社債を単価一三一・三円で二〇〇〇売却し(入金額二六〇万〇九二一円、一万二六四〇円の利益)、分離型外貨建のキャノンワラントを単価三一ポイントで額面五万ドル購入した(支払金額一九七万一六〇〇円)。右ワラントの権利行使期限は平成四年一〇月一四日に設定されていた。被告は、右取引後、原告に対し、商品の内容を説明するとともに権利行使期限の記載されたワラントの売買報告書と預り証を送付した。

なお、Bは、被告岡山支店に在勤中、五〇〇名くらいの顧客を担当し、原告の他に三、四十名の顧客に対しワラントの購入を勧誘し、そのうち実際に面接して説明した顧客は一〇名くらいであり、その他の顧客には電話で説明をしていた。Bの勧誘によりワラントを購入した顧客は一〇名くらいだった。

(三〇) 同年一月一〇日、ジャパンラインの株式を単価二六二円で三〇〇〇株購入した(支払金額七九万五四三二円)。

(三一) 同年一月一七日、クライスラーの株式を単価三四九〇円で三五〇株(入金額一二〇万一一六八円、一万四〇五〇円の損失)、単価三五〇〇円で一五〇株(入金額五一万六二六二円、四五四六円の損失)、三菱自動車工業の株式を単価一二〇〇円で一〇〇〇株(入金額一一七万九四〇〇円、一四万五七〇〇円の損失)、三菱電線工業の株式を単価九二九円で一〇〇〇株(入金額九一万二七四三円、三万〇四四一円の損失)、三井建設の株式を単価九八〇円で一〇〇〇株(入金額九六万三八一〇円)、単価九八一円で一〇〇〇株(入金額計九六万四七九五円、計八万九三五五円の損失)、キャノンワラントを単価二九・五ポイントで額面五万ドル(入金額計一八五万八五四七円、一一万三〇五三円の損失)、ジャパンラインの株式を単価二〇七円で三〇〇〇株売却し(入金額六一万〇一三三円、一八万五二九九円の損失)、オキシデンタルの株式を単価三三三〇円で二四〇〇株購入した(支払金額八〇六万四四四〇円)。

(三二) 同年一月二三日、オキシデンタルの株式を単価三五三〇円で二四〇〇株売却し(入金額八三四万九三六四円、二八万四九二四円の利益)、ウェアーハウザーの株式を単価三四一〇円で二四〇〇株購入した(支払金額八二五万七八八〇円)。

(三三) 同年二月一日、ウェアーハウザーの株式を単価三五一〇円で二四〇〇株売却し(入金額八三〇万一九八八円、四万四一〇八円の利益)、ウエイストの株式を単価五七八〇円で三口計一四〇〇株購入した(支払金額計八一六万五九一〇円)。

(三四) 同年二月二一日、ウエイストの株式を単価五五五〇円で一一五〇株売却し(入金額六二八万七〇二九円、四二万〇〇九一円の損失)、ベスト電器の株式を単価二〇八〇円で三〇〇〇株購入した(支払金額六二九万九三〇〇円)。

(三五) 同年三月三〇日、ウエイストの株式を単価五八八〇円で二〇〇株売却し(入金額一一四万六五四〇円、一万九九一六円の損失)、ペプシコの株式を単価五八四〇円で二口計二〇〇株購入した(支払金額計一一八万二〇九〇円)。

(三六) Bは、原告の累積損失が多くなってきたため、これまでの損失を取り戻させるため、大林組のワラントの購入を勧め、電話で、権利行使期間やハイリスクハイリターンの性質を有することを説明した。Bが右銘柄を勧めた理由は、投資対象として注目されていたこと、連続して相場が上昇していた中で少し下がった状況にあったため、相場格言によれば購入の機会であると考えたこと、権利行使期限まで時間的余裕があったということにあった。そこで、原告は、同年四月四日、ウエイストの株式を単価五九一〇円で五〇株(入金額二八万八〇〇七円、三六〇七円の損失)、ベスト電器の株式を単価一九〇〇円で三〇〇〇株(入金額五五六万八九九三円、七三万〇三〇七円の損失)、ペプシコの株式を単価五八九〇円で一〇〇株売却し(入金額五七万四〇六三円、一万六九八二円の損失)、分離型外貨建の本件ワラントを単価三三・五ポイントで額面一五万ドル購入した。右ワラントの支払金額は六六五万三一〇〇円、権利行使期限は平成五年三月一七日だった。被告は、原告に対し、売買報告書と預り証を送付し、また、「転売若しくは権利行使せずに行使期限が終了すると無価値になります。したがって、最大の投資リスクは投資元本です」との記載のある分離型ワラントと題する説明書を送付した。また、原告は、被告に対し、「私は、貴社作成のワラント取引についての説明書の内容を理解し、私自身の判断と責任においてワラント取引を行うことを確認します」と記載された確認書に署名押印して返送した。その後、被告は、平成二年九月末から平成五年九月末まで年一回ワラントの取引説明書を送付した。

(三七) Bは、平成元年一二月末まで原告を担当して転勤し、その後原告の担当者は三回交替した。原告は、本件ワラントの購入後は、同年四月二五日ターゲットG鉄鋼造船(支払金額五九万六四八〇円)、平成元年一〇月二五日東ソーの株式(支払金額九〇万一〇〇〇円)を購入したのみであって、他に証券取引はしなかった。

(三八) 結局、原告は、被告岡山支店における証券取引によって、通算して一二四六万六三二一円の損失を被った。また、原告は、被告以外の会社と証券取引をしたことはなかった。

3  被告は、原告に対し、数回にわたり「権利行使最終日の近づいたワラントについてのご案内」と題する、権利行使最終日、銘柄名、数量、単位、買付単価、適用為替、買付金額、気配値(時価)、為替、評価額、評価損益の記載された書面を送付し、平成三年九月三〇日、平成四年一月三一日、同年四月三〇日、同年七月三一日、平成五年一月二九日の各時点における状況をそれぞれ通知した。右各書面によると、平成三年九月三〇日の時点においては評価額一二万三五五〇円、評価損益マイナス六五二万九五五〇円、平成四年一月三一日の時点においては評価額二万四五五〇円、評価損益マイナス六六二万八五五〇円、同年四月三〇日の時点においては評価額一〇万〇一二五円、評価損益マイナス六五五万二九七五円、同年七月三一日の時点においては評価額一九一四円、評価損益マイナス六六五万一一八六円、平成五年一月二九日の時点においては評価額一八六九円、評価損益マイナス六六五万一二三一円だった。また、右各書面には、ワラントは行使期限が近づくと時間的価値が減価するためワラント価格の変動率が小さくなるという商品特性を持っており、権利行使期限には充分注意する旨の付記があり、裏面にはワラントの商品特性についての説明が記載されていた。

4  大林組の株価は、昭和五二年から昭和五九年までは概ね一〇〇円台後半から高くとも三〇〇円程度であったが、昭和六〇年以降急激に値上がりし、平成元年には一九六〇円を記録したが、その後急速に値が下がり、平成四年には四二八円にまで下がった。そのため、本件ワラントは、権利行使期限の平成五年三月一七日が来ても、評価損益がプラスにならず、権利行使されることなく無価値になった。

三  被告の責任

本件ワラントを購入するまでの間の原告の取引歴を検討すると、始めての株式取引である昭和六一年一月二九日から株式三八回、転換社債一回、ステップ一回、ワラント一回を取引していたが、本格的に頻繁に投機的な取引を行うようになったのは、昭和六三年六月二九日以降とみるべきであり、右期間中、一か月以上取引がなかった期間もあるが(昭和六三年八月五日から同年九月一二日まで、同年一〇月二五日から同年一二月六日まで、平成元年二月二一日から同年三月三〇日まで)、概ね数日ないし一か月以内に売買を繰り返していた。取引の傾向は資産株としての購入でなく値上がりすれば即転売する目的の投機的取引であり、保有していた株式の相場が下がった場合にも損失を最小限に抑えるべく早期に売却して、その売却代金で次の株式を購入するという取引方法を繰り返していた。原告が、本件ワラントを購入するまでに被告との間で行った証券取引の買付回数は四二回(商内調査表の買付欄による)で、一回あたりの平均投資金額は二四五万五〇三三円、損失を被った取引が二七回(同表の差引損益欄による)で計六七六万三九五〇円(平均二五万〇五一六円)、利益が生じた取引が一四回(同表の差引損益欄による)で計一三一万五八一〇円(平均九万三九八六円)、通算すると五四四万八一四〇円の損失となっており(平均一二万九七一七円の損失)、取引を重ねる毎に損失が累積する傾向にあった。また、本件ワラントを購入する以前において、二〇万円以上の利益が出た取引は全体の中でわずか二回に過ぎないのに対し、二〇万円以上の損失が出た取引は一一回あり、その中にはカシオの株式による一六二万三四〇〇円もの損失を被ったものも含まれている。そして、原告が本件ワラントを購入したのは、本格的に投機的な証券取引を始めてから九か月後であり、また、本件ワラントを購入する以前に購入したワラントはキャノンワラントのみである。Bは、原告の従前の取引内容に優良銘柄が多く、大きな単位で取引をしていたことや、いわゆる損切りの決断が早いことから証券取引に習熟していると判断したという趣旨の供述をしているが、右のとおり、客観的な取引状況をみる限り、原告が証券取引に習熟していたとは到底評価し難く、かえって、本件ワラントを購入する時点においては、原告に投機的な証券取引を行うだけの能力について問題性が明らかになりつつあったといわざるをえない。

そして、本件ワラントによって生じた損失は、通算の差引損益の半分近くを占めるものであり。投資金額についてみても、株式について投資金額が八〇〇万円を超える取引もあったが、株式は会社が倒産しないかぎり無価値になることはないのに対し、ワラントは投資額全額を失う危険性が株式に比べて格段に高く、本件ワラントの投資の規模及び危険性は原告の行った被告との間の証券取引の中では突出していたということができる。

そうすると、ワラントの価格変動の仕組みが、株式相場、ギアリング効果、プレミアム(将来の株価上昇の期待値)、外国為替相場等様々な要素が絡み合って形成されるものであって株式に比べて遥かに複雑であり、無価値になる危険性があることからすれば、投資経験も少なく値動きの判断能力も高いとはいえず、収入が年間五〇〇万円くらいであって投資可能な資金も年間一〇〇万円程度と決して多いとはいいがたい原告が、株式による累積損失を一挙に取り戻すために多額のワラントを購入する行為は、余りに無謀であり、本件ワラントの購入は、原告の投資経験、判断能力、収入等に照らし、明らかに適合性を欠く取引であったといわざるをえない。

これに対し、被告は、証券会社として巨大な組織力や高度の情報収集能力を背景に証券の専門知識、値動きの将来予測、投資家の投資適格性の判断について高度な能力を有しているのであるから、少なくとも個人投資家を相手に取引を勧誘する場合には、契約法理全体を支配する信義則の精神から導き出される証券取引契約の附随義務として、当該具体的取引を行う適合性が明らかに欠けることが判明した場合には取引を勧めるべきでないという保護義務が発生するというべきところ、Bは原告の従前の損失を取り戻させる目的であえてワラントの購入を勧めたのであり、原告の従前の取引の殆どが株式取引であったことからすれば、Bがワラントの購入を勧めなければ原告はワラントによって従前の累積損失を一挙に取り戻そうという考えに至らなかった可能性が高く、Bの勧誘行為は顧客に対する保護義務に違反するものであり、被告がBを雇用していることは当事者間に争いがないから、被告は履行補助者であるBの故意過失についても責任を負い、原告に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。Bの供述中に、本件ワラントの数量については原告の指示によるものであるとの部分があるが、Bが原告に累積した損失を取り戻させる目的で本件ワラントの購入を勧めたことからすれば、高額の投資をすることが暗黙の前提となっていたとみるべきであり、購入金額について原告に何らかの指示があったとしても、Bの勧誘行為の違法性を否定すべき事情とはなりえない。

なお、右事実関係によれば、Bのした勧誘行為は原告に対する不法行為を構成し、被告は使用者責任も負うが、これによる損害賠償義務は、権利行使期限の経過によってワラントが無価値になってから三年以上経過後に本件訴訟が提起されたものであるから、時効によって消滅していることが明らかである。新聞報道を見た時点から消滅時効が進行するという原告の見解は採用することができない。

五  損害額

前記事実関係の下においては、原告は、Bの保護義務違反による債務不履行がなければ、本件ワラントを購入していなかったであろうから、ワラント購入代金六六五万三一〇〇円全額が損害と認められる。

六  過失相殺

被告は、過失相殺の法的主張をしていないが、過失相殺の基礎となるべき具体的事実の主張をしているので職権により判断するに、前記認定事実、ことに、原告の年齢、社会的地位、原告が投機的な株式取引を頻繁に行っていたこと、Bから受けた説明や被告から送付されたパンフレットによりワラントの危険性を認識し得たことからすれば、原告は、本件ワラントの購入によって損失を一挙に取り戻すことができる可能性がある反面として、損失が膨らむ危険性もあるということを懸念することは素人判断においても可能であったというべきであって、自発的な取引回避の余地も相当程度残されていたといいうることからすれば、原告にも相当の過失が認められ、原告の被った全損害について五割の過失相殺をすることが相当である。

したがって、原告の損害は左記計算式のとおり算定される。

計算式 六六五万三一〇〇円×〇・五=三三二万六五五〇(円)

七  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であるが、訴訟代理人に支払うべき報酬は債務不履行と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

八  よって、原告の請求は金三三二万六五五〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成九年一〇月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 酒井良介)

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