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岡山地方裁判所 平成7年(ワ)421号 判決 1997年7月10日

原告

下原弘徳

ほか七人

被告

洲脇純一

主文

一  被告は、原告下原弘徳に対し、金五五八六万一七〇六円及び内金五〇八六万一七〇六円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告下原眞澄に対し、金二六五万円及び内金二四〇万円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告下原結子、同下原洋志、同下原孔明、同下原咲子、同下原萌子及び同下原大道に対し、各金一三万四二八五円及び内金一一万四二八五円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告下原弘徳(以下「原告弘徳」という。)に対し、金一億一四三九万二五九三円及び内金一億〇五〇九万二五九三円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告下原眞澄(以下「原告眞澄」という。)に対し、金五一八万九九九五円及び内金四七二万九九九五円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告下原結子(以下「原告結子」という。)、同下原洋志(以下「原告洋志」という。)、同下原孔明(以下「原告孔明」という。)、同下原咲子(以下「原告咲子」という。)、同下原萌子(以下「原告萌子」という。)及び同下原大道(以下「原告大道」という。)に対し、各金四二万九九九九円及び内金三八万九九九九円に対する平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、道路を横断中の被害者(幼児)が自動車に衝突され、大けがをした事故につき、被害者、その母及びその亡父の相続人が、車の運転者に対し、民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求している事案である。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 日時 平成四年四月二七日午後六時五〇分頃

(二) 場所 倉敷市有城四五番地先市道上

(三) 加害車 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害者 原告弘徳

(五) 事故態様 被告が加害車を運転中、進路前方を歩行中の原告弘徳に自車前部を衝突させて、路上に転倒させた。

2  傷害

原告弘徳は、右事故により、脳挫傷、肺挫傷等の傷害を受け、長期の入通院治療を受けたが、結局、右片麻痺(右上・下肢運動障害、歩行障害等)、言語・知能障害等の後遺障害が残った。

なお、右後遺障害は、自賠責保険後遺障害別等級表第二級第三号に該当すると認定された。

3  被告の責任

被告は、加害車を運転中、前方不注視のため本件事故を起こした。したがって、被告は、民法七〇九条に基づいて損害賠償責任を負う。

4  損害の填補

原告弘徳は、これまでに自賠責保険等から合計三〇五九万六六六八円の支払を受けた。

三  争点

1  損害の発生及びその金額(原告らの請求のうち弁護士費用以外の項目については、別紙のとおり)

(一) 原告弘徳の損害のうち、治療関係費、装具費及び通院交通費を除く、その余のもの。

(二) 原告眞澄の損害

(三) 亡父下原洋道(以下「亡父洋道」又は「洋道」という。)の損害及びその相続

2  過失相殺

(一) 被告の主張

本件事故は、加害車が南進中、原告弘徳が東側から加害車の直前に飛び出してきたために発生したのであり、原告弘徳側にも過失が認められ、その割合は三〇パーセントを下らない。

(二) 原告らの反論

原告弘徳が本件事故当時満三歳の幼児であったこと、本件事故現場付近の路上には、他に二、三人の子供がおり、その子供が飛び出すおそれもあったので、自動車の運転者としては、通常当然に減速すべきところ、被告は、漫然と時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で通り抜けようとしたこと等を考慮すると、原告弘徳側の過失は五パーセントを超えることはない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四判断

一  損害(争点1)

1  原告弘徳

(一) 治療関係費 一八〇万七一七〇円

当事者間に争いがない。

(二) 装具費 一〇万四二五二円

当事者間に争いがない。

(三) 入院雑費 二三万二八〇〇円

争いのない事実2及び証拠(甲五の1ないし9、七の1ないし11、原告眞澄本人)によると、原告弘徳は、本件事故により、脳挫傷、肺挫傷等の傷害を受け、平成四年四月二七日から同年六月二五日までの間(六〇日間)松田病院に入院し、同月二五日から同年一一月六日までの間(一三五日間。但し、平成四年六月二五日は松田病院と重複)川崎医科大学附属病院に入院してそれぞれ治療を受けたものであり、その間の入院雑費は一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係にある入院雑費は、二三万二八〇〇円になる。

一二〇〇円×一九四日=二三万二八〇〇円

(四) 入院付添費 一一六万四〇〇〇円

前示(三)の事実及び証拠(甲九、原告眞澄本人)によると、原告弘徳は、松田病院に入院していた平成四年四月二七日から同年六月二五日までの六〇日間、及び川崎医科大学附属病院に入院していた同月二五日から同年一一月六日までの一三五日間(但し、平成四年六月二五日は松田病院と重複。)、ずっと母親である原告眞澄の付添いを要したことが認められる。

被告は、入院中は完全看護であったとして、右付添いの必要性を争うが、本件事故による受傷当時、原告弘徳が満三歳と幼小であったこと、及び受傷の程度が重大であったこと等に照らすと、付添いが必要であったと考える。

なお、右甲第九号証によると、原告眞澄は、原告弘徳の付添いのために、それまで従前パートで勤めていたスナック(給料は、一か月当たり約一二万円)を休職せざるを得なかったことが認められ、右認定事実も併せ考えると、本件における付添費は、一日当たり六〇〇〇円が相当である。したがって、本件事故と相当因果関係にある入院付添費は、一一六万四〇〇〇円と認める。

六〇〇〇円×一九四日=一一六万四〇〇〇円

(五) 通院交通費 一〇万九一八〇円

当事者間に争いがない。

(六) 通院・日常付添費 一八二万四〇〇〇円

前示(三)及び(四)の事実及び証拠(甲九、原告真澄本人)によると、原告弘徳は、本件事故当時幼小であり、症状が重篤であったため、退院後の平成四年一一月七日から症状固定時の平成六年七月七日までの六〇八日間、通院の際及び日常生活全般において、原告眞澄の付添いが必要であったことが認められ、一日当たり三〇〇〇円の割合による付添費を要したものと認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係にある通院・日常付添費は、一八二万四〇〇〇円になる。

三〇〇〇円×六〇八日=一八二万四〇〇〇円

(七) 逸失利益 四三一八万〇六九〇円

(1) 争いのない事実2及び証拠(甲六、九、原告眞澄本人、川崎医科大学附属病院に対する調査嘱託の結果)によると、原告弘徳は、本件事故による受傷で、右片麻痺(右上・下肢運動障害、歩行障害等)、言語・知能障害等の後遺障害が残り、自賠責保険後遺障害別等級表第二級第三号(神経系統の機能又は精神の障害のために、随時介護を要するもの)に該当すると認定されたこと、症状固定時は平成六年七月七日であり、右時点で同人は満五歳であったこと、その後も時々通院してリハビリ治療を受けているものの、症状に著明な変化はみられないことが認められる。

そうすると、原告弘徳は、本件事故によって、平均就労可能年齢である一八歳から六七歳までの四九年間、得べかりし収入の一〇〇パーセントを喪失したことになるから、同原告の逸失利益は、次のとおりになる(新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除)。

二三九万五六〇〇円(平成五年度賃金センサス第一巻第一表、産業計・企業規模計・学歴計男子労働者一八歳ないし一九歳の平均給与額)×一八・〇二五(満五歳に適用すべき新ホフマン係数)=四三一八万〇六九〇円

(2) 被告は、原告弘徳が受傷時及び症状固定時に幼児であり、可塑性に富み、成人とは異なりさらなる回復も期待できるとして、労働能力喪失率を争う。

なるほど、一般論としては、小児の頭部外傷では回復力が大きく、また、壊死を起こした中枢神経系の細胞も、幼小児では可塑性が大きいため、成人よりも回復が良好であることから、徐々に後遺障害が改善される可能性があるとしても(乙第三号証)、本件において、将来的に原告弘徳が現状よりも機能的に回復し、特に軽易な労務への就労が可能になるかは、現時点で予測がつかないし(甲第九号証によると、原告弘徳には、本件事故後徐々に視力低下も認められ、将来、現状よりも症状が悪化する可能性も否定できない。乙第三号証も、原告弘徳につき、今後徐々に後遺障害が改善される可能性があるとしつつも、他方、外傷性てんかん発症の可能性も皆無ではないとの意見が記載されている。)、またそれを認めるに足りる証拠もない。したがって、原告弘徳の現在の状態をもとに労働能力喪失率を一〇〇パーセントと判断をせざるを得ないものと考える。

よって、被告の主張を採用することはできない。

(八) 将来の介助料 三二七五万八〇二〇円

前記認定の、原告弘徳の本件受傷内容、入通院期間、後遺障害の内容、程度に加え証拠(甲六、九ないし一一、乙四、検乙五、原告眞澄本人)によると、原告弘徳は、右片麻痺のために入浴時や更衣時には介助を必要とし、また、歩行は、プラスチック製右短下肢装具を使用し、右足尖足位にて単独歩行が可能であるが、転倒の可能性があるので、登下校時には兄や姉が付き添うなど、日常生活全般にわたって、随時、家族による介助を受けていることが認められ、こうした状態は、将来的にも続くものと予想される。

被告は、前項と同様、将来回復が期待できるとして、右損害額を争うが、前示のとおり被告の主張は理由がない。

そうすると、原告弘徳は、症状固定時(満五歳)から平均余命までの七一年間、随時、家族による介助が必要であると認められ、その間一日当たり三〇〇〇円の割合による介助料を認めるのが相当である(但し、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除する。)。

よって、本件事故と相当因果関係にある原告弘徳の将来の介助料は、次のとおりになる。

三〇〇〇円×三六五日×二九・九一六(七一年間に対応する新ホフマン係数)=三二七五万八〇二〇円

(九) 慰謝料 二〇五〇万円

前示の原告弘徳の傷害の部位、程度、治療の経過、入通院期間、本件後遺障害の内容、程度、同原告の年齢等の諸事情に照らし、同原告が本件事故によって被った傷害及び後遺障害に対する慰謝料は、二〇五〇万円をもって相当と認める。

(一〇) 右(一)ないし(九)の合計額 一億〇一六八万〇一一二円

2  原告眞澄

慰謝料 二〇〇万円

証拠(甲九、原告眞澄本人)によると、原告眞澄は、本件事故により、原告弘徳が死亡した場合にも等しい、大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、それを慰謝するには、二〇〇万円が相当である。

3  亡父洋道の相続

(一) 休業損害

証拠(甲八、九、原告眞澄本人、(有)レディーキラーに対する調査嘱託の結果)によると、亡父洋道は、本件事故当時、クラカコーポレーション株式会社に勤務して、課長の地位にあり、本件事故の前年は、年額六五一万円の給与を得ていたこと、しかしながら、本件事故後、原告眞澄が同弘徳の付添看護をしていた間、一〇歳の長女を筆頭に幼い六人の子供の面倒をみなければならなくなって欠勤を続け、結局、右会社から解雇されたこと、そのために、同人は、本件事故後有限会社レディーキラーに再就職した平成四年一二月八日までの間、給与収入を得られなかったことが認められる。

なるほど、洋道と原告眞澄が、幼い七人の子供をかかえながら、夫婦共働きで生計をたてていたことを考えると、原告弘徳の受傷後、原告眞澄が添付看護をしなければならなくなったことによって、家庭生活のみならず社会生活を送る上でも、洋道の負担ないし不利益が増大したであろうことは容易に推測されるところである。

しかしながら、このような負担ないし不利益は、洋道が原告弘徳の父であったことから反射的に生じたものであって、洋道の生命、身体に対する直接的な侵害の結果として生じたものではないのであるから、このようなものについてまで加害者に責任を負わせることは、賠償の範囲を無制限に拡大する結果となりかねない。したがって、このような子供の受傷により父親に生じた負担ないし不利益については、加害者にそれ自体に対する故意ないし害意が認められる場合を除き、父親が固有の逸失利益として請求することはできないものというべきである。本件における被告に、右の故意ないし害意があったことを認めるに足りる証拠はないから、結局、本件事故による洋道の逸失利益を認めることはできず、洋道の右負担ないし不利益は、次の慰謝料算定に当たっての一事情として斟酌するものとする。

(二) 慰謝料 二〇〇万円

右認定事実及び本件に表われた一切の事情を考慮すると、原告弘徳の受傷によって、亡父洋道が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。

(三) 証拠(甲九、一二、原告眞澄本人)並びに弁論の全趣旨によると、洋道は平成七年三月一五日死亡し、妻である原告眞澄、子である原告弘徳、同結子、同洋志、同孔明、同咲子、同萌子及び同大道が、洋道の被告に対する右損害賠償請求権を相続により取得したことが認められる(相続分は、原告眞澄が二分の一、原告弘徳、同結子、同洋志、同孔明、同咲子、同萌子及び同大道が、各一四分の一)。

(四) よって、各原告が右相続により取得した損害賠償請求権の額は、原告眞澄が一〇〇万円、その余の原告らが各一四万二八五七円になる。

二  過失相殺(争点2)

1  争いのない事実1及び証拠(甲一ないし四、被告本人)によると、被告は、平成四年四月二七日午後六時五〇分頃、加害車を運転して岡山県倉敷市有城四五番地付近の市道(速度制限なし、)を、粒浦方面から藤戸町方面に向けて、時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で南進中、本件事故現場手前約三八・七メートルの地点で進路前方右側の道路端に佇立している小学生くらいの子供二、三人を発見し、その方に注意しながら進行したために、折から、その反対方向である、進路前方約六・三メートルのところを左側から右側に横断しようとして飛び出してきた原告弘徳に気づくのが遅れ、急制動をするも間に合わず、自車前部を衝突させて、同原告を路上に転倒させたことが認められる。

このような場合、自動車運転者としては、不意に自車の前を横断する歩行者の存在を予想し、飛び出しがあればすぐに停止できるように、前方を十分に注視するとともに減速すべき注意義務があるにもかかわらず、被告は右の注意義務を十分に尽くさなかったのであるから、本件事故は、第一次的に被告の右過失によって生じたものであるといわざるを得ない。

2  しかしながら、前掲各証拠によると、原告弘徳にも道路横断の際、左右の安全を確認せずに飛び出した点に落ち度が認められる。本件事故当時、原告弘徳が満三歳であったことから、同原告自身には事理弁識能力を認めることができないが、同原告の当時の監督義務者(両親)である洋道及び原告眞澄には、このような原告弘徳を本件事故現場付近で幼い姉達と遊ばせるなどして放置し、同原告に対する監督を十分に行わず、同原告単独で加害車が接近している本件市道を横断させたため、本件事故に至ったものであるから、原告弘徳側にも、過失があるといわなければならない。

3  双方の過失を対比すると、原告らの損害額から二〇パーセントを減額するのが相当である。

4  そうすると、被告が、原告弘徳に対して賠償すべき損害額は八一三四万四〇八九円(一億〇一六八万〇一一二円×〇・八)、原告眞澄に対して賠償すべき損害額は一六〇万円、洋道の相続人である原告眞澄に対して賠償すべき金額は八〇万円、同様に相続人としてのその余の原告らに対して賠償すべき金額は各一一万四二八五円になる。

三  原告弘徳につき、損害の填補(争いのない事実4)

原告弘徳がこれまでに自賠責保険等から合計三〇五九万六六六八円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

したがって、右金額を原告弘徳の損害額(過失相殺後の金額)から控除すると、被告が原告弘徳に対して賠償すべき金額は五〇七四万七四二一円になる。それに、亡父洋道から相続した賠償請求権を加えると、被告が原告弘徳に対して賠償すべき金額は、五〇八六万一七〇六円になる。

四  弁護士費用(争点1)

本件事案の内容、審理の経過、認容額等を考慮すると、弁護士費用は原告弘徳につき五〇〇万円、同眞澄につき二五万円、同結子、同洋志、同孔明、同咲子、同萌子及び同大道につき各二万円が相当である。

五  まとめ

被告が原告らに対して賠償すべき金額は、原告弘徳につき五五八六万一七〇六円、同眞澄につき二六五万円、同結子、同洋志、同孔明、同咲子、同萌子及び同大道につき各一三万四二八五円になる。

第五結論

以上によると、原告らの請求は、原告弘徳につき五五八六万一七〇六円及び内金五〇八六万一七〇六円に対する本件事故日である平成四年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の、同眞澄につき二六五万円及び内金二四〇万円に対する右同日から支払済みまで右同割合による遅延損害金の、同結子、同洋志、同孔明、同咲子、同萌子及び同大道につき各一三万四二八五円及び内金一一万四二八五円に対する右同日から支払済みまで右同割合による遅延損害金の各支払を求める限度でいずれも理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して(仮執行免脱宣言は相当でないから、これを付さないこととする。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 白井俊美)

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