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山口地方裁判所 昭和43年(行ウ)7号 判決 1977年9月22日

山口県下関市赤間町三の三

原告

中尾勇

右訴訟代理人弁護士

上坂明

葛城健二

葛井重雄

川浪満和

山口県下関市山の口

被告

下関税務署長

内藤治徳

右指定代理人

下元敏晴

小島正義

堂前正紀

膳夫明

岩井清

高橋竹夫

久保義夫

平野勉

主文

被告の原告に対してなした昭和三七年乃至昭和四〇年分各所得税の総所得金額更正処分(いずれも裁決による一部取消後に残るもの)中、

(一)  昭和三七年分五四三万三、六三三円のうち四九九万〇、九九七円をこえる部分

(二)  昭和三八年分九八五万三、五四〇円のうち九五八万八、五四〇円をこえる部分

(三)  昭和三九年分四四三万七、八一三円のうち三三二万七、一一〇円をこえる部分

(四)  昭和四〇年分七六七万六、六七九円のうち七四四万二、〇三七円をこえる部分

をいずれも取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告、一を被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告が昭和四一年一一月三〇日付で原告に対してなした昭和三七年乃至同四〇年分各所得税更正処分につき、広島国税局長が裁決により右各更正処分を是認した総所得金額のうち、

昭和三七年分の四五七万七、〇一六円

同 三八年分の六九五万一、四六八円

同 三九年分の二九九万一、一九二円

同 四〇年分の三五六万五、九一三円

をそれぞれ取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は肩書地等において「ふぐのなかお本店」の商号でふぐ等鮮魚の仲買を業としてきたものである。

2  原告は被告に対し昭和三七年乃至四〇年の一月一日から一二月三一日までの各年度(以下三七年、三八年、三九年、四〇年という)の所得税について、総所得金額として別表一の原告の確定申告欄のとおり確定申告をなしたところ、被告はいずれも昭和四一年一一月三〇日付で原告の右各年分の総所得金額を同表被告の更正処分欄のとおりとする更正処分をなしたので、原告は同四一年一二月二二日被告に対し右各更正処分につき異議申立をしたが、被告は同四二年三月一一日付でいずれもこれを棄却した。そこで原告は同年四月七日広島国税局長に対し右各年分の更正処分につき審査請求をしたところ、同局長は同四三年六月一八日付をもって右各年分の総所得金額について同表広島国税局長の裁決欄下段記載のとおり一部取消したうえ、同欄上段の金額を総所得金額と裁決し、被告の右各更正処分を一部是認した。

3  よって被告のなした三七年乃至四〇年分の更正処分中、請求の趣旨1項掲記部分(別表一の広島国税局長是認欄の額と原告の確定申告欄の額との差額。但し三七年分は右差額の一部。)の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2項の事実は認める。

三  被告の主張

被告は次の理由で更正処分をなした。

1  被告が原告の三七年乃至四〇年の各所得の更正処分をなすにあたって認めた勘定科目の各金額は、別表二の一乃至四の被告主張欄のとおりである。

2  原告は三七年乃至四〇年において、別表三のとおり取引先に対する売上を計上せず計上漏れがあったため、それらについて売上を加算し、昭和三八年においては同表のとおり経費を過大に計上していたのでこれを益金として加算した。

同表の否認所得金額が、別表二の一乃至四記載の被告主張各総所得と原告主張各総所得との差額に該当する。

3  被告が右2のとおりそれぞれの取引先について売上計上漏れを認めた理由は次のとおりである。

(一) 高島屋店(争点は三八年分、四〇年分の売上及び経費)

原告は大阪市南区の百貨店高島屋に支店を持っているが、高島屋店における売上を脱漏しているので、同店における売上金額を調査し、原告が記帳した同店に対する売上金額を差引き、更に原告が記帳していなかった経費を差引いた差額を原告記帳の売上額に加算されるべき売上除外金額とした。その明細は別表四のとおりである。

なお原告が右純利益を現金売上として計上していた事実はない。

また原告が記帳した高島屋店に対する売上(別表四の原告記帳額欄)の中には、大津屋から仕入れたポン酢代金も付加計上されており、右付加したものが高島屋店の仕入額とされているから、改めてポン酢代金を高島屋店における経費として差引く必要はない。即ち原告は高島屋店に対し、フグ等の鮮魚のほか大津屋から仕入れたポン酢を送付し、これを原告の高島屋店に対する売上として計上しているものである。

(二) 丸兼水産(各年分但し三九年分は三九万八、七六八円のみが争点)

原告は丸兼水産株式会社に対する売上を一部計上しなかったから、同会社の仕入金額から原告の売上金額を調査したうえ、原告が記帳した同会社に対する売上金額を差引いて売上除外金額を算出したものであり、その明細は別表五のとおりである。

原告は丸兼水産の仕入金額のなかには原告の売上に属しない訴外勇次勝太郎の売上が含まれている旨主張するが、同会社は右訴外人からの仕入については別途に記帳しており、右訴外人は鮮魚の仲買人として同人名義を用いて原告より以前から同会社と取引をなしていたのであるから、右訴外人が原告名義を借用する理由がない。

(三) 新田愛(争点は各年分)

原告は新田愛に対する売上を一部計上しなかったから、同女の仕入金額から原告の売上金額を調査したうえ、原告が記帳した売上金額を差引いて原告の売上脱漏額を算出したもので、その明細は別表六の一乃至四のうち新田愛欄記載のとおりである。

右訴外人は青色申告を行い正確な記帳をなし、原告の納品書或いは請求書に基づいてその都度記帳していたもので、原告の右訴外人に対する売上記帳額は真実ではない。

(四) 矢向繁雄(争点は三七年、三八年、四〇年分。但し三八年分については内七万九、八一六円のみ)

原告は合資会社鳴門代表者矢向繁雄に対する売上を一部計上しなかったから、右会社の仕入金額から原告の売上金額を調査したうえ、原告が記帳した売上金額を差引いて原告の売上脱漏額を算出したもので、その明細は別表六の一乃至四のうち合資会社鳴門矢向繁雄欄記載のとおりである。

なお右会社の記帳によれば、期末売掛残高に同会社の現実の支払金額を加算した金額から期首売掛残高を差引いた金額は、同会社の仕入総額と一致していた。従って原告の値引によるリベートの支払の事実や原告が別途にリベートを支払った事実はない。

(五) 架空名義預金(争点は各年分)

原告は下関信用金庫唐戸支店外一ヶ所で、竹本真一郎、江尻秋子、塚本勝、窪田正子の名義を使用し架空名義の普通預金及び定期預金をなしているが、原告は被告の調査の際右預金の発生源について一貫性を欠く種々の弁解をしたものの、被告の調査によるも右弁解事実を確認しえなかったので、結局右預金は売上除外金を架空名義で預金しているものと認めた。その明細は別表七のとおりである。

なお本件係争年中原告の従業員の中に江尻秋子、塚本勝、窪田正子はいない。

竹本真一郎名義の預金のうちイ魚徳、ロ訴外森中武一に関する原告の主張は理由がない。即ち魚徳は原告との仕入取引に対しその都度決済を行っているから、両者間に前払、仮受の関係が生ずる余地がなく、従って魚徳が原告に対し前払金勘定を設定した事実はない。また訴外森中との取引は立替金勘定も含めて原告の売掛帳に逐一記載されてあり、右帳簿には原告が右訴外人から借入をした旨の記載はなく、同人の死亡を理由に同人に対する売掛残金を貸倒損失として計上した際、原告主張の借入金につき相殺の処理も行なわれていない。

(六) 東京店(争点は三九年分、四〇年分)

原告は東京京王百貨店に出店を持っていながら、同店の売上を一切計上していないので、被告において同店の売上を調査し、これより売上原価、必要経費を控除し、雑収入を加算して同店における所得を算定した。これが原告の所得金額に加算されるべきである。その明細は別表八のとおりである。

なお原告は右各所得金額は原告のものではなく、同店で働く訴外大和正二に帰属するものとしているが、同人は同店における販売責任者たる従業員であり、他の従業員と同様に一定額の給与を受けており、また売上・仕入取引、当座取引請求書名・領収証名等はいずれも原告名義でなされ、営業基幹方針も原告が立てているものである。

(七) 大津屋(争点は四〇年分の九三万九、六〇〇円のうち八一万五、四〇三円のみ)

原告は昭和四〇年中株式会社大津屋からポン酢一四九万六、七一〇円を仕入れていたところ、右仕入金額のうち七七万九、三一〇円のみ記帳し、他方七六万六、四五〇円を同店との関係における立替金として仮装計上(なお右仕入金額と原告仕入記帳金額との差額は七一万七、四〇〇円)し、右金額の仕入に対応する売上を除外していた。そこで被告は右差額七一万七、四〇〇円を仕入額に加算するとともに、右仕入に対応する売上九三万九、六〇〇円を売上除外と認めそのうち八一万五、四〇三円を売上に加算した。

4  被告が前記2のとおり経費の過大計上があると認めた理由は次のとおりである。

交際費(争点は三八年分)

原告は三八年分につき交際費として二四万五、六一五円を計上しているにもかかわらず、決算に際して一〇四万五、六一五円を計上しているが、その差額八〇万円について支払先が明らかでなくその支払の事実も認められない。そこで被告は原告の業態及び各年の交際費の支出の状況等を参照して調査した結果、昭和三八年分についてのみ多額な支出をなした理由、使途も明らかとならなかったため、右差額を架空計上の交際費として否認すべきところ、内五〇万円だけを否認したものである。

5  原告の財産増減法による計算に対する認否

課税の対象となる所得金額の算定は損益計算法によるのが本則で、これにより難いとき財産増減法等による間接的な所得認定方法によるべきところ、被告は反面調査を実施するなどした結果、損益計算法による所得計算が可能であったからこれに基づいて算定したものである。財産増減法による計算は本件の場合には必要がない。

なお原告の財産増減法による所得計算は、資産勘定の計上洩れなどがあり、その計算の根拠に理由がない。被告は財産増減法による所得計算はしていない。

四  被告の主張に対する原告の答弁と反論

1  原告の三七年乃至四〇年の各所得の勘定科目の各金額は、別表二の一乃至四の原告主張欄のとおりである。

2  原告には売上計上漏れおよび経費過大計上の事実はない。

3  被告主張3に対する原告の反論

(一) 高島屋店

昭和三八年、同四〇年の各売上金額及び経費を争う。

(1) 原告は大阪市南区の百貨店高島屋に支店を持っているが、右支店は独立採算制をとっている。従って原告方本店はまず高島屋店への納入に当りこれを売上として売上帳簿に記帳し、高島屋店ではこれを仕入れとして計上し右仕入原価に利益を加えて一般消費者に販売してきたもので、原告においては右売上額のなかから人件費その他の経費を差引いた純利益について、これを銀行送金の方法或いは原告において直接持ち帰る方法で本店に入金させ、右純利益を現金売上として記帳計上していたものである。従って原告方本店における高島屋店への売上と、高島屋店における売上とは帳簿上異ることは当然である。そして高島屋店における売上から生じた右純利益については、原告本店における現金売上として計上しているから、結局高島屋店における売上を除外した事実はない。高島屋店における売上金額が別表四の調査額合計のとおりであり、原告本店の高島屋店に対する売上金額が同表原告記帳額のとおりであることは、これを認める。なお被告主張の高島屋店における経費の中には、原告が大津屋から仕入れたポン酢代が計上されていない。即ち高島屋店は原告本店から仕入れたフグのほか大津屋から仕入れたポン酢を付加して販売しているので、右ポン酢の仕入(昭和三八年一四万一、二五〇円、昭和四〇年七一万四、四〇〇円)を更に経費として加算すべきである。

(二) 丸兼水産

昭和三八乃至四〇年の売上金額を争う(但し三九年についてはうち三九万八、七六八円を争う)。

(1) 被告主張の丸兼水産記帳の原告名義からの仕入金額、原告の同会社に対する売上記帳金額並びに右両金額に被告主張の差額があることはいずれも認める。しかし右差額は原告が売上を除外し記載しなかったものではなく、もともと原告の売上に属さないものである。

(2) 右差額は、訴外勇次勝太郎の丸兼水産に対する売上によるものである。即ち右訴外人は原告とは全く別個の営業主体であるが、外兼水産と取引をなすに当り原告の口座を利用し原告名義で売上げていたものである。その結果丸兼水産における原告名義からの仕入の中には、原告が自ら売上げたものと、右訴外人が売上げたものが合算記帳されているものである。従って右会社における前記仕入金額から原告の同会社に対する売上金額を差引いたものは、右訴外人の売上によるものであり、原告の売上除外ではない。

(三) 新田愛

昭和三七乃至四〇年分を争う。

訴外新田愛の原告からの仕入記帳金額、原告の同訴外人に対する売上記帳金額及び右両金額に差異があることはいずれも認める。原告は同女に対する売上を正確に記帳していたものであり、売上除外をしていない。右の点は同女からの銀行振込による代金の支払状況と原告の売上記帳中の受入金額欄の記載とがほぼ全面的に符合していることから明らかである。これに対し同女は自己の所得税を免れるため仕入の水増しを行っていたものであり、原告に対しても右仕入の水増の協力を依頼してきたものである。

(四) 矢向繁雄

昭和三七乃至三九年の売上金額を争う。

訴外矢向繁雄の原告からの仕入記帳金額、原告の同訴外人に対する売上記帳金額、及び右両金額の差額はいずれも認める。しかし右は原告の売上除外によるものではない。原告は右訴外人に対し一旦前記仕入記帳額相当の売上をなした後、売上額の一部を右訴外人に対しリベートとして払い戻し、右リベート代金を差引いた金額を原告の売上帳簿に記帳したものである。従って原告の実質上の売上は右原告記帳額である。

(五) 架空名義預金

昭和三七乃至四〇年分につき争う。

(1) 原告が被告主張のとおり竹本真一郎名義で被告主張金額を預金したことは認めるが、右は売上除外によるものではない。

原告は江尻秋子、塚本勝、窪田正子名義で預金したことはない。

(2) 竹本真一郎名義の預金は次の事情によりなしたものである。

昭和三七乃至三九年分の普通預金について

原告は訴外有限会社魚徳とフグの売掛取引をなし同社振出の小切手で支払を受けていたところ、当時の同社社長福田精一(昭和三九年一一月五日死亡)とはごく親密な間柄であり、原告が同社にフグを納品すると社長個人から売上相当額の現金の立替交付を受けていた。そして右社長において同社の原告からの仕入金額に相当する同社振出小切手を受領し現金化して、右立替金を決済していたものである。右の実情から右社長は原告に対し、同社長が個人の立場から現金で魚徳の仕入金を支払っても、原告方では売上若しくは入金記帳をせず、代金支払期日に魚徳において小切手を振出す際記帳するように申し入れた。そこで原告は魚徳に対する売上については、右の趣旨にそった記帳をなすかたわら、右社長から受け取った現金を一時竹本真一郎名義で預金し、同社長が右立替金の決済をすませた段階において預金からとりくずしていったものである。以上のとおりで昭和三七乃至三九年の普通預金は結局すべて魚徳に対する売上であり、右魚徳に対する売上は別に売上として計上しているから、右架空名義預金を改めて売上除外とすることは不当である。昭和四〇年分の定期預金について

右は原告が訴外森中武一からの借入金六〇万円を一時右口座に預金したもので、売上とは関係がなく、売上除外をしたものではない。

(六) 東京店

昭和三九、四〇年の売上金額を争う。

東京店は原告とは経理上別個のものである。即ち東京店は、原告の娘婿である訴外大和正二が一切の経営を行い、同店の収益は全部同人に帰属するのであり、同人は右収益による所得について別途確定申告により所得税を納付している。なお銀行取引等の契約関係上原告が名義人となっているものであるが、右は原告の知名度信用度から相手方が望んだこともあって原告がこれをなしたものである。

(七) 大津屋

昭和四〇年のうち八一万五、四〇三円を争う。

大津屋はポン酢のメーカーでもあり、原告は同店に売上をなすかたわら同店からポン酢を仕入れていたものであるが、右売上、仕入を個別に記帳せず、仕入金額が売上を上回っているので仕入金額から売上金額を差引き相殺し、その残余の仕入高のみを立替金として計上していたものである。従って実際は仕入の計上漏れとなっている。

4  被告主張4項は争う。

昭和三八年の交際費は原告の計上したとおり一〇四万五、六一五円であり、そのうち五〇万円を否認される理由はない。

原告は昭和三八年中に大阪阪神百貨店並びに東京京王百貨店に出店を出すにつきその準備工作のため例年に比べて多大の交際費を費用消したのであり、むしろ原告申告の交際費は実際の支出金額を下回るのである。

5  財産増減法による計算の主張

本件は原告の所得につきいわゆる損益計算法に従い売上除外、経費否認の形で行なわれている。もし財産増減法により調査すれば当然原告は自らの資産において多大の増加をみていなければならない筈であるが、そのような現象を生じていない。被告はその調査権を利用して原告個人財産を全部調査して、昭和三七年乃至四〇年の間における財産増減を調査したが、その結果は別表九のとおりであり、原告に資産の増加はなかった。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一乃至四、第二号証の一乃至三、第三号証の一乃至四、第四、五号証の各一乃至四(第六号は欠番)、第七号証の一乃至三、第八号証の一乃至三一、第九号証の一乃至五七、第一〇号証の一乃至四、第一一号証の一乃至七九、第一二号証、第一三号証の一乃至三四、第一四号証の一乃至二二(第一五号は欠番)、第一六号証の一乃至四、第一七乃至二二号証(第二三号は欠番)、第二四号証の一乃至一二、第二五乃至二八号証

2  証人高田伸子、同丸田勉、同新田愛、同大和正二、同福田良美、同公山巌、同吉冨正輝、同下森貴代登、同片岡貞男、同矢向繁雄、原告本人

3  乙第一号証の二乃至四、同号証の六乃至一三、同号証の四〇乃至一〇五、第三八、三九号証の各一、二、第四〇号証の一乃至二一、第四一号証、第四七号証の一乃至四、第四八号証の一、二、第四九乃至五一号証の成立はいずれも不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一乃至四(枝番五は欠番)、同号証の六乃至一〇五、第二号証の一乃至一八、第三乃至一〇号証の各一乃至三、第一一、一二号証、第一三号証の一乃至五、第一四号証、第一五号証の一乃至二〇、第一六号証の一乃至八、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九号証の一乃至一三、第二〇、二一号証の各一乃至一四、第二二号証の一乃至三二、第二三号証の一、同号証の二の一乃至五、同号証の三乃至二七、第二四号証の一乃至一七、第二五号証の一乃至一八、第二六、二七号証の各一乃至一〇、第二八号証の一乃至七、第二九号証の一乃至九、第三〇乃至三三号証、第三四号証の一乃至三、第三五、三六号証、第三七乃至三九号証の各一、二、第四〇号証の一乃至二一、第四一乃至四六号証、第四七号証の一乃至四、第四八号証の一、二、第四九乃至五一号証

2  証人今村隆、同下森貴代登

3  甲第七号証の一乃至三、第八号証の一乃至三一、第一〇号証の一乃至四、第一一号証の一乃至七九、第一三号証の一乃至三四、第一四号証の一乃至二二、第一六号証の一乃至四、第一七乃至二二号証、第二五乃至二七号証の成立はいずれも不知、その余の甲号各証の成立(第二八号証については原本の存在及び成立とも)はこれを認める。

理由

一、 請求原因1、2項の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二、 被告主張3項の、原告による売上計上漏れの事実について検討する。

(一)  高島屋店関係

(1)  原告の高島屋店における売上額が別表四の調査額合計欄のとおりであることおよび原告の高島屋店に対する売上(高島屋店の原告からの仕入)額が右同表の原告記帳額欄のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。

(2)  原告は、これらの金額の差から高島屋店の経費を差引いて出る同店での純利益を原告本店に入金させて、現金売上の科目で計上してある旨主張する。

いずれも原告本人尋問の結果によって成立を認めうる甲第一四号証の一乃至二一(現金売上伝票)中には、昭和三八年一月乃至三月、同年一〇月乃至一二月について毎日の現金売上金額欄の記入と、これらが少額である場合を除きこれを一、五〇〇円下回る金額の摘要欄への記入とがなされているところ、右本人尋問の結果中には、右摘要欄の額が本店での売上であり、これと金額欄との差の中に高島屋店での純利益が含まれており、結局金額欄は本来の現金売上から見れば右純利益分だけ水増しされたもので、この金額欄の計算に基づいて右純利益を含む現金売上が計算申告されているとする部分がある。

しかしながら右本人尋問の結果中その余の部分によれば、原告においては高島屋店での純利益がいかなる勘定科目で原告の収益に計上されていたかを明確には把握していないことが明らかであり、かたわら右純利益を本店に持帰る場合、これが現金売上伝票の前記毎日の記載欄にどのように記入されたかを明らかにするに足る証拠はないので、右本人尋問の結果中の前記部分はたやすく措信できない。

他に原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

(3)  経費を見るに、いずれも成立に争いのない乙第一号証の二五、二六、三一、三二と証人今村隆の証言によれば、被告による調査に際し、原告申出にかかる項目およびその裏付資料を検討の上で算出された高島屋店における経費が別表四の経費欄記載のとおりであったことが認められる。なお、同店の高島屋百貨店に対して支払うべきいわゆる「ます」の使用料が経費とされるべきは当然であるが、原告において右認定の項目、資料を申し出るに際して格別これを取上げなかったこと右証言によって明らかであることに照せば、右使用料は高島屋店が高島屋百貨店の計理から売上金を受領するに際してすでに差引精算されていたものと推認される。

原告はポン酢の仕入価格を経費に計上すべき旨主張し、原告本人尋問の結果中には、高島屋店においてフグとあわせてセット売りするために原告から高島屋店に送るポン酢のほか、びん詰販売用に大津屋から高島屋店に直送されたポン酢があり、この仕入代金が被告主張の高島屋店関係経費に計上されていにいとする部分がある。

しかしながら右本人尋問の結果中その余の部分によれば、大津屋に対する支払いは高島屋店への直送分も原告においてこれをなし、高島屋店が支払いをしたことはないものと認められるところ、右原告による支払分の仕入関係が原告の帳簿に何等記載されることなく放置されたものとは考え難く、これらの点と右本人尋問の結果によって成立を認めうる甲第二〇号証、いずれも成立に争いのない乙第一号証の二六、三三乃至三五および証人今村の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告主張のポン酢仕入価格はすべて別表四の原告記帳額に組入計上されて、高島屋店の仕入額に算入されているものと認められる。

(二)  丸兼水産関係

(1)  丸兼水産株式会社の原告からの仕入額と、原告の同社に対する売上の記帳額との間に別表五差引除外金額欄相当の差のあることは当事者間に争いがない。

(2)  訴外勇次勝太郎と原告および丸兼水産との関係につき原告主張に副うものとして、原告本人尋問の結果およびこれによって成立を認めうる甲第二一号証がある。

しかしながら右本人尋問の結果によれば、甲第二一号証は原告側で本文を前以て作成記載した上で勇次に署名押印を求めたものにすぎず、またその文言自体よりして、勇次が原告名義を借りて丸兼水産に商品を売ったとする金額の明細が不明のままで作成されたものであることが明らかであるところ、これに対し証人今村の証言と弁論の全趣旨とによって成立を認めうる乙第三八号証の一、二によれば、勇次において甲第二一号証を作成後に被告側係官に対し、原告名義を借りて丸兼水産と取引したとの事実を具体的理由をあげて否定したことが認められる。また右証言および甲第二一号証の日付と弁論の全趣旨によれば、原告において勇次に名義を貸して丸兼水産と取引させた旨の被告側に対する主張が、本訴提起後甲第二一号証作成ののちに至ってはじめてなされたものであることが認められる。

これらの事実関係に照せば前掲原告本人尋問の結果および甲第二一号証は措信し難く、原告主張事実を認める証拠とするに足りない。他にこれを認めるに足る証拠はない。

(三)  新田愛関係

訴外新田愛の原告からの仕入記帳額、原告の同女に対する売上記帳額がそれぞれ別表六の一乃至四の新田愛欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第九号証の一乃至五七、同第二八号証、証人高田伸子の証言によって成立を認めうる同第一一号証の一乃至七九、証人公山巌の証言によって成立を認めうる同第二七号証と右各証人および証人新田愛の証言並びに原告本人尋問の結果によれば、訴外新田愛において自己の所得税を免れる目的で仕入の水増記帳を手許に残すため原告に依頼して、月々の原告からの仕入額を上回る額を示す書類を定期的に原告に送付してこれを仕入額(原告の同女への売上額)とすることの了解を求め、このようにして原告からの真実の仕入額を上回る仕入をしたように記帳を整えることにより自己の経費を形式上増大させ、右増大させた結果が別表六の一乃至四の前記仕入記帳額となったことが認められる。

新田愛において青色申告をし、そのための帳簿を整えていたことは同女の右証言によって明らかであるが、このことは右その余の証拠に照せば右認定を左右するに足りない。また証人今村の証言によれば、原告において被告側から調査された際には右認定事実の裏付書類を提示しなかったことが明らかであるが、右証言と原告本人尋問の結果によればこれは原告が得意先である同女の都合を考慮したためと認められるので、前記認定を妨げるものでない。その他右認定を左右するに足る証拠はない。

(四)  矢向繁雄関係

訴外矢向繁雄の原告からの仕入記帳額、原告の同人に対する売上記帳額がそれぞれ別表六の一乃至四の同人欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

証人矢向繁雄の証言および原告本人尋問の結果中には原告主張に副う趣旨の部分があるけれども、それ自体リベートの出捐時期、回数、各回金額についても不明確であり、前記当事者間に争いのない各記帳額の差がリベートとして算出されるに至るべき計算関係も明らかでないので、これらの証拠はいずれも措信難し難い。他に原告主張事実を認めるに足る証拠はない。

(五)  架空名義預金関係

(1)  成立に争いのない乙第一七号証によれば、別表七のうち竹本真一郎名義以外の名義による預金がすべて原告の預金であり、これらが原告の営業の売上金から預け入れられたものであることが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しない。

(2)  右竹本真一郎名義の預金が原告の預金であることは当事者間に争いがない。

いずれも証人公山の証言によって成立を認めうる甲第一三号証の一乃至三四、同第一六号証の一乃至四と右証言によれば、原告において訴外有限会社魚徳との間でこれにフグを売却する取引関係にあり、その売却代金の支払いにつき、魚徳において小切手を振出しの上、その現金化に必要な裏面受領印に同社社長が自己の印を押捺する扱いが多かったことが認められる。しかしながら魚徳社長福田精一との間で原告がその主張のような合意や現金のやりとりをし、或いは原告が昭和三七年乃至三九年の間この現金を右竹本名義の預金に入れたことについては、原告本人尋問の結果中これがあったとする部分は、双方のそのようにする必要性乃至合理性について首肯するに足るものが認められないのみか、証人公山の証言をあわせれば右甲号各証の魚徳からの入金の記載と右竹本名義預金通帳の記載とが原告の云うようなつながりで符合するものでないことが明らかであることに照して、措信できない。なお魚徳振出しの小切手に同社社長が受領印を押したのは小切手受領者の便宜のためにしたことと推認され、この押印の事実があるからといって、右のような事情のある本件においては右社長自ら小切手を現金化して原告主張のような取扱いをしたことを当然に推認すべきものとすることはできない。

原告は昭和四〇年の竹本名義六〇万円の預金が訴外森中からの借入金である旨主張するところ、この主張に副うものとして前掲乙第一七号証があるけれども、これによっても借入の理由、目的等は原告の説明し得ないところであることが明らかであり、弁論の全趣旨とあわせれば右同号証も原告の右主張を認める証拠とするに足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(六)  東京店関係

成立に争いのない乙第一号証の三九、いずれも公務員の職務上作成したものと認められることにより成立を認めうる右同号証の四〇乃至四二によれば、原告東京店における所得金額が別表八記載のとおりであることが認められる。

原告は東京店が訴外大和正二経営にかかる独立の企業であるとの趣旨の主張をし、証人大和正二の証言および原告本人尋問の結果中にはこの主張に副う部分がある。しかしながらこれら証拠中その余の部分、証人今村の証言並びに前掲乙第一号証の四一、四二およびいずれも成立に争いのない乙第二号証の一乃至九、同第三六号証によれば、次の事実が認められる。

すなわち、原告の娘婿大和正二においては昭和三九年原告東京店が京王百貨店内に開設されるに際してはじめて上京し、東京店の営業責任者となったが、当分の営業用経費二〇〇万円は原告の負担するところであり、大和において右百貨店との間の出店契約を原告名義で取交し、取引銀行の口座も原告名義を用い、納品書、請求書等も原告のものを使用し、屋号は中尾商店とし、同店の従業員として給与を受け、原告に営業成績を報告し、かたわら他の従業員の雇人および給与については大和自らの責任で決定していたもので、昭和四一年一〇月東京店が法人化された際も社長の地位は原告が占め、大和は一取締役にすぎず自己の出資額がいかにして支弁されたかも知らない状況であった。また右法人化するに当ってもとの個人企業から大和に退職金の支払いがなされた。

これらの事実に照せば大和においては原告東京店の支配人的地位にあったにとどまり、同人がこれを独立して経営していたものでないことが認められる。なお同人が昭和四〇年東京店の営業所得を自己のものとして確定申告したことは前掲各証拠によって明らかであるが、前掲大和の証言によれば、同人において税金関係の処理を税理士に一任していたため、原告と東京店乃至大和との関係に明るくない税理士の手によって右申告手続が進められたものと認められるので、右事実は大和を独立経営者と認める証拠とするに足りない。他に東京店の収益が大和に帰すべき事情を認めるに足る証拠はない。

(七)  大津屋関係

大津屋との昭和四〇年のポン酢の取引に関し原告が仕入の一部を立替金の科目中に記帳していたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第一号証の二〇、二三、同第一六号証の一乃至八、同第二四号証の二と証人今村の証言によれば、原告において立替金の科目で記帳した金額が七六万六、四五〇円であったが、他方大津屋の同年の原告に対する売上が一四九万六、七一〇円であり、これに対応すべき原告の買掛額については七七万九、三一〇円のみが記帳され、その余は右立替金の科目に計上されていたことが認められる。

右事実によれば、大津屋の売上と原告の買掛記帳との差七一万七、四〇〇円は立替金科目に含まれる現実仕入額として仕入額に加算されるべきであり、またこれに対応して仕入分の販売による売上のあったことが推認されるので、対応売上額を売上に加算すべきである。弁論の全趣旨に照して被告主張の加算額相当の売上のあったことが推認され、原告本人尋問の結果中この点に関する部分はたやすく措信できない。他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。

三、 被告主張4項の、原告による経費過大計上の事実について検討する。

いずれも成立に争いのない乙第二二号証の一乃至五と原告本人尋問の結果によれば、原告において昭和三八年の収支計算をするに当り各月別に応接接待費を計算して合計額二四万五、六一五円を計上しながら、特段の事由を明らかにすることなくこれに二〇万円を加算し、更に別途に同年五月の交際費として二〇万円、一二月分として三〇万円を計上し、これらの総計を一〇四万五、六一五円として申告(この申告額は原告の違算により一〇万円だけ過大)したところ、このうち右加算の二〇万円と一二月分三〇万円とを否認されたものであることが明らかである。

ところで証人今村の証言によれば、原告の右計上額は前年のほぼ二倍に相当するものであり、このため今村において調査に際し原告にその使途を尋ね、ことに京王百貨店および阪神百貨店に出店するにつき費消した事実がありはしないかを問いただしたが、原告においてこれら百貨店の関係での費消を否定し、その他使途を明らかにしなかったことが認められる。

これに対し原告本人尋問の結果中には、百貨店に出店できるよう運動するなどのために申告どおり乃至それ以上の費用を要したとする部分がある。しかしながら、右調査を受けた際に費消を否定しまた使途を明らかにしなかったについて、首肯するに足る特段の事情を認めるべき証拠はなく、現実の具体的費消の事実を認めるに足る証拠もないので、原告本人尋問の結果中の右部分は措信し難い。

一方原告の計上した五月分の交際費二〇万円が、原告の当時の営業をめぐる諸般の事情を勘案して特に否認されることなく、経費として認められたことは前掲各証拠と弁論の全趣旨に照して明らかである。

以上の事実関係によれば、原告の交際費についての主張事実はこれを認めることができず、被告主張の五〇万円については経費として支出されたことはなかったものと推認される。

四、 原告は財産増減法による計算を主張するけれども、上掲各証拠と弁論の全趣旨に照せば、本件については反面調査の結果を含む直接的資料によって収入額と経費とが認定できたものであることが明らかであるから、原告主張の方法によって所得を推計するのを相当とすべき場合に当らない。原告の右主張は理由がない。

五、 以上によれば原告の請求は、広島国税局長による裁決後に残る被告の更正処分の総所得額中、前記第二項(三)の新田愛に対する売上漏れ額相当の額を争う限度で理由があり、その余は理由がない。

別表一の広島国税局長裁決是認欄の各金額から別表三の新田愛欄の各金額を差引算出すれば、昭和三七年分四九九万〇、九九七円、昭和三八年分九五八万八、五四〇円、昭和三九年分三三二万七、一一〇円、昭和四〇年分七四四万二、〇三七円である。

よって前記更正処分中右算出額をこえる部分をそれぞれ取消し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横畠典夫 裁判官 杉本順市 裁判官柴田秀樹は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 横畠典夫)

別表一

<省略>

別表二の一

三七年 度

<省略>

別表二の二

三八年 度

<省略>

別表二の三

三九年 度

<省略>

別表二の四

四〇年 度

<省略>

別表三

<省略>

別表四

高島屋における売上金額等の明細

<省略>

別表五

丸兼水産株式会社に対する売上金額等の明細

<省略>

別表六の一

昭和三七年分

<省略>

別表六の二

昭和三八年分

<省略>

別表六の三

昭和三九年分

<省略>

別表六の四

昭和四〇年分

<省略>

別表七

架空名義預金の明細

<省略>

別表八(東京店)

<省略>

別表九

<省略>

<省略>

以上、資産増加額 八八一万九、八三六円

負債増加額 一、九〇八万八、四五九円

差引純資産減少額 一、〇二六万八、六二三円

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