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山口地方裁判所 昭和32年(行)5号 判決 1959年4月27日

原告 琴崎信夫

被告 国

補助参加人 坪郷直栄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が防府市大字三田尻村字地蔵千二百八十八番の二宅地九十坪につき昭和二十二年七月二日付でなした農地買収処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

請求の原因として、

(一)  被告は、昭和二十二年七月二日、自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分として防府市大字三田尻村字地蔵千二百八十八番の二宅地九十坪(以下本件土地と略称する)を佐田直稔より買収した。

(二)  しかし、本件土地は、本件買収当時自作農創設特別措置法に謂う農地ではなく宅地であつたもので、しかも、本件土地はもと佐田直稔の所有地であつたが、昭和十八年七月七日、佐田源治に売渡されて同二十一年十月九日右売買を原因とする所有権移転登記がなされ、同二十二年三月十一日佐田源治から中西博に売渡されて同日右売買を原因とする所有権移転登記がなされ、本件買収当時は中西博の所有に属していたのであるから、本件買収処分は農地でない宅地を対象とし、しかも所有者でない者を買収の相手方としてなした瑕疵があるから無効である。

(三)  本件土地については、本件買収処分とは別個に、昭和二十二年八月十二日中西博より原告に、同月十九日原告より佐田源治に、同年十二月五日佐田源治より原告に、同二十五年九月二日原告より中西博に、同三十一年四月十八日中西博より原告に、順次売渡されて各所有権移転登記を了し、結局原告が本件土地の所有権を取得するに至つたので、原告は本件土地に対する法律的地位の不安を除くため本訴提起に及んだのである。

と述べ、

被告及び被告補助参加人の抗弁に対し、

(一)  請求原因(二)記載の佐田直稔佐田源治間、佐田源治中西博間の各売買が仮装売買であるとの主張は否認する。

(二)  原告が本件土地を買受けるためなした各売買につき県知事の許可を受けなかつたことは認めるが、本件土地は農地でないから売買に県知事の許可を要しない。

(三)  被告が自作農創設特別措置法に基づく農地売渡処分として本件土地を坪郷栄之助に売渡したこと、同人死後同人を相続した被告補助参加人より山口地方裁判所に原告を相手として本件土地に対する所有権確認等を求める訴が提起され訴訟繋属中であることは認めるが、原告は、右訴訟において勝訴するためにも先決問題として本件農地買収処分の無効確認を求める必要があるところ、一般の民事事件に行政事件を併合して審理することは許されないから、原告としては右訴訟と別個に本訴を提起する利益を有するものである。

と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、

答弁として、原告主張事実中その(一)記載の事実及び同(二)(三)記載の事実中原告主張の日時に原告主張のような登記がなされた事実は認めるが、その余の主張事実は否認する。本件土地は、本件買収処分当時佐田直稔の所有に属する農地で坪郷栄之助が小作していたものであり、被告は自作農創設特別措置法第三条第二項に則り買収をなしたのであるから、本件買収処分には原告の主張するような瑕疵はない。

原告主張事実(二)記載の佐田直稔佐田源治間及び佐田源治中西博間の各売買はいづれも仮装売買で無効であるから、本件買収処分当時における本件土地の所有者は佐田直稔であつて中西博ではない。

又、本件土地は農地であるから、(尤も昭和三十一年四月二十七日以降は原告が、所有者である被告補助参加人に無断で耕作物を抜き取りバラツクを建てて本件土地を不法に占有している。)その所有権移転については県知事の許可を要するところ、原告が本件土地を買受けるためなした各売買については県知事の許可を受けていないので原告は本件土地所有権を取得するに至らず本件請求につき訴の利益を有しない。

とべ、

(立証省略)

被告補助参加訴訟代理人は、原告は本件請求について訴の利益を有しない。すなわち、

(一)  本件土地は昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法に基づく農地売渡処分として小作人坪郷栄之進に売渡され、同人死亡後は相続により被告補助参加人の所有に帰したのであるが、本件土地所有権の帰属については、既に、被告補助参加人より原告を相手として山口地方裁判所に本件土地所有権の確認等を求める訴が提起され、現在右訴訟繋属中であるから、原告は本件土地に対する法律上の地位を主張するのであれば、右別件の訴訟においてその地位の主張立証に努めれば足り別個に本訴を提起する必要はない。

(二)  又、右農地売渡処分後既に十一年以上を経過しているのであるから、仮に、被告のなした本件買収処分の無効であることが確認されたとしても、行政制度の精神から見て、被告は既に右売渡処分の取消権を失い取消処分をなすことは許されないと解すべきであり、被告補助参加人の本件土地所有権者たる地位を動かし得ない以上原告には本訴提起の利益が存しない。

(三)  仮に、右売渡処分の取消が許されるとしても、坪郷栄之助は本件土地の売渡を受けた昭和二十二年七月二日善意で過失なく本件土地の占有を始め、昭和三十年五月八日死亡するまで所有の意思をもつて平穏且公然に占有を続け、同人死亡後は、同人を相続した被告補助参加人が善意で過失なく右栄之進の占有を承継し、所有の意思をもつて平穏且公然に占有を続け、昭和三十二年七月二日をもつて取得時効期間経過により本件土地所有権を取得したものであるから、結局被告補助参加人が本件土地所有権を有することは動かし得ず原告は本訴提起の利益を有しない

と述べた。

(立証省略)

理由

被告及び被告補助参加人の、原告は本訴につき訴提起の利益を有しないとの抗弁につき判断する。

(一)  補助参加人主張事実(一)について、被告が昭和二十二年七月二日自作農創設特別措置法に基づく農地売渡処分として本件土地を坪郷栄之進に売渡し、同人死亡後被告補助参加人が同人を相続したこと及び被告補助参加人より原告を相手として山口地方裁判所に本件土地所有権の確認等を求める訴が提起され訴訟繋属中であることは当事者間に争がない。しかしながらかりに右訴訟において原告が本件費収処分の無効を主張して勝訴したとしても判決の既判力の及ぶ範囲は被告と補助参加人との間に限られるから、原告としては、被告が本件買収処分の有効を主張して原告の所有権を否定する以上、被告に対する関係では尚本件土地に対する法律的地位の不安を除く必要があるので、右別件の訴が存在する故を以て本訴提起の利益がないということはできない。

(二)  補助参加人主張事実(二)について、本件土地について農地売渡処分が行なわれて以来既に十一年以上を経過しているとしてもその前提となる本件係争の農地買収処分が無効であつて、本件土地が国に帰属したことがないとすれば右売渡処分は右買収処分の無効を確認する判決の確定によつて決定的な影響を受けることなきを保し難い。さすれば右売渡処分後長年月を経過した事実の故のみを以て本訴提起の利益がないということはできない。

(三)  補助参加人主張事実(三)について、被告補助参加人は本件土地の時効取得を主張するが昭和三十一年四月二十七日以降被告補助参加人が本件土地の占有を奪われ占有を失つていることは被告の自認するところであるから、右時効完成の主張が認められないことは明らかである。

(四)  しかし、成立に争のない乙第一、四号証、証人岡田政次、同中島清次、同田中外一、同渡辺貞一、同坪郷すゑの各証言及び当裁判所の検証の結果を綜合すれば、本件土地は嘗て水田として耕作されたこともあつたが、昭和四年頃から坪郷栄之進が借り受け妻坪郷すゑと共に野菜畑を作つて耕作していたこと、坪郷栄之進及び妻すえは本件土地に自家消費に充ててなお余りあるある程度の野菜類を栽培していたのであるが、戦時中を経て戦後昭和三十一年四月に至るまで長期間にわたつて継続的に耕作を続けていたこと、昭和二十年ないし二十一年頃、防府市農地委員会が農地買収のため本件土地の現況を調査した際には、本件土地はその北外れの一坪位の小屋が存する外すべて手入れされた畑として芋、豆、菜等が栽培され、現況上農地と認定するのに何等疑問の抱かれない状態であつたこと、現在本件土地は住宅地と水田に狭まれ、バラツク住宅、豚小屋が建ち、一分が畑となつているが、右バラツク住宅と豚小屋は昭和三十一年四月以降の建築に係るもので、少なくとも終戦後右時期までの間は本件土地が建物の敷地その他耕作以外の目的のため使用された事実のなかつたことを肯認し得る。本件土地の戦前における状態につき、証人浜田常一は昭和六、七年頃から同十四年頃まで本件土地と隣地に跨つて薄板製造工場が建設されていた旨証言し、証人中島清次、同佐々木信雄も略これに副う趣旨の証言をなしているが、右各証言は証人岡田政次、同坪郷すゑの各証言に対比して直ちに真実とは断じ難く、その他、証人浜田常一、同中島清次、同佐々木信雄の各証言及び原告琴崎信夫本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し得ず、他に右認定を左右するに足る反証はない。右認定に係る本件買収時及びその前後における本件土地の利用状況等から判断するに、本件土地は本来宅地として使用さるべきものが一時的な休閑地利用のため耕作に供されていたものではなく、耕作の目的に供される土地として農地調整法及び農地法に謂う農地に該当すると解するのが相当である。さすれば、原告が本件土地所有権取得のためなした各売買について農地調整法及び農地法所定の県知事の許可を受けていないことは原告の自ら認めるところであるから右各売買はその効力を生ぜず、原告は本件土地の所有権を取得しなかつたものといわなければならない。してみれば原告は本件請求につき訴の利益を有しないことが明かであるから、爾余の争点について判断するまでもなく原告の請求は失当であり棄却を免れない。

よつて、民事訴訟法第八十九条により訴訟費用は原告の負担と定め、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒川四海 五十部一夫 高橋正之)

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