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山形地方裁判所 平成2年(行ウ)36号 判決 1993年11月30日

原告

斎藤伊作

佐藤弘

池田勝郎

石垣清

伊藤孝勇

右原告ら訴訟代理人弁護士

豊口祐一

被告

(前遊佐町長) 菅原与喜夫

被告補助参加人

遊佐町

右代表者町長

小野寺喜一郎

右被告及び被告補助参加人訴訟代理人弁護士

赤谷孝士

右被告補助参加人指定代理人

小田原一臣

藤原健

池田薫

理由

一  請求原因について

1  請求原因1、2、6の各事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、同3ないし5の事実について検討する。

〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(1)  訴外会社は、遊佐町に対し、昭和六三年二月一〇日、国土利用計画法二三条一項、同条二項一号ハの規定により、工場用地として、月光川の上流付近にある二万〇五四四平方メートルの土地の取得を届け出た。

町は、右の土地が、水道水源地や農業用水などの取水口がある月光川の上流付近にあり、水道飲料水や、町の基幹産業である農業に与える影響を考慮して、訴外会社に対し右の届出を撤回してほしい旨要請した。

訴外会社は、同年三月二二日ころ、右の届出を撤回した。

ところで、同法によると、都市計画法上の一定区域外の区域では面積が一万平方メートル以上の契約については町長を経由して県知事に届け出なければならないとされているが、訴外会社は、同年三月三〇日、右の規制外の土地である別紙物件目録記載一の土地(登記簿上の面積八六三九平方メートル)を購入した。

そこで、公害の発生が懸念されたことから、町、付近住民、訴外会社の三者は、同年六月七日、大気を汚染せず、水質を保全することなどを内容とする操業に関する協定を結び、公害の発生の予防に努めた。

他方、訴外会社は、同年七月二九日、別紙物件目録記載二の土地(登記簿上の面積九七八四平方メートル)を購入し、国土利用計画法による前記届出をするとともに、同年八月ころから、本件建物で、アルミ廃材の分離処理加工の操業を始めた。

(2)  ところが、訴外会社が操業を始めてから、付近住民から、町や遊佐町農業協同組合に対し、刺激臭、粉塵、騒音などについて多くの苦情がよせられ、町議会定例会でも同様の指摘がされた。町は、遊佐町農業協同組合などと協議を重ね、解決策を探るとともに、訴外会社に対し、前記協定を遵守するよう要請した。酒田保健所も、訴外会社に対し、同年一二月二〇日、排出廃棄物の適正な処理を指導した。

さらに、約二〇年にわたり町で収穫される庄内米を大量に購入していた生活クラブ生活協同組合(東京都世田谷区宮坂三丁目一三番一三号所在)も、町に対し、平成元年四月一七日、訴外会社の操業継続は、これまで安全な米であると売買してきた両者間の信頼関係に背くものであり、操業停止と工場移転の要請をした。

(3)  町と同組合は、訴外会社に対し、同年四月二五日、アルミ工場の移転を要請した。

訴外会社は、右の要請を受け、町と同組合に対し、平成元年六月二七日、アルミ工場を酒田臨海工業団地に移転したいこと、そのため別紙物件目録記載一の土地と本件建物を五〇〇〇万円で買い受けてほしい旨申し出た。

町と同組合は、協議を重ねたうえ、訴外会社から右土地だけではなく、同目録記載二の土地を含む本件土地と本件建物を買い受けることが最善の方策であると判断したが、そのための費用をどちらが負担するかについては結論が出ず、とりあえず、同組合は、平成元年一二月二二日、植松知明不動産鑑定士に対し、本件土地と本件建物の売買価格の鑑定を依頼した。同不動産鑑定士は、同組合に対し、平成二年一月一八日、本件土地と本件建物の売買価格は、合計六〇四三万三〇〇〇円が適正である旨を内容とする不動産鑑定評価書を提出した。

そこで、町と同組合は、いずれが買い受けるかはともかく、本件土地と本件建物を買い受けることとし、訴外会社との間で、右各不動産の売買契約の交渉を始めた。訴外会社は、右各不動産の売渡し価格を取得原価や造成費用などをもとに五六〇〇万円と希望し、町と同組合は、買受け価格を前記評価書の範囲内である五〇〇〇万円と希望した。そして、最終的には、町、同組合、訴外会社は、平成二年一月二五日、本件土地と本件建物の売買価格を五三〇〇万円とすることに合意した。

(4)  ところで、町と同組合にはいずれが買い受けるかの問題が残されていたが、多くの住民の要請があったこと、両者の財政規模、取得目的、将来本件土地と本件建物をどのように活用できるかなどを総合的に検討して、町と同組合は、同年三月八日、町が本件土地と本件建物を買い受け、その後町が同組合に対し、農業振興施設として右各不動産を賃貸し、賃料は五年間で二六五〇万円(右各不動産の買受け価格の半額)とすることに合意した。賃料を右各不動産の買受け価格の半額とすることにしたのは、本件売買契約締結の目的が、公害を防止し、町の基幹産業である農業を守るというものであったことから、そのために支出した費用を分担することが公平であると判断したからであった。そこで、町と訴外会社は、同年四月一七日、本件売買契約を締結した。さらに、町と同組合は、町が同組合に対し、同年五月三〇日、期間を平成七年三月三一日まで、賃料を総額二六五〇万円と定めて本件土地と本件建物を貸し渡す旨の賃貸借契約を締結した。

なお、本件売買契約の締結等には、諸法令に基づき、町議会で可決される必要があり、同年四月一三日第二七二回遊佐町議会臨時会において、本件売買契約締結に伴う一般会計補正予算案が可決され、さらに、同月二〇日第二七三回同議会臨時会において、農業振興施設用地等の取得に関する案件が可決された。

(5)  訴外会社が、本件土地と本件建物に関し投下した資本は、本件土地の買受け代金、本件建物の建築費、設備費、土地造成費、工事費などで、その合計は、約四四〇〇万円である。また、移転工事費用として約三〇〇万円が必要とされた。

町は、買受け価格の算定にあたり、右の費用を検討した。

(6)  遊佐町農業協同組合から本件土地と本件建物の売買価格の鑑定を依頼された植松不動産鑑定士は、本件土地の売買価格は二四一七万一〇〇〇円、本件建物の売買価格は三六二六万二〇〇〇円が適正であると評価した。また、本件の原告であった亡時田博之から同様に売買価格の鑑定を依頼された高井司郎不動産鑑定士は、本件土地の売買価格は九三二万二〇〇〇円、本件建物の売買価格は一九六九万四〇〇〇円が適正であると評価した。このように評価額に差がある理由は次のとおりである。

まず、本件土地については、植松鑑定士は、同土地上に築後二年しか経過していない本件建物(昭和六三年七月三一日建築)が存在したことから、本件土地を事業所または作業所の敷地として使用することが最も有効であると判断した。他方、高井鑑定土は、宅地への転用の可能性がほとんどないことや本件土地の周囲が原野であることなどから、本件土地のほとんどの部分を原野としての価値水準にあると判断した。そのため、類似の取引事例を参考にする場合、植松鑑定士は宅地の取引の事例を、高井鑑定士は原野の取引の事例を参考にした。なお、訴外会社が本件土地に投下した費用は、原野として購入した後造成して宅地とした費用を含めて、約一二〇〇万円であり、売却希望価格は、約一六〇〇万円である。

次に、本件建物については、植松鑑定士は、再調達原価を求め、これを減価修正する方法によったが、高井鑑定士も同様の方法によった。ところで、植松鑑定士は、資材の値上がりなどを考慮して、再調達原価を三九六六万九〇〇〇円と算定したのに対し、高井鑑定士は、それを考慮せず、再調達原価を三三四三万九〇〇〇円と算定した。さらに、植松鑑定士は、観察減価率がないと評価したが、高井鑑定士は、観察減価率を三五パーセントと評価した。また、植松鑑定士は、本件建物の内部を見て、設備工事などを再調達原価に含めたが、高井鑑定士は外部観察だけによる評価である。なお、訴外会社が本件建物に投下した費用は、建築費や設備費など、合計約三二〇〇万円であり、売却希望価格は、約三二五〇万円である。

3  右の各事実によると、植松不動産鑑定士の評価は、高井不動産鑑定士の評価を大幅に上回るものである。しかしながら、植松不動産鑑定士の鑑定内容について、高井不動産鑑定士の鑑定と異なる点を検討すると、本件土地については、本件土地を作業所や事務所の敷地として利用することが最も有効であると判断したこと、本件建物については、再調達原価や観察減価率が異なるが、内部を観察したうえで評価していることなどが認められ、これらの事実からは、植松不動産鑑定士の評価には明確な誤りはなく、合理性があると認めることができる。したがって、仮に高井不動産鑑定士の鑑定が合理的なものであったとしても、買受け価格が不当に高額であるということはできない。

原告らは、評価額が異なる可能性がある以上、町としては、町議会に対する説明を含めて評価の手続をさらに慎重にすべきであった旨主張するが、町は、植松不動産鑑定士の評価を参考にしただけではなく、訴外会社が本件土地と本件建物に投下した前記資本を検討し、さらに訴外会社の希望売却価格を下回る金額での買受けを提案し、最終的に町議会の議決を経て本件売買契約を締結して代金を支出したことなどが認められ、これらの事実からは、町の本件売買契約締結に至る手続に明確な誤りがあると認めることはできない。

さらに、原告らは、本件土地と本件建物の取得には正当な事業目的がなかった旨主張するが、前記認定のとおり、本件売買契約締結に至る事実の経過を考慮すると、本件土地と本件建物の買受けは、公害発生の防止のために必要であったと認められるから、正当な事業目的があったと認められる。

そうすると、本件売買契約の締結及び代金の支出について、被告に裁量権の範囲の逸脱または濫用があったとは認められず、いずれも適法であったということができるから、原告らの主張はいずれも理由がない。

二  以上によれば、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本朝光 裁判官 杉本正樹 齋藤清文)

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