大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 平成6年(ワ)74号 判決 1995年1月30日

原告

井上美佐子

被告

株式会社パナホーム岡山

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二九三万二七七八円及び内金二六七万二七七八円に対する平成四年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その六を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金二一二七万九五〇八円及び内金一九三七万九五〇八円に対する平成四年七月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故(本件事故)の発生

(一) 日時 平成四年七月二日午前一一時五分ころ

(二) 場所 岡山市青江九一二番地の一一先国道(本件国道)上

(三) 加害車 小型貨物自動車(岡山四六さ四一二九、被告車)

(四) 加害車の保有者 被告株式会社パナホーム(被告会社)

(五) 加害車の運転者 被告黒住益己(被告黒住)

(六) 被害者 原告

(七) 事故態様

原告が横断歩道上を青信号に従つて歩行中、被告黒住運転の被告車に衝突された。

2  責任原因

被告会社は、被告車を自己のために運行の用に供していたものとして、自賠法三条に基づき、また、被告黒住は、前方注視義務に違反して本件事故を生じさせた過失があるから、民法七〇九条に基づき、それぞれ、原告に生じた後記損害を賠償する義務がある。

3  権利侵害(原告の受傷及び治療状況)

原告は、本件事故により、頭部・左肩・左前腕・左肘打撲、頸部捻挫、左股関節捻挫等の傷害を受け、次のとおり治療を受けた。

(一) 入院

(1) 平成四年七月三日から平成五年一月四日(一八六日間)

森谷外科胃腸科肛門科医院(森谷外科)

(2) 平成五年一月四日から同年三月二〇日(七六日間)

岡山労災病院(労災病院)

(二) 通院

平成四年一二月二四日、平成五年三月二四日、同月三一日及び同年四月六日(四日間)

岡山労災病院

(三) 後遺障害

原告には、現在、耳鳴り、頭痛、頸部・左肩・脇の疼痛、左手・左下腿の痺れ等、局部に頑固な神経症状を残す後遺障害がある。

4  損害

(一) 治療費 三万〇三一〇円(自己負担分)

(二) 入院雑費 三四万〇六〇〇円

一日一三〇〇円として合計入院期間の二六二日分

(三) 交通費 二二八〇円

(四) 眼鏡購入費 七万二七一八円

(五) 休業損害 三九六万円

原告は、本件事故当時、自宅でろばた焼「味美」を経営しており、原告の毎月の実収入は三〇万円を下らなかつたところ、本件事故により、平成四年七月二日から平成五年八月七日までの一三か月と六日間完全に休業した。従つて、休業損害は三九六万円となる。

(六) 後遺障害逸失利益 一〇四七万三六〇〇円

原告は、「味美」を平成五年八月八日から再開したが、後遺障害があるため、月一五万円位しか営業できず、毎月の実収入は一〇万円であり、原告の現在の症状は少なくとも向後五年間は継続するものと考えられる。従つて、逸失利益は一〇四七万三六〇〇円となる。

(三〇万円-一〇万円)×一二×四・三六四(五年に対応する新ホフマン係数)=一〇四七万三六〇〇円

(七) 入・通院慰謝料 二五〇万円

(八) 後遺障害慰謝料 二〇〇万円

(九) 弁護士費用 一九〇万円

5  まとめ

よつて、原告は、被告らに対し、前記2の責任原因に基づく損害賠償請求として、各自二一二七万九五〇八円及び内金一九三七万九五〇八円に対する不法行為の日である平成四年七月二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因―及び2の事実は認める。

2  同3(一)、(二)の事実中、原告が主張するような入通院状況があつたことは認める(但し、原告は、事故当日、岡山赤十字病院に一日、更に、頭部CT検査を行うため、平成四年八月二五日の一日、おおもと病院に通院している)。

原告主張の入通院治療の必要性・相当性は争う。

原告の傷病名では、比較的短期の入院治療あるいは通院のみでも治療可能なものである。また、原告の症状は、他覚的所見に乏しく、自覚症状のみで、それも単なる不定愁訴の域を超えず、過分に心因性によるものと思われる。従つて、本件事故と相当因果関係ある治療は、せいぜい平成四年一〇月末位までである。

同3(三)の事実は否認する。

3(一)  同4(一)は不知。但し、原告が岡山労災病院に二万六一九〇円を支払つた事実があることは認める。

(二)  同4(二)は争う。

(三)  同4(三)ないし(五)は不知。

(四)  同4(六)は否認する。

(五)  同4(七)は争う。

(六)  同4(八)は否認する。

(七)  同4九は争う。

三  抗弁(損害の填補)

1  被告らは、原告に対し、左記の入金先に合計四〇一万三四四八円の支払いをしている。

岡山赤十字病院 三万一〇七〇円

森谷外科 三九四万八七八八円

医療法人天声会おおもと病院(おおもと病院) 三万三五九〇円

2  なお、前記のとおり、原告主張の入通院治療の必要性・相当性は争う。また、原告は、森谷外科における入院中、一日当たり一万二〇〇〇円の室料差額の支払いを要する個室に入院しているが、原告の症状からは、個室の必要性はない。

四  抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認めるが、すべて原告が本訴で請求していないものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(権利侵害)について

1  同3の事実中、原告が主張するような入通院状況があつたことは当事者間に争いがない。

2  前記の一及び二1の争いがない事実に加えて、証拠(甲二の一、二、甲三の一、四、甲四(一部)、乙一の一ないし五、乙二ないし七、原告本人(一部))及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の受傷、治療経過、症状等の事実関係の要旨として、以下のとおり認められる。

(一)  本件事故の態様と事故当日の症状

原告は、平成四年七月二日午前一一時五分ころ、本件国道の横断歩道を青色信号に従つて西から東に向けて横断していたところ、被告が、被告車を運転して、本件事故現場手前で対面信号赤色に従い停止していた状態から、右信号が青色に変わつたのに応じて、時速二〇ないし三〇キロメートルの速度で北から南に向けて発進したが、対向停止車両に気を取られ、横断歩道の約七メートル手前に至つて横断中の原告に気付き、ブレーキを掛けたものの間に合わず、停止する寸前で被告車の右前部を原告の左胸部付近に衝突させた(本件事故)。原告は、転倒させられて意識を失い、救急車で岡山赤十字病院に搬送されて入院し、手当を受けた。その際の主治医(脳外科)は、病名「左肩及び左上肢打撲、左側胸部打撲、頸部捻挫」で、「五日間の安静加療を要する見込み」との診断をなし、あまり問題ないとして、原告を一日で退院させた。

(二)  森谷外科入院中の治療経過及び症状

しかし、原告は、翌日の七月三日、悪心、逆行性健忘症、全身疼痛等の症状を訴えて、森谷外科に来院した。原告は、左肩、胸、頸部、頭部につきレントゲン検査を受けたが、いずれも異常所見はなく、初診時の傷病名は、「頭部、左肩、左前腕、左肘打撲症、頸部捻挫、脳振盪症、左胸肋軟骨損傷の疑い」とされた。原告は、入院を勧められて同日から入院し、胸部には湿布処置、バストバンド固定を、頸部捻挫に対しては、頸椎牽引、湿布及び弾力包帯固定を、その他前記各打撲部位の疼痛に対しては、氷枕、投薬、点滴注射、理学療法等による加療(保存療法)を受けることになつた。原告は、入院当初から、頭部、頸部(特に後屈すると疼痛、また圧痛もあり)、胸部、左肩、左手等の部位に痛みを訴えたほか、次第に、耳鳴り、めまい、胸部熱感・痺れ感、左肩部可動域低下、左腕に電気が走るようになる、天気のせいで調子が悪いなどといつたいわゆる不定愁訴が多くなつていつた。その間、七月一一日には、原告の傷病名として「左股関節捻挫、めまい症(外傷性)」の診断が加わり、また、八月、九月中に再度胸部や左肋骨部や頸椎につきレントゲン検査を受けたり、おおもと病院にて頭部CT検査も受検(八月二五日)したりしたが、いずれも異常所見はなかつた。なお、握力測定では、左が右に比し弱かつたが、知覚テストには異常はなかつた。なお、森谷外科では、七月一五日の段階で、原告につき「向後約二週間の入院加療及び以後通院加療を要する見込み」との診断書を作成している。

七月から九月中にかけての、原告の主たる症状であつた頭痛、頸部痛、胸部痛は、「自制内」のときも多く、一進一退を繰り返していたが、原告は、九月の末ころから一〇月になると、外泊したり、リハビリも兼ねて頻繁に外出・散歩できるようになり、一〇月二四、二六日ころには、医師からリハビリをして退院し、通院するよう勧められるまでになつた。実際、原告の症状も、前記各種痛み、特に外出後の疲れによる左肩から頸部にかけての痛みが増強するなどの訴えは持続していたものの、一〇月末には、調子が良いといえる日が増え、一旦はもう少しで退院できそうとの自覚も表明し(同月三一日)、一一月の初めころ(一〇日)も、「大分調子も良くなつてきたし、自信も付いてきた」旨述べていた。ところが、右時期以降一二月にかけては、外出、外泊も度々できる一方で、前記各部位の痛みや種々の不定愁訴が戻り、その間、胸部レントゲンや心電図検査にて異常がないのを確認の上、何度か医師により退院及び通院への転換を勧められたものの、これに応じず、一二月中旬ころには、退院―通院につき、まだ自信がないと不安を漏らし、そのことで悩む様子を見せていた。

そして、原告は、一二月二四日には、入院中のまま、紹介により岡山労災病院の整形外科を受診し、頸部の精査目的及び経過観察のためにて入院の予約を取り、平成五年一月四日までは引き続き森谷外科に入院した。

(三)  岡山労災病院における治療経過と症状

原告は、平成五年一月四日から岡山労災病院に転院し前記精査目的で整形外科に入院した。原告は、入院時、特に頸部の可動域(伸展、後屈、左回転)や左上肢の挙上制限の存在と左項部・左肩痛を訴えるとともに、複視や、フワフワする、手が痺れる等の不定愁訴があつた。しかし、握力が左が右より劣つたほかは、三角筋・上腕二頭・三頭筋・橈骨筋反射、ホフマン反射、ワルテンベルグ反射、両膝蓋腱反射、アキレス腱反射、更にはジヤクソンテスト、スパーリングテスト、対光反射等はいずれも正常で、神経学的には異常は認められず、また、まもなく実施した脳のCTにも格別の異常はなかつた。そこで、医師は、「外傷性頸部症候群」との診断をなし、原告に対する治療方針として、頸椎症と神経症の両面から診断を進めることにした。そして、原告は、早速、同病院神経科に紹介され受診したところ、神経科の医師は、同月五日の時点で、「外傷性頸部症候群」のほか、「外傷性神経症」との診断をなし、原告を観察した結果、被害者意識が強く、警戒的で誇張された訴えの内容となつており、補償がどのようになるのか、今後の体の状態がどのようになるのかが関心事になつていて、補償が確約されれば、愁訴は軽くなるものと思われる旨回答した。また、同月六日と七日に実施した心理テストの結果を踏まえた所見では、精神的には未成熟で、自分の身体症状に過度に関心を向けることで、心理的葛藤(生活歴や長男の病気等が原因)を回避(逃避)しているとの指摘がなされている。

また、原告は、紹介により二月一日には、同病院眼科と耳鼻咽喉科にも受診したが、前者では近視性乱視、外斜位のほかは異常は認められないとの診断、後者でも末梢前庭は特に異常はないとの診断であつた。

原告は、整形外科の医師の勧めに従い、一月六日からほぼ毎日、同病院のリハビリ科にて、四肢筋力強化、運動療法、頸部牽引、頸部の等尺運勤を中心としたリハビリを行つた。原告は、項部痛のほか、相変わらず種々の不定愁訴を繰り返し、右愁訴の内容も誇張されたもので(例えば、補色関係にある残像を病的なものとしてとらえるなどその一例)、次々と変化していくという問題はあつたものの、他方、体調全体の傾向としては、一月下旬ころには、比較的表情も良くなり、土日の外泊許可も出て、徐々に社会参加するようとの指導を受け、更にリハビリを継続することにより、二月から三月にかけて徐々に効果が現れ、調子が良くなつていつた(例えば、歩行が速く確実になる、元気になるなど)。そして、二月中旬ころからは、医師から退院を示唆・指導された結果、三月二〇日には、「少々痛い所は残したが、退院しよう」ということで、退院となつた。

(四)  その後

原告は、右退院後は、三月二四日、同月三一日及び四月六日に同病院に通院したが、右最終通院の際には、医師から医学的治療の必要はないとして、治療中止を告げられた。そして、同病院整形外科の主治医(島田公雄医師)は、平成五年四月六日でもつて原告の症状固定とし、原告の他覚的身体的所見として、頸部運動に約三分の一制限あり、握力につき左が右の約二分の一程度であるほかは、各種反射、四肢の筋力は正常で、知覚異常もはっきりしないとの同月一三日付の診断書を作成している。原告は、岡山調査事務所に自賠責後遺障害等級認定の申請を行つたが、これに対し等級認定がなされた形跡は存しない。

現在でも、原告の主訴は多彩であり、その内容は、別紙がその一例である(他に、身体には痺れ感やほてつているような感じが少しある、頭には釘が刺さるような感じがするときもあるなど)ほか、ビールの栓が抜けない、物を落として割る、中腰の状態ができないなどの支障があつて、家事や仕事が普通にできずに苦しんでいる旨述べている。

以上のとおり認められ、証拠(甲四、原告本人)中、右認定に反する部分は採用することができない。

3  入通院治療の相当性―相当な入通院期間と症状固定時期について

前記2によれば、原告は、本件事故により、頭部、左肩、左前腕、左肘打撲症、頸部捻挫、左股関節捻挫等の傷害を負い、二つ目の入院先の岡山労災病院で診断されたように、「外傷性頸部症候群」の症状を呈するとともに、当初の森谷外科入院後まもなくの時期から、次第に不定愁訴が多くなつて、これまた岡山労災病院神経科の診断通り、いわゆる「外傷性神経症」に罹患した形跡が窺われる。そして、本件事故の態様(衝突時の被告車の速度も停止寸前の低速度で、衝突・転倒による衝撃も比較的軽微)、主訴のわりには、これを裏付けるに足りる他覚的、神経学的異常所見に乏しいことや、初期の診断書の内容等に鑑みると、原告の右「外傷性頸部症候群」の程度は、比較的軽微であることが認められ、右事実に加えて、実際、原告は、平成四年九月末ころからは、リハビリを兼ねて頻繁に外出・散歩しており(外泊もあつた)、同年一〇月末の時点で、森谷外科において、自他ともに一旦当初の入院時より症状が大分改善したものと認識し、同外科の医師が退院して通院に切り替えることを勧めていたこと、なお、次の岡山労災病院において行われた療法(リハビリ等)は、通院でも十分可能であることに照らして考えても、原告にとり入院治療が必要であつたのは、平成四年七月三日から同年一〇月三一日までの一二一日(四か月程度)とするのが相当である。

また、原告の症状は、前記のように一旦改善したかにみえたが、原告が外傷性神経症に罹患していたこともあつて、結局、森谷外科に入院期間中では、一進一退の繰り返しで、軽快しなかつたこと、岡山労災病院への入院は、精査目的ないし経過観察のためとなつているが、その治療内容をみると、各種リハビリであつて、現に、原告もこれに参加して体を動かすことにより、全体として徐々に体調ないし運動能力に改善がみられたこと、そして、同病院の主治医により、原告の症状固定時期は平成五年四月六日とされたこと等に鑑みると、前記のとおり岡山労災病院への入院の必要性までは認められないものの、原告にとつては、前記入院の相当性が否定された平成四年一一月一日から岡山労災病院の入院期間を経てその後の最終通院日である平成五年四月六日までの一五七日間(五か月程度)の通院治療が必要であつたものと認めるのが相当である。

なお、原告の前記受傷内容・程度やその治療方法からすると、この種の「外傷性頸部症候群」の治療としては、原告の入通院期間が通常に比べやや長期化しているともいえるが、苦痛に対する感受性や耐性にはかなりの個人差があるのはやむをえないところであり、原告の治療期間は、右個人差として許容できる範囲を逸脱しているとまでは認められないというべきである。

4  後遺障害の有無及び程度

前記2の認定事実によれば、原告は、本件事故後の入院中から、裏付けに乏しい不定愁訴を訴えるなどし、外傷性神経症に罹患した形跡があり、症状固定後の現在も種々の症状を訴えているところ、原告は、些か神経質な性格傾向かあることが窺われるとともに、精神的未成熟や心理的葛藤の存在苓、精神面の問題も存在し、本件事故による受傷治療に伴う苦痛や未解決の賠償問題への不安等を体験する中で、右のような自覚症状を呈しているものと認められる。右事実によると、原告の症状固定後の症状は、自賠責後遺障害における神経症状とは評価できないものの、本件事故による一時的な神経症状が本件事故の後遺障害として残存しているものと認めるのが相当である。但し、右症状は、原告本人の資質的精神的素因が影響していること大であるから、被告らにおいて責めを負うべき範囲は、症状固定後二年間程度というべきである。

三  請求原因4(損害)について

1  治療費(認容額二万五一六〇円)

前記二1、2の認定事実に加えて、証拠(甲三の一、四、甲五の一ないし五、乙六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、症状固定時までに岡山労災病院に三回通院し、受診及び投薬・理学療法を受けたことによる治療費として合計一万六九二〇円、また、後遺障害認定のための診断書料等として合計八二四〇円の総合計二万五一六〇円を同病院に支払つたことが認められ、右治療費等二万五一六〇円を本件事故と相当因果関係のある治療費と認めるのが相当である。なお、原告が平成五年五月二一日に「雑医療」の費用として支出した五一五〇円は、症状固定後の治療費であるから、本件事故と相当因果関係あるものとは認められない。

2  入院雑費(認容額一五万七三〇〇円)

本件事故と相当因果関係ある入院雑費は、一日一三〇〇円として、前記相当な入院期間である一二一日分である一五万七三〇〇円と認めるのが相当である。

3  交通費(認容額二二八〇円)

前記1、2の認定事実に加えて、証拠(甲六、乙四、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、平成四年一二月二四日、当時入院中の森谷外科から紹介を受けた岡山労災病院に受診するため、森谷外科から岡山労災病院までタクシーで通院し、タクシー運賃として二二八〇円を支払つたことが認められる。右事実によると、右二二八〇円を本件事故と相当因果関係にある交通費と認めるのが相当である。

4  眼鏡購入費(認容額七万二七一八円)

証拠(甲七)及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件事故当時使用していた眼鏡は、本件事故によつて全損となり、新たな眼鏡の購入代金として七万二七一八円を要したことが認められる。右事実によると、右七万二七一八円を本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

5  休業損害(認容額一四〇万一四〇〇円)

証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、五三歳の健康な女性で、通常の家事に従事するとともに、自宅でろばた焼「味美」を経宮していたこと、しかし、右ろばた焼の収入については客観的な裏付資料は提出されていないこと、原告は、本件事故当日の平成四年七月二日から平成五年八月七日ころまでの約一三か月間、右ろばた焼を休業したことが認められる。右事実によると、原告の本件事故当時の毎月の収入は、賃金センサス平成四年第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・五〇ないし五四歳の女子労働者の平均賃金によるほかなく、これによれば、原告の一か月当たりの収入は、右女子労働者に「きまつて支給する現金給与額」の二一万五六〇〇円程度とみるのが相当である。また、前記二2で認定した原告の入通院状況、治療内容・程度、症状等に鑑みると、原告は、前記相当な入院期間である四か月は、全部の休業はやむを得ず、また、相当な通院期間である五か月間は、通院とリハビリの必要等から、労働能力は全体として健康時の二分の一程度とみるのが相当である。そうすると、本件事故と相当因果関係にある休業損害は、次のとおり一四〇万一四〇〇円となる。

(二一万五六〇〇円×四か月)+(二一万五六〇〇円×五か月×二分の一)=一四〇万一四〇〇円

6  逸失利益(認容額二四万〇七九〇円)

前記二4で認定した原告の後遺障害の内容・程度、症状固定後の稼働状況(原告本人)等に鑑みると、本件事故と相当因果関係にある労働能力喪失期間は、前記のとおり二年間、労働能力喪失割合は五パーセントとするのが相当である。そうすると、原告の後遺障害による逸失利益は、次のとおり二四万〇七九〇円となる。

二一万五六〇〇円×一二か月×〇・〇五×一・八六一四(二年に対応する新ホフマン係数)=二四万〇七九〇円(円未満切捨て)

7  入通院慰謝料(認容額一二〇万円)

前記二1、2で認定した原告の受傷及び症状の内容・程度、相当な入通院期間(原告の資質的精神的問題により通常よりやや長くなつていることも含む)、治療経過・内容等に鑑みると、本件事故と相当因果関係にある入通院慰謝料は一二〇万円とするのが相当である。

8  後遺障害慰謝料(認容額四〇万円)

前記二4で認定した原告の後遺障害の内容・程度(原告の資質的精神的問題も影響していることも含む)や被告において責めを負うべき期間等に鑑みると、本件事故と相当因果関係にある後遺障害慰謝料は四〇万円とするのが相当である。

9  合計

以上1ないし8の損害の合計金額は、三四九万九六四八円である。

四  損害の填補

1  被告らが原告に対し、入金先を岡山赤十字病院として三万一〇七〇円、森谷外科として三九四万八七八八円、おおもと病院として三万三五九〇円の合計四〇一万三四四八円を支払つたことは、当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、右は、いずれも原告が本訴で請求していない治療費に関するものであることが認められる。

2  被告は、抗弁2のなお書のとおり主張するので検討すると、まず、前記二3で検討したとおり、平成四年一一月一日から平成五年一月四日までの入院は、本件事故と相当因果関係にあるものとは認められないから、森谷外科に支払つた治療費のうちの入院費三〇万六八七〇円(入院費の一点単価として被告らが支払いの際に用いた一〇円(乙九の一参照)に、同年一一月分一万四〇二六点、一二月分一万四七八七点、平成五年一月分一八七四点(甲二の八ないし一〇)の合計三万〇六八七点を乗じて得た金額)と、原告が右入院の期間中利用した特別室(個室)の室料差額五二万円(室料差額の一日当たりの単価として被告らが支払いの際に用いた八〇〇〇円(乙九の一参照)に、右相当でない入院日数である六五を乗じて得た金額)を併せた八二万六八七〇円は、原告が請求していない治療費分としては、本件事故と相当因果関係にある損害の填補とは認められない。

そうすると、被告の支払額のうち、右八二万六八七〇円は、本件訴訟で認定した前記三9の損害合計の一部に填補されるものといわなければならない。従つて、原告が被告らに請求できる損害額はこれを控除した二六七万二七七八円となる。

五  弁護士費用

本件事案の内容、認容損害額、審理経過等に鑑みると、被告らに賠償させるべき本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、二六万円とするのが相当である。

六  むすび

以上の次第で、原告の請求は、被告らに対し、各自前記四と五の合計二九三万二七七八円及び内金二六七万二七七八円に対する不法行為の日である平成四年七月二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 德岡由美子)

別紙

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例