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岡山地方裁判所 平成3年(わ)138号 判決 1991年10月15日

本籍

山口県大島郡橘町大字西安下庄五四番地

住居

岡山県倉敷市連島三丁目六番三三号

会社役員

末金辰一

昭和一八年七月五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官水沼祐治、同早川幸延出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金一億二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、有限会社矢島電機商会の取締役であるかたわら、営利の目的で継続的に有価証券の売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右有価証券の売買を被告人名義のほか他人名義で行うなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が四億四七五七万八二三八円であった(別紙一修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六二年三月四日、岡山県倉敷市幸町二番三七号所在の所轄倉敷税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が一四〇一万八六二〇円であり、これに対する源泉徴収税額等を控除した差引所得税額が一二万八九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成三年押第三一号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の差引所得税額二億九六七〇万一三〇〇円と右申告税額との差額二億九六五七万二四〇〇円(別紙三は脱税額計算書(1)参照)を免れ、

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が三億四六九三万三〇一四円であった(別紙二修正損益計算書参照)にもかかわらず、昭和六三年三月一四日、前記倉敷税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が一四〇一万八六二〇円であり、これに対する源泉徴収税額等を控除した差引所得税額が五万七三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成三年押第三一号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の差引所得税額一億九六七三万二六〇〇円と右申告税額との差額一億九六六七万五三〇〇円(別紙三ほ脱税額計算書(2)参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一六通

一  被告人作成の陳述書

一  証人末金節子、同末金利夫の当公判廷における各供述

一  末金節子、末金利夫(三通)、末金美枝子(二通)、末金美恵子(二通)、田中優、岡義弘、宮澤薫、武田勝任、田上三喜夫、西村信夫、楠戸鉄造及び片山逸雄の検察官に対する

各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

(1)  有価証券売買益調査書

(2)  末金節子分控除額調査書

(3)  支払利息調査書

(4)  配当所得調査書

(5)  不動産所得調査書

(6)  給与所得調査書

一  収税官吏作成の昭和六三年九月二九日付け領置てん末書、現金有価証券等現在高検査てん末書、写真撮影てん末書

一  検察官及び検察事務官作成の捜査報告書

一  検察事務官作成の平成三年三月一三日付け(二通)、同月一四日付け各捜査報告書

一  検察事務官作成の平成三年三月一八日付け電話聴取書

判示第一の事実について

一  押収してある所得税確定申告書(昭和六一年分)一綴(平成三年押第三一号の一)

判示第二の事実について

一  押収してある所得税確定申告書(昭和六二年分)一綴(平成三年押第三一号の二)

(法令の適用)

罰条 判示第一、第二の各所為につき、

いずれも所得税法二三八条一、二項

刑種の選択 いずれも懲役刑と罰金刑の併科

併合罪加重 刑法四五条前段

懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に法定加重)

罰金刑につき同法四八条二項

労役場留置 刑法一八条

(量刑の理由)

本件は、会社役員を務める被告人が、本業のかたわら、亡き父が存命中蓄えた会社の裏金などを資金に継続的に有価証券の売買を行って多額の利益を上げながら、第三者から名義を借り受けた、いわゆる借名口座を用い、また、昭和六一年及び昭和六二年の二年間で、その総所得金額が合計七億九四五一万一二五二円にものぼっていたにもかかわらず、その総所得金額が二八〇三万七二四〇円にとどまる旨の内容虚偽の確定申告書(二通)を所轄税務署長に提出し、申告税額と正規の税額との差額合計四億九三二四万七七〇〇円の所得税を免れたという事案である。

そのほ脱税額が合計四億九三二四万七七〇〇円と高額である上、ほ脱率も九九・九六パーセントにものぼっており、きわめて重大な脱税事犯である。

加えて、被告人が本件犯行を敢行した動機についても格別情状酌量すべき事情は存しないこと(裏金の発覚を免れるためであることを、被告人に有利な事情として斟酌することはできない。)、借名口座を用いるなどその手口も巧妙であること、被告人は、税務当局の査察が開始されたことを知るや、借名口座の関係資料などをコーヒー瓶に入れて妻の実家宅裏庭に埋めるなど罪証隠滅工作を行っていることを併せ考慮すれば、本件は、犯情悪質であり、被告人の刑責は重いというべきである。

また、被告人は裏金の形成に関与していないとはいえ、裏金と知りつつその維持増殖に努め、亡父の死亡に際して、裏金につき相続税の申告を行わないなど、被告人の納税に対する規範意識の欠如には根深いものがあり、これが本件犯行の背景となっていることも軽視することができない。

したがって、被告人が、本件犯行を深く反省し、本件各年分の修正申告を行った上、本税、延滞税、地方税のほか、重加算税を全て納付していること、被告人が取調べの当初いわゆる三分割説に固執していたのは、相談した税理士等の専門家の回答を信じていた面があり、この点被告人に不利益に斟酌することは相当でないこと、本件犯行による逮捕、勾留のため一箇月余り身柄を拘束されたこと、本件が新聞等で大きく取り上げられたことによりある程度の社会的制裁を受けていること、被告人には業務上過失傷害による罰金前科一犯があるほか前科がないこと、その他被告人の年齢、家庭の事情等被告人に有利な事情を十分斟酌しても、主文のとおり、被告人を実刑の処することが相当である。

(求刑 懲役二年六月及び罰金一億六〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田光宏)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙3

ほ脱税額計算書

末金辰二

(1) 自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

<省略>

(2) 自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

<省略>

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