大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山家庭裁判所 昭和44年(家)256号 審判 1969年6月13日

申立人 梨本否子(仮名) 昭二八・四・二二生

右申立人法定代理人親権者父 梨本博(仮名)

〃 母 梨本ゆき(仮名)

主文

愛知県知多郡○○町役場備付

本籍愛知県知多郡○○町○○○字○○△△番地、筆頭者梨本博の戸籍中二女「否子」とあるを「杏子」と訂正することを許可する。

理由

申立人は、主文同旨の審判を求め、その理由の要旨として、申立人は、昭和二八年四月二二日出生し、父梨本博が、同年五月四日○○村役場(現在富山市役所○○支所)に、二子杏子として届出、同役場が、その儘受付けたので戸籍簿に杏子として記載されているものと思い、爾来杏子名を使用して現在に至つているものであるところ、最近取寄せた戸籍謄本によると、申立人の名は杏子でなく、否子として記載されていることを発見し、所轄届出役場に照会したところ、届出役場では、出生届を受理した後「杏」なる当用漢字がないとの理由のもとに、申立人に何等の連絡することなく、勝手に杏子を否子に訂正したうえ、本籍役場に送付して戸籍簿に記載したものであることが判明した。申立人は今後当初父の名づけた杏子を使用してゆきたいので、否子とある戸籍名の記載を杏子に訂正することを許可せられたいというにある。

取寄せに係る申立人の父梨本博から昭和二八年五月四日附○○村長宛に提出せられた出生届の謄本、同謄本に貼付されている愛知県知多郡○○町役場の符箋によれば、当初出生届に梨本杏子として○○村役場(現富山市役所○○支所)に届出られたのを、同役場がそのまま受理したうえ、これを本籍の愛知県知多郡○○町役場に送付したところ、同役場において、当用漢字にないことを発見して、受理役場に対し再調査されたい旨の符箋をつけて返戻されたのを、受理役場の戸籍吏が、届出人に何等連絡して補正させることなく戸籍吏の独断で否子として受理された如く符箋を付して、本籍役場に再送付したため、否子として戸籍簿に記載されるに至つたことが明白である。

ところで、戸籍役場に出生届が出された場合、戸籍吏において、該出生届に当用漢字でない字が記載されている場合、これを受理すべきでないのを過誤により受理して受附簿に記載した後、当用漢字にないことを発見したのであるから、すくなくとも届出人に対して補正させる方法を採るべきであつたのを採らないで、戸籍吏の独断で否子と訂正したうえ、戸籍簿に記載されるに至つたものであること、申立人において、上記の事実を知ることなく、出生以来今日まで一六年間も杏子名を日常使用して現在に至つていること、又否子なる文字自体人名にふさわしくない極めて珍奇な名であること等の点から、かりに戸籍法第五〇条、戸籍法施行規則第六〇条の法意からして当用漢字にない漢字の名を戸籍簿に記載すべきでないにしても、以上諸般の事情にかんがみ、届出書を一旦受理したのであるから、そのまま戸籍簿に記載するのが相当と認められるので、戸籍法第一一三条を適用して、主文のとおり審判する。

(家事審判官 神野栄一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例