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富山家庭裁判所 昭和62年(家)947号 審判 1988年2月24日

申立人 高山良司

高山佳子

主文

本件申立てを却下する。

理由

第一申立ての趣旨

申立人らの氏「高山」を「髙山」と変更することの許可を求める。

第二申立ての実情

申立人らは永年髙山を使用してきており、高山では養子にされたような気分になる。また、不動産の登記簿謄本や生命保険契約上は髙山となつており、申立人良司の勤務先会社でも髙山を使用しており、高山を使用されると種々不便である。また、申立人らの戸籍上の氏はもともと髙山であると信じていたし、先祖の戸籍は髙山となつている。

第三当裁判所の判断

1  本件記録及び申立人両名審問の結果によると、

(1)  申立人高山良司は、昭和39年11月7日申立人高山(旧姓小森)佳子と婚姻の届出をし、その間に長男保男(昭和40年9月25日生)及び二男竜男(昭和43年5月6日生)を儲けていること。

(2)  申立人高山良司は、幼少時から同申立人の氏は「髙山」だと言われ、小学校入学以来「髙山」姓を使用し、現在まで日常生活面でも勤務先である会社でもこれを使用していること(ただし、健康保険被保険者証や不動産登記済権利書では「高山良司」と記載されている。)。

(3)  申立人高山佳子は、婚姻以来日常生活面では「髙山」を使用しているが、勤務先では「高山」を使用していること。

(4)  申立人高山良司の祖母(父秀夫の養母)である髙山ふみが戸主であつた昭和3年5月当時、更に父秀夫が家督相続をした同年5月18日当時までは「髙山」姓となつていたことは戸籍上明らかであるが、その後の改製原戸籍及び昭和32年法務省令第27号により昭和33年4月22日改製につき昭和36年11月20日編製された父秀夫を戸籍筆頭者とする戸籍では、いずれも「高山」姓となつていること。

以上の各事実が認められ、他に上記認定を覆えすに足る資料は見当らない。

2  上記認定の事実に照らすと、申立人らの先祖は「髙山」姓であつたことは明らかであるが、その後申立人良司の父秀夫の代になつてからは、戸籍上一貫して正字の「高山」姓に表示されており、現在まで長期にわたり公示された経緯があるものといえる。

3  ところで、申立人らが氏の変更を求める「髙山」の「髙」なる文字は、康熙字典の原字にもなく、誤字又は俗字に該当し「高」が正字であることは当裁判所にも顕著な事実である。

氏又は名に用いる文字の取扱いに関して戸籍法及び同法施行規則に直接的規定は存在しないものの、戸籍の記載が正しい文字でなされるべきものであることは、ある意味では自明のことともいえ、戸籍法施行規則31条1項もこのことを当然の前提としているともいえる(ちなみに、子の名に用いる文字については、戸籍法50条、同法施行規則60条の規定が存する。)。

4  本件では、もともと戸籍上誤字ないし俗字を用いて氏の記載がなされていたところ、過去のある時点で前記認定のように正字に改められているが、これが申立人良司が陳述するように移記の際の誤記によるものとは認めることは困難である。

更に、申立てのように誤字ないし俗字の氏に変更する利益は、申立人ら(特に申立人良司)の主観的利益にとどまり、実益にも乏しいものといわざるを得ない。すなわち、「高山」と「髙山」とは発音上同一であり、漢字としてわずかに「口」と「日」の骨組の相違にとどまり、第三者からみれば殆どその区別を意識しない程度のものに過ぎないと認むべきである。

してみると、申立人らにおいて今後戸籍上の「高山」をあらためて使用したとしても社会生活上同一性の認識その他においてなんら不便を感ずることがないであろうことは十分に推認できる。

5  よつて、申立人らの本件申立ては、戸籍法107条1項に定める氏変更の「やむを得ない事由」に該当しないのでこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大山貞雄)

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