大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所下関支部 昭和42年(ワ)115号 判決 1968年10月31日

原告 高倉ミサコ

原告訴訟代理人弁護士 於保睦

原告訴訟復代理人弁護士 井貫武亮

被告 江夏進

<ほか二名>

被告江夏三名訴訟代理人弁護士 甲斐

被告 三宅文子

被告三宅訴訟代理人弁護士 古谷判治

主文

被告江夏進、同江夏成秋、同江夏久子は連帯して原告に対し金三〇六、九六九円およびこれに対する昭和四二年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の右被告三名に対するその余の請求および被告三宅文子に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告江夏進、同江夏成秋、同江夏久子の間では原告に生じた費用の四分の一を右被告三名の負担とし、その余を各自の負担とし、原告と被告三宅文子の間では全部原告の負担とする。

第一項は仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は連帯して原告に対し金一、四六一、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、「(1)原告は、昭和四〇年一一月一二日一七時四〇分頃に下関市西富町二二五六番地(註―訴状には「二二六〇番地」と記載)の自宅公道側軒下地面(註―訴状には「自宅敷地内」と記載)に立って洗濯物の取り入れをしていたとき、被告江夏進が私用でドライブクラブ営業者である被告三宅文子から賃借のうえ運転後進してきた軽四輪自動車八山わ一〇三〇号と煉瓦塀の間にはさまれて骨盤骨折と第五腰椎右横突起骨折を負った。(2)被告進はもちろん本件自動車の賃貸人であるドライブクラブ営業者の被告三宅も自動車運行供用者として本件事故による原告の損害を賠償する義務がある。(3)被告進の実父である被告江夏成秋は同月一四日に、被告進の実母である被告江夏久子は同月一三日に、いずれも被告進の本件損害賠償義務の全部を被告進と併存し、または被告進に代って引受けた。(4)原告は月給金五〇、〇〇〇円のタクシー運転手である夫と当時五才と二才(註―訴状には「一才」と記載)の子供がいる当時三〇才の専従主婦であるところ、本件事故で受傷したため病院に当日から昭和四一年三月二四日まで入院し退院以後は断続して四日通院し同年六月三〇日に治療をおえたが、治療期間中に近親者の看護費用金七〇、〇〇〇円と子供二人の委託監護費用金一〇〇、〇〇〇円を支出し、治療期間中は主婦の家事労働ができなかったので夫の月給金額の二分の一をもとにした日額金八三三円の二三〇日分金一九一、〇〇〇円(五九〇円切捨)の得べかりし利益を喪失し、治療をおえたあとは後遺症として下肢筋萎縮による腰の歩行痛があるから被告等から昭和四二年五月現在における自賠法施行令別表一二級の九所定の後遺障害保険金同額の七〇、〇〇〇円(註―本件事故のように同四一年六月三〇日以前の分の右保険金は五〇、〇〇〇円)と将来支出予想の受診および交通費金三〇、〇〇〇円の補償がうけられるのであり、なお本件事故による精神的苦痛は慰藉料金一、〇〇〇、〇〇〇円に匹敵する。(5)よって原告は被告等に対し本件事故による補償を含めた損害の合計金一、四六一、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。」と主張し、抗弁事実を認め、「被告進は本件事故のさい原告が立っていた方を注視しないまま本件自動車を運転後進した。」と再抗弁し(た。)≪証拠関係省略≫

被告江夏三名訴訟代理人は、「原告の被告江夏三名に対する請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、「原告主張(1)の事実は認めるが同(4)の事実は不知(註―被告進につき右事実を争うと言いながら一方では被告成秋、同久子の不知とする答弁を援用すると言う、ちぐはぐな答弁をしたが、つまりは右被告両名の答弁どおりの趣旨とみる)、同被告両名につき原告主張(3)の事実中同被告両名が被告進の実父母であることを認めその余は否認する」と答弁し「被告進は本件損害賠償義務があり(註―被告進は自動車運行供用者であることを争わない)、被告成秋、同久子については仮に被告進の右義務を引受けたものであるとしても、原告は、本件事故のさい本件自動車の動きを注視しなかったのであり、また被告成秋、同久子から治療代金一一三、八四四円、コルセット代金七、〇〇〇円、家の修理代金二、五〇〇円、家政婦代金三三、八二〇円、見舞金二〇、〇〇〇円を、保険会社から自賠法の責任保険金一四〇、〇〇〇円を各受領しており、なお右被告両名は原告の入院中数回にわたり合計金一七、三五六円相当の菓子果物をおくり原告の見舞をした。以上の事実は本件事故による原告の損害額算定のしん酌事由になる。」と抗弁し、再抗弁事実を争(った。)≪証拠関係省略≫

被告三宅訴訟代理人は、「原告の被告三宅に対する請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「原告主張(1)の事実は認めるが被告三宅は被告進へ本件自動車を賃貸しただけであるから自動車運行供用者ではなく、同(4)の事実は否認する。」と答弁し、「仮に被告三宅が自動車運行供用者であるとしても、原告は、本件事故のさい本件自動車の動きを注視しなかったのであり、なお保険会社から自賠法の責任保険金一四〇、〇〇〇円を受領している。右事実は本件事故による原告の損害額算定のしん酌事由になる。」と抗弁し、再抗弁事実を否認し(た。)≪証拠関係省略≫

理由

(一)  原告が、昭和四〇年一一月一二日一七時四〇分頃に下関市西富町二二五六番地の自宅公道側軒下地面に立って洗濯物の取り入れをしていたとき、被告江夏進が私用でドライブクラブ営業者である被告三宅文子から賃借のうえ運転後進してきた軽四輪自動車八山わ一〇三〇号と煉瓦塀の間にはさまれて骨盤骨折と第五腰椎右横突起骨折を負ったことは当事者間に争いがない。

右事実によれば被告進は自己のためにドライブクラブ営業者である被告三宅から賃借の自動車を運行して原告に受傷させたものであるから自動車運行供用者として本件事故による原告の損害を賠償する義務があるところ、本件自動車の賃貸人であるドライブクラブ営業者の被告三宅も自動車運行供用者であるという原告の主張は失当である。

すなわち危険責任あるいは報償責任の法理を強調したうえ自動車運行供用者に要求される運行支配は間接的でもたりる、あるいは不法行為責任の面では賃貸自動車の運行を保有者の機関によるものと同視すべきであるとしてドライブクラブの自動車運行供用者責任を認める見解もあるが、「自動車の運行につきその支配と利益が帰属する者」と解される自賠法第三条にいう自動車運行供用者の「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは文字どおり「他人のために自動車を運行の用に供する者」に対立する用語であるから後者を除外した概念とみるのが文理にかなうところ、ドライブクラブは、賃貸条件の寛厳や賃貸期間の長短あるいは賃貸料の多寡を問わず賃貸自動車の運行について、直接の支配と利益をもたずに、自動車運転の認容により賃借人の運行意思決定に原因をあたえ、そして運行に関連する賃貸料を取得する意味において間接の支配と利益をもつにすぎないので「自己のために自動車を運行の用に供する者」ではなくて、まさに「他人のために自動車を運行の用に供する者」であり、したがって自動車運行供用者ではない。なおドライブクラブ自動車賃借人には賠償能力のない若年者が多いとして人身事故発生の場合における被害者保護の法感情を強調してドライブクラブの自動車運行供用者責任を肯定すべきであるとの論もあるところ、ドライブクラブが自動車運行供用者ではないといっても責任保険契約の締結が強制されるのは自賠法第五条によれば「自己のための運行の用に供する自動車」ではなくて、たんに「運行の用に供する自動車」についてであるから、ドライブクラブが「他人のための運行の用に供する自動車」についても右契約を締結しなければならず、そして賃借権をもつ保有者であるドライブクラブ自動車賃借人の運行供用者責任が発生した場合に被害者は、ドライブクラブが同契約を締結していれば自賠法第一六条により保険会社へ、ドライブクラブが同契約を締結していなければ自賠法第七二条により政府へ、それぞれ所定の損害賠償または補償の支払請求をすることができるし、もちろん被害者の十分な保護を図るためにはドライブクラブにも自動車運行供用者責任を認めるべきであるが、そうだからといって自賠法第三条の文理を無視することは許されず将来の法改正をまつほかはない。

(二)  被告江夏成秋、同江夏久子が被告進の実父であることは原告と被告成秋、同久子間に争いがないところ、証人高倉求の証言によると、被告成秋は昭和四〇年一一月一四日に、被告久子は同月一三日に、いずれも被告進の本件損害賠償義務の全部を被告進と併存して引受けたことが認められ、被告成秋、同久子は本件事故による原告の損害中病院代だけをみるといった旨供述する被告久子本人尋問の結果は証人高倉求の証言にてらし信用することができず、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

(三)  ≪証拠省略≫を綜合すると原告は月給金五〇・〇〇〇円のタクシー運転手である夫と当時五才と二才の子供がいる当時三〇才の専従主婦であること、原告は本件事故で受傷したため病院に本件事故の当日である昭和四〇年一一月一二日から同四一年三月二四日まで入院し退院以後は断続して四日通院し同年六月三〇日に治療をおえたことが認められる。

ところで原告は治療期間中は主婦の家事労働ができなかったので夫の月給金額の二分の一をもとにした日額金八三三円の二三〇日分金一九・〇〇〇円(五九〇円切捨)の得べかりし利益を喪失したと主張するところ、主婦の家事労働については現実の対価支払がないから本来の得べかりし利益というものはないが有償の家政婦などで代替される限度で金銭的評価ができるから、主婦が身体事故で家事労働ができなかった場合にはその期間家政婦の日当相当額を得べかりし利益に準じて喪失したものとみるのが相当であって原告主張の日額金八三三円は下関市における家政婦の日当相場(本件事故当時)をこえない金額であることは当裁判所に顕著な事実であり、しかし原告が本件事故で受傷したため主婦の家事労働ができなかったのは治療の全期間二三〇日ではなく入院の期間一三三日であるとみるべきで、したがって本件事故による原告の逸失利益は日額金八三三円の一三三日分合計金一一〇・七八九円になるが、原告が被告成秋、同久子から家政婦代金三三・八二〇円を受領していることは原告と被告江夏三名間に争いがないから右金額を控除すると金七六・九六九円になる。

次に原告が被告成秋、同久子から見舞金二〇・〇〇〇円を受領していること、右被告両名が原告の入院中数回にわたり合計一七・三五六円相当の菓子果物をおくり原告の見舞をしたことは原告と被告江夏三名間に争いがないから右事実もあわせて原告の受傷部位、入院期間、家族関係等を考慮のうえ本件事故による原告の慰藉料は金三七〇・〇〇〇円に相当すると認めるが、原告が保険会社から自賠法の責任保険金一四〇・〇〇〇円を受領していることは原告と被告江夏三名間に争いがなく、そして原告が右保険金を治療費等に充当したなどの主張立証はないから右保険金額を控除すると金二三〇・〇〇〇円になる。

原告は治療期間中に近親者の看護費用金七〇・〇〇〇円と子供二人の委託監護費用金一〇〇・〇〇〇円を支出したと主張するが、前者の支出を認めるにたる証拠はなく、後者の支出については、それにそう原告本人尋問は支出先や支出明細が不明であるから信用できず他に右支出を認めるにたる証拠はなく、さらに原告は治療をおえたあとは後遺症として下肢筋萎縮による腰の歩行痛があるから被告等から昭和四二年五月現在における自賠法施行令別表一二級の九所定の後遺障害保険金同額の金七〇・〇〇〇円と将来支出予想の受診および交通費金三〇・〇〇〇円の補償がうけられると主張するが、≪証拠省略≫によれば原告は治療をおえたあと下肢筋萎縮による腰の歩行痛があるけれども本件事故による受傷は治ゆし後遺症はないとの診断をうけていることが認められるから右主張は失当である。

原告が本件事故のさい本件自動車の動きを注視しなかったことは当事者間に争いがなく、被告江夏三名は右事実が本件事故による原告の損害額算定のしん酌事由になると主張するが、原告が本件事故のさい本件自動車の動きを注視しなかったといっても、それは自宅公道側軒下地面に立って洗濯物の取り入れをしていたからであり、一方被告進は≪証拠省略≫によれば本件事故のさい原告が立っていた反対側の右後方だけに気をとられ原告が立っていた左後方は注視しないまま本件自動車を運転後進したことが認められるので被告進が左後方の注視を怠らなかったならば本件事故はおこらなかったはずであるから右主張は失当であり、なお原告が被告成秋、同久子から治療代金一一三・八四四円、コルセット代金七・〇〇〇円、家の修理代金二・五〇〇円を受領していることは当事者間に争いがなく、被告江夏三名は右事実が本件事故による原告の損害額算定のしん酌事由になると主張するが、原告は本訴において治療代や家の修理代等の賠償請求はしていないから右主張は失当である。

(四)  以上のとおりであるから被告江夏進、同江夏成秋、同江夏久子は連帯して原告に対し合計金三〇六・九六九円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和四二年七月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払う義務があり、被告三宅文子は右金員の支払義務はないから、原告の被告江夏三名に対する請求を右の限度で認容し、原告の被告江夏三名に対するその余の請求および被告三宅に対する請求は排斥することとし、なお民訴法第八九条、第九二条第一項本文、第九三条第一項本文、第一九六条第一項を適用のうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 田尻惟敏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例