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山口地方裁判所宇部支部 平成2年(ワ)120号 判決 1992年5月25日

原告

厚保運送有限会社

被告

有限会社柳井建設

主文

一  被告は原告に対し、金二九万四七一三円およびこれに対する平成元年一〇月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

(請求)

被告は原告に対し、金二八四万七一三三円およびこれに対する平成元年一〇月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(事案の概要)

原告は、本件事故につき、被告には民法七一五条の責任があると主張して、損害賠償金およびこれに対する事故発生の翌日からの遅延損害金の支払いを求めた。

一  争いのない事実

1  原告は、運送業を目的とする会社であり、被告は、土木建設業を目的とする会社である。

2  被告は、主要県道下関萩線の道路改修工事をするため、美祢市東厚保町熊ノ倉地内の右県道を約二四〇メートルにわたつて片側交互通行にし(以下、本件交互通行区間という)、その交互通行区間の両端である美祢側と下関側の出入口にそれぞれ工事用信号機を設置した。また、本件交互通行区間の途中に工事用車両の出入口(以下、本件車両出入口という)を設けた。

3  原告の従業員木原忠夫は、平成元年一〇月二三日午前一〇時三〇分ころ、原告保有の大型貨物自動車(以下、原告車両という)を運転し、本件交互通行区間に美祢側出入口から進入して走行していたところ、本件車両出入口から県道に出てきた被告の下請従業員田上佳文運転の大型貨物自動車(以下、被告車両という)と衝突した。

4  本件事故当時、補助参加人の従業員(ガードマン)藤岡年夫が、本件車両出入口の向かい側に立つて、工事用車両の誘導をしていた。

二  争点

1  双方の過失の有無

<1> 原告の主張

藤岡は、誘導業務として、左右に走行してくる車両がなければ、白旗を振つて工事用車両を県道に進出させ、左右いずれかに走行してくる車両を発見すれば、赤旗を振つて工事用車両を本件車両出入口に停止させていたのであるから、原告車両を素早く発見したうえ、赤旗を振つて被告車両を停止させるべき業務上の注意義務がある。ところが、これを怠り、白旗を振つて被告車両を県道に進出させた過失により、本件事故を発生させた。

<2> 被告および補助参加人の主張

木原は、本件交互通行区間の美祢側出入口に設置された信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず、それを無視して進入したのであるから、本件事故は、木原の一方的過失によつて発生したものである。

2  被告の賠償責任の有無(原告の主張は左記のとおり)

藤岡は、補助参加人から被告へ出向し、被告の支配下で、その命令を受けて、工事用車両の誘導業務に従事していたから、被告の被用者と同視される。従つて、被告は、民法七一五条の使用者責任を負う。

3  損害額(原告の主張は左記のとおり)

<1> 車両修理代 二〇〇万四一六四円

<2> 休車損害(二二日間分) 五四万二九六九円

<3> 弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

(争点に対する判断)

一  過失について

1  甲一号証、四号証の一ないし八、第八号証、乙一、三ないし五号証、丙二号証、証人木原忠夫、証人藤岡年夫および証人田上佳文の各供述、検証の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。

本件交互通行区間は、美祢方面から下関方面に向かつて、右に大きく湾曲しているうえ、右側に工事用の柵や覆いがあるため、前方の見通しが悪い状態にある。本件車両出入口は、美祢側出入口から約一五四メートル進行した箇所の右側にある。

本件交互通行区間には、工事用信号機が、両端出入口のほか本件車両出入口の所にも設置されていた。この三か所に設置された信号機は、いずれも、赤信号と青信号を交互に表示し、その表示時間は、赤が一二〇秒、青が四〇秒という周期になつている。三台の信号機のうち、本件車両出入口と下関側出入口に設置された二つの信号機は、同一の表示をするようにしてあり、この二つの信号機と美祢側出入口に設置された信号機との関係は、一方が青信号から赤信号に変化してから四〇秒後に、他方が赤信号から青信号に変化するように設定してある。

田上は、有限会社大嶺運送の従業員であるところ、本件事故当日、被告車両に積載した土砂を平原まで運搬するため、本件車両出入口で待機していた。

藤岡は、被告車両を誘導するため、同所に設置された信号機の表示時間を腕時計で測り、その信号が青から赤に変化してから一〇〇秒後に、白旗を上げて発進の合図をした。田上は、その合図を見て、平原方面である美祢側出入口に向かうべく、左折するため右に膨らみながら被告車両を発進させた。

ところが、そのとき既に、原告車両が、本件交互通行区間に進入し、時速約六五キロメートルで下関側出入口に向かつて走行していたところ、木原は、藤岡が本件車両出入口の方を向いて白旗を上げているのを見て、原告車両に対し進行の合図をしているものと勘違いし、そのままの速度で走行した。

そして、藤岡は、原告車両に気付いて、被告車両に対し赤旗を振つて停止の合図をし、木原も、被告車両に気付いて急制動の措置を講じたが間に合わず、両車両が衝突した。

2  美祢側出入口に設置された信号機は、本件車両出入口の信号が青から赤に変化して四〇秒後に、赤信号から青信号に変わり、青信号を四〇秒間表示すると赤信号に変化する。従つて、藤岡が被告車両に発進の合図をしたのは、美祢側出入口の信号が、青から赤に変化して二〇秒経過したときであるところ、一五四メートルの距離を時速六五キロメートル(秒速一八メートル)で走行するのに要する時間は約八・六秒であることに照らすと、原告車両は、美祢側出入口の信号機が赤信号を表示していたにもかかわらず、本件交互通行区間に進入したものである。

仮に、原告車両が本件交互通行区間に進入したのが、青信号から赤信号に変わる瞬間であつたとすると、原告車両は二〇秒かかつて本件車両出入口に到達したことになるが、そのときの速度は、秒速七・七メートルであり、時速に換算すると約二八キロメートルである。しかし、原告車両がこのような低速で走行していなかつたことは、甲一、八号証、丙二号証、木原証人の供述から明らかである。

3  以上の事実によれば、本件事故の発生について、木原には、本件交互通行区間に赤信号を見落として進入したうえ、前方の見通しが悪いにもかかわらず高速で走行し、更に、藤岡が白旗を上げているのを見て、同人が、原告車両の方を向いたり、白旗を振つたりしていない(木原証人、藤岡証人)にもかかわらず、勝手に自分に対する進行の合図であると思い込んだ過失がある。

また、本件交互通行区間は、相当の長さがあり、見通しが悪いのであるから、交差点のように、互いに交差する道路の信号が、同一場所にある場合とは異なり、藤岡についても、被告車両に発進の合図をするにあたつては、左右から来る車両の有無、特に、下関側出入口の信号は、赤に変わつてから一〇〇秒経過しているのに、美祢側出入口の信号は、赤に変わつてから二〇秒しか経つていないのであるから、美祢側から来る車両の有無を確認すべき注意義務があるというべきである。ところが、藤岡は、この確認を十分せず、信号機の表示のみに頼つて、発進の合図をした過失がある。

4  右のとおり、木原は、赤信号を見落とすという重大な過失をしているうえ、道路状況を無視した速度で進行し、手旗信号の意味を取り違えるという過失もしている。これに対し、本件事故の発生について藤岡にも過失があるとはいえ、自動車運転者は、信号に従つて車両を運転する義務があることに照らすと、藤岡が信号機の表示のみに頼つたことは、ある程度やむをえないといわざるをえない。

従つて、木原と藤岡の過失割合は、九対一と認定するのが相当である。

5  ところで、木原証人は、本件交互通行区間に青信号で進入した旨供述している。

しかし、被告車両は、本件車両出入口から左折して進行するのであるから、本件交互通行区間に美祢側から進入してくる車両がない状態になつてから、すなわち、美祢側出入口の信号が青から赤に変わつてから発進しなければ、安全に通行することができないことに照らすと、本件車両出入口の信号が青から赤に変わつて一〇〇秒後に、被告車両に発進の合図をした旨の藤岡証人の供述に、十分信用することができる。従つて、木原証人の右供述は信用することができない。

なお、本件事故につき作成された実況見分調書(丙二号証)には、被告車両が右折しようとしていた旨記載されているのであるが、田上証人の供述に照らせば、右の記載は、被告車両が右に膨らんで左折しようとしたことを、右折しようとしていたと誤つて記載したものであると認定するのが相当である。

また、有限会社大嶺運送の検収証(乙三号証)には、本件事故当日、平原へ土砂を運搬した車両三台の登録番号が記載されているところ、被告車両は、事故のため当日は平原へ行つていない(田上証人)にもかかわらず、三台のうちの一台として被告車両の登録番号が記載されており、この点について、原告訴訟代理人は、改竄の疑いがある旨主張する。しかし、いずれにせよ、乙三号証によれば、本件事故当日、有限会社大嶺運送の車両が、平原へ土砂を運搬していることが認められるのであるから、左折しようとしていた旨の田上証人の供述は、信用することができるというべきである。

二  被告の責任について

1  藤岡証人および証人柳井睦夫の各供述によれば、以下の事実を認めることができる。

被告は補助参加人との間で、補助参加人の従業員一名を本件交互通行区間での工事用車両の誘導員として派遣を受ける旨の契約を結び、藤岡は、右契約に基づき、被告に派遣された。

本件交互通行区間の三か所に設置された工事用信号機は、被告の従業員で現場代理人である柳井睦夫が設置したものである。

藤岡は、柳井から、本件車両出入口での工事用車両の誘導をするよう指示され、信号機の周期について説明を受けた。また、被告の主任技術者である田中から、工事用車両を県道に出すときは、本件車両出入口に設置された信号機の表示が青から赤に変わつて一〇〇秒後に、発進の合図をするよう指示された。

そして、藤岡は、被告のもとへ派遣されていた間は、出勤すると、まず事務所へ寄り、監督に挨拶して、その日の工事内容等について指示を受けてから、本件車両出入口付近に立つて工事用車両の誘導に従事し、日報用紙に勤務時間と主な仕事内容を記入して柳井の確認を受けていた。

2  藤岡は、被告のもとへ派遣されている間は、専ら被告の指揮監督を受けて、被告の道路改修工事現場で工事用車両の誘導に従事していたものであり、かつ、その誘導をするにあたり、被告が設置した信号機に頼つていたものである。

そうであれば、藤岡は、補助参加人の従業員ではあるが、被告の事業に被告の指揮監督を受けて従事していたというべきであるから、右誘導をしている限りにおいては、被告の被用者と同視することができる。

従つて、民法七一五条により、被告は、藤岡が過失により原告に与えた損害を賠償する責任がある。

三  損害について

1  車両修理代

甲二号証および原告代表者の供述によれば、原告は、山口三菱ふそう自動車販売株式会社(宇部支店)に、本件事故で破損した原告車両を修理させ、代金二〇〇万四一六四円を支払つたことが認められる。

2  休車損害

甲二号証および原告代表者の供述によれば、原告車両の修理には二二日間を要し、この間、原告は、原告車両を営業に使うことができなかつたことが認められる。

右期間中の休車損害は、別紙記載1の休車損害計算式により算定するのが相当であるところ、この計算に必要な数値を、原告の昭和六三年九月一日から平成元年八月三一日までの全保有車両の一年間の輸送実績合計(甲六、七号証により認める)を基に求めると、別紙記載2の営業収入経費等一覧表記載のとおりであり、これを右計算式に入れて休車損害を求めると、別紙記載3のとおり、休車損害は五四万二九六九円となる(但し、原告の請求額は、実働車一台一日あたりの営業収入を三万円とし、そのトンあたりの営業収入につき一〇円未満を切り捨てて計算したものであるから、当裁判所も、原告と同様の計算をした)。

3  過失相殺

車両修理代と休車損害の合計は二五四万七一三三円であるところ、原告側と被告側の過失割合は前記のとおりであるから、原告が被告に対し賠償を請求できるのは、右合計額の一割である二五万四七一三円である。

4  弁護士費用

本件事案の内容、認容額、原告訴訟代理人の訴訟活動等を総合考慮すると、原告が負担する弁護士費用のうち四万円を被告に負担させるのが相当である。

5  合計

従つて、原告の損害のうち被告が賠償すべき額は二九万四七一三円である。

(裁判官 楢崎康英)

1 休車損害計算式

原告車両の休車損害=原告車両営業収入/日×休車日数×実働率×(実働車の営業収支率+固定費率+一般管理費率)

原告車両の営業収入/日=実働車の営業収入/t日×原告車両の積載重量

実働率=延実働車両数÷延実在車両数

実働車の営業収支率=営業利益÷営業収入(1日あたり)

固定費率=固定費合計÷営業収入(年間)

一般管理費率=一般管理費合計÷営業収入(年間)

2 営業収入経費等一覧表

<省略>

3 原告車両の休車損害

5万6580円/日×22日×0.668×(0.25+0.14+0.263)=54万2969円

原告車両の営業収入/日

3万円÷5.43t≒5520円/t

5520円/t×10.25t=5万6580円

実働率

6092台÷9125台=0.668

実働車の営業収支率

7516円÷3万0064円=0.25

固定費率

2563万3000円÷1億8315万4000円=0.14

一般管理費率

4818万8000円÷1億8315万4000円=0.263

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