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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)891号 判決 1993年12月24日

原告

占部光司

ほか一名

被告

橋本佳代子

主文

一  被告は、原告占部光司に対し、金六〇万七八二九円及びこれに対する平成三年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告両名の被告に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は金五六万三八二三円を超えて存在しないことを確認する。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告占部光司に対し、金七五万円及びこれに対する平成三年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告両名の被告に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は金三八万八四一〇円を超えて存在しないことを確認する。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件交通事故(本件事故)の発生

別紙交通事故目録記載のとおり。

2  責任原因

本件事故は、信号機の設置されていない交差点(本件交差点)における出合い頭の衝突事故であるところ、被告は、本件交差点に接近した時点で、進路右前方進行中の原告車を認めながら、減速することなく漫然と直進進行した点において、被告にも本件事故発生につき重大な過失があるから、被告は、民法七〇九条に基づき、原告占部光司(原告光司)に生じた損害を賠償する義務を負う。

3  過失割合について

(一) 本件は、信号機により交通整理の行われていない同幅員の交差点における事故である。

(二) 被告は、本件交差点手前に至るまで徐行せず、少なくとも法定速度の時速三〇キロメートルのまま本件交差点に進入している。

これに対し、原告博久は、本件交差点手前において、時速一〇キロメートルまで減速している。

(三) そうすると、本件は、左方車(被告車)減速せず、右方車(原告車)減速の類型となるが、事故現場が見通しの良いことから修正されて、結局、過失割合は五対五となる。

4  原告光司の被つた損害(車両損害)

(一) 修理費用 一四三万円

(二) レツカー費用 四万〇一七二円

(三) 評価損 四二万九〇〇〇円

原告車は、新車登録後約一か月の新車であり、かつ、二〇六万円で購入したものが現実には一三万五〇〇〇円の下取り対価しか得ていないから、少なくとも、修理額の三割程度の格落ち損がある。

(四) 損害合計

従つて、原告光司の被つた損害は、前記一ないし三の合計一八九万九一七二円となるところ、前記3の過失割合により五割の減額を行うと、九四万九五八六円となる。

5  被告の被つた損害

(一) 治療費 九万九四〇〇円

(二) 通院交通費 七四二〇円

(三) 慰謝料 二一万円

実通院日数二三日で通院一か月半評価であり、鞭打ち症の通院慰謝料として二一万円が相当である。

(四) 車両損害 四六万円

車両修理費用が車両時価額を上回るため、車両損害として右時価四六万円が相当である。

(五) 損害合計

従つて、被告の被つた損害は、前記一ないし四の合計七七万六八二〇円となるところ、前記3の過失割合により五割の減額を行うと、三八万八四一〇円となる。

6  被告は、自己の被つた損害が三八万八四一〇円を超えて存在する旨主張して、損害額を争つている。

7  よつて、原告光司は、民法七〇九条に基づく損害賠償請求として、被告に対し、前記4の損害の内金七五万円及びこれに対する不法行為の日である平成三年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、原告両名は、被告に対し、本件事故に基づく原告両名の被告に対する損害賠償債務が三八万八四一〇円を超えて存在しないことの確認を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実中、事故態様は否認し、その余の事実は認める。

2  同2は認める。

3  同3は争う。

本件事故は、前方等の見通しがかなりよい信号機のない市道上の交差点において、北から南へ幅員四・八メートルの道路(優先道路)を、原告車より先に交差点を通過できると判断して、時速二、三〇キロメートルの速度のままで本件交差点に進入した被告車に、幅員三・九メートルで交差点に停止線が引かれている道路を、被告車より先に交差点を通過できると考えて、西から東へ制限速度をかなり超過した速度(時速四〇ないし五〇キロメートル)で走行していた原告車が出合い頭に衝突したものである(なお、被告車が左方車で優先)。従つて、過失割合は、原告博久八割、被告二割が相当である。

4  同4は争う。

原告光司の車両損害は、修理費用一三四万五一五〇円(レツカー代四万〇一七〇円を含む)の二割に当たる二六万九〇三〇円が相当である。なお、原告車の車両本体が一四二万円余りであるから、原告の車両損害の請求は過大である。

5  同5の事実中、

(一) 治療費 支払済みで請求しない。

(二) 通院交通費 認める。

(三) 慰謝料 争う。五〇万円を請求する。

(四) 車両損害 争う。

修理費用五五万〇八三四円と、修理に要する期間の代車料一五万円(一日五〇〇〇円の一か月分)を請求する。

6  同6の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因1の事実(本件事故の発生)は、事故態様を除いて、当事者間に争いがない。

2  また、請求原因2の事実(責任原因)も、当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様及び過失割合について

1  証拠(乙一ないし一一、原告博久・被告各本人)及び弁論の全趣旨によつて当裁判所が認定した本件事故の態様は、次のとおりである。

(一)  本件事故現場は、幅員約三・九メートル(北側には約一メートルの外側線が引かれている)で、速度規制の表示・標識がない東西に走る舗装道路(東西道路)と、幅員約三・八メートル(東側に幅一メートルの路側帯がある)で、時速三〇キロメートルの速度規制のなされている南北に走る舗装道路(南北道路)がほぼ直角に交わる、信号機により交通整理の行われておらず、かつ、双方に一時停止の規制もない(東西道路の交差点手前には、停止線が引かれいるが一時停止の規制はない。)十字路交差点(本件交差点)である。本件交差点の北西角には障害物がないため、東西道路東進車の南北道路の見通し、南北道路南進車の東西道路の見通しは、ともに良く、相当手前の地点から相手車を発見できる。

(二)  原告博久は、東西道路を原告車を運転して、時速約四〇キロメートルの速度で東進し、本件交差点の約三七メートル以上手前の地点付近に至つた際、南北道路の本件交差点の約五二メートル以上手前の地点付近を南進してくる被告車を発見したが、被告車(左方車)よりは原告車の方が先に本件交差点を通過できるものと判断し、若干減速しただけの速度(せいぜい時速三〇キロメートルまでの減速)のまま、見通しの悪い南側(右側)から来る車両に注意をしながら、本件交差点に進入した。

(三)  一方、被告は、南北道路を被告車を運転して、本件交差点の手前約一〇〇メートルの地点付近で一度停止し、友人に挨拶した後、再び発進して、本件交差点に向かつて南進し始めたところ、東西道路を本件交差点に向かつて東進中の原告車に気付いたが、被告車が左方車で優先であるため、原告車が停止するものと考えて、時速三〇キロメートルを少し超えた速度(時速約四〇キロメートル程度)でそのまま進行し、本件交差点に進入した。

(四)  原告車と被告車は、本件交差点中央付近で、原告博久車の左前部と被告車の右側面前部がほぼ直角に衝突した。なお、原告博久は、衝突直前に被告車が本件交差点に進入して来ているのに気付き、ハンドルを右に切つて回避しようとしたが間に合わず、また、被告は、特に、危険回避行為を行わなかつた。

原告車は、衝突後、右向きに回転して、南方向に数メートル進行して停止し、被告車は、やや左向きに進路を変えて南東方向(前記原告車とほぼ同方向)に数メートル進行し、左前方(本件交差点の南東角)のガードレールに衝突して停止した。原告車は、前部バンパー、ボンネツトが激しく破損(大破)し(特に原告車の写真(乙七)参照)、レツカー車により牽引が必要な状態に陥り、被告車も、右前フェンダー部が相当激しく破損(特に被告車の写真(乙八)参照)した。

2  若干の補足説明

(一)  原告車の衝突速度

本件においては、事故態様のうち、衝突前の双方の車両の速度が重要な要素となるところ、原告らは、原告博久が、本件交差点手前において、時速一〇キロメートルまで減速した旨主張し、証拠(乙三、四、一一、原告博久本人)中には、いずれもこれに沿う原告博久の供述部分が存在する。しかし、前記1(四)で認定した原告車及び被告車の破損状況(なお、右破損状況(いわゆる総合つぶれ長さ)からの原告車の衝突速度の推定(乙三)も一つの資料となる。)、衝突後の軌跡、及び被告本人の供述(乙三、四、被告本人)に徴すると、原告車の衝突時の速度は、到底時速一〇キロメートル程度とは考えられず、前記1(三)のように若干減速した後の少なくとも時速三〇キロメートル程度の速度のまま、本件交差点に進入し、右ハンドル回避措置も及ばず、衝突するに至つたものと推認するのが合理的であつて、これに反する原告博久の前記供述部分は、たやすく採用することができない。

なお、原告博久が本件交差点手前で初めて被告車を発見した際の距離関係を示すものとしては、本件事故直後の実況見分し、原告博久自身が指示説明した結果を記載したものとみられる見取図及び指示説明(乙一〇)を採用し、証拠(甲一の五、乙三、四、一一)中これに反する部分は採用しない。

(二)  被告車の衝突速度

他方、被告本人の供述によつても、被告は、本件交差点進入時には減速していなかつたことが窺われるところ、原告車の場合と同じく、前記1(四)で認定した原告車及び被告車の破損状況(なお、右破損状況(相手車である原告車の、いわゆる鼻曲がり変型量)からの被告車の衝突速度の推定(乙三)も一つの資料となる。)、衝突後の軌跡、及び原告本人の供述(乙三、四、原告本人)に徴すると、実際は、前記被告本人の供述する速度よりは速く、時速三〇キロメートルを少なくとも少し超えた時速四〇キロメートル程度の速度のまま、本件交差点に進入したものと推認するのが合理的である。

3  過失割合について

(一)  原告博久及び被告の過失

本件事故現場は、見通しの良い交差点であり、一時規制の規制はないから、原告博久、被告とも、交差点付近の安全を十分確認し、相手車の動静に十分注意をしながら、安全な速度と方法により交差点に進入する義務がある。しかし、原告博久、被告双方ともこれを怠り、互いに、本件交差点手前で相手車を認めたものの、原告博久は、被告よりも先に交差点を通過できるものと安易に判断し、若干減速しただけの速度のまま、右方向に気を取られた状態で本件交差点に進入した点、また、被告も、原告が停止してくれるものと軽信して、制限速度を少し超過した速度のままで、本件交差点に進入した点に、いずれも過失がある。

(二)  過失割合

本件は、特に道路自体には優先関係の認められない、ほぼ同幅員の交差道路における出合頭衝突の事故であり、双方に前記のような安全確認及び危険回避義務違反の過失がある事案であるが、見通しの良い交差点であつて、衝突前から、被告車の方がいわゆる左方優先の関係にあることが双方にとつて明らかであつたこと、双方とも衝突前減速の措置は講じておらず、なお、被告車の方に若干の制限速度超過があつたこと、その他、前記認定の本件事故の具体的態様、過失の内容・程度等、本件に現れた一切の事情を勘案すると、本件事故発生に関する過失割合は、原告博久が六割五分、被告が三割五分とするのが相当である。

三  原告光司の被つた損害

1  修理費用及びレツカー費用(認容額一三四万五一五九円)

証拠(乙五、九)によれば、原告車の修理見積費用は一三四万五一五九円(レツカー代四〇一七〇円を含む。乙九で原告側が立て替えた四万〇一七〇円のレツカー代(税抜金額三万九〇〇〇円、消費税額一一七〇円の合計金額は、乙五の三枚目「車両引取費用」三万九〇〇〇円及びこれに対する消費税(費用全体の金額に掛けている)として、乙五の修理見積の中に含まれている。)となることが認められる。証拠(原告博久本人)中には、原告光司が依頼した会社による当初の修理見積費用が一四三万円であつた旨の供述があるが、その見積書は現在存在せず、費用明細が明らかでないので、これを採用することはできない。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある原告車の修理費用は一三四万五一五九円と認めるのが相当である。

2  評価損(認容額三九万一四九六円)

証拠(甲一の一ないし四、原告博久本人)によれば、原告車は、新車で購入した約一か月後に本件事故に遭つて、その前部を大破する損害を被つたこと、なお、右新車購入価格は合計二〇六万円(うち、車両本体価格相当額が一六九万二二三〇円、販売諸費用が三万九四〇〇円で、右の合計は一七三万一六三〇円)であつたのに対し、原告車の下取り価格は一三万五〇〇〇円であつたことが認められ、右事実によると、原告車は、修理してもなお、価格の減少が見込まれる場合に該当するものと認められる。従つて、原告車には評価損(いわゆる格落ち損)が存するものというべく、その額は、修理費用の三割が相当と認められるところ、前記認定の修理費用部分(一三四万五一五九円からレツカー代四万〇一七〇円を差し引いた一三〇万四九八九円)に〇・三を乗じた三九万一四九六円(円未満切り捨て)となる。

なお、原告車のレツカー代を除いた認定損害額は、修理費用一三〇万四九八九円と評価損三九万一四九六円の合計一六九万六四八五円であるところ、右金額は、原告車の購入価格中、車両本体価格相当額と販売諸費用の前記合計金額である一七三万一六三〇円以内であるから、相当である。

3  まとめ―原告車の損害と過失相殺(認容額六〇万七八二九円)

従つて、原告光司の被つた損害は、前記1及び2の損害を合計した一七三万六六五五円となるところ、前記二3の過失割合により六割五分の減額を行う(右金額に〇・三五を乗じる)と、被告が原告光司に対し賠償すべき損害は六〇万七八二九円(円未満切り捨て)となる。

四  被告の被つた損害

1  通院交通費 七四二〇円(当事者間に争いがない。)

2  慰謝料(認容額四〇万円)

証拠(乙一二ないし二五、被告本人)によれば、被告は、本件事故により頭部打撲、頚部捻挫等の傷害を負い、平成三年六月三〇日から同年七月三日まで(うち実日数は二日)川崎医科大学附属病院に、また同月一日から同年一二月一九日まで(うち実日数は二一日)財団法人操風会岡山旭東病院に通院したこと、その間の被告の症状は、他覚的所見はなかつたが、主として後頭部から頚部にかけての痛みが残存していたもので、温熱療法を中心に保存的治療を受けていたことが認められる。

右事実によると、被告の症状は、いわゆる鞭打ち症と認められ、右症状の内容・程度、通院実日数と通院期間等に鑑みると、被告の通院慰謝料は四〇万円とするのが相当である。

3  車両損害(認容額四六万円)

(一)  修理費用(認容額四六万円)

証拠(乙六)によれば、被告車の修理見積費用は五五万〇八三四円であるが、被告車(初年度登録平成元年一一月で中古車)と同種・同型車の中古車価格は四六万円であることが認められる。右事実によると、被告車については、修理費用が時価を上回る全損の場合であるから、その損害は右時価額である四六万円とするのが相当である。

(二)  代車料(認容額ゼロ)

本件全証拠によつても、被告が代車を使用した事実を認めることができないから、代車料の請求は矢当である。

4  まとめ―被告の損害と過失相殺(認容額五六万三八二三円)

従つて、被告の被つた損害は、前記1ないし3の損害を合計した八六万七四二〇円となるところ、前記二3の過失割合により三割五分の減額を行う(右金額に〇・六五を乗じる)と、原告らが被告に対し賠償すべき損害は五六万三八二三円となる。

五  結論

以上の次第で、原告らの請求は、原告光司が被告に対し六〇万七八二九円及びこれに対する不法行為の日である平成三年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告らが被告に対し、本件事故に基づく損害賠償債務が五六万三八二三円を超えて存在しないことの確認を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 德岡由美子)

交通事故目録

日時 平成三年六月三〇日午後六時三〇分頃

場所 岡山県倉敷市三田七九―一先路上

事故車輌 原告車 自家用普通乗用車(岡山五九る七九〇一)

所有者 原告 占部光司

運転者 原告 占部博久

被告車 自家用普通貨物車(岡山四一す六一八七)

所有者兼運転者 被告

態様 信号機の設置されていない十字路交差点に於て(幅員ほぼ同じ)、原告占部博久運転の普通乗用車が西から東へ向け減速し進行していたところ、折から被告運転の普通貨物車が北から南に向け同交差点内に進入してきた為、原告車と被告車が衝突したもの。

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