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岐阜地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決 1990年11月05日

原告

廣瀬信子

右訴訟代理人弁護士

山本草平

被告

恵那労働基準監督署長堀田政保

被告指定代理人

西野清勝

今泉常克

谷口実

後藤朝毅

長渡徹

若田男

武藤高義

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六三年五月三一日付でなした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の申立

主文同旨

2  本案に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の亡夫廣瀬保明(以下「保明」という。)は、成豊建設株式会社(以下「成豊建設」という。)に雇用され、同社の恵那山トンネル作業所において中央自動車道恵那山トンネル中津川方工事現場でトンネル掘削作業に従事していたものであるが、昭和五六年九月一四日午後八時三〇分ころ、右トンネル工事現場においてうずくまっているところを発見され、岐阜県立多治見病院に収容され、脳出血と診断されて意識不明のまま療養に入ったが、昭和五八年三月二四日死亡した。

2  原告は、保明の妻で、同人の発病当時その収入によって生計を維持していたものであるが、保明は、同人の死亡が業務に起因するものとして、昭和六三年三月二二日付で被告に対し、労働者災害補償保険法に基づき遺族補償給付の請求をしたところ、被告は昭和六三年五月三一日付をもって、保明の死亡は業務上のものではないとして、遺族補償給付をしない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

原告は、右処分を不服として、岐阜労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたところ、同審査官は平成元年二月二〇日右審査請求を棄却したため、更に労働保険審査会に対して再審査請求をしたが、同審査会は、平成元年一一月一六日右再審査請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書は同年一二月一四日原告に送達された。

3  しかし、保明の死亡は、業務上の事由によるものであり、被告の本件処分は違法であるから、この取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、保明が病院に収容された後意識不明のまま療養に入ったとの点は不知、その余の事実は認める。ただし、保明がうずくまっているのを発見されたのは、午後八時四〇分であった。

2  同2のうち、労働保険審査会が再審査請求を棄却したとの点は否認し、その余の事実は認める。同会は再審査請求を却下する旨の裁決をしたものである。

三  被告の主張

1  本案前の申立の理由

本件は、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償不支給決定処分の取消の訴えであるから、同法三七条により労働保険審査会の裁決を経た後でなければ、これを提起することができないところ、本件訴えは右裁決を経ないでなされたものである。

すなわち、岐阜労働者災害補償保険審査官が原告の審査請求を棄却する旨の決定を行ったのは平成元年二月二〇日であり、右決定書は同年三月三日原告に送達されたところ、原告が労働保険審査会に再審査請求をしたのは同年五月四日であり、これは労働保険審査官及び労働保険審査会法三八条一項の規定による審査請求期間(六〇日間)を徒過してなした不適法な請求であって、同会は同法五〇条において準用する同法一〇条により却下の裁決をなした。

審査請求が不適法として却下された場合には、裁決を経たことにはならないと解されるから、本件の場合には裁決を経ないでなされたというべきである。

2  本件処分の適法性

保明の発病は、業務遂行中に発生したものではあっても、業務に起因したものとは認められないから、業務上の事由によるものとはいえず、したがって、同人の死亡も業務上の事由によると認められないから、本件処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1のうち、審査請求が不適法として却下された場合には、裁決を経たことにはならないとの主張は争う。却下された裁決が裁決でないとの理論的根拠はない。

また、裁決書には、裁決に不服がある者は、行政事件訴訟法一四条により、原処分をした行政庁を被告として原処分の取消の訴えを提起することができる旨が教示されており、この点からしても被告の主張は失当である。

2  同2は否認する。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  被告の本案前の申立の当否につき検討する。

被告が昭和六三年五月三一日付をもって本件処分をなしたこと及びこれを不服として原告が岐阜労働者災害補償保険審査官に対してなした審査請求に対する棄却決定が平成元年二月二〇日付でなされたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない(証拠略)によれば、右決定書は平成元年三月三日原告に送達されたこと、原告が労働保険審査会に対して再審査請求をなすにあたり請求書を郵便局に提出したのは同年五月四日であって、前記決定書の送達の翌日から起算して六二日目であったこと、原告は労働保険審査会に対して、請求期間が経過した理由につき、「平成元年三月三日に決定書を受領したのは代理人である姉であって、自分の手元に決定書を受け取ったのは同月七日であり、同日より請求期間が進行すると解釈していた。また、仕事の都合で、請求書作成に時間を要した。」旨陳述したこと、同会においては右再審査請求は法定の請求期間を経過してなされたものであって、かつ経過したことにつき正当な理由を認めることはできないとして、請求を却下する裁決をなしたこと、をそれぞれ認めることができる。

ところで、労働者災害補償保険法に基づく保険給付に関する決定に対する訴えを提起するについては、労働保険審査会の裁決を経なければならないことは同法三七条の規定上明白であるが、労働保険審査会が請求を不適法として却下した場合においては、その却下の裁決が違法でない以上、訴訟をもってして審査の対象たる原決定の当否を争うことは許されないものと解される(最高裁判所昭和三〇年一月二八日第二小法定判決民集九巻一号六〇頁。)。

これを本件についてみるに、原告が労働保険審査会に対して再審査請求を行ったのは、郵送に要した日数を除いても審査請求に対する棄却決定書送達の日の翌日から六二日目であって、労働保険審査官及び労働保険審査会法三八条一項の請求期間(六〇日)を徒過したことは明らかであり、原告がその理由として労働保険審査会に対して陳述した内容がいずれも正当な理由に該当しないこともまたそのとおりであるから、同会が原告の再審査請求を却下したことには違法な点を認めることができない。したがって、本件訴えは許されないものというべきである。

これに対して原告は、裁決書によれば、再審査請求について実質審理を経たか否かを問わず原処分に対する取消しの訴えを提起できる旨が教示されているから被告の本案前の申立は失当であると主張するが、(証拠略)によれば、裁決書謄本送付書には確かに裁決のあったことを知った日から三か月以内に原処分の取消の訴えを提起することができる旨が記載されてはいるが、これは一般的な注意事項に過ぎず、裁決につき実質審理を経ずに訴えを提起できる旨を教示しているとまでは解することができない上、再審査請求の請求期間について誤った教示をしたのでもないから、原告の主張は採用することができない。

二  以上の次第で、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川端浩 裁判官 伊藤茂夫 裁判官 坪井祐子)

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