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山口地方裁判所下関支部 昭和48年(ワ)155号 判決 1979年10月08日

原告

小林栄治

右訴訟代理人弁護士

田川章次

君野駿平

被告

サンデン交通株式会社

右代表者代表取締役

林佳介

右訴訟代理人弁護士

村田利雄

小柳正之

右訴訟復代理人弁護士

甲斐

主文

原告は被告会社彦島営業所車掌の地位にあることを確認する。

被告は、原告に対し、金三〇万円およびこれに対する昭和四八年七月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、第四項同旨

被告は、原告に対し、金一〇〇万円およびこれに対する昭和四八年七月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

との判決ならびに右金員支払部分につき仮執行宣言の申立。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  被告は大正一三年七月九日下関市において設立された自動車による一般運輸営業等を主な目的とする株式会社であり、原告は昭和三九年四月右被告会社にバス車掌として入社し、以来同社彦島営業所にて勤務しているものである。

2  被告は原告に対し、昭和四八年七月二四日原告を右車掌の地位から整備課雑務手に降職する旨の懲戒処分(以下「本件処分」ないし「本件懲戒処分」という。)を行なった。

3  しかしながら、本件処分は無効である。

4  原告は右無効な本件処分により車掌として労働する機会を剥奪され、毎日慣れない雑役に従事させられている。誇りの持てない労働に従事させられることは強制労働にも等しく、原告がこれによって蒙っている苦しみは想像を絶するものがある。また原告は本件処分により賃金の減給を受けており、原告と同時期に入社した同僚の収入と比し、年収で七〇万円余の差がついている。更に本件処分は原告の正当な組合活動を理由として、原告及び支部組合にかけられた組織攻撃である。この違法な処分をはね返すため原告は本訴を提起したが、この訴訟を維持進行するに当っての原告の精神的、時間的、金銭的な損害は多大なものがある。よって原告に発生したこれら種々の損害の慰藉料としては、金一〇〇万円をもって相当というべきである。

5  右のとおり、原告は被告に対し、原告が本件処分以前の彦島営業所車掌の地位にあることの確認と、被告の不法行為を理由とする金一〇〇万円の慰藉料及びこれに対する右不法行為の翌日である昭和四八年七月二五日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1、2は認める。但し、同2については、本件処分は降職処分ではなく降級処分である。

2  同3は争う。

3  同4は否認ないし争う。

三  被告の抗弁

本件処分は次のとおり適法、有効なものである。

1  被告会社は、就業規則に基づく自動車係員服務規程(以下「係員規程」ともいう。)五三条、六四条及び自動車乗務員服務規程(以下「乗務員規程」ともいう。)二六条によって、バス乗務員に対し所持品検査を義務づけている。しかして右条項の規定内容は別紙のとおりである。

2  原告は昭和四六年一一月一八日、同年一二月七日及び昭和四七年三月三〇日の三回にわたり、乗務終了後又は乗務途中における被告会社補導掛職員からの所持品検査申入れに対し、乗務員規程に定める笛、社員証、印鑑、手帳等の業務上必要な携帯品は右補導掛に提示するも、私物の提示についてはこれを拒否した。即ち、補導掛は右必要携帯品以外の残余物品の有無を確認するため、原告の制服ポケットの上から手で触わろうとしたところ、原告はこれを拒否したので、補導掛は更に原告自ら制服上衣のボタンを外し、制服についているポケット全部を裏返してその中味を補導掛に見せるよう求めたところ、原告はこれをも拒否し、結局残余物品有無の確認をすることが出来なかった。

3  原告の右確認拒否は前記1の就業規則ないし各規程に違反する行為であるが、さらにこれは被告会社における職場の秩序を著しく紊乱し他の従業員に及ぼす影響も極めて大なるものがあった。よって労働協約及び就業規則に定める懲戒条項(具体的な適条は後記六2のとおり。)を適用してなした本件処分は、適法有効にして何らの瑕疵も存しない。

四  抗弁に対する原告の認否

1  抗弁1は、被告の主張する就業規則及び規程等の具体的内容が別紙のとおりであることのみを認める。

2  同2は認める。但し、私物も所持していた限り提示している。

3  同3は争う。

五  原告の法律上の主張

1  本件所持品検査の違法性

(一) 乗務員規程二六条三号及び(心得)三号の憲法違反性

(1) 被告会社において、原告のような車掌に対し所持品検査を義務づける規定は、前記係員規程(昭和二五年三月三〇日施行)六四条と乗務員規程(昭和四五年二月一日改訂)二六条の二つであり、その具体的文言は別紙のとおりである。ところで被告会社においては、当初バス車掌に対する所持品検査の根拠規定として右前者しか存在しなかったため、昭和四三年二月末頃、その方法・程度を明示すべく乗務員規程二六条を新設した。乗務員に配布された右二六条の規定文言によると、その三号には、業務上必要な携帯品と現金の有無についても所持品検査の対象となること、さらに検査方法について(心得)三号に、「所持品検査を受ける際は、自ら携行品を提示し、着衣のポケットの中袋を返して提示する。(なお、不審な場合には着衣の上より直接触れて検査をし、又脱衣させ精密検査をすることがある。)」との規定が存した。これに対して、乗務員から右新設条項の人権侵害性を非難された被告会社は、同年三月末頃乗務員規程を一旦回収して右(心得)三号の上から紙を貼り、再び乗務員にこれを配布した。その後乗務員規程二六条(心得)三号の文言は、別紙のとおり「所持品検査は第一八条五項及び第二一条の実施情況についても応じなければならない。」と変更され、現在に至っているものである。

(2) そこで右乗務員規程二六条について検討するに、同条一号は同規程一四条が定める服装の適否についての検査であり、これは、会社が使用者として業務の適正な管理運営として当然になしうるものであると考えられる。同条二号も、同規程三三条、七四条に規定された乗務に必要な携帯品を所持しているか否かの検査であり、右一号と同様の理由で使用者たる会社が行ないうるものといえる。同条三号は、二号に定める以外の乗務に不必要な携帯品並びに現金の有無についての検査である。乗務に不必要な携帯品ということになれば、これは被検査者たる労働者個人の所有物をさすと考えられる。また現金については、(心得)三号が一八条五号の「現金を所定の場所以外に保管すること」、二一条の私金所持禁止の実施情況についても応じなければならないと規定していることに照せば、会社所有の運賃と労働者個人所有の金員(私金)を指すものであろう。

そもそも私物たる携帯品と私金については、本来の職務執行行為とは無関係であり、労働者は使用者と労働契約を締結する際その処分権限等を委ねている訳ではない。また、憲法三五条一項が「所持品」についても令状によらなければ捜索しえないと規定している点を考えれば、使用者たる会社は当然に私物たる携帯品や私金についてまで検査することは許されない。あくまでも労働者の個別的同意が必要であって、同意がないのに強制的に検査することは許されない。右条項にいう会社所有にかかる運賃とは、乗務員規程二六条四号が途中精算を定め、また前述の如く現金の所定場所以外の保管の有無について定めていることからすれば、乗務員が不正に領得、隠匿した運賃をさすものと考えられる。従って、この検査は犯罪捜査を目的とするものであり、当該労働者の同意が得られない限り、司法官憲にこれを委ねるべきものであって、一私人である会社に許された行為と言うを得ない。

右のとおり、乗務員規定二六条三号及び同(心得)三号は、被検査者たる労働者に受検義務のない物についてまで所持品検査を受けるべきことを定めたものであるから、憲法三五条に違反し公序良俗に違反するものとして無効である。従って労働者は、右条項に基づく私物の検査と運賃不正取得の疑いをもってなされる検査についてはこれを当然に拒否しうるものであり、また、懲戒処分等を威しにして右検査を受けることを強制されはしない。

(二) 乗務員規程二六条三号及び(心得)三号の判例違背性

(1) いわゆる西鉄脱靴事件についての昭和四三年八月二日最高裁第二小法廷判決は、それまで一般に肯定されていた所持品検査につき、これを「当然に適法視されうるものではない」として人権意識が定着せず慣行になれきってそれがマヒしていた世人に警鐘をうちならしたものであり、人権判決の一つとして評価すべきものである。

しかし、右判決は、所持品検査により多数の不正が摘発されているという実態をふまえたうえでその必要性を強調して一定の条件の下では所持品検査は許されると判断しているが、これは本来身体検査に属する強制的な脱靴を伴う検査を、明示の根拠に基づき画一的に実施しさえすれば所持品検査に転化するとみている点で論理の飛躍があるといわなければならない。また右判決の提示する一定の条件というのも、極めて抽象的であって人権侵害をチェックする基準となりえないという点で不当であり、かつ、身体検査や犯罪捜査のための検査まで許容する点で誤まっている。最高裁が右のような見解に到達したのは、「これを必要とする合理的理由に基づいて」というところに決定的重点をおいたからだと考えられるが、これでは最高裁は労働者の人権を犠牲にしてでも企業の利益を守るというすぐれた企業者意識に指導されているといわなければならない。

この点について言えば、所持品検査では使用者の財産権と被検査者たる労働者の人権(人間として尊重されるがゆえに、故なく他人から侵害を受けない権利)とがいわば労働契約をとおして労使の事実上の力関係のゆえに衝突するわけであるが、両者がともに憲法で保障される権利・自由に由来しても、前者と後者に憲法上の価値の違いが認められるのであるから、それがここに反映されるべきである。そうすると、判決のいう「必要とする合理的理由」とは、単に企業の経営維持の必要性ではなく、他にこれを避ける合理的な方法がないことをまず意味し、そのうえで必要最小限度の制約の原理に従って、ということを意味することとなる。従ってこの点について右判決が「他にそれに代るべき措置をとりうる余地が絶無ではないとしても」といっているのは、原判決よりは更に後退した企業者意識によるものであり、許されない。ことに右判決の事案は昭和三五年当時発生のものであり、その後二〇年近い歳月を経て、ワンマンカーなどに見られるように企業の財産管理について格段の技術進歩が認められる今日、最高裁の右判決に示された基本的見解は、既に時代に即応しなくなっているといわなければならない。

よって、右最高裁判決は早晩変更されるべきものである。

(2) しかしながら、仮になお右判決が有効であるとしても、被告会社がその従業員たる労働者に対し運賃の不正領得の摘発を目的として行なう所持品検査の根拠たる乗務員規程は、次の点で右最高裁判決に違背している。

右最高裁判決は、本来人権侵害となる不正摘発を目的とした所持品検査も、「これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれるときは」許されると判示している。この判決の趣旨は、検査の方法・程度について具体的な規定を有することを要求しているものであるが、被告会社の乗務員規程二六条三号及び(心得)三号は別紙のとおり、現在そのような具体的な方法・程度・範囲を明示していないから、この点において右判決の趣旨に反するものとなっている。すなわち、所持品検査の方法・程度について、右規程(心得)は先に述べたとおり、昭和四三年二月末に配布された当時は(心得)三号において具体的な検査方法と程度について明示していたが、昭和四三年三月に紙を貼られて右条文が撤回され、現在のような抽象的な規定に変更されてしまってからは、現規程のとおり不正摘発を目的とした所持品検査の違法性を阻却する条件としての明示性を充足しえなくなっている。この点において右乗務員規程の条項は前記最高裁判決の趣旨にも違背している。

(三) 本件所持品検査の違法性

(1) 本件所持品検査の具体的態様

被告会社において実施されている所持品検査は、「携帯品とは、会社の貸与した物品は勿論、所持している私物全部をいう」(乗務員規程二六条(心得)四号)との前提に立って、右規程二六条の各号に従い、服装の適否、乗務に必要な携帯品の有無、乗務に不必要な携帯品並びに現金の有無、途中精算し売上現金と乗車券の発売金額の照合確認がなされることになっている。そしてその検査方法は、被検査者たる労働者が業務上必要な携帯品あるいは私物を全部任意に提出した後、なお残余の物があるか否かを確かめるため、検査者たる補導掛員が被検査者たる労働者の着衣の上から触るか、あるいは労働者自らがポケット全部を裏返して見せるといういわゆる「確認」がなされることになっている。そして右確認は、労働者自らポケットを裏返すか、あるいは検査者が着衣の上から触れるというだけでなく、不審がある場合には不正隠匿には安全地帯はないとの考えの下に精密検査と称し脱衣させたり、腹巻等の検査をも行なうことが予定されている。そして、被告会社は、この「確認」は所持品検査の一部であって、これがなされない限り所持品検査は終了したことにはならないとして、確認を拒否した場合には所持品検査の一部拒否として拒否者に対し懲戒処分を行なっている。

このような方法により行なわれている被告会社の所持品検査が許されるか否かを、次に検討する。

(2) 本件所持品検査の憲法違反性

被告会社が原告ら乗務員になしている右のような所持品検査は、原告が運賃を不正に領得しているという疑いのもとに私物等の提示を求めているという点で、原告らが自由かつ理性的な個人として尊重されるべきであるのに原告らを故なく泥棒視している点で、これは憲法一三条、一一条に違反するものである。また、被告会社の右の如き考え方は、自らの財産保全のためにより尊重されるべき個人の自由を犠牲にしているという意味で、所有権を濫用しているものというべきであり、これは憲法一二条に違反している。

さらに被告会社は、不正摘発という立場から被検査者たる労働者の私物全部を点検し、更には身体の一部を構成する着衣まで検査して残余物品の有無を確認することを要求している。これは明らかに犯罪捜査のために行なわれるものであり、しかも身体捜索にまで至る身体検査を要求しているものである。被告会社はこれら「確認」は被検査者の了解を得てやると言っているが、了解しない場合には懲戒処分をなすのであるから、いわば懲戒処分を威しとして間接強制的に右「確認」を強要するものといえる。

このような「確認」行為は、犯罪捜査のために行なわれているという点で憲法三五条に違反するものであり、身体検査を強制しているものであるという点で憲法一一条、一二条、一三条に違反するものである。よってこのような所持品検査は公序良俗に反するものとして許されない。

(3) 本件所持品検査の判例違背性

被告会社の行なう本件所持品検査は、前記最高裁判決が所持品検査の適法性に関して示した各条件のいずれにも反するものであって、違法なものである。

第一に、前記最高裁判決は右条件の一つとして「これを必要とする合理的理由」の存在を掲げる。しかしこれについては、現金を大量に扱う金融機関、商店等においてかかる不正摘発のための所持品検査がなされていないばかりか、同種の運輸企業においても、不正が行なわれないような企業管理方式が確立され、所持品検査そのものが行なわれなくなってきている。現に被告会社においても、昭和三八年ワンマンバスの導入に伴ない乗務員が直接金員を扱わないということから所持品検査が行なわれないこととされ、更にこれは昭和四七年一二月六日以降再度確認され現在に至るまでワンマンバス乗務員に対しては所持品検査は行なわれていない。なお被告会社と同じバス企業においても料金箱の設置、乗車券制度の徹底といった企業管理の適正合理化の中で所持品検査は順次撤廃され、中国地方においては被告会社しか実施しているところがない。

よって、このような一般的状況の下にあって、被告会社がツーマンバスの車掌に対してだけ所持品検査をやる合理的理由は存しないことが明らかである。

第二に、条件の二つとして「一般的に妥当な方法と程度であること」を掲げるが、これまでに述べてきたように、被告会社の所持品検査は犯罪捜査のためになされ、しかも身体検査に至るものであり、かつ、それが懲戒処分を威しとして強制されているという点において、何人が見ても妥当な範囲と程度を逸脱した違法不当なものであることは明らかである。

第三に、条件の三つとして「制度として職場従業員に対し画一的に実施されること」を掲げるが、前記最高裁判決の前提となっている事実が、検査場の施設を改善し自然に脱靴するようにしたうえで、一回目四〇名、二回目四六名の乗務員に対して行なわれているというものであったことに照らせば、被告会社における本件所持品検査は制度として職場従業員に対して画一的に実施されているものとは到底いえない。即ち、被告会社では、所持品検査は補導課長の指示の下に一週間二、三回、月一二、三回程度で一回当りの対象者数も三名位であり、月当り延数で三六ないし四〇名の者に対して行なわれているにすぎない。これは一ケ月当り全乗務員数の一割にも満たない程度である。そのうちワンマンバス運転手は除外されている。そして原告のように四ケ月程の間に三回も検査を受け、しかも昭和四七年三月三〇日には原告一人だけしか検査を受けていないのである。このような所持品検査が、制度として職場従業員に対して画一的に行なわれているということが出来ないのは、多言を要しないであろう。

また検査の方法についても、被告会社はポケットを裏返すか着衣の上から確認するということは画一的に行なっているというが、昭和四六年一一月一八日の原告に対する検査では上衣のボタンまで外すことを要求している。また被告会社の主張では、所持品検査には安全地帯などないのだという観点から、不審ありと思うときは被検査者を脱衣させたり腹巻き等の下着まで精密検査するというのである。よって検査方法が画一的に行なわれているものでもない。

以上のとおり、被告会社の行なっている所持品検査は、検査対象者の選択、検査方法が恣意的になされており、制度として職場従業員に対し画一的になされているとは到底言い得ないものであって、前記最高裁判決の掲げる条件を充足しているものとは言えない。

第四に、条件の四つとして「このようなものとしての所持品検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれなければならない」としているが、前記最高裁判決は、前提となる事実として、使用者が組合と話し合って組合がこれを了承したうえで組合機関紙に右事項を掲載し、組合員全員に周知徹底させたことを認定している。この判示からすれば、所持品検査方法が事前に被検査者に就業規則等によって明示されていることを要求している趣旨だと認められる。ところが、被告会社の所持品検査については、この具体的方法を明示した根拠規定はどこにも見出すことができない。そのうえ右事案と異なって、原告所属組合は一貫してそのような検査方法に反対し続けてきていたのである。従って、被告会社が原告に対して行なった本件所持品検査は、明示の根拠に基づかないものであり、前記最高裁判決の右条件を充足しないものである。

以上のとおり、被告会社が行なう本件所持品検査は、前記最高裁判決の掲げる全ての条件について、いずれもこれを充足しないものであって、人権を侵害する違法なものである。

(4) 本件所持品検査の乗務員規程(心得)違反性

被告会社が現に行なっている所持品検査の方法は、前記(一)(1)のとおり、紙を貼る前の(心得)三号と同じものである。しかしこの(心得)三号は、人権を侵害するものとして職場での批判が多く、被告会社がこれに紙を貼って現在の(心得)三号のように訂正したものである。以上の経過に鑑みれば、現在「確認」と称して行なわれている方法は、元の規程に紙を貼ったことによって撤回されたものというべきであり、現在の乗務員規程にはこの様な具体的方法を定めていない以上、紙を貼る以前の方法を強行することは、現在の(心得)三号に違反するものといわざるを得ない。

被告会社はこの点について、紙を貼る前の表現では着衣のポケットしか検査できないことになり自ら手を縛る結果になるので、不正領得に安全地帯はないのだという考えから何処でも調べられるように現在の様な表現に改めた、これは第二組合の幹部も承知していることだ、と言う。もし、それが真実ならば何故紙を貼った際にそのことを明らかにしなかったのか、このように職場の労働者を瞞着・愚弄することは信義に違反する不当なものといわなければならない。

以上の各理由から、前記(1)の内容を持つ本件所持品検査は違法というべきである。

(四) 本件所持品検査の不当労働行為性

(1) 原告は被告会社に入社以来、私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(以下「支部組合」又は「第一組合」という。)に所属していた。支部組合はもともと企業内単一組合として昭和二一年に結成され、昭和二六・七年頃からは全国的に見ても最高に近い水準の労働条件を獲得し、その力は強大であった。しかるにその後の会社経営の不手際から、被告会社は合理化を余儀なくされ、組合分裂政策を断行するに至り、その結果、昭和三四年一二月二九日支部組合から分裂した山陽電軌労働組合(以下「山労」又は「第二組合」という。なお右山労はその後昭和四六年頃サンデン交通労働組合と名称変更したので便宜「サン労」ともいう。)が成立するに至った。

かくて支部組合を分裂させた被告会社は、以後職制を利用して支部組合を切り崩し第二組合の拡大をはかり、支部組合員に対しては不当な配置転換や正式採用の遅延等を行う一方、第二組合員に対しては不正行為についても処分をしない等露骨な差別政策を取り続けた。被告会社の第一組合員に対する差別的取扱いは、一つ一つあげればきりがないが、要するに右分裂以後今日に至るまで、ほぼ一貫して続けられている。

(2) 本件所持品検査は、被検査者の指定についても補導課長の指示により補導掛員が営業所に赴き、その営業所にいる者に対して通常二・三名、場合によっては一名に対してしか行なわれていない。そのうえ掛員の考えにより、確認の程度・方法は一定していない。

このような所持品検査を支部組合は違法なものと考え、昭和四五年九月二〇日以前には何回かの期間にわたって途中精算、所持品検査一切の拒否を争議行為として行なった。また右日時以降は、右争議行為は解除し労働契約の統一的解釈として、「会社の所持品検査に応ずべき義務があるのは、業務上必要な携行品の提示と途中精算のみであって、私物の提示と残余物品有無の確認は受ける義務がない。但し、私物についての提示は各人の自由に委ねるが確認は拒否する」との見解をまとめ、原告ら組合員に徹底し組合員はこれを組合活動の一環として捉えそのように行動してきた。

ところが被告会社は、所持品検査拒否の右争議行為は違法であるとして、右拒否の争議行為に出た組合員に対し懲戒処分をかけて来た。このように支部組合の正当な争議行為に対してさえも、大量かつ厳しい懲戒処分をもって臨む被告会社の態度は、組合分裂以来支部組合を敵視し、支部組合の組織を潰滅させることを狙った不当労働行為であることは明白である。特に被告会社が所持品検査拒否を理由に支部組合員に対して懲戒処分をかけてくるのは、支部組合と会社との間に争議が激化し、支部組合の影響力を増大しようとする時期に一致する。これは支部組合に傾く第二組合員の心情に対し、会社が牽制をかけようとするからであること明らかである。そして原告に対する本件処分も、右と同様の理由に基づく処分ということができる。

2  本件処分の違法・無効性

(一) 前記1(三)記載のとおり、業務上必要な携帯品を提示した後の残余物品の有無の確認について、補導掛員が被検査者たる原告に対し、着衣の上からポケットを手で触わる、あるいは原告自身にポケット全部を裏返しさせることを内容とする本件所持品検査は違法であるから、かかる違法な所持品検査に対してなされた原告の確認拒否行為は正当なものであったというべきである。

よって正当な右確認拒否行為に対して加えられた被告会社の本件処分は違法・無効である。また本件処分は前記1(四)記載のとおり、不当労働行為としても無効である。

(二) 被告会社は本件処分に至る情状として、原告が過去六回にわたって懲戒処分を受けている事実をあげている。このうち四回は所持品検査に関係するものであり、他の二回も原告の組合活動に関係したものであるが、これらの懲戒処分はいずれも次の理由により違法・無効なものであり、情状として考慮されるようなものではない。

昭和四三年一二月二〇日付、同四四年六月一三日付の各懲戒処分は原告が所持品検査を拒否したことを理由とし、同四三年一二月二〇日付、同四五年二月二〇日付の懲戒処分は途中精算の際に原告が過金の理由書を提出しなかったことを理由とし、同四五年一月二〇日付の懲戒処分は他の労働者に対する所持品検査に際し画一的に行なわれていないことを抗議したのが職場秩序を乱したとして、それぞれなされている。しかし、原告の所持品検査拒否並びに途中精算に際する理由書提出拒否はいずれも支部組合が会社に対して争議行為として行なうことを通知し、支部組合の争議指令に基づいて原告が行なったものである。したがって、かかる正当な争議行為に対してなされた懲戒処分は、組合への支配介入ないし不利益取扱行為として不当労働行為に該当し、無効である。また所持品検査をめぐっての抗議についても、被告会社が犯罪捜査の目的をもって特定の者に対して身体検査を強行しようとしたことから派生したものであって、被告会社の身体検査が違法である以上、これに対し暴力を伴わない言語での抗議は当然許されるものというべく、これに対し懲戒処分をもって臨むということ自体極めて異常な態度といわざるを得ない。更に所持品検査に関するもの以外の二件についても、原告がなした行為は組合の方針に基づいて抗議行動を起こし、しかもそれが格別問題とすべきでないようなものを取り上げていること、特に昭和四五年四月二五日の勤務拒否については、時間外労働を応諾しなかったことを理由とするものであること等を考えれば、懲戒処分をなす必要性のない事案である。

右の如く、各懲戒処分は無効なものであって、情状としても考慮するに値しないものである。

(三) 降職処分の不当性

本件処分は降職を伴う降級処分であって、被告会社はこれを就業規則九四条二号(別紙のとおり)に基づいて発令している。しかし懲戒処分としての降級は、就業規則九六条に基本給の等級を降下せしめると規定しているだけであり、降職として職種変更をすることは一切規定していない。被告会社の賃金規程の職種別等級表は、賃金を定めるに当り職種ごとに何級の賃金を支給するかを定めているにすぎず、賃金以外の関係において職種の格付けをしているものとも見れないので、級が変われば右職種別等級表によって当然職種も変わるということもできない。そして原告のように、車掌という職種で労働契約が締結されている場合、懲戒処分として職種そのものを変更することは労働契約の趣旨に反するものであり、就業規則に明示されていない以上許されないものというべきである。しかるに就業規則九六条は、降級の場合には基本給の等級を降下させると規定しているだけであって、職種を変更するとか降職させるということは何処にも書かれていない。また就業規則の何処をみても、各職種がどのように格付けされているかは規定されていない。従って車掌職の場合には、賃金規程により三級の基本給しか支払われないようになっているのだから、降号処分はなしえても降級処分はなしえないことになる。仮に降級処分をなしうるとしても、職種を変更することはできないのであるから、車掌職のまま二級の賃金を給するということしかできないものというべきである。

よって降職を内容とした本件処分は、就業規則の懲戒規定に基づかない懲戒処分であって、違法・不当なものである。

(四) 結論

以上に検討したように、原告の本件確認拒否は正当な行為であり、これを所持品検査の一部拒否として捉えたうえでなされた本件懲戒処分は、その前提を欠き違法・無効なものである。そして情状として掲げられた過去の懲戒処分も原告の正当な行為を殊更に問題としてなした不当労働行為であり、それ自体理由のないものである。さらにこれら前提を欠く懲戒処分は、その内容において就業規則の規定に基づかず、賃金規程と就業規則の曲解に基づいて発令されたものであって、この面でも不当である。よって本件懲戒処分は一片の正当性もない違法・無効なものであって、原告は現在なお被告会社彦島営業所バス車掌の地位にある。

六  被告の法律上の主張

1  本件所持品検査の正当性

(一) 所持品検査の必要性と合理的理由

自動車による一般運輸業を主体として営む被告会社にあっては、乗務員が直接取扱う個々の零細な運賃収入こそが経営の基盤となるところから、業務の確実な遂行、規律確保と合わせて、乗客より徴収した右運賃の不正取扱いを防止する目的から、乗務員を対象とした所持品検査を行なっている。

ところで、乗務員の不正防止の目的による所持品検査の実施は必ずしも最善の方法とは言い難いので、被告会社においては、昭和三八年八月企業合理化の必要から一部バス路線にワンマンバスの運行が実現したのに伴い、従前ツーマンバスで車掌が乗客から直接受け取っていた運賃をワンマンバスでは乗客がバスに装着された運賃箱に直接投入する取扱いにした。そこでワンマンバスの運転手に対しては所持品検査の一部(着衣の上からポケットを軽く触れるか、自らポケットを裏返す)の実施は不必要になったのではないかとの見地から、当分の間右所持品検査の一部については実施を見合わせ実績を見るという措置を講じたのであるが、遺憾ながら乗客から運転手が運賃を直接手取りする取扱いが跡を断たず、現実に不正行為容疑者が出てきたので止むを得ず従前の所持品検査の方法に戻したことがある。しかし被告会社としては、その後も現金投入口を狭くするなどの運賃箱の改良、自動両替器の装着並びに改良等を実施すると共にバス停約七五〇ケ所中、約二〇〇ケ所について、乗車券発売所を設置するなどして、乗務員の不正防止に努力を重ねてきたのである。一方、昭和四七年一〇月ないし一一月に至って、サン労より被告会社に対し、自動両替器を装着したワンマンバスの運転手については所持品検査の確認(即ち所持品検査の一部である着衣の上からポケットを軽く触れるか、乗務員自らポケットを裏返すことを意味する)は必要ないので廃止を要求する趣旨の申入れがなされた。被告会社は、これに対し、運営面で当分の間実績を見る旨回答し、サン労もその頃これを了承した。

その後、同年一二月二六日、サン労より再び自動両替器が全車両に装着された段階では所持品検査の完全廃止と乗務員規程二六条三号の削除を要求し、会社にその旨協議会の申入れをしてきた。被告会社は昭和四八年一月一三日協議会を開催し、両者間で右問題を検討するための小委員会を設置することで合意を見た。そこで右合意に基づき設置された小委員会において種々検討をなすと共に、他方、自動両替器を導入した営業所の乗務員に対する所持品検査は見合わせていたのであるが、乗務員の運賃手取り行為及び不正領得行為が現実に発覚されてきたのである。その後も小委員会での検討を続ける一方、運賃箱の改良、自動両替器の装着並びに改良を継続してきたが、手取り行為による運賃の着服、又は運賃箱を逆さにして運賃を取り出したり、あるいは針金の先端に両面テープを貼りつけ、運賃箱より硬貨、紙幣を釣り上げる等の不正が発覚し、極めて悪質な不正行為が跡を断たない状況からして遺憾ながら所持品検査の廃止及び乗務員規程二六条三号の削除に踏み切ることができず、右現実から、その後はサン労からこの間題に関する格別の要求はなされていない。しかしながら、被告会社としてはその後もワンマンバスの機器改良に努め、昭和五一年一一月より循環式自動両替器付運賃箱に逐次切り替えを行なっており、設備面から不正の余地がないように計り所持品検査廃止の方向に向って最大限の努力を重ね現在に至っているのであるが、未だに手取り行為の完全解消に至っていないのである。

以上の如く、被告会社においては所持品検査廃止の方向に向って積極的に努力してきているのであるが、不正着服と密接な関係にある運賃の手取り行為が存在する限り、所持品検査に代る適切な方法がなく業務の確実な遂行並びに職場規律保持と不正防止の趣旨から、所持品検査の必要性と合理的理由が十分存在するのである。まして本件所持品検査は、ツーマンバスに車掌として乗務していた原告に対し実施されたものであるから、所持品検査を行なう必要性と合理性は高度であった。

(二) 本件所持品検査の正当性

(1) 乗務員の受忍義務

被告会社の就業規則三〇条、係員規程五三条、六四条、乗務員規程二六条の各規定内容は別紙のとおりである。

被告会社は右各規定に基づいて所持品検査を実施しているものであり、確実な業務の遂行、規律保持、運賃収入の不正防止、隠匿摘発のための措置として必要最少限度の乗務員の義務を示したものである。前掲最高裁判決によっても、「所持品検査が就業規則その他明示の根拠に基づいて行なわれるときは、他にそれに代るべき措置を取り得る余地が絶無でないとしても、従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠くなど特段の事情がない限り検査を受忍すべき義務があり」とされており、原告が被告会社の実施する所持品検査を受忍する義務があったことは明白である。

(2) 本件所持品検査の方法と程度

右最高裁判決は、「使用者がその企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発防止のために行なういわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえそれが企業の経営維持にとって必要かつ効果的な措置であり他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても……(中略)……問題は、その検査の方法ないし程度であって、所持品検査は、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。」として、所持品検査の方法と程度が一般的に妥当であり、かつ、画一的に実施されるものであれば憲法の条項に反するものでないことを明らかにしている。

そこで被告会社の実施している所持品検査の方法と程度であるが、前記所持品検査規定に基づき、運転手に対しては「運転免許証、運行表、社員証、自動車乗務員服務規程(心得)、印鑑、手帳及び筆記用具等、並びに所持していた私物」、車掌に対しては「鞄、車内乗車券、釣銭、パンチ、現金収札罐、笛、運賃表、自動車乗務員服務規程(心得)、印鑑、社員証、手帳及び筆記用具等、並びに所持していた私物」についての検査を実施し、検査の場所と時間については、乗務と乗務の中間あるいは乗務終了時において第三者(部外者)の目に触れない場所(たとえば営業所の精算台、宿直室、乗務員控室、事務室、あるいは終点で時間待ちのとき乗客が全部降車したバスの中など)で二~三名の複数の補導掛員が検査を行なっている。しかして右検査の程度については、所持している物品を全部提出するよう指示し、その上で必要携帯品を全部所持しているかどうか、不必要な物品を所持してはいないかを検査し、違反があればその場で注意し同時に乗客より支払われた運賃が適正に処理されているかどうか、ポケットの中に残余物品がないかどうかを確認するため補導掛員(検査者)が着衣の上から軽く手でポケットを触れるかあるいは乗務員(被検査者)において自らポケットを裏返して見せるかして残余物品の有無を双方確認し、拒否者にはその拒否の理由を問い、被告会社の諸規定を説明し検査に応じるよう説得するという方法を永年にわたり実施してきている。

このように被告会社が実施している所持品検査は、第三者の目に触れない場所でしかも人権侵害とならないよう細心の注意を払いながら乗務員が所持していた物品(必要携帯品、私物)全部の提示を求め、被検査者において着衣のポケットを裏返して残余物品の有無を確認するかあるいは検査者において着衣の上からポケットを軽く触れて確認する程度の検査を実施しているのであって、社会通念上一般的に妥当な方法と程度であることは明らかである。

次いで所持品検査の画一的実施状況については、被告会社の従業員の出退勤時間が全員について同一であればたとえば退勤時に全従業員に対し一斉に実施することも可能であるし、軌道電車の場合のように営業所が数カ所に限られており、また運転時間及び運転路線が限定された数種類の形態であれば営業所に帰着する乗務員に対し全営業所で一斉に実施することも可能であろう。現に被告会社においても電車営業当時は各自の営業所において一斉に所持品検査を実施していた経緯がある。

しかし、バス乗務員については、被告会社においても営業所のみで一三ケ所あり、また乗務員が乗務を終えて宿泊しあるいは乗務の途中で一旦休憩をする休憩所などを含めると二〇数カ所にも及び、一営業単位でも路線の数が多く運行時間についても多岐にわたり、乗務員全員について一斉に所持品検査を実施することは不可能である。よって所持品検査を行なう場合は、数カ所の営業所又は休憩所において順次帰着する乗務員を対象に一定時間所持品検査を実施し、相当期間を集約すれば所持品検査を受ける機会が乗務員全員に平均的に行なわれた結果となるような方法で画一性を損うことのないように実施している。

以上のとおり本件所持品検査は判例に適合するものであって、被告会社の右検査が原告ら第一組合員ばかりを狙い打ちにした不当労働行為であるとの原告の主張は、全くの言いがかりにすぎない。

(三) 支部組合の争議行為と本件所持品検査

(1) 被告会社においては、所持品検査を実施し始めて以来昭和四〇年に至るまでの間、前記ポケットの裏返しあるいは着衣の上からポケットを検査者が手で軽く触れて残余物品の有無を確認する程度の所持品検査を拒否した乗務員は不正行為者等特段の事情のある者を除いては皆無であった。ところが昭和四〇年八月、支部組合は争議行為と称して途中精算及び所持品検査等一切の拒否を被告会社に通告するに至り、その後昭和四五年九月に全面解除するまで争議行為を断続的に継続した。被告としては、支部組合による右拒否行為は、乗務員として労務を使用者に提供しながら途中精算及び所持品検査のみを拒否するもので、使用者はこれに対して賃金カット等の対抗手段をとりえず実質的には使用者の経営指揮を排除し労働組合の支配下におくものとして違法な争議行為であると判断した。そこで被告会社は支部組合に対し再三にわたって争議行為の即刻中止を申入れた。原告の本件三回にわたる所持品検査拒否は、右のとおり支部組合による争議行為が全面的に解除された後になって発生したもので右争議行為とは何らの関係もない。

(2) 昭和四三年、乗務員規程を全面的に改訂するに当り、所持品検査規定に関しては、被告会社がかねてより実施している所持品検査の実施方法をそのまま条文化した規定を作成したが、関係従業員に配布する段階で多数組合員である山労から右規程は就業規則に付属する規定であるから事前に山労に提示すべきであるとの異議が出され、現行規程通りに修正されたものであるが、所持品検査の方法と程度については従前通りの方法で実施することについては合意を見ていた。その際の山労の主張は具体的な検査方法について細かく規定することは好ましくないとの意見であったが、実施の方法について異議はなかったのである。従って所持品検査の方法と程度には前記規程が改訂された前後を問わず一貫して何ら変更なく実施されているのである。

2  本件処分の正当性

以上のとおり、被告会社の実施している本件所持品検査は、その必要性、合理性ないし検査の方法、程度等あらゆる点からみて正当、適法なものであって、原告の主張するような瑕疵は全く存しない。よって原告が右検査を拒否したことは明らかに被告会社の就業規則等諸規定に違反する行為であったといわなければならない。即ち具体的には就業規則七条、係員規程六四条、乗務員規程二六条に違反し、就業規則九三条一号、八号に該当するうえ過去六回にわたる懲戒処分歴を勘案すると、原告には殆ど改悛の情もなく他の従業員に与える影響も極めて重大であるから、同九四条二号を適用して本件処分を発令した。

被告会社における懲戒の種類は労働協約一六条、就業規則九四条に明記されているが、被告としては支部組合の意向も勘案して当初提案の諭旨解雇を一等減じて原告を降級処分に付したのである。

なお被告会社においては職種別等級が定められており、バス車掌は三級職となっているので降級処分により一級降級されると二級職の雑務手となる。かような例は過去にも数例あり、支部組合もかかる処分を了承した経緯がある。よって本件処分は規定上も運営上も正当なものである。

第三証拠(略)

理由

一  被告は大正一三年七月九日下関市において設立された自動車による一般運輸営業等を主な目的とする株式会社であり、原告は昭和三九年四月被告会社にバス車掌として入社し、以来同社彦島営業所にて勤務している者であること、被告会社は原告に対し昭和四八年七月二四日原告を右車掌の地位から整備課雑務手に降格する旨の本件処分(これが降職処分か降級処分かについては、当事者間に争いがある)を発令したこと、右処分事由というのは、原告が昭和四六年一一月一八日、一二月七日及び同四七年三月三〇日に実施された被告会社補導掛員による所持品検査をいずれも一部拒否したということ、即ち、換言すると、原告は右所持品検査の申入れに対し、乗務員規程に定めのある笛、車掌鞄、パンチ、印鑑、筆記用具、煙草、マッチ等の業務上の必要携帯品やその他の携帯品を提示したところ、同掛員が残余物品の有無を確認すべく原告の制服を上から手で触わるか、又は原告自ら制服上衣、ズボンのポケットを裏返してその中味を補導掛に見せるよう求めたところ、原告がこれをいずれも拒否し、結局残余物品有無の確認ができなかったことは所持品検査の一部拒否に当たるというにあったこと及び被告会社には当時、就業規則、係員規程、乗務員規程によってバス乗務員に対し所持品検査を義務づける条項が存在したことはいずれも当事者間に争いがない。

二  被告は、本件処分の根拠法条として、原告の所持品検査一部拒否は同被告の就業規則七条、係員規程六四条及び乗務員規程二六条に違反し就業規則九三条一号、八号に該当するので、それまでの原告の処分歴をも参酌したうえで就業規則九四条二号を適用して原告を処分した旨主張する(なお右各法条の規定内容は別紙のとおり)。これに対して、原告は右所持品検査の違法性を種々の理由をあげて主張する。そこで検討するのに、

1  まず、本件処分当時に被告会社に適用されていた労働協約並びに所持品検査に関する就業規則、係員規程及び乗務員規程の条項は、(証拠略)によれば、被告主張の別紙のとおりと認められる。

2  次に、本件処分事由とされた前記三回にわたる原告の所持品検査一部拒否行為をさらに具体的にみるならば、前記争いなき事実(一部)に(証拠略)を総合すると、以下のとおり認められ、他にこの認定を左右するに足る証拠は存しない。

(一)  昭和四六年一一月一八日の一部拒否

同日午前九時頃、被告会社の補導課所属補導掛職員九名は右田補導課長の指示を受けてそれぞれ所持品検査をするため勤務についた。そのうち山田静雄、泉哲博、上田進の三名の補導掛は、被告会社の東駅営業所で二名、下関駅前入金センターで四名位のバス乗務員を対象に所持品検査を行なった後、彦島営業所に向かった。午後一時過ぎ頃同営業所に到着した右補導掛三名は、早速同営業所に終業あるいは途中精算で立寄るバス乗務員に所持品検査を実施しようとしたところ、午後一時四二分頃、原告が往路の乗務を終えて同営業所精算所付近で精算を終えようとしているところに丁度出くわした。

そこで補導掛らは、その場において原告に対し途中精算と所持品検査の実施方を申入れ、右途中精算の終了後所持品全部の提示を原告に求めた。原告は、この申入れに対して、社員証、印鑑、笛、手帳、パンチ、車掌鞄等の所持品を提示した。補導掛らは原告に対し「他に何も持っていないか」と尋ねたうえ、更に泉補導掛が残余物品の有無を確認するため原告の着衣の上から手で触わろうとした。これに対して原告は、「何をするか」と言って泉補導掛の手を振り払ったので、補導掛らは「ではポケットを返し上衣のボタンを外して見せてくれ」と申入れた。その後の両者間の問答は次のとおりである(なお「原」は原告、「補」は補導掛が発言したことを意味する)。

原「何故その様なことをしなければならないのか」

補「他に何か残っていないか確認するためだ」

原「ワシがないというのに他に何があるか」

補「では上から君のポケットを触わってもよいか」

原「いけない」

補「それでは君のポケットに他に何もないか確認できないではないか」

原「ないと言ったらない、あんた達はワシを疑っているからその様に言うのだろう」

補「疑う、疑わないではない、われわれは所持品検査を行なう時には他に何も所持していないか確認納得するまで追求するのだ」

原「ポケットを返す、体を触わるということは人権侵害だ」

補「人権侵害ではない」

原「服務規程にも書いていない」

補「書いてある」

原「ポケットを返せと何処に書いてあるか」

補「ポケットを返せとは書いてないが所持している物全部を提示するように乗務員服務規程二六条の三号と五号に明記してある」

原「それなら服務規程集を見せてくれ」(補導掛、原告に服務規程集の該当箇所を開いて見せる)

原「そんなことは組合は認めていない」

補「認めている」(原告、自己の所属する支部組合の菊永書記長に電話してこの点を確かめる)

原「組合の見解はワシと同じだ」

補「君は今勤務中だろう」

原「ハア」

補「それなら会社の指示に従え」

原「イヤー」

補「君は支部組合は昭和四五年九月二一日に所持品検査拒否の解除を知っているか」

原「ハア、知っている」

補「それなら昭和四六年一〇月六日に会社が所持品検査の見解を支部組合に申入れているが知っているか」

原「知っている」

補「それならわれわれの指示に従え」

原「イヤ」

補「それなら拒否するのか」

原「拒否ではない、所持品は出している」

補「それは会社が決めた必要携帯品だ、君はその他の物を所持しているかいないか判らないではないか、ポケットを返して見せてくれ、それなら君の言い分を認めよう」

原「イヤー」

補「それなら所持品検査一部拒否を確認するぞ、今午後一時五二分だ、よいか」

原「……」

右の経緯ののち、補導掛三名は原告の所持品検査一部拒否を上司に報告するため、その後の所持品検査を打ち切って直ちに本社に帰社した。

(二)  同年一二月七日の一部拒否

右(一)と同様にして勤務についた補導掛七名のうち、深野信次、西村利郎、上田進の三名は被告会社厚狭駅前詰所で三名位のバス乗務員に所持品検査を実施した後、宇部営業所に向かった。同日午後一時過ぎ頃から、同営業所においてバス乗務員二名の所持品検査を実施し、さらに午後二時五〇分頃彦島営業所からの往復勤務についていた原告が宇部営業所に途中入金のため到着した。

同営業所精算台において原告が途中入金手続を完了したことを見届けた段階で、前記補導掛らは原告に所持品検査の実施を申入れ、所持している物全部の提示方を指示した。原告は、右申入れに対し、社員証、免許証、印鑑、筆記具、笛等の業務上必要携帯品のほか、手に持っていた煙草、マッチ等の私物も含めて補導掛らに提示した(なお運賃表、服務規程は当初より持参提示していた)うえ、「もうありません」と言ってポケットの上を手で叩くので、補導掛が「それでは確認するために上から触わるぞ」と言うと、原告は「全部出したからええではないかな」と反撥した。その後の両者間の問答は次のとおりである。

補「そう言うな、確認するために触わるのだ」

原「いや、いけない、組合の指示により触わらせない」

補「それではポケットを裏返して見せてくれ」

原「ええじゃないかな、私が何もないというのに」

補「君はないと言ってもわれわれの方には判らない」

原「いや何もない」

補「それでは触らすかポケットを裏返して見せてくれ」

原「いやだ」

補「それでは拒否するか」

原「あゝそうだ、どうでもしてくれ」

補「では確認するど、所持品検査の確認拒否を確認する」

右の経緯ののち、補導掛らはこれを上司に報告するため、以後の所持品検査を中止して直ちに本社に帰社した。

(三)  昭和四七年三月三〇日の一部拒否

前同様当日勤務についた補導掛六名のうち、泉哲博、高田定志、廉屋泰彦の三名は午前中各自関彦線、市内線、北浦線において乗務補導を終え、午後所持品検査の任に当たるべく彦島営業所に向かった。そして午後一時三八分頃、乗務を終えて帰着し同営業所の精算台で乗務終了時の精算を完了した原告に対し、この日初めての所持品検査の実施を申入れ、所持品全部の提示を指示した。これに対し、原告は笛等の業務上必要携帯品のみ提示し、私物は所持していなかったので提示しなかった。その際補導掛と原告との問答は次のとおりである。

補「所持品は全部提出したね、それでは確認のためポケット内を裏返すか、見せてくれ」(この時廉屋補導掛がさらに原告に対し「お前はポケットをひっくり返せとか言ってもさしてくれんであろうから、触らせろ」と発言し、たまたま原告の傍にいた尾崎支部組合員がこれを聞いて、「何を言うか」と言って同組合の菊永書記長に架電し、組合の方針を確認した)

原「そんなことはする必要はない」

補「所持品検査は確認が伴ってこそ完了になるのだ」

原「そんなことは俺には関係ない、出すべき物は全部出したではないか」

補「君は所持品検査の確認は拒否するのだね」

原「所持品は全部出したので組合も確認は拒否するよう言っているので拒否する」

補「確認拒否の懲戒は組合ではなく君個人に来るのだよ」

原「しようがない」

補「再度聞くが君は所持品検査の確認を拒否するのだな」

原「ハアー」

かくて補導掛らは、このことを上司に報告するため、即刻所持品検査を原告一人だけにとどめて直ちに本社へ帰社した。

3  右によると、原告に所持品検査の実施方を申入れた補導掛は、いずれの場合も、単に業務上必要な携帯品の提示を求めるだけでなく、さらにすすんで残余物品の有無を確認するとの方針から、原告に私物の提示までをも要求し、その検査方法として、検査員たる補導掛自らが検査を受ける原告の着衣の上から手で触って右確認を果たすか、あるいは原告自身にその着用する制服の上衣及びズボンについている全てのポケットの中袋を裏返しさせて私物の有無を確認するという方法(これらの検査方法を以下便宜上「確認行為」と言うことがある)を採用していたこと、これに対して原告は、いずれの場合も、所持品全部を提示し、それ以後の残余物品(私物)の確認については、「それ以上出すものはない」とか「出す必要がない」等と言って補導掛の実施してくる右確認行為を拒否していたことが明らかである。

ところで被告の補導掛が右確認行為を被検査者たるバス乗務員に要求する根拠規定は、被告の主張によると、別紙記載の就業規則三〇条、係員規程五三条、六四条、乗務員規程二六条三号及び同(心得)三号、五号であることがうかがえる。

よって、本件所持品検査が違法か否かの問題は、結局のところ、被告会社補導掛員の原告に求めた前記確認行為が、そもそも右各規定によって根拠づけられうる態様のものであったか否かに帰着する。

三  そこで、一般に私企業間で実施されている所持品検査の意義・目的、根拠、要件及び限界について、まず考察しておくことにする。

1  所持品検査の意義・目的

証人青木宗也の証言によると、一般に私企業間で実施されている所持品検査の目的には、歴史的に概観して、(a)職場秩序の確保ないし労務の管理、(b)企業財産の保全という二つに大別され、(a)は例えば火器、火薬等の危険物を取扱う会社において、その取扱いに従事する職員に対し爆発防止のための所持品検査を行なうなどがその例であり、(b)は金、銀、ダイヤモンド等の貴金属品を取扱う会社において、その取扱いに従事する職員に対し盗難防止のための所持品検査を行なう、あるいは現金を取扱う業種において、その職員に対し不正領得防止のための所持品検査を行なうなどがその例として挙げられることがうかがえる。

ところで被告会社におけるバス乗務員のみを対象とした本件所持品検査の目的なるものは、後記認定のとおり、右(a)(b)の両面を否定しえないものの、今ここで問題とする前記確認行為との関連では、私金所持の有無を確認することによって被検査者たるバス乗務員の運賃に対する横領行為(いわゆるチャージ)を発見ないし防止することにその眼目があったものと認めうるのであって、以下においてはもっぱら右(b)を目的とする所持品検査を念頭において考察する。

さて前記青木証言によると、右(b)目的による所持品検査は従来から多くの会社で行なわれ、その検査方法も効果的な様々な態様のものが、例えば被検査者を裸にする等して無反省に実施されていたことが認められる。特に現金のチャージを防止する目的で行なう所持品検査にあっては、検査の対象が現金という身に隠し易い性質のものであること及び被検査者は泥棒視されるという屈辱感を抱き易いこと等の事情が相俟って、検査する側、される側に種々の軋轢を生じ易いものといえる。これらの事情を勘案するならば、現金のチャージ防止を目的とする所持品検査にあっては、少なくとも次のことを考察の前提にしておく必要がある。

第一は、検査する側の立場からすれば、所持品検査というものは会社なる個人(私人)の財産逸失を防止するためにとられる手段で、決して犯罪捜査の手段として行なわれてはならないということである。けだし、わが刑事訴訟法の建前によると、一般私人には現行犯逮捕の権限しかなく(同法二一三条)、逮捕後は直ちにこれを検察官又は司法警察職員に引渡し(同法二一四条)、逮捕現場での差押・捜索・検証を行なうことも許されない(同法二二〇条)など、犯罪捜査の権限を検察官や警察の専権とし一般私人には何らこれを許容していないからである。ただしかし、私人といえども、自己の財産権の保全を右捜査機関に委ねていたのでは後日における救済が不可能か又は著しく困難となるおそれのある場合にまで自力救済を否定する理由はないので、犯罪捜査にわたらない限り、一定の要件の下に所持品検査を容認しうる余地のあることも否定しがたいところである。

第二は、検査される側の立場からすれば、現金のチャージ防止を目的とする所持品検査は、被検査者を泥棒視した扱いであり、それゆえ被検査者の自尊心を傷つけ同人に屈辱感を与えかねないものとして、常に憲法一三条、三五条等で保障された被検査者の基本的人権を侵害するおそれを内包している。

右のとおり、現金のチャージ防止を目的とする所持品検査の根拠、要件ないし限界を考察するに当たっては、検査する側の財産権の保全と検査される側の基本的人権の保障という両者を出来るだけ調整する方向で検討をすすめてゆくべきであるが、基本的には、私人たる検査者は犯罪捜査をなしえず、かつ、自力救済の要件も容易には充たし得ないのが普通であるから、被検査者には自らの基本的人権の侵害につながりかねない所持品検査を拒否するだけの自由があることを原則とし、拒否し得ないとするためにはそれ相当の根拠が検査する側に要求されるものというべきである。また、被検査者の意思に反して所持品検査をなしうる場合があるとしても、そのやり方次第では被検査者の私事(プライバシー)の侵害に及ぶ可能性もあり、あるいは検査者、被検査者がいずれも職場の従業員である場合、その従業員間に感情的な雰囲気を醸成して職場の労務管理上も好ましくない結果を生むおそれがあるのであって、所持品検査の実施方法(許される方法と程度の問題)についても慎重に検討を加える必要がある。

2  所持品検査の根拠及び要件

(一)  検査者と被検査者という私人同士の間において、被検査者の任意による同意がある場合はともかく、その同意が得られない場合にまで一方的にチャージ防止の観点から所持品検査を実施しうる根拠は奈辺にあるのであろうか。

おもうに、被告会社のような交通運輸業を営む者にあっては、乗客の支払う乗車賃が企業収入の根幹をなすものであり、これを取扱う従業員が横領(チャージ)を働くとすれば、会社の経営基盤はその根幹から揺さぶられるものであること見易い道理である。この場合、会社は全てを捜査機関に委ね自らは拱手傍観するほかないとまでする必要はない。会社はその財産権保全のため、自力救済の理念から従業員を対象とした所持品検査を実施しうるものと言うべく、ただそのためには、右会社財産権のみを唯一の根拠としたのでは従業員に対する服従義務までをも肯首することが難しいと思われるので、そのためには、会社と従業員間の労働契約にその根拠が求められなければならないものと解される。しかして会社と従業員間の労働契約は就業規則を中心にして規律されるものであるから、具体的には、所持品検査はそれを行なう会社(検査者)の就業規則上にその実施の根拠がなければならないものと解される(なお、就業規則上に明示の根拠が必要であるということは、さらに、所持品検査拒否を懲戒事由として懲戒処分を発令するためにも言い得ることである)。けだし、憲法上の基本的人権といえども労使間の労働契約によって合理的な範囲内で制限されうるものであり、かつ、この場合に就業規則上の定めが右労働契約の内容にまで高められているものと評価しうるからである。

ところで、問題は所持品検査としてどの様なことまでもがなしうるのかということであるが、この点は後に考察するとして、ここでは、就業規則上に所持品検査実施の根拠を明示する場合に、できるだけ検査の具体的方法・程度までをも明示していた方が望ましいが、仮に詳細な規定がない場合であっても、そのなしうる方法・程度には自ら合理的な制限があるべきものであること、しかしてその制限とは、検査者の財産権保全と被検査者の基本的人権保障という二つながらの要調を調整する立場から、所持品検査としてなしうる限度(方法・程度)を確定することによって導き出されるものであるが、その際、世の中の技術の進歩の程度から検査者側が所持品検査に代りうる措置をとりえたかどうか、とくに従業員に直接現金を取扱わせない態勢は可能だったか、その実現に企業努力を尽したかあるいは被検査者の人権感覚の向上(泥棒視された取扱いにどこまで耐えられるか)等の諸点を考慮せざるを得ないこと、また、所持品検査の根拠を就業規則上に明示するほかに、それが労使(検査者、被検査者)双方にとって必要悪の制度として実施されるものであるならば、その実施の実効を図り且つ職場秩序の維持を図る上からも、極力労使双方が所持品検査の具体的実施方法等について事前に協定を結んでおく必要があることなどの配慮が要求されて然るべきことを指摘しておく。

(二)  所持品検査の認められるための要件としては、それが縷述の如き会社の財産権と従業員の基本的人権との調整という観点からいわば必要悪の制度として実施されることに鑑みて、(イ)制度としての要件及び(ロ)個別的な実施の要件とを分けて考察してゆくことが便宜である。

(イ)の要件は、既述のとおり、所持品検査を実施する側においてチャージ防止のための企業努力がそれまでにどれくらいなされてきたのか、それにも拘らず企業内に所持品検査を必要ならしめる事情が存在したのか、という所持品検査制度を必要とする合理的理由の存在を意味する。ここにおいては、当該企業内において所持品検査により不正(チャージ)発覚がどの程度あったのかという不正摘発の実情も考慮される事項の一つとなろう。

(ロ)の要件は、所持品検査が犯罪捜査にわたることをえないので、検査者において、なるべく被検査者に屈辱感を与えないような(即ち、泥棒扱いしないような)配慮を加えたかどうか、ということであって、これは更に、検査者の検査に臨む態度が高圧的だったかどうか、企業としても右のような検査者の検査態度について十分の指導、教育を行なっていたかどうか、被検査者を不平等に取扱ってある特定の者に特に屈辱感を与えるような検査態度、方法をとらなかったか、従って検査対象者全員を能う限り一律に画一的に取扱ったかどうか、または、被検査者の協力が得られるよう検査者は所持品検査の必要性を説明、努力したかどうか等の諸点を考慮すべきである。

このように、所持品検査を実施するための要件として種々のものを考慮せざるを得ないが、これは、財産権の保全と基本的人権の保障を調整するに際して、後者の権利、即ち故なきに泥棒視されることからくる屈辱感、羞恥心は出来得る限り排除されなければならないとの要請を無視しえないものと思考する結果である。

3  所持品検査の限界

そこで一律に画一的に実施されるべき所持品検査の方法・程度を考察するに、以上検討したところによれば、それは企業の財産権保全と被検査者の基本的人権保障の調整の問題であること、検査者は犯罪捜査にわたることを得ないこと(もっとも被検査者の真意に基づく同意があれば別である)及び被検査者に何らの疑いもないのに初めから泥棒視した取扱いで臨むことは被検査者に与える屈辱感、精神的打撃が大きく、単に企業財産の保全というだけでは賄い切れないこと等からして、少なくとも、被検査者の個別の同意がない限り、検査者は被検査者に対し泥棒視したような屈辱感を与える方法・程度にわたる検査を原則としてなしえないものと解すべきである。ただ、企業の財産権保全と被検査者の基本的人権保障の調整がここでの問題であるから、所持品検査実施当時に被検査者に料金のチャージ等不正行為を疑わせるような具体的事由が認められる場合で、かつ、警察等の捜査をまったのでは時機を失するという緊急の必要性が認められる場合にまで、右前者の利益を等閑視するいわれはないので、かかる場合にあっては、会社財産保全のために、例外的に右事由を被検査者に告げた上で、かつ、犯罪捜査にわたらない限度で、前記検査方法・程度よりは更に一歩進んだ態様の検査をもなしうるに至るものと解される。しかして右例外の具体的事例としては、被検査者が日頃より平均収入が少ないうえに検査当時運賃収入の精算金が一致しない(但し右不一致の金額が従業員一般に通常生じうるようなわずかなものに過ぎない場合を除く)、所持品検査の際における被検査者の言動にチャージを疑わせるような不審な点がある、私金を所持していないはずの被検査者が検査時に着衣から現金の音をさせているあるいは勤務途中において私用のため現金を消費しているのが目撃された、チャージの現場を目撃された等の場合が一応考えられる。

ところで右例外としてなしうる所持品検査にあっても、プライバシー保護との関連でなしうる検査の範囲というものが存するのであって、例えば被検査者のロッカーや自家用車内等の検査はプライバシーに対する侵害の可能性が極めて高く、特段の事情なき限り許されないものと解される。また、右例外の場合、検査者はなるべく被検査者の承諾を得るに努めてその意思を尊重すべきであって、事柄が被検査者の屈辱感等精神的な部分に影響を及ぼし易いものであるがゆえに、常に検査者側に細やかな配慮が要求されるものと言うべきである。

なお所持品検査と交錯する概念として身体検査(着衣の検査を含むものと解すべきである)があるが、要はその概念上の区別というよりもその実態、内容いかんであって、当該具体的な検査の方法・程度が、右原則、例外の場合に許容されるものといえるか否かにある。

四  本件所持品検査の検討

1  被告会社における所持品検査の歴史的経緯と実態

(証拠略)を総合すると、以下の各事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  被告会社においては、昭和二七年頃巡視制度が設けられ、電車の乗務員を対象に休憩時、終業時等に所持品検査を行なっていた。その検査方法というのは、二、三名の巡視が従業員一人ずつを順番に(従って全員を一斉にということではなしに)宿直室等に呼び出し、業務上必要携帯品のほか私物等携帯しているもの全部の提示を求め、更に被検査者の着衣の上から巡視自ら手で触わるなどし、チャージの疑いを認めた時には、右着衣のボタンを外してこれをふるわし、ズボンもバンドを緩めたうえでふるわす、あるいは着衣(下着も含めて)を脱がすなどしていた。被検査者たる乗務員は、屈辱感を味わいながらも誰一人として右検査を拒否しなかった。当時、所持品検査の根拠規定として係員規定五三条、六四条が定められていたが、その検査の目的は主として運賃のチャージ防止ないし摘発にあり、その他に業務遂行中における規律の確保などが含まれていた。

その後巡視の職務は補導掛が担当するようになり、また被告会社は自動車運送事業等運輸規則二七条に基づき昭和二九年四月一六日乗務員規程を制定した(当時同規程には所持品検査に関する条項はなかった)。一方被告会社の従業員で組織する支部組合は活発に活動し、所持品検査のやり方についても組合員間に関心が高まったことから、その頃の検査の方法は一般に所持品を提示すれば後は検査者が形式的に軽く胸の辺りを触れる程度にまで緩和されていた。こんな中で支部組合員柴田一穂バス車掌が吉母営業所で所持品検査を受けた際、制服上衣内側のポケット検査を拒否したという理由から会社側より懲戒解雇の提案がなされ、支部組合が当時被告会社に対して有していた解雇同意約款のために懲戒解雇処分にまでは至らなかったという事件(いわゆる吉母事件)が発生するなどした。

(二)  昭和三四年一二月二四日支部組合が分裂し、同月二七日に山労(サン労の前身。昭和四六年に名称変更)が結成された。以来被告会社においては、第一組合たる支部組合と第二組合たる山労が併存してゆくことになる。ところで支部組合は私鉄総連傘下の組合であったが、当時同じく傘下の全国各地の組合から同総連に対し所持品検査ないし身体検査の屈辱性について多くの報告が寄せられていた。検査の方法として、検査者が着衣の上から触わる、着衣を脱がせる、入浴中に脱衣を調べる等が報告されていた。被告会社においても所持品検査の方法として当時、着衣の上から触わる、被検査者のポケットに手を突っ込むあるいはポケットの中袋を裏返しさせる等の手段がとられるようになっていた。

昭和三六年、私鉄総連は所持品検査(あるいは身体検査、服装検査と呼ばれているもの)の廃止を指導方針として決定し、支部組合もこれを受けて被告会社に対しその廃止方を強く要求した。その後昭和三八年六月頃、神戸市交通局の女子車掌が所持品検査の際の検査員による取調べに反撥して自殺するという事件が発生して社会的な関心を呼ぶようになり、同年八月二七日には法務省人権擁護局長通報が、また昭和三九年三月三一日には日弁連人権擁護委員会の見解がそれぞれ発表されるまでになった。

(三)  被告会社は昭和三八年八月よりワンマンバスの一部路線運行を開始し、被告会社と山労間でその頃、ワンマンバスの乗務員については所持品検査をしない旨の合意を結んだ。一方、支部組合はワンマンバスの導入が合理化につながるものとして反対していたために右合意の対象とならず、むしろ同組合に所属するバス車掌数名については、特に運賃収入が少ないことを理由に、被告会社より、監視労働と呼ばれる補導掛が終日対象とされた車掌に付いて回ってその仕事振りを監視するという検査方法までもがとられていた。その後、支部組合による右ワンマンバス合理化反対斗争に関連して同組合は、被告会社が従前支部組合員と山労組合員とに機会均等に与えていた運転教習(バス車掌から同運転手へ登用するための教習)を右斗争以後支部組合員に不利益に取扱い始めたとして態度を硬化させ、労使双方間に紛争が続発した。すなわち、右運転教習問題について支部組合は昭和四〇年三月三一日山口県地方労働委員会に対し差別是正を求める調停申請をすると共に、被告会社の行なっている所持品検査は会社の合理化の手段であると同時に支部組合に対する組織攻撃でもあると捉えて、同年八月一一日より所持品検査や途中精算(バス乗務員の勤務途中において、抜き打ち的に所持する運賃と残った乗車券との金額が合致するかどうか精算して調べるもので、もっぱら所持品検査とセットで行なわれていた)を一切拒否する争議行為にでた。被告会社はこれに対して、右争議行為は積極的な怠業にあたり違法なものであるとし、所持品検査を拒否した三名の支部組合員に懲戒処分を発令してこれに対抗した。この間右争議行為は同年九月頃一旦解除されたが、労使双方間に基本的な解決がみられなかったことから、翌昭和四一年一月一六日支部組合は前同様の争議行為に再度突入した。この争議行為は、地方労働委員会において一応の調停案が出されたとして同年八月一日解除された。その後、運転教習問題に関する右地方労働委員会の調停案について、支部組合は被告会社が完全に履行しないとして昭和四二年一〇月二三日前同様の三度目の争議行為に突入した。この争議は昭和四五年九月二一日に解除されるまで続けられたが、その間における被告会社の見解は、右争議行為は乗務員として労務の提供を継続しながら、ある一部の業務(所持品検査と途中精算)を怠るという被告会社からすれば賃金カットの対抗手段をとり得ないような行為であるから、実質的には使用者の経営指揮を排除しこれを労働組合の支配下におくものとして違法行為であると解するものであって、このため、右争議期間中被告会社は多数の支部組合員に対し所持品検査拒否を理由に懲戒処分を発令していた。

(四)  ところで右争議期間中の昭和四三年二月頃、被告会社は乗務員規程の一部改正に着手し、同月末頃バス乗務員にこれを配付したが、その改正案によると、従前所持品検査については係員規程五三条、六四条しかなく検査の方法・程度については一切明示されていなかったところ、これを明示するために乗務員規程二六条が定められ、その(心得)三号には「所持品検査を受ける際は、自ら携行品を提示し、着衣のポケットの中袋を返して提示する。(なお、不審な場合には着衣の上より直接触れて検査をし又脱衣させ精密検査をすることがある)」との規定が設けられた。これに対して、即座に支部組合員間の職場においては人権侵害の規定だと反対が起こり、右乗務員規程の返上運動が行なわれた。一方、山労も右改正案は組合の意見を聴せずに勝手に改訂配付された就業規則であるとして被告会社に同条項の削除を申入れた。これに対して、被告会社は山労と協議を重ねて右配付された乗務員規程を乗務員から回収し、右条項に紙を貼った上で現行規程(別紙の同規程二六条(心得)三号参照)のとおりに改めて同年四月頃乗務員に再配付した。かくて山労は組合員に対し、紙を貼る前の右(心得)三号は撤回された旨組合員に伝達連絡し、同組合員も所持品検査についてはこれまでどおり業務上必要携帯品と私物(勿論私金も含む)を提示すれば済むと了解して納得した。右(心得)三号の削除の申入れに際しては被告会社より少数組合(当時山労の組合員数は約一一四四名、支部組合のそれは約一八二名であった)であることを理由に拒否されていた支部組合は、更に同被告が右のとおり同条項を削除し現行規程のとおりに改めた趣旨をただすため被告会社に交渉を申入れたところ、同被告会社はこれをも拒否した。そこで支部組合は右条項の撤回の趣旨について被告会社より直接説明を受けることがなかったが、それまで同組合が所持品検査の方法・程度を争っていたところからして、右撤回により従前行なわれていたポケット中袋の裏返しや着衣の上から直接手で触わるという検査の方法は一応なくなったものと判断した。ところが、被告会社は右撤回の前後により所持品検査の方法・程度には何らの変更もなく、従前どおりポケットの中袋の裏返しや着衣の上から直接手で触わるあるいは脱衣させるという検査方法はそのまま採用するとして、右検査方法の底にある基本的精神、すなわち所持品検査には安全地帯などないのだという方針を堅持していた。このため被告会社と支部組合員たる被検査者との間で、所持品検査に際し以後しばしば業務上必要携帯品以外の私物の提示についてポケット中袋の裏返し等の確認行為が要求され得るものか否か争いを生じ、とくに所持品検査の任に当たる被告会社補導掛の中にも一時混乱を生じていた。

(五)  昭和四五年九月二一日支部組合は前記争議行為を解除し、以後同組合員は途中精算と業務上必要携帯品の検査に応じていたところ、昭和四六年五月頃から先に述べた確認行為の要否について検査者側と被検査者側に紛争があらわれ始め、支部組合はその頃、所持品検査に関する被告会社の方針が単に被検査者が任意に提示した業務上必要携帯品及び私物を検査するというだけではなく、更に他に所持品がないかどうか確認する手段、具体的には被検査者のポケットに手を入れる、着衣の上から触わる等といった方法を採らなければならないとして臨んでいることを察知した。支部組合員も昭和四五年頃からワンマンバスに乗務し、これらワンマンバスの運転手についてはその頃所持品検査をしないか、しても業務上必要携帯品の提示を求める程度で終っていたものが、右昭和四六年五月頃からはワンマンバスの運転手についても所持品検査を実施しその際確認行為を求められるようになった。

そこで支部組合は、ポケットの検査を許せば更に以前のように下着類までにも検査が及んで行くことになる、ポケットの中に手を突込ませるのは所持品検査を通り越して身体検査になるとして危機感を抱き、その基本的方針として、各組合員に、途中精算には応じ業務上必要携帯品は提示すること、私物については各人の自主的判断に任せる、但し組合としては私物は提示義務はないものと考える、確認というポケットの中に手を突込ませることは不要である、との執行部見解をまとめて伝達した。当時の被告会社による所持品検査は、被検査者の着衣(上衣・ズボン)を手で触わり、ポケットは全て(上衣・ズボンについているポケットは全てで上衣の胸ポケット、内ポケットなども含まれる)が右確認の対象とされていたが、以後支部組合員は右組合の方針に従って各自その自主的判断でこれに臨んでいた。

他方、山労の態度は、所持品検査を廃止するためには乗務員がまず金銭を取扱わないとする方向から進めるべきであるとの基本方針から、ワンマンバスの自動両替器の設置等による現金取扱業務の分離を積極的に被告会社に要求していった。

(六)  昭和四六年の八月から一〇月にかけて、サン労(当時山労から名称変更)から支部組合に復帰したワンマンバスの運転手につき、被告会社が所持品検査における確認行為の拒否を理由に支部組合に同人の懲戒処分を提案したり、あるいは従前より被告会社と支部組合間で運転手への登用が問題となり又は配転の協定が結ばれていた同組合所属のバス車掌二名について右同様の理由から懲戒処分が提案されるなどして、支部組合員間の職場では会社に対し不満が生じていた。こうした中で同年一一月一八日、一二月七日及び昭和四七年三月三〇日の三回にわたって、前記二の2に認定のとおりの原告の本件確認行為拒否の事件が発生した。

なお被告会社における所持品検査の方法として、昭和四六年五月当時は被検査者のポケットの中に検査者が手を突込むあるいは着衣の上から手で触わる等の確認手段がとられていたが、これは被検査者の強い反撥を買ったことから、原告の右確認行為拒否があった当時は被検査者自身にポケットの中袋を裏返しさせるかあるいは着衣の上から触わる等の確認手段に変わっていた。

(七)  昭和四七年四月頃、支部組合は組合員が確認行為拒否を理由にたびたび補導課に呼出されることに抗議して、会社側と交渉を持った。席上、支部組合は、現在被告会社の行なっている所持品検査の方法は前記昭和四三年の乗務員規程二六条(心得)三号の改正に関する紙を貼付する前の規定と同様のことを実施しており、これは被告会社の就業規則に違反する(右乗務員規程も就業規則の一部であり、被告会社の行なっている検査方法は現行の同規定二六条の趣旨に違反する)と反論したが、被告会社の右田補導課長は、サン労からの抗議があったので検討したが、会社としても紙を貼る前の規定の表現に縛られてポケットだけしか検査できないとなったのでは都合が悪いから、何処でも調べることができる、つまり確認の方法として着衣を触わるかポケット中袋の裏返しをさせるかし、仮に不審な点があれば徹底的に調べ例えば裸にする場合もある、要するに所持品検査には安全地帯などないのだという考えの下に紙を貼った、会社の行なっているのは身体検査ではない、必ずしも外から触わるとかあるいはポケットに手を突込ませよとばかり言っておるのではない、自分の着衣を触わらせたくなければポケットの中袋を自らひっくり返して何もないことを明らかにすればよい等と答弁した。

その後昭和四七年一一月頃、被告会社は自動両替器を設置した車両の乗務員については当分の間私金所持の確認を見合わせるとして、ワンマンバス運転手に対する所持品検査を中断した。そして同年一二月末頃、サン労は自動両替器が全車両に設置された段階での所持品検査の完全廃止と乗務員規程二六条三号の削除を求めて被告会社に協議会設置の申入れを行なった。その後、小委員会等を設置して検討を続けたが、所持品検査の要否は現金取扱い業務に関する機械化の程度とバス乗務員のモラルの向上にかかっているとし、それが整わない以上右検査は必要悪の制度として存続も止むを得ないとする会社側と、現金取扱い業務を機械化し分離しさえすれば制度の廃止は可能だとするサン労との間に基本的な対立を生じている。

(八)  ところで被告会社においては、昭和三五年一月頃から運賃(収入金)のチャージや勤務中における私金所持等の不正行為を理由に運転手や車掌が懲戒処分(とくにチャージの場合は概ね懲戒解雇)に付される例が後を断たず、その中には支部組合員も山労組合員も含まれていた。しかしてワンマンバスの導入や料金箱・両替器の設置ないし主要停留所における切符売場の新設等という被告会社の対策が講じられても、運賃の手取り等との関係からチャージの実例は皆無とは言い難く、このような状況は原告による本件所持品検査拒否のなされた昭和四六、七年頃はもちろんのこと、その後においても基本的には変わりがなかった。また被告会社は、所持品検査が乗務員の間で反撥が強くその弊害にも一応の認識を有していたが、右のような状況から所持品検査を全面中止(なおワンマンバスの導入時等に試行的にバス運転手に対する所持品検査の中止を行ってはいたが、全面中止とまでには至っていなかった)する訳にもいかず、必要悪の制度として実施していた。そして所持品検査は一応それなりの成果を上げていた。

右のような所持品検査を被告会社は補導掛に担当させていたが、昭和四六、七年頃の本件当時、その実人員数はバス関係で二〇数名ほどいた。そして当時、所持品検査の対象となるバス乗務員の数は概ね五~六〇〇名(彦島営業所には運転手約四〇名、車掌約八名位)ほどおり、一日単位でみると、平均九名位の補導掛が三名ずつ三班に分かれて、それぞれ補導課長から指示された当日の担当地区内の営業所(当時営業所は一五箇所位あった)を右検査のために巡回していた。しかして右検査は平均して週二、三回、月にすると一二、三回位なされており、月平均で約四〇名前後の者が所持品検査の対象となっていた。また、その検査の態様は、右各班がそれぞれの営業所に出かけて行って、その時に同所に来合わせたバス乗務員を一人ずつ控室等に連行して行なっていたが、その際の具体的状況は概ね、前述の原告に対する所持品検査のときと同様であった。ところで、補導課長による右検査指示については、責任者である補導課長が全地域、被検査者全員について万遍なく検査を実施できるよう予め統一的な計画を立てて実施していたものではなく、かなり杜撰に行なわれていたため、実際に検査に当たる補導掛にとっても当日出社して右課長より指示を仰ぐまでは何処の地区を担当するものか皆目見当がつかない状態にあった。このため被検査者たるバス乗務員の中には、当時所持品検査を年一、二回しか受けない者もおれば、反対に年七、八回も受ける者あるいは極端な例では一日に二回も受ける者がいるなど、その間に非常なばら付きがあった(被告会社としては、このような各人に対する所持品検査回数のばら付きについては、長い間このような所持品検査を重ねているうちに自然に各人について均等化してくる位に悠長に構えていたふしがうかがえる。)。しかも被告会社の労働組合は第一組合、第二組合の二つに分裂し、第一組合たる支部組合は会社の合理化政策等について鋭く対立して争議行為にまで及んでいたのであるから、所持品検査を受ける支部組合員からすれば、被検査者全員にむらなく行なわれていたのではない右検査が、いわば支部組合の活動を封じるために同組合員をとくに狙い打ちして実施されているとの疑いを払拭しきれないでいた。

原告は昭和三九年四月四日車掌として被告会社に入社し彦島営業所に勤務していたが、当初山労に所属しその間バス車掌として一度も所持品検査を受けることがなかったところ、昭和四一年二月同人が支部組合に所属替えしたとたん、同年四月頃より所持品検査を受けるようになった。同原告は昭和四二年一〇月から一年間支部組合の青年部副部長、昭和四三年一〇月から一年間同組合彦島営業所分会委員の各役員歴があるが、被告会社の実施する所持品検査については、争議行為後、前述のとおりの支部組合の指導方針(すなわち、業務上必要携帯品は提示する。途中精算には応じる。私物については各人の自主的判断に任せるが組合としては提示義務はないと考える。確認行為には応ずる必要はないとの方針)に忠実に従っていた。なお被告会社のバス乗務員の多くは、支部組合員、山労組合員を含めて、所持品検査の際の確認行為を甘受していた。

(九)  被告会社は前記のとおり、「所持品検査に安全地帯はない」という基本方針に基づいて、各補導掛に対しいわゆる確認行為を被検査者に実施するよう指導していた。このため昭和四六年五月頃から着衣の上から触わるあるいはポケットの中に手を突込むといった確認方法がとられ、本件当時も原告に対し、補導掛が着衣の上から触わるかポケットの中袋を原告自身で裏返しするよう求めるなどした。この様な所持品検査の方法は、被告会社の場合、被検査者にチャージの疑いがある等何らかの不審な事由が存するか否かに拘りなく、被検査者全てに対し一律に求めていた検査方法であって、補導掛には徹底していた。しかして所持品検査の際の補導掛の態度、言動について、被告会社はこれまでに補導掛を教育、指導するような配慮を殆ど加えておらず、補導掛は単に先輩の補導掛の言に倣うなどして各自右所持品検査を実施していた。

2  本件所持品検査の検討

右認定事実によると、原告に対する本件所持品検査は、別紙のとおりの被告会社の就業規則三〇条、係員規程五三条、六四条及び乗務員規程二六条を根拠規定として実施されたことが明らかであり、その規定文言からして、所持品検査の方法・程度に明示性が欠けるものとまでは解されない。

次に右認定事実によると、バス会社ともいうべき被告会社にあっては、これまでにバス乗務員によるチャージが絶無とは言い難く、これに対して被告会社は、ワンマンバスにおける現金取扱業務の完全機械化、切符売場の設置等その防衛策にそれなりの努力を払ってきたこと、それでもチャージは無くならず所持品検査にその抑制的機能を期待しそれなりの効果が収められてきたこと等が認められるのであって、その他被告会社に右チャージ防止のための努力不足等特段の事情が窺えない本件では、所持品検査制度の存置自体には合理的な理由があったものと認められる。

ところで、右認定事実によると、被告会社が直接所持品検査の実施に当たる補導掛に対して、とくに被検査者を泥棒扱いするような検査態度に出ないよう十分配慮して教育、指導を行なっていたことまでは推察し難いが、更に、被検査者に対する一律的、画一的な所持品検査実施の要請についても、検査の主体となる補導課長ないし会社の方針として統一的な実施計画案などがあったものか極めて疑わしいこと、実際の検査も余りこの点に意を用いることなく行なわれており、このため年一、二回しか受けない者もおれば日に二度も受ける者がおるなど被検査者間に不均一な受検回数のばら付きが生じていたこと、したがって、他の者より比較的多数回検査を受けている原告としては、特別に狙い撃ちされているという感を深くし、一層の屈辱感を受けたであろうこと、そして被告会社としては、この点について、長い期間をとれば被検査者各人にとっても受検回数は自ずから平均化するであろう位に考えていたこと等が明らかであって、仮に被告会社のバス営業所が多数に分散し、各乗務員の勤務時間も個々ばらばらであったとしても、被告会社には所持品検査実施に関しての被検査者に対する一律的、画一的実施の要請に対する配慮ないしそれに向けての企業努力は殆どうかがえず、この一律的、画一的な所持品検査の実施という観点からしても、被告会社の行なう所持品検査には問題があったと認めざるを得ない。

そこで、更に、原告に対する本件所持品検査の方法・程度が許容されうる範囲内のものであったか否かを次に検討する。まず本件所持品検査の目的であるが、これは前認定のとおり、主としてバス乗務員による運賃収入に対するチャージの防止、従としてバス運行中における乗務員の規律確保の各点にあり、前者の目的のために私物(私金)の提示、後者の目的のために業務上必要携帯品の提示をそれぞれ求めていたことが推認されるものである。従って本件所持品検査は、前記三の1記載の(a)(b)両目的を併有したものといえるが、主に(b)の企業財産の保全を狙った制度であることは明らかである。しかして右業務上必要携帯品の提示については、(a)の職場秩序の確保ないし労務管理の目的に近接するものとして、その提示義務をバス乗務員に認めても特段の不都合はなく、別紙のとおり、その提示すべき業務上必要携帯品が明示されている(乗務員規程三三条、七四条)ことをも考慮すると、その提示義務違反は同規程に違反し、ひいては懲戒事由となる(就業規則七条、九三条)ものといえよう。他方、バス乗務員が携帯している私物、私金、とくに私金についての提示は、まさに右(b)目的に出たものであって、前記三での考察がそのまま当てはまる。すなわち、所持品検査に際し、被検査者が検査者の求めに応じて任意に私金を提示すれば検査者がこれを確認するについて何らの支障もなく、問題も生じないであろう(この意味で、検査者は被検査者に対し私物、私金の自主的提示を求めることまでは許されよう)。しかしながら、被検査者が私金の提示をしない場合、あるいは任意に提示した後更に検査者側において残余物がないか否かを確認する場合にあっては、微妙な問題を生じる。

前記二の2、3に認定したところによると、原告は昭和四六年一一月一八日、一二月七日及び同四七年三月三〇日の三回にわたって、被告会社補導掛による所持品検査の申入れに対し、いずれも業務上必要携帯品のみを提示し(なお一二月七日の検査の際は私物も一部提示している。他の二回の場合は私物を所持していなかった。)、私物を提示しなかったために、同掛が自ら原告の着衣の上から手で触わるかあるいは原告自身に着衣の全てのポケットの中袋を裏返しさせるかのいわゆる確認を求めたところ、原告はこれを拒否したというのである。従って補導掛の求めた右確認行為が、前記三の考察を前提にして、現金のチャージ防止を目的とする所持品検査の方法・程度として、限界を逸脱しなかったものかどうかを検討しなければならない。

おもうに、被検査者に何らの不審な点もないのにその着衣の上から検査者が手で触わったり、被検査者自身に全てのポケットの中袋を裏返しさせたりするいわゆる確認行為は、被検査者をバス乗務員であるがゆえにチャージするおそれのある者とみて不信感を露骨に表明し、これに多大の屈辱感、悔辱感を与えかねない行為と認めざるを得ない。チャージなどしない多くの正直者ほどこの様な人を泥棒視した確認方法に反撥しかねないものともいえる。一般に使用者は労働者を採用するに際して、自由に本人の人柄、身辺等の信用調査をなしえ、かくて成立した労使間の労働契約には相互に信頼を寄せ合う関係が存在すべきものと解されるので、この点からも、右にみたような確認行為は、それが懲戒処分を背景にして強要される限り、被検査者たる労働者に対し不信感をあらわにし、これに屈辱感を与えるような行為と評することができよう。この点、支給された制服を着用し、私金所持禁止の社内規則を遵守して業務に従事する者は、たとえ所持品検査により私金所持の有無の確認を要求されようとも、被検査者として何らの痛痒も感じないはずであるとの考え方もあり得ようが、これは、人は何の理由や説明もなく泥棒視されたような取扱いを受けることには耐え難い屈辱感を覚え易いという一般的な事実を看過した考えとして、到底左袒し難いところである。ところで、本件の原告は、前記二の2に認定したところによると、私物(私金)を携帯するのに敢えてその提示を拒否したという事実は認められず、むしろ所属組合(支部組合)の指導方針に沿ってその確認を拒否したものといえるが、他方、被告会社の方は、前記1に認定のとおり、昭和四三年における乗務員規程二六条の改訂問題に際しては、その趣旨の説明を求める右組合に何らの説明も与えることなしに、あるいは補導掛自らが被検査者のポケットに手を突っ込んだり、あるいは被検査者にポケットの中袋を裏返しさせる等して、所持品検査に安全地帯はないのだとの認識からその時々に応じた適当な確認方法をとっていたことがうかがえるのであって、このことが被検査者に及ぼす右の如き屈辱感に対しては、殆ど配慮らしい配慮を加えなかったことが認められるものである。従って、原告をはじめとする被検査者側からすれば、右の如き被告会社の確認行為は、自己に対する会社の不信感のあらわれとして、少なからず屈辱感、侮辱感を招致するような行為であったものと認めざるを得ず、チャージの疑いがあるなど特段の理由なくして、一律に被検査者全員に対し押しなべて強要しうる所持品検査の態様としては、著しくその方法・程度を逸脱したものと認めざるを得ない。

以上のところから、被告会社補導掛の原告に対して求めた本件確認行為は、画一的・一律的に実施すべき所持品検査の方法・程度として行き過ぎがあったものと認めざるを得ず、前記三の3記載の例外事由が存しない限り、被告会社の就業規則等に何らの根拠も有しない違法な検査方法であったと認められる。しかして右例外事由の存否については、(人証略)によると、本件各所持品検査当時原告の運賃収入は平均以下であった、これには統計資料もあるとの供述部分がうかがえるものの、さらに(人証略)によると、原告に対する本件各所持品検査の際は、補導掛らはいずれも右の如き事情を原告に告げていないばかりか、むしろこのような事情の存否は全く考慮することなく、他の被検査者等に対するのと同様に一律に確認行為までをも求めた事実が認められるのであって、右例外事由の存在は認定しえず、他にこれを認めうるに足る証拠も存しないものである。

よって被告会社補導掛が原告に求めた本件所持品検査は、前記三の2の(二)に掲げた(ロ)の要件のうち画一性、一律性の要請に違反する疑いがあるばかりか、更に右検査のうち前記確認行為を求めた部分については、何ら被告会社の就業規則等に根拠のない行為と言い得るものであって、いずれにしても右確認行為は違法な検査方法であったものと認められる。

五  本件懲戒処分の効力及び慰藉料

右のとおり、本件確認行為は違法であるから、これに対する原告の拒否行為は「会社の諸規程」(就業規則七条)に違反したことにはならず、もとより懲戒事由(同九三条一号)にも当たらない。しかして、原告には他に何らの懲戒事由も認められず、これを認めるに足る証拠も窺えないので本件懲戒処分は何ら懲戒事由もないのに被告会社の一方的な懲戒権限の逸脱行使によりなされた違法な処分であったものと認めざるを得ない。なお原告は乗務員規程二六条三号及び同(心得)三号の憲法違反性を主張するけれども、前記三に検討の限りでは右条項に原告主張の瑕疵を認め得ない。また原告は本件懲戒処分の不当労働行為性を主張するが、前記四の1に認定したところによると、未だ被告会社の不当労働行為意思を推認し難く、他にこれを認めるに足る証拠も存しないので、右主張は採用の限りでない。

ところで、前記一の争いなき事実(一部)に(証拠略)を総合すると、原告は昭和四八年七月二四日付の本件処分によりバス車掌から雑務手へ降格され、爾来同年八月一日頃より整備課雑務手として被告会社石原工場に勤務していたこと、右雑務手は被告会社職種別等級表によると、最低の二等級の職種で、原告のように当初より三等級の車掌として入社した者にとっては全く予想外の職種ともいえ、同会社においては当時若干名(原告本人尋問の結果によると原告一人のみ。<人証略>によると原告を除いて二、三名)しかおらず、バス車掌から雑務手への降格は被告会社においても極めて異例の処分であったこと、その職務内容は事務所の電話番、本社との連絡等の雑用とバスの洗車作業、工場周辺の清掃等が主なものであったこと、とくに右洗車作業については炎天下、厳寒時など常時ゴム製カッパを着用してバス車体の下に潜って行なうもので、被告会社としても下請けに任せているような苛酷な作業であり、原告は右下請作業者の手伝いという形でこれに従事していたこと、原告は本件処分により基本給が減俸となり、更に時間外手当のつかない雑務手ということでこの面からも収入が減額になっていたが、その額は原告と同じ頃にバス車掌として入社しその後運転手となった同僚の年収に比べて約七〇万円余の差となってあらわれていること及び原告は雑務手の仕事を苦痛としながらもこれに従事しているが、右のように経済的には苦しくまた子供には恥ずかしくて自己の職務内容を教えられないでいるなどの苦痛を味わっていること等の事実が推認され、この認定に反する証拠はない。従って、これによると、原告が本件処分により相当の肉体的ないし精神的苦痛を被っていることは明らかといえる。

さて被告会社のなした本件処分が違法なることは前述のとおりであるが、そのそもそもの原因が同会社補導掛による原告に対する違法な確認行為の要求にあったことは以上にみたとおりである。よって、右違法な確認行為を当然の前提として本件処分にまで及んだ被告会社の措置には、所持品検査の許される限界という法律上の困難な問題に関する事柄ではあるが、少なくとも原告に対する右懲戒権限の行使について過失があったものと認めざるを得ない。従って、被告会社は原告に対する不法行為責任を免れず、その内容は、右肉体的、精神的損害を賠償するものとして前記認定の諸般の事情とくに原告の雑務手としての極めて低劣な職務内容及びこれに伴う屈辱感ないし経済的打撃等にかんがみたばあい、慰藉料金三〇万円の支払をもって相当と考える。

六  結論

叙上のとおり、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、本件処分前の地位(彦島営業所バス車掌)にあることの確認を求める部分並びに慰藉料請求のうち金三〇万円及びこれに対する本件処分日で不法行為日でもある昭和四八年七月二四日の翌日たる同月二五日から右支払済みまでの間民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武波保男 裁判官 徳嶺弦良 裁判官 榎下義康)

別紙 労働協約

(懲戒)

一五条 組合員が次の各号の一に該当するときはこれを懲戒する。

一 会社の諸規則、令達に違背し又は職務を怠った者

二 会社の重要なる機密事項を漏洩したり又は風紀秩序を紊す行為のあった者

三 勤務成績が著しく不良で従業員として不適当と認められた者

四 正当な理由なく無断欠勤連続一四日以上に及んだ者

五 業務上の過失以外で刑事事件に関係して罰金以上の有罪判決が確定された者

六 年令、住所、経歴、扶養家族等雇入れの際の調査事項を偽り、その他不正な方法を用いて故意に雇入れられた者

七 故意又は重大な過失により事故を起し会社に損害を与えた者

八 その他前各号に準ずる程度の不都合な行為のあった者

(懲戒の種類)

一六条 懲戒は次の五種とし、前条において定められた行為の軽重に従ってこれを行なう。

一 懲戒解雇又は諭旨解雇

その事由について行政官庁の認定を受けて予告を用いず即時解雇する。

二 降級又は降号

懲戒の程度により基本給の等級号俸を降下する。尚降下の期限をつける場合は懲戒委員会で協議する。

三 出勤停止

始末書を提出させ一〇日以内出勤を停止し、その間賃金を支払わない。

四 減給

始末書を提出させ事故一回について平均賃金の一日分の半額以内を減給する。但し、その総額が当該賃金計算期間の賃金総額の一〇分の一を超えることはない。

五 譴責

始末書を提出させ将来を戒告する。

就業規則

(職場秩序)

七条 従業員は会社の諸規程を誠実に履行し、自己の職務に対し責任を重んじて業務に精励し、同僚互に扶け合い、礼節を守り職制に定められた上長の指示命令に従い、以て職場秩序の保持に協力しなければならない。

(2、3項省略)

(電車、自動車係員の服務)

三〇条 電車、自動車係員の服務については、本章に規定するものの外、別に定める「電車係員服務規程」並びに「自動車係員服務規程」による。

(懲戒)

九三条 社員で次の各号の一に該当するときはこれを懲戒する。

(前記労働協約一五条一~八号に同じ)

(懲戒の種類)

九四条 懲戒処分は前条に於て定められた行為の軽重に従い次の五種とする。

一 懲戒解雇又は諭旨解雇

二 降級又は降号

三 出勤停止

四 減給

五 譴責

(懲戒解雇又は諭旨解雇)

九五条 懲戒又は諭旨解雇はその事由について行政官庁の認定を受けて予告を用いず、即時解雇する。但し、その事由について行政官庁の認定を受けないときは三〇日前に予告して即時解雇する。

(降級又は降号)

九六条 降級又は降号は懲戒の程度により基本給の等級号俸を降下せしめる。

(規則の変更)

一〇一条 この規則の一部又は全部を変更するときは、労働組合の意見を聴いてこれを決定する。

自動車係員服務規程

五三条 運転手は上長の命による所持品検査を受けなければならない。

六四条 車掌は上長の命による所持品検査を受けなければならない。

六六条 この規程に違反したときは、取敢えず就業規則の定めるところにより、その罰則を準用する。

自動車乗務員服務規程(心得)

(整容)

一四条 乗務員は、勤務中服装を常に清潔にし旅客に礼を失しないよう、次の事項を守らなければならない。

一 会社が貸与する制服、制帽を正しく着用すること。

二 貸与被服はみだりに改変しないこと。

三 上衣着用の場合は通常男子はネクタイ、女子はツケ襟を使用すること。

四 シャツは白色のカッターシャツ及び開襟シャツを着用すること。なお、シャツの裾はズボンの中に入れること。

五 許可なく色眼鏡を使用しないこと。

六 マフラーを使用しないこと。

七 車掌は別に定める場合を除き手袋を使用しないこと。

八 履物は通常短靴とし、下駄・草履・サンダル・ハイヒールは使用しないこと。

九 車掌鞄は上衣(外套)の上に着用し、胸章は左胸部に着けること。

一〇 その他、運転操作及び乗務に支障のある服装はしないこと。

((心得)一~五号は省略)

(禁止事項)

一八条 乗務員は勤務中、次のことをしてはならない。

五 現金を所定の場所以外に保管すること。

(一~四号、六~九号及び(心得)は省略)

(私金所持の禁止)

二一条 乗務員は勤務中の私金取扱については、次のとおり厳守しなければならない。

一 乗務員は、勤務中の私金携帯を禁止する。但し会社が指定した私金携行許可運番に限り運行管理者の許可を受け、指定許可金額を証明書と共に所持することができる。

二 (省略)

(心得) 乗務員が必要あって私金を持って出勤したときは必ず乗務前に運行管理者に預けること。もし私金を持って勤務したときは、会社の金と見做されることになっている。

(所持品検査)

二六条 乗務員は、勤務中上長の命による次の各号に定める所持品検査を受けなければならない。

一 一四条に規定された服装の適否。

二 三三条及び七四条に規定された乗務に必要な携帯品の有無。

三 三三条及び七四条に規定されたもの以外の乗務に不必要な携帯品並びに現金の有無。

四 途中精算を行い売上現金と車内乗車券の発売金額との照合確認。

(心得)

一 乗務員は、会社を代表し直接旅客に接するものであるから常に服装は正しく身の回わりは清潔にし、乗客に良い感じを与えるよう心掛けること。

二 乗務員は金銭を取扱うものであるから、常に現金や乗車券の取扱いは正確にし無断で私金を携行する等、他からの疑惑を招かないよう留意すること。

三 所持品検査は、一八条五項及び二一条の実施状況についても応じなければならない。

四 携帯品とは、会社の貸与した物品は勿論、所持している私物全部をいう。

五 所持品検査を受けることは、乗務員の義務であるから正当な理由がないのに所持品検査の一部又は全部を拒むことはできない。

六 途中精算を終えたならばその結果を確認し、発売報告及び途中精算連絡票に捺印すること。

なお、途中精算等の結果、百円を越える過不足金を生じた場合には別に定める過不足金理由書の該当事項に記入捺印のうえ提出すること。

(必要携帯品)

三三条 運転者は、乗務に際し、必ず左記の必要品を携帯しなければならない。

運転免許証、運行表、社員証、乗務員服務規程、運転報告(貸切実績日報)、印鑑、手帳及び筆記用具。

((心得)は省略)

(必要携帯品)

七四条 車掌は乗務に際し必ず左記の必要品を携帯しなければならない。

車掌鞄、車内乗車券、釣銭、パンチ、現金、収札缶、笛、運賃表、乗務員服務規程、印鑑、社員証、手帳及び筆記用具。

((心得)は省略)

以上。

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