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山口地方裁判所 昭和47年(ワ)18号 判決 1974年8月30日

原告

平井幾蔵

被告

浅海馨

主文

1  被告は、原告に対し、金六〇九、九七九円及びこれに対する昭和四七年二月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、一〇分し、その一を被告、その余を原告の各負担とする。

4  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

(原告) 被告は、原告に対し、七、一七一、六二七円及びこれに対する昭和四七年二月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告) 原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決

二  請求原因

(一)  本件事故

昭和四四年一〇月九日午後〇時三〇分頃、萩市越ケ浜一区大渡下の国道一九一号線路上の急カーブ地点で、同市大井方面に向う原告運転のホンダカブに、対向してきた被告運転の普通貨物自動車が衝突した。

(二)  責任

被告は、前記カーブ地点において、中央線をはかるに越えていたものであり、前方不注意、徐行義務違反、運転未熟等の一方的かつ重大な過失がある。

(三)  損害

1  治療費 一七二、六三五円

(イ) 原告は、本件事故により、後頭部打撲症、第二胸椎圧迫骨折、第五中手粉砕骨折、右膝蓋骨骨折の傷害を負い南崎医院に、事故の日から昭和四五年二月一三日までの一二八日間入院し、翌日から同年一二月二五日まで三一五日間通院して、治療を受けた。

(ロ) 右治療費として、自賠責保険から四九六、五四八円、国民健康保険から三六二、一一〇円、被告から五万円それぞれの支払がなされたが、そのほかに、一七二、六三五円を要した。

2  看護料 一二八、〇〇〇円

原告が入院一二八日間に看護人に支払つた、一日一、〇〇〇円の割合による看護料

3  雑費 五万円

原告が入院中に支払つた雑費の合計額

4  逸失利益 四、七七〇、九九二円

(イ) 原告は、現在でも頭痛、記憶障害、顔面神経麻痺、左手筋力低下等の症状があり、日常生活における意欲喪失が顕著であり、稼業も殆んど不能状態にある。

右は、頭部外傷後遺症兼外傷性てんかんとして、後遺症七級に当る。

(ロ) 原告は、大正一三年九月二〇日生れであり、本件事故当時は、満四五年であつたところ、その後一八年就労可能である。

原告は、農業兼酒類販売業を営み、本件事故前一年間の収入額は、九六六、一三一円であるが、原告の妻も右稼業を手伝つているので、右寄与率を三〇%としてこれを控除すれば、原告の年収は六七六、〇〇〇円となる。

原告は、前記後遺症により、五六%の労働能力を喪失したので、これは、年収三七八、五六〇円の得べかりし利益を喪失したことになる。そして、就労可能の期間、右収入を失うことになり、これを一時に取得するものとして、年五分の割合による中間利息をホフマン式により(係数一二・六〇三)控除すると、四、七七〇、九九二円となる。

5  慰藉料 一七五万円

原告は、本件事故により、長期にわたる入院を余儀なくされ、経済的、肉体的に多大の苦痛を味つたばかりでなく、現在も、前記のような後遺症に悩まされており、その精神的苦痛は、甚大であるところ、本件事故の態様等諸般の事情を考えると、三〇〇万円をもつて慰藉されるべきであるが、後遺症補償として、一二五万円を受領しているので、これを控除した残額について支払を求める。

6  弁護士費用 三〇万円

原告は、本訴提起について、弁護士に訴訟を委任し、その着手金及び謝金として三〇万円の支払が予定されている。

(四)  以上、原告は、被告に対し、右損害金合計七、一七一、六二七円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四七年二月二六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の答弁

請求原因(一)項は、認める。

同(二)項は、否認する。

本件事故は、全く、原告の一方的過失に起因するものである。即ち、本件事故現場において、道路左端を進行中の被告の車に、原告が道路中央付近において衝突したものであり、被告が道路中央線(路面にその標示はない。)を遙かに越えて原告に衝突したとの主張は、全く虚偽である。被告の車は、右事故により、進行方向の道路左端から転落し、車を損壊、負傷しているものであり、これは、被告の車が、道路の中央を越えていないあらわれである。従つて、被告は、本件事故につき、刑罰はもちろん、免許停止等の処分も受けていない。

請求原因(三)項のうち、損害の填補は、認めるが、その余は、不知。

同(四)項は、争う。

四  証拠〔略〕

理由

一  本件事故が生じたことは、当事者間に争いがない。

二  責任

〔証拠略〕によると、本件事故現場は、およそ幅三メートル余りの舗装された歩車道の区別がない急カーブの道路であり、中央線の標示はなく、いずれの方向から進入するも、そばの家屋にさえぎられて見通しが極めて悪いこと、被告は、普通貨物自動車(長さ三・七七メートル、幅一・五メートル)を運転し、萩方向に向け、時速四〇キロメートルで進行し、道路左端に添い、およそ時速二〇キロメートルに減速して、右カーブになつている本件事故現場に差しかかつたが、一八メートルあまり前方の道路中央を進行してくる原告の原動機付自転車(ホングカブ五〇)を認め、そのままの状態で進行すると、原告の車に衝突するおそれがあるので、あわててハンドルを左に切つたものの、約九メートル進行しており、自車の右側面に原告の車が接触したこと、そのため原告の車は転倒し、被告の車は道路脇に突つ込み約一〇メートル進行して停止したこと、右接触は、被告の車が進行する道路の左端いつぱいに寄つた状態で行われたことが認められ、ほかに右認定を左右する証拠はない。

ところで、本件のような見通しが悪く、道路幅も広くない急カーブでは、対向車による衝突事故が予想されないではないから、警音器の吹鳴はともかく、まず徐行し、右事故を防がなければならない。また、一般的に、車は道路の左側部分を、特に、原動機付自転車は左端にそつて進行すべきはいうまでもない。

前記認定事実によると、原、被告の車は、その進行状況からみて、ほぼ同程度の速度で進行してきたものと認められ、その時速はおよそ二〇キロメートルであるが、本件事故現場のような、中央線の設けられていない、見通しの極めて悪い急カーブでは、右程度では徐行したものとはいえない。従つて、双方が徐行を怠つたものといえる。また、対向車と接触する危険が察知された場合は、直ちに停止すべきであり、本件において双方の車が直ちに停止の措置をとれば接触に至らなかつたものと推測しうる。この点においても、双方が右措置をとらずに進行したものである。もつとも、被告は、ハンドルを左に切つて、接触を避けようとしたが、時既におそく、事故を回避する有効、適切な手段となつていない。しかしながら、被告の車が道路の左側部分を進行していたのであるから、原告の車が、同様に道路の左側部分、特に左端によつて進行していたならば、(遠心力によつて多少ふくらむことはあろうが)、前記速度で進行したとしても、相互に十分離合しえたはずであるから、原告の車が、漫然と道路中央を進行し、基本的な通行方法を怠つたことの責任は、大きいといわねばならない。

右のとおり、被告は、徐行を怠り、急制動をしなかつた過失が認められるが、原告も同様の過失があるうえ、さらに、通行方法を誤り、漫然と道路の中央を進行した過失があり、過失の割合は、被告三に対し、原告七とするのが相当である。

三  損害

(一)  治療関係の費用 一、一二〇、八九三円

〔証拠略〕によれば、本件事故により、後頭部打撲傷、右頭蓋内硬膜血腫、胸椎圧迫骨折、第五中手骨粉砕骨折、右膝蓋骨骨折等の傷害を受け、事故当日の昭和四四年一〇月九日から同四五年二月一三日までの一二八日間南崎外科医院に入院し、同月一四日から同四六年一二月二五日までの間、同医院に週一回程度通院して治療したこと、右治療養は、自賠責による分として四九六、五四八円、国民健康保険による分として、三六二、一一〇円、同保険自己負担分として一〇八、六三五円、合計九六七、二九三円であつたこと、入院中は附添看護を要する状態であり、一日につき八〇〇円ないし一、〇〇〇円の附添費を支払い、雑費として五万円ぐらいの支払を要したことが認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信できず、ほかに右認定に反する証拠はない。そこで、本件事故と相当因果関係ある治療関係費用は、次のとおりと認める。

(1)  治療費 九六七、二九三円

(2)  附添看護料 一一五、二〇〇円

一日平均九〇〇円として、一二八日分

(3)  入院雑費 三八、四〇〇円

入院期間中、一日につき三〇〇円とする。

(二)  逸失利益 四、九〇七、八九八円

右(一)項の証拠と〔証拠略〕によれば、原告は、治療につとめたものの、頭痛、記憶障害、右顔面神経麻痺、右手筋力低下があり、脳波には、けいれん性の波形が認められ、右膝関節と右手の軽度の強直とが見られ、日常生活における意欲喪失が顕著であり、右症状は、本件事故による後遺症であり、その程度については、山口大学附属病院において、労働者災害補償保険の後遺障害等級別表七級に該当するものと認定されており、現在に至るまで、さほど変りないこと。原告は、大正一三年九月二〇日生れで、事故当時は、四五歳であつたこと、原告は、農業兼酒類販売業を営み、本件事故前の申告所得額は、昭和四三年が一、〇二〇、七二五円、同四四年が九六六、一三一円、同四五年以後も一〇〇万円程度であつたこと、右事業には、原告の妻も手伝つており、その寄与の程度は三〇%であつたが、本件事故後は、もつぱら、同女が中心となり、年間三〇万円ないし四〇万円程度の人手をあらたに雇い、右事業に対する原告の寄与の程度は、前記後遺症により著しく低下していることが認められ、〔証拠略〕中右認定に反する部分は措信できず、ほかに右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、事故後における原告の申告所得は、事故前とほぼ変りない。しかし、原告が労働能力の一部を失つているため、右所得をあげるために、人手を雇い、原告の妻の労働を加重することによつて、これを補つていることが明らかである。原告が労働能力を一部失つたことによる経済的能力の喪失の程度を算定することは、難しい問題であるが、原告が新たに人手に支払うことによつて生ずる年間三〇万ないし四〇万円の経費は、本件事故によつて生じた失なわれる利益である。これを単に労働能力の喪失の面からみれば、本件事故当時の平均年収(昭和四三、四四年の平均)のうち、妻の寄与率三〇%を控除した金額につき、後遺症七級の喪失率である五六%を乗じて算出すると、原告の年間の損失は、三八九、四二三円となり、原告が新たに人手に支払う費用に相応する。そうすると、本件においては、労働能力の喪失率によつて、原告の逸失利益を算定することは、不合理ではなく、かつ、これによるのが妥当である。原告の右損失は、事故後就労可能と推測される一八年間は、継続するものと認められる。

従つて、右期間の収入を失うことにより、これを一時に取得するものとして、年五分の割合による中間利息をホフマン式により控除すると、四、九〇七、八九八円となる。

(三)  慰藉料 三〇〇万円

前記の如き原告の治療の状況、後遺症、その他諸般の情状(但し、本件事故に対する原告の過失を除く)によれば、原告の苦痛は、三〇〇万円をもつて慰藉されるべきものである。

(四)  以上の損害は、九、〇二八、七九一円となるところ、原告には、前記過失があるので、損害の算定にあたり、これを考慮することが公平であるから、その過失割合に応じ、七割を減額するのが相当であると認め、右減額を行うと、二、七〇八、六三七円となる。

(五)  損害の填補

原告は、医療費として、八五八、六五八円、被告から五万円、後遺症補償として一二五万円計二、一五八、六五八円の損害の填補を受けていることを自認しているから、右損害額から、これを控除すると、残額は、五四九、九七九円となる。

(六)  弁護士費用 六万円

〔証拠略〕によれば、原告は、法律知識に疎く、被告が任意の支払に応じないので止むなく本件訴訟を弁護士に委任し、相当報酬を支払うことを約したことが認められ、右事実に、本件訴訟の難易の程度、請求認容額によれば、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用は、六万円が相当である。

四  むすび

以上のとおり、原告の損害額は、合計六〇九、九七九円となるから、被告は、原告に対し、右金員及びこれに対する事故後である昭和四七年二月二六日から完済に至るまで、民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

そこで、本訴請求は、右金員の支払を求める限度で認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本博文)

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