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岡山地方裁判所 平成7年(ワ)1211号 判決 1997年2月25日

原告

松本光世

被告

西江美花

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金八〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自二四六万二八五七円及びこれに対する平成七年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者である原告が、被告西江美花に対しては民法七〇九条に基づき、被告西江高之に対しては自賠法三条に基づき損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

平成七年二月二〇日午後五時二五分ころ、岡山市東平島一二一七番地の一先路上において、被告酉江美花が、同西江高之の保有する普通乗用自動車(岡山五〇す五三八九)を運転して、駐車場内から道路上に進出しようとするに際し、左方道路の安全確認を怠り進行したため、左方歩道上において自転車を停止させ待機していた原告に、被告車両を衝突させ、原告に両手・左膝・右下腿打撲挫傷、臀部打撲、腰部捻挫の傷害を負わせた(以下、本件交通事故という)。

2  責任原因

被告西江美花は民法七〇九条の、被告西江高之は自賠法三条の損害賠償責任を負う。

3  損害の填補

原告は、被告車両の自賠責保険から四七万三一九〇円の支払いを受けた。

二  争点

原告は、柔道整復師佐保田整骨院で、平成七年二月二二日から同年八月三一日まで通院治療(通院実日数一二五日)を受けたが、右治療が本件交通事故と因果関係があるか。その他損害額。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲三ないし一〇、乙一、証人佐保田繁夫、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、本件交通事故に遭つた平成七年二月二〇日、最寄りの吉井外科医院で診察を受け、両手・左膝・右下腿打撲挫傷、臀部打撲、腰部捻挫の診断を受けたが、レントゲン検査によると骨には異常がなかつたので、同医院では主に湿布と服薬による治療をしてもらつていた。

2  原告は、右医院で治療を受けたにもかかわらず、腰部及び臀部の痛みが改善されなかつたことから、同月二二日から保険会社の了解を得て、佐保田整骨院で柔道整復師による施術を受けるようになつた。同整骨院では、腰部捻挫、左股部捻挫等の診断を受け、仕事を事故日から同月二五日まで休んだものの、それ以降は痛みを堪えて勤務しながら通院を続けた。

3  原告は、吉井外科医院には、平成七年二月に七回、同年三月には四日、七日、一八日の三回、合計一〇回通院しているが、三月七日に腰部痛の治療のための専門医として竜操整形外科病院を紹介してもらつた。原告は、同病院に赴いて治療を受けようとしたが、同病院から交通事故の治療費については、その都度実費を支払う必要が有る旨告げられたことから、同病院で治療を受けることを諦めた。

4  原告は、同年三月一八日、吉井外科医院で経過良好との診断で治療中止の措置を受けているが、右中止の理由は、自覚症状のみで他覚的所見に乏しいこと、同医院は、胃腸肛門科が専門であり、原告の呈する症状に対して診察治療するのが不適なためであつた。したがつて、原告の症状が治癒したものとして、治療中止となつたものではない。

5  原告は、佐保田整骨院に、平成七年二月に五回、同年三月に二二回、同年四月に二三回、同年五月に一七回、同年六月に二一回、同年七月に二〇回、同年八月に一七回、合計一二五回通院し、同年八月三一日中止となつているが、この頃までには、原告は日常生活に支障がないまでに腰部痛、臀部痛が緩解したこと、整骨院では、社会保険との協定で捻挫の場合は、六か月以内で治すことが原則となつていることから、中止となつたものである。なお、通常の関節捻挫の場合は、三か月程度で治癒するのが普通である。

6  柔道整復師の施術は、捻挫などに起因する軟部組織の損傷に効果があり、レントゲンには写らない筋や神経の損傷による痛みを和らげることができ、原告の場合もある程度の効果は見られた。

二  以上認定の事実によると、原告は、吉井外科医院において平成七年三月一八日治療中止となつているが、治癒したものではなく、腰部痛、臀部痛は継続していたこと、捻挫の場合は、レントゲン検査によつて損傷部位が判明しがたいことから、他覚的所見に乏しく、自覚症状のみと診断されがちであること、柔道整復師による施術は、捻挫による痛みを和らげるのにある程度の効果があるものと認められることから、吉井外科医院において治療中止となつた平成七年三月一八日以降の佐保田整骨院での施術が、すべて本件交通事故と因果関係がないものとは認めがたい。

しかしながら、原告の症状は、痛みという主観的なものであり、どの程度緩解すれば自制内といえるか判然としないこと、柔道整復師による施術は、医学的に容認されたものとは言い難く、医療効果がどの程度あるものか判然としないことから、施術に要した費用の全てを加害者の負担とすることも相当でない。さらに、佐保田整骨院での施術が六か月を超える長期に及んでいること、通常の関節の捻挫であれば三か月程度で治癒するが、腰部、股部の捻挫であるからそれより長期であつても、やむを得ないこと等を考慮し、佐保田整骨院での施術のために要した費用のうち三分の二を本件交通事故による損害と認める。

三  損害額

1  治療費 四九万一八七三円

(一) 吉井外科医院 七万二一六〇円

(これについては、当事者間に争いがない。)

(二) 佐保田整骨院 四一万九七一三円

甲七ないし九によると、平成七年二月二二日から同年八月三一日までの施術料として六二万九五七〇円要したことが認められ、その三分の二の額

2  交通費 四万二九七〇円

(一) 吉井外科医院 八一〇円

片道三キロメートルとし、一キロメートル当たりガソリン代一五円として、自家用車で通院した九日分の費用(甲一二、一三、原告本人)

(二) 竜操外科医院 六〇〇円

片道二〇キロメートルとし、一キロメートル当たりガソリン代一五円として、自家用車で通院した一日分の費用(同証拠)

(三) 佐保田整骨院 四万円

片道一六キロメートルとし、一キロメートル当たりガソリン代一五円として、自家用車で通院した一二五日分の費用の三分の二(前記認定の事実及び甲一二、一三、原告本人)

(四) 岡山労災病院 一五六〇円

片道二六キロメートルとし、一キロメートル当たりガソリン代一五円として、本件交通事故による右下腿外傷後瘢痕の治療のため平成七年九月一三日及び同月二七日自家用車で通院した二日分の費用(甲一〇ないし一三、原告本人)

3  雑費 一万四九一五円

(一) クリーニング代 五一五〇円

本件交通事故による衣服、靴のクリーニング代(甲一六、一七)

(二) 馬油代 三八〇〇円

原告が、佐保田整骨院から患部に塗るために購入したもので、マツサージと併用して痛みを和らげるもの(甲一五、二四、二五)

(三) 診断書作成料等 五九六五円

岡山労災病院における診断書作成料等(甲一八、一九)

4  休業損害 二万一〇〇〇円

平成七年二月二〇日から同月二五日までの給与相当額(甲二〇)

5  物損(自転車) 三万五四三二円

本件交通事故により損傷した原告の自転車の修理代相当額(甲二一)

6  慰藉料 六〇万円

原告は、右下腿外傷後瘢痕が後遺障害等級一四級五号(下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの)に該当すると主張するが、甲一〇、一一によると、原告の右下肢の瘢痕は、五四ミリメートル、三五ミリメートル、最大幅二ミリメートルの二本の瘢痕と、二か所の色素沈着(一三×六ミリメートル、五×八ミリメートル)であり、右後遺障害等級に該当しない。前記認定の通院の経過に鑑みて、通院慰藉料として六〇万円を相当と思慮する。

7  損害合計 七三万三〇〇〇円

以上認定の損害額合計一二〇万六一九〇円から既払額四七万三一九〇円を差し引くと七三万三〇〇〇円となる。

8  弁護士費用 七万三〇〇〇円

本件訴訟の経過に鑑み、請求認容額の約一割を弁護士費用相当額と認める。

四  結論

よつて、原告の請求のうち、金八〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年二月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 重富朗)

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