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富山地方裁判所 昭和58年(行ウ)2号 判決 1990年3月23日

富山市中市一八番地

原告

遠藤宏

右訴訟代理人弁護士

葦名元夫

富山市丸の内一の五の一三

被告

富山税務署長

田畑勤

右指定代理人

鳥居康弘

二和田将弘

西川義忠

小谷秀範

大場錦司

山本清

今村勉

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和五四年七月九日、原告の昭和五一年ないし昭和五三年分の所得税についてした各更正及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分等の経緯

原告は、洋服製造販売及び洋品雑貨販売を業とし、いわゆる白色申告をしていた者である。

しかして、昭和五一ないし昭和五三年の各年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定(以下、右各更正を「本件各処分」と、右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」という。)及び国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表一ないし三記載のとおりである。

2  本件各処分の違法事由

(一) 被告は、事前通告なくして臨店し、調査の理由を開示せず、原告の提示した資料等を無視し、一方かつ無差別な反面調査を行う等、本件各処分に至る手続きには違法があるから、これを前提とした本件各処分及び本件各決定は違法である。

(二) 被告がした本件各処分(いずれも審査裁決により維持された部分。以下同じ。)のうち、各確定申告に係る所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また本件各処分を前提としてなされた本件各決定も違法である。

よつて、原告は、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  本件調査手続きの適法性について

所得税法二三四条一項に定める質問検査権の行使については、個別的、具体的な調査事由を開示することは要件とされておらないし、本件においては2に述べるとおり、調査担当職員は、原告に対し、「原告の所得税について相当期間調査がされておらず、事業規模等からみても確定申告書に記載されている所得金額が適正に申告されているかどうか確認する必要がある。」と調査理由を開示して調査への協力を要請しており、この点に関する原告の主張は失当である。

2  本件各処分における推計の必要性について

(一) 原告の事業内容

原告は昭和五一年ないし同五三年当時、富山市安住町九番一号において、「五番館」と称する店舗を、また富山県庁において売店を設けて、男子注文服製造小売、男子既製服小売及び洋品雑貨小売を営んでいた者である。

(二) 本件各処分に至る経緯

(1) 被告は、原告から提出された昭和五一年分ないし同五三年分(以下「本件係争各年分」という。)の各所得税の確定申告書を検討したところ、右各申告書には、いずれも事業所得の金額につき専従者控除額及び所得金額のみが記載され、その金額の計算根拠となる収入金額及び必要経費の記載がなかつたことから、本件係争各年分とも、事業所得の金額の算出根拠が不明であつて、原告が申告した事業所得の金額の適否を確認することができなかった。

しかも、原告は昭和五一年に前記「五番館」の店舗を改装したこと及び原告の店舗の広さ、商品展示量等の事業規模からみても、原告申告の事業所得の金額は本件各係争年分とも過少であると推認され、また原告の所得税については相当期間調査を行つていないことから、原告の本件各係争年分の所得税調査を行う必要があると判断し、以下のとおり調査を行った。

(2) 昭和五二年一一月二日から同五四年六月一九日までの間、調査担当職員(以下「係官」という。)が、三〇回余にわたり原告と折衝し、そのうち十数回は原告方に赴いて実地調査を行つた。

その際、原告が調査理由の開示を求めたため、係官は、「原告の所得税については、相当期間調査がされておらず、事業規模からみて、確定申告されているかどうか確認する必要があるためである。」旨説明し、原告の本件係争各年分の事業に関する帳簿書類の提示を求め、調査への協力を要請したが、原告はこれに応じることなく、僅かに仕入先名を符号で表示している昭和五一年分の仕入先に関する集計表、注文服の注文票綴り及び外注帳を一回提示したのみで、その他の関係帳簿書類を提示しないばかりか、「申告したことにより納税義務が完了しているのになぜ調査に来るのか。具体的な調査理由を開示せよ。」と繰り返し述べるのみで、申告額を正当とする具体的な説明をせず、調査に協力しなかった。

かかる状況から、被告は本件係争各年分の原告の事業所得の金額を実額で把握することができなかつたので、被告は原告の取引先等につき、可能な限り調査を行い、その結果を基礎として推計により本件各係争年分の原告の事業所得の金額を算定したところ、各年分とも過少申告と判明したため、本件各処分及び本件各決定を行った。

3  原告の総所得金額について

本件係争各年分の原告の総所得金額は、いずれも事業所得金額であり、以下に述べるとおり、昭和五一年分が五三三万七六〇四円、同五二年分が七一二万三九四五円、同五三年分が九六二万八五七一円であるから、被告が右各金額の範囲内で行った本件各処分及びこれを前提とする本件各決定はいずれも適法である。

(一) 昭和五一年分の事業所得金額の算定根拠

昭和五一年分の原告の事業所得金額の算定根拠は次のとおりである(別紙1「事業所得金額の計算表」参照)。

(1) 総収入金額

右金額は、後記(2)の昭和五一年分の原告の男子注文服製造小売における売上原価六九八万四九九八円、男子既製服小売における売上原価五八四万七二三〇円及び洋品雑貨小売における売上原価四〇三万六八八五円に対し、後記(3)の売上原価率(男子注文服製造小売における売上原価率二七・九六パーセント、男子既製服小売における売上原価率六八・七六パーセント、洋品雑貨小売における売上原価率七五.八八パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における総収入金額 二四九八万二一一〇円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

6,984,998円÷27.96%=24,982,110円

<2> 男子既製服小売における総収入金額 八五〇万三八四二円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

5,847,230円÷68.76%=8,503,824円

<3> 洋品雑貨小売における総収入金額 五三二万〇〇九〇円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

4,036,885円÷75.88%=5,320,090円

<4> 合計 三八八〇万六〇二四円

(2) 売上原価 一六八六万九一一三円

内訳

<1> 男子注文服製造小売における売上原価 六九八万四九九八円

<2> 男子既製服小売における売上原価 五八四万七二三〇円

<3> 洋品雑貨小売における売上原価 四〇三万六八八五円

<4> 合計 一六八六万九一一三円

右金額は、被告が調査により把握した昭和五一年分の原告の仕入金額の合計額であり、これを同年分における原告の売上原価とみなした(原処分から異議申立てに至つても、原告から係争各年分の年首、年末の商品棚卸高を算定するに足りる証拠書類が提出されなかつたため、原告の係争各年分の年首、年末の商品棚卸高をいずれも同額と認めた。以下同じ。)ものである。

(3) 売上原価率

<1> 男子注文服製造小売における売上原価率 二七・九六パーセント

<2> 男子既製服小売における売上原価率 六八・七六パーセント

<3> 洋品雑貨小売における売上原価率 七五・八八パーセント

右各売上原価率は、原告と同種の各事業を営む青色申告の個人事業者で、後記4に掲げる選定基準に該当する者(以下、単に「同業者」という。)の課税事績を基に別紙2「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五一年分における原告の売上原価率とみなしたものである。

(4) 経費 一五七九万九三〇七円

右金額は、前記(1)の昭和五一年分の原告の男子注文服製造小売における総収入金額二四九八万二一一〇円、男子既製服小売における総収入金額八五〇万三八四二円及び洋品雑貨小売における総収入金額五三二万〇〇九〇円に対し、後記(5)の経費率(男子注文服製造小売における経費率五三・九三パーセント、男子既製服小売における経費率二一・九九パーセント、洋品雑貨小売における経費率八・五パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における経費 一三四七万二八五二円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

24,982,110円×53.93%=13,472,852円

<2> 男子既製服小売における経費 一八六万九九九一円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

8,503,824円×21.99%=1,869,991円

<3> 洋品雑貨小売における経費 四五万六四六四円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

5,320,090円×8.58%=456,464円

<4> 合計 一五七九万九三〇七円

(5) 経費率

<1> 男子注文服製造小売における経費率 五三・九三パーセント

<2> 男子既製服小売における経費率 二一・九九パーセント

<3> 洋品雑貨小売における経費率 八・五八パーセント

右各経費率は、前記(3)の同業者の課税事績を基に別紙2「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五一年分における原告の経費率などとみなしたものである。

(6) 事業専従者控除額 八〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻遠藤美佐子及び長女遠藤憲子にかかる事業専従者控除額であり、原告の申告額である。

(7) 事業所得金額 五三三万七六〇四円

右金額は、(1)総収入金額から(2)売上原価(4)経費及び(6)事業専従者控除額を控除したものである。

(二) 昭和五二年分の事業所得金額の算定根拠

昭和五二年分の事業所得金額の算定根拠は次のとおりである(別紙1「事業所得金額の計算表」参照)。

(1) 総収入金額 四七二七万九五三二円

右金額は、後記(2)の昭和五二年分の原告の男子注文服製造小売における売上原価八〇四万五三七六円、男子既製服小売における売上原価五七九万五八三〇円及び洋品雑貨小売における売上原価五七九万五八三〇円に対し、後記(3)の売上原価率(男子注文服製造小売における売上原価率二六・九一パーセント、男子既製服小売における売原価率六六・三〇パーセント、洋品雑貨小売における売上原価率七四・九九パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における総収入金額 二九八九万七三四七円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

8,045,376円÷26.91%=29,897,347円

<2> 男子既製服小売における総収入金額 八七四万一八二五円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

5,795,830円÷66.30%=8,741,825円

<3> 洋品雑貨小売における総収入金額 八六四万〇三六〇円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

6,479,406円÷74.99%=8,640,360円

<4> 合計 四七二七万九五三円

(2) 売上原価 二〇三二万〇六一二円

内訳

<1> 男子注文服製造小売における売上原価 八〇四万五三七六円

<2> 男子既製服小売における売上原価 五七九万五八三〇円

<3> 洋品雑貨小売における売上原価 六四七万九四〇六円

<4> 合計 二〇三二万〇六一二円

右金額は、被告が調査により把握した昭和五二年分の原告の仕入金額の合計額であり、これを同年分における原告の売上原価とみなしたものである。

(3) 売上原価率

<1> 男子注文服製造小売における売上原価率 二六・九一パーセント

<2> 男子既製服小売における売上原価率 六六・三〇パーセント

<3> 洋品雑貨小売における売上原価率 七四・九九パーセント

右各売上原価率は、前記(一)の(3)の同業者の課税事績を基に別紙3「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五二年分における原告の売上原価率とみなしたものである。

(4) 経費 一九〇三万四九七五円

右金額は、前記(1)の昭和五二年分の原告の男子注文服製造小売における総収入金額二九八九万七三四七円、男子既製服小売における総収入金額八七四万一八二五円及び洋品雑貨小売における総収入金額八七四万一八二五円に対し、後記(5)の経費率(男子注文服製造小売における経費率五三・八九パーセント、男子既製服小売における経費率二四・一〇パーセント、洋品雑貨小売における経費率九・四五パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における経費 一六一一万一六八一円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

29,897,347円×53.89%=16,111,681円

<2> 男子既製服小売における経費 二一〇万六七八〇円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

8,741,825円×24.10%=2,106,780円

<3> 洋品雑貨小売における経費 八一万六五一四円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

8,640,360円×9.45%=816,514円

<4> 合計 一九〇三万四九七五円

(5) 経費率

<1> 男子注文服製造小売における経費率 五三・八九パーセント

<2> 男子既製服小売における経費率 二四・一〇パーセント

<3> 洋品雑貨小売における経費率 九・四五パーセント

右各経費率は、前記(一)の(3)の同業者の課税事積を基に別紙3「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五二年分における原告の経費率とみなしたものである。

(6) 事業専従者控除額 八〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻遠藤美佐子及び長女遠藤憲子にかかる事業専従者控除額であり、原告の申告額である。

(7) 事業所得金額 七一二万三九四五円

右金額は、(1)総収入金額から(2)売上原価(4)経費及び(6)事業専従者控除額を控除したものである。

(三) 昭和五三年分事業所得金額の算定根拠は、次のとおりである(別紙1「事業所得金額の計算表」参照)。

(1) 総収入金額 五九二八万三八六八円

右金額は、後記(2)の昭和五三年分の原告の男子注文服製造小売における売上原価一一六二万四四八五円、男子既製服小売における売上原価四一〇万八一四〇円、及び洋品雑貨小売における売上原価八一一万〇九〇一円に対し、後記(3)の売上原価率(男子注文服製造小売における売上原価率二七・三六パーセント、男子既製服小売における売上原価率六六・一三パーセント、洋品雑貨小売における売上原価率七六・六三パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における総収入金額 四二四八万七一五二円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

11,624,485円÷27.36%=42,487,152円

<2> 男子既製服小売における総収入金額 六二一万二二一八円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

4,108,140円÷66.13%=6,212,218円

<3> 洋品雑貨小売における総収入額 一〇五八万四四九八円

(算式)

(売上原価) (売上原価率) (総収入金額)

8,110,901円÷76.63%=10,584,498円

<4> 合計 五九二八万三八六八円

(2) 売上原価 二三八四万三五二六円

内訳

<1> 男子注文服製造小売における売上原価 一一六二万四四八五円

<2> 男子既製服小売における売上原価 四一〇万八一四〇円

<3> 洋品雑貨小売における売上原価 八一一万〇九〇一円

<4> 合計 二三八四万三五二六円

右金額は、被告が調査により把握した昭和五三年分の原告の仕入金額の合計額であり、これを同年分における原告の売上原価とみなしたものである。

(3) 売上原価率

<1> 男子注文服製造小売における売上原価率 二七・三六パーセント

<2> 男子既製服小売における売上原価率 六六・一三パーセント

<3> 洋品雑貨小売における売上原価率 七六・六三パーセント

右各売上原価率は、前記(一)の(3)の同業者の課税事績を基に別紙4「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五三年分における原告の売上原価率とみなしたものである。

(4) 経費

右金額は、前記(1)の昭和五三年分の原告の男子注文服製造小売における総収入金額四二四八万七一五二円、男子既製服小売における総収入金額六二一万二二一八円及び洋品雑貨小売における総収入金額一〇五八万四四九八円に対し、後記(5)の経費率(男子注文服製造小売における経費率五三.五〇パーセント、男子既製服小売における経費率二一.八八パーセント、洋品雑貨小売における経費率八.七パーセント)をそれぞれ適用して、次のとおり推計したものである。

<1> 男子注文服製造小売における経費 二二七三万〇六二七円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

42,487,152円×53.50%=22,730,627円

<2> 男子既製服小売における経費 一三五万九二三四円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

6,212,218円×21.88%=1,359,234円

<3> 洋品雑貨小売における経費 九二万一九一〇円

(算式)

(総収入金額) (経費率) (経費)

10,584,498円×8.71%=921,910円

<4> 合計 二五〇一万一七七一円

(5) 経費率

<1> 男子注文服製造小売における経費率 五三・五〇パーセント

<2> 男子既製服小売における経費率 二一・八八パーセント

<3> 洋品雑貨小売における経費率 八・七一パーセント

右各経費率は、前記(一)の(3)の同業者の課税事績を基に別紙4「同業者率計算表」のとおり算定したものであり、これらを昭和五三年分における原告の経費率とみなしたものである。

(6) 事業専従者控除額 八〇万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻遠藤美佐子及び長女遠藤憲子にかかる事業専従者控除額であり、原告の申告額である。

(7) 事業所得金額 九六二万八五七一円

右金額は、(1)総収入金額から(2)売上原価、(4)経費及び(6)事業専従者控除額を控除したものである。

4 本件推計課税の合理性について

本件係争各年分の原告の事業所得の金額の計算は、原告と同種の各事業(男子注文服製造小売業、男子既製服小売業、洋品雑貨小売業)を営む青色申告の個人事業者で、かつ、右各同業者の事業規模の範囲として原告が営む右各事業の売上原価のほぼ二分の一ないし二倍にあたる者の中から、更に以下の選定基準に該当する各同業者を抽出し、その平均売上原価率及び平均経費率をそれぞれ適用したものである。右平均売上原価率及び平均経費率は、いずれも右抽出した各同業者の本件係争各年分の所得税の青色決算書等について正確に算出したものである。

したがつて、本件の推計課税は、合理性を有する適法なものである。

(選定基準)

同業者の選定基準は、金沢国税局管内において男子注文服製造小売業を営む個人事業者、男子既製服小売業を営む個人事業者及び洋品雑貨小売業を営む個人事業者のうち、昭和五一年分、同五二年分及び同五三年分の所得税について継続して青色申告書を提出している者で、次の(一)及び(二)の各条件のいずれにも該当する者である。

(一) 歴年前記各事業を継続して営んでいること

ただし、次に該当する者は除く。

(1) 年の中途において、開廃業、転業又は業態を変更した者あるいは他の業種目を兼業している者

(2) 小規模事業で帳簿組織が簡易な方法(現金主義)によつているもの及び期間損益が明確にされていない者

(3) 更正又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立て期間及び出訴期間を経過していない者並びに不服申立て又は訴訟中の者

(二) 各年分の売上原価の金額が次の範囲内にある者であること

(1) 男子注文服製小売業の場合

<1> 昭和五一年分の売上原価

三〇〇万円以上、一四〇〇万円未満

<2> 昭和五二年分の売上原価

四〇〇万円以上、一七〇〇万円未満

<3> 昭和五三年分の売上原価

五〇〇万円以上、二四〇〇万円未満

(2) 男子既成服小売業の場合

<1> 昭和五一年分の売上原価

二〇〇万円以上、一二〇〇万円未満

<2> 昭和五二年分の売上原価

二〇〇万円以上、一二〇〇万円未満

<3> 昭和五三年分の売上原価

二〇〇万円以上、九〇〇万円未満

(3) 用品雑貨小売業の場合

<1> 昭和五一年分の売上原価

二〇〇万円以上、九〇〇万円未満

<2> 昭和五二年分の売上原価

三〇〇万円以上、一三〇〇万円未満

<3> 昭和五三年分の売上原価

四〇〇万円以上、一七〇〇万円未満

四  被告の主張に対する否認及び原告の反論

1  被告の主張1は争う。

2  同2については、(一)は認めるが、(二)は不知ないし否認

3  同3については、昭和五一年分の各事業の仕入金額、昭和五二年分の男子注文服製造小売、男子既製服小売の仕入れ金額、昭和五三年分の男子注文服製造小売の仕入金額、係争各年分の男子注文服製造小売及び男子既製服小売の経費、事業専従者控除額については認め、その余は争う。

なお、係争各年分の各事業の仕入金額は別表5該当欄記載のとおりである。

原告は係官に対し、後記4記載の原告の特殊事情等につき説明しており、被告はそれらの特殊事情を踏まえて原告の実所得につき十分調査できたにもかかわらず、調査不十分なまま推計課税に踏み切ったもので、本件においては推計の必要性は存在しない。

4  同4争う。

被告の行つた推計は以下に述べる原告の特殊事情を無視した不合理なもので、原告の所得を過大に認定したものである。

(1) 売上の把握(同業者選定)の誤り

原告の取扱品目は男子注文服(製造)、男子既製服(販売)、洋品雑貨(販売)であり、そのうち男子注文服が六〇パーセント以上を占めているが、原告は加工工程を外注に依存するいわゆるマーチヤントテーラーである。

また、原告は富山県生活協同組合(以下「生協」という。)の指定業者であり、県庁舎内に販売店を設けているが、生協扱いの商品は六パーセントの歩戻しをし、その他扱い商品もこれに準じた取引条件で販売している。

右販売店では、注文服の取次以外に洋品雑貨の販売も行つているが、その販売価格も一般市価に比し低廉である。

ところが、被告の選定した同業者についてはその業務の態様が不明であつて、原告との類似性は認めらないというべきである。

(2) 売上原価把握の誤り

被告は期首(年首)及び期末(年末)の棚卸高を無視し、各年における仕入れ金額をそのまま売上原価としているが、係争各年における年首及び年末の棚卸高及びこれを考慮した係争各年の売上原価は別紙5該当欄記載のとおりである。

(3) 経費(標準外経費)把握の誤り

経費については、一般経費と原告の特殊条件にかかる経費(標準外経費)に区分して算定するのが合理的であり、原告は他人労働費(外注加工費、人件費)が大きく、土地建物につき賃料を支払つたり、県庁舎内の販売の維持費を支出する等、総経費中、特殊経費の占める割合は高く、全体として同業者より経費率は高いものというべきである。

以上述べたとおり、被告の行つた推計には合理性がなく、原告の所得を過大に認定したものであり、原告主張の税額及びその算出根拠は別紙6記載のとおりである。

なお、別紙6のうち、売上高は実額により、売上原価については、仕入帳と売上帳により消費高を除却する方法によつて、昭和五一年から同五三年までの棚卸高の増加額を算出し、これを基にして計算した三年間の平均原価率をもつて各年分の棚卸高を推計算定(別紙5参照)し、期首、期末棚卸高を加減して算出し、前記特殊経費は実額により、一般経費のうち実額によらないものは部分推計によつた。

第三証拠

本件記録中に証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件各処分等の経緯

請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  本件調査手続きについて

所得税の調査を行う職員が、所得税法二三四条1項の質問検査権を行使するに当たり、事前の通知すべきこと、あるいは調査の理由及び必要性を個別具体的に通知すべきことは要件とされていないし、また本件各処分に至る経緯は後記(三1)認定のとおりであるから、被告の調査担当係官の行つた本件調査に違法はなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

三  原告の係争各年分の所得金額について

原告は、本年各処分のうち、各年分の所得金額が原告の確定申告に係る金額を超える部分は、被告の過大認定であつて違法であり、したがつて、本件各処分を前提としてされた本件各決定も違法である旨主張するので、以下この点につき判断する。

1  推計課税の必要性

証人野村繁、同小杉明の証言、原告本人尋問の結果(一部)弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和五一年ないし昭和五三年当時、富山市安住町九番一号において、「五番館」と称する店舗を、また富山県庁において売店を設けて、男子注文服製造小売、男子既製服小売及び洋品雑貨小売を営んでいたこと(この事実は当事者間に争いがない。)、係官は、原告の本件係争各年分の所得税の調査のため昭和五二年一一月二日以降五四年六月一九日まで十数回にわたり前記「五番館」に臨場したこと、最初の臨場の際には原告が不在であつたので従業員に対し、調査を行うため原告の都合のよい日があれば連絡されたいとの伝言をしたが原告からは連絡がなかつたこと、昭和五二年一一月一四日係官が再度臨場し、原告に対し昭和四九年分から昭和五一年分までの所得税の調査に訪れた旨述べたこと、原告はこれに対し調査理由の開示を求めたため、係官は相当期間調査が行われておらず、事業規模から見て申告水準が低調であるため申告内容を確認する必要があると答えたこと、原告は申告により納税義務は完了しており、調査の必要はない旨主張して調査に応じなかったこと、昭和五三年二月六日係官が臨場し調査への協力を求めたが、原告は前回述べたと同様な理由で調査に応じず、二月下旬に富山税務署に出向き総括国税調査官と直接面談する旨述べたため係官は調査に入らず戻ったこと、ところが二月中旬以降も原告は富山税務署を訪れないため、係官が二・三回電話で催促したところ、原告は同年四月富山税務署を訪れ総括国税調査官と面談したこと、その際統括国税調査官が帳簿等を提示して調査に協力するよう説得したが、原告は具体的な調査理由の開示を求め、更に調査に際しては民主商工会事務局員の立会いを求め六月になつたら都合がつくと述べたこと、そこで、係官としては同年六月を待つて調査を実施することにし、二・三回電話連絡のうえ原告の同意を得て六月二六日に臨場調査をすることになったこと、係官は同日前記「五番館」に臨場調査に赴き帳簿等を開示して調査に協力するよう要請したが、現場には富山民主商工会の事務局員等六・七名が同席し、係官に対し具体的調査理由を開示せよと口々に述べ協力を得られなかつたため係官は当日はそのまま辞去したこと、係官はその後も同年七月二〇日、八月三〇日の両日臨場して調査への協力を要請したが、原告の協力を得られなかつたこと(なお、八月三〇日は原告の都合がよいから臨場されたいとの申し入れがあつたにもかかわらず、原告は多忙等を理由に調査に応じなかつたものである。)、同年九月一一日、係官が臨場し調査の協力を求めたが、原告は調査理由の開示を求めたため、係官は昭和五二年一一月に述べたと同様な調査理由を述べ改めて調査への協力を求めたものの原告がこれに応じないため調査不能と判断して原告方を辞去したこと、その後同年一一月ころまで係官が毎月臨場したり、電話による協力要請を行つていたが調査は進展しなかつたこと、同年一一月末ころ、原告から翌年早々には仕入れ・売上・経費について整理できるとの連絡があつたため、係官は原告と打ち合わせのうえ、昭和五四年一月二二日臨場し、原告に対し帳簿等の提示をもとめたこと、しかしながら、原告は収支計算書が未了であるとの理由で帳簿等の提示を拒否し、更に被告において反面調査を行えば今後調査には一切応じないとの態度を明らかにしたため係官は原告方を辞去したこと、同年二月五日、係官は原告と約束のうえ臨場したがやはり原告の協力を得られなかつたこと、同月八日、原告は臨場した係官に対し、昭和五一年分の仕入れを月別に記載した一覧表(ただし、仕入先名の記載のないもの)を提示したが、仕入先を明らかにされたいとの係官の求めに対してABC等の記号を記入したのみで具体的な名前を明らかにしなかつたこと、原告は更に同年分の売上の集計表を提示したが、係官としてはこれのみでは検討できないとして、更に帳簿等の提示を求めたが協力を得られなかつたため調査を打ち切つたこと、同年五月一日原告が富山税務署を訪れたが、その際係官は調査年分が係争各年分(昭和五一年から同五三年まで)に変更になったことを伝え、同月一四日に臨場する約束をしたこと、原告は同日臨場した係官に対し経費について整理中であるとの理由で調査に協力しなかつたこと、同月一六日係官が臨場したが、原告からは帳簿等の提示がなく、原告は係官に対し前記集計表の検討をしたか尋ね、係官が仕入先名が不明のままでは調査ができないと答えたところ集計表の記号部分に具体的な仕入先名を記入したこと、ところが原告の明らかにした仕入れ内容は反面調査の結果と符合しなかつたこと、原告は反面調査の結果と符合しないと述べた係官に対し、意識的に記載しない仕入先もあり、売上も除外してある、毎年の申告も現金・借入・売掛の残を見て概算的に行っている旨答えたこと、そこで係官としては、実額による把握は困難であると判断して原告方を辞去したことが認められ、右認定に反する原告本人の供述は前掲各証拠に照らし採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠は存在しない。

右によれば、原告の本件係争年分の所得金額については、これを実額で算定するに必要な帳簿書類等の提示がなく、係官の行つた調査についても原告の協力が得られなかつたのであるから、被告は原告の係争各年分の各総所得金額を実額により把握することは到底不可能であつたというべきであり、本件各処分時において、右各総所得金額を推計により認定する必要性が存したことは明らかである。

2  実額により算定の可否

(一)  収入金額

原告は、その収入金額に関する書証として、受注簿(甲第四ないし第六号証)及び売店売上帳(甲第七ないし第九号証)を、右受注簿のうち昭和五二年分(甲第5号証)、昭和五三年分(甲第六号証)の裏付資料として採寸帳(甲第一一一号証の1ないし二八一、第一六七号証の1ないし一三、第一八八号証の一ないし三〇四)、納品書(甲第一一二号証の一ないし五一、第一一三号証の1ないし五〇、第一一四号証ないし四〇、第一九一号証の一ないし七三、第一九二号証の一ないし三九)、請求書(甲第一一五号証ないし五〇、第一三九号証の一ないし二九)を提出する。

右帳簿類の内容を検討するに、採寸帳が作成されながら受注簿に記載がないもの(この点につき、証人遠藤憲子((第一回))は採寸をしながら、返品その他により売上に至らなかったものなどは受注簿に記載されない旨供述し、これと同趣旨の同人作成説明書((甲第一〇三号証、第一〇六号証の一、二))が存在するが、それらを裏付ける客観的資料はない。)が存在するなど受注簿の正確性について疑問があるばかりでなく、納品書及び請求書についても提出されたのは受注簿に記載された売上の一部に関するもののみであつて、結局受注簿の正確性の確認はできないものというべきである。

また、原告は昭和五一年分の受注簿(甲第四号証)及び売店売上帳(甲第七ないし第九号証)については裏付けとなる客観的資料をなんら提出しない。

(二)  売上原価

売上原価を実額で算定するためには、本件係争各年分の年首及び年末における棚卸高の実額を把握する必要があるが、原告はこれを実額で主張していない。

(三)  売上原価以外の経費

原告は係争各年分の売上原価以外の経費を一般経費と特殊経費に区分し、それぞれ具体的な数値をあげて主張するので、これについて判断する。

まず、一般経費については、昭和五一年分の一般経費について原告はその内容を明らかにせず、実額を認定するに足りる資料も提出せず、その余の年分の一般経費に関する資料として提出された甲第七一号証(五番館における昭和五二年分経費帳)、甲第七二号証(五番館における昭和五三年分経費帳)はいずれも厚生費、租税公課その他、支出の年及び月の記載はあつても、日の記載がない項目が多数存在するばかりでなく、また右記載に関する領収書等の客観的資料が一部しか提出されていないため、右経費帳の正確性を確認することきはできないというべきである。

また特殊経費(その内容は別紙6記載のとおり)のうち、手数料、減価償却費についてはその算出根拠が不明であるばかりでなく、これを裏付ける客観的資料は存在しない。

また、係争各年分の県庁内売店の経費を記載したとする甲第七三号証(売店経費帳)も、支出した年月の記載はあつても日の記載はなく、また記載内容の裏付けとなる客観的資料も提出されず、売店経費帳の正確性を確認することは不可能である。

(四)  以上のとおり、本件において、原告が実額主張の根拠とする前記各書証はいずれも、その正確性につき疑問があるか、正確性を確認できないものであつて、これらによつて原告の係争各年分の総所得金額を実額で算定することは困難であり、他に原告主張の実額が正当であることを認めうる的確な証拠は存在しないから、結局本件係争各年分の総所得金額については推計によつて算定するほかはないものというべきである。

3  推計課税の合理性について

(一)  売上原価について

被告は反面調査で判明した原告の営む各事業における仕入金額を前提とし、原告から係争各年分につき年首及び年末の商品棚卸高を把握する必要な資料の提示がなかつたため、係争各年分における年首及び年末の商品棚卸高がいずれも同額であるとして、各仕入金額を売上原価とみなしたことは本件記録上明らかである。

これに対し、原告は、被告主張の売上原価は年首及び年末年の棚卸高を考慮せず算出されたものでこの点に違法がある旨主張する。

しかしながら、被告は原告から係争各年の年首及び年末の棚卸高を実額で認めるに足りる資料の提出がないため、係争各年分につき年首及び年末の棚卸高が同額であるとして推計を行つたもので、棚卸高について考慮していないとの原告の主張はすでに失当というべきである。

進んで、被告が係争各年分の年首及び年末の棚卸高が同額であるとしたことに合理性があるか否かについて判断する。

原告は係争各年の年首及び年末の棚卸高は別紙5記載のとおりである旨主張するが、証人遠藤憲子(第一回)の証言により成立の認められる甲第五五号証、第一〇二号証、証人西田辰男の証言によれば、右棚卸高は、原告が営む事業である男子注文服製造小売、男子既製服製造小売、洋品雑貨小売毎に昭和五〇年末(昭和五一年年首)及び昭和五三年年末の棚卸高を算出(いずれも一部推計、殆ど実数に近いとする男子注文服についても、実際の棚卸作業はされておらず、男子注文服、男子既製服、洋品雑貨いずれも、単価未記入との理由で8パーセント、欠損品等につき一・五パーセント程度推計により、右係数は経験値であるとする。)し、昭和五一年年首棚卸高に三か年分の仕入金額を加え、これから昭和五三年年末棚卸高を減じて三か年分の売上原価を求め、この売上原価を係争三年間の総売上高で除して、売上原価率(正確には三年間の平均)を求め、昭和五一年の売上高にこの売上原価率を乗じて同年の売上原価を求め、同年の年首棚卸高に仕入高を加え、売上原価を減じて同年年末(昭和五二年年首)棚卸高を算出し、以下同様な作業を繰り返して算出したものであることが認められる。

右により算出された棚卸高の相当性について判断するに、まず計算の基礎となつた昭和五〇年年末及び昭和五三年末の棚卸高については実際の棚卸作業はされず、かなりの部分推計によつたものであつて、実額と一致していることを具体的に認めるに足りる証拠はなく、また右により得られた三年分の売上高から昭和五一年年末棚卸高を求めるため、原告が取った方法は当該三年間における売上原価率が等しいことを前提としたものと言わざるをえないが、一般に同一業者であつても異なる年度における売上原価率が等しいとすることに根拠はなく、また原告の場合についても、甲第一号証(裁決書)によれば、原告は審査請求時においては、昭和五三本末には株式会社クニタから仕入れた商品の八〇パーセントが売れ残り、在庫増となつたと主張していることが認められ(もつとも右主張は容れられなかつた。)、右事実によつても原告の営む事業につき売上原価率が係争の三年間を通じて等しいとの前提を取り得ないことは明らかである。

したがつて、原告主張の係争各年の年首及び年末の棚卸高の算定方法は合理性を欠くものであるところ、原告は各棚卸高を直接算定するに足りる資料を提出しないから、被告が係争各年分の年首及び年末の棚卸高をいずれも同額と認め、各年分の仕入れ金額をもつて売上原価額としたことに違法はない。

(二)  推計方法の選択について

反面調査により判明した原告の営む各事業の係争各年分の仕入金額のうち、昭和五一年分及び男子注文服製造小売を除く同五二年分、同五三年分の男子注文服製造小売に関する部分については原告はこれを争わず、昭和五三年分の男子既成服小売について原告の自認する仕入れ金額が、被告主張額を越えていることは明らかであり、(別紙5参照)、税務調査における捕捉もれを考慮すれば、原告の営む各事業のうち、昭和五二年分男子注文服製造小売、昭和五三年分洋品雑貨小売を除く事業における仕入金額について被告の主張金額が実額を越えることはないものと解するのが相当である。

また昭和五二年分男子注文服製造小売及び昭和五三年度の洋品雑貨小売の仕入金額については原告の自認する金額(別紙5参照)は実額を越えることはないものというべきである。そして、被告が係争各年分の年首及び年末の棚卸高を同額としたことに違法がないことは(一)で判断したとおりである。

したがつて、本件においては原告の営む各事業について、係争各年における売上原価について、実額を越えることのない金額が認定できるのであるから、右売上原価に類似同業者の原価率を乗じて売上金額を算定し、これに類似同業者の経費率を乗じて経費を算定し、右売上金額から右売上原価及び経費等を控除して原告の所得金額を推計する方法(なお、洋品雑貨小売を除く事業における係争各年分の経費が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。)を被告が選択したことには合理性があるというべきである。

(三)  類似同業者の選定について

証人新田陽一郎の証言及びこれにより成立の認められる乙第一号証及び第二号証の各一ないし二二、第三号証の一ないし三七に弁論の全趣旨を総合すれば、被告は本件係争各年毎に、金沢国税局管内において、原告と同種の事業である男子注文服製造小売、男子既成服小売、洋品雑貨小売を営む個人事業者のうちから、青色申告書を提出するもので、その売上原価が原告の営む右事業の売上原価のほぼ二分の一ないし二倍にあたる者の中から、更に前記「被告の主張4」記載の選定基準に該当する各同業者(なお富山税務署管内においては該当者はなかつた。)を抽出し、右各同業者について本件係争各年分の青色申告書添付の決算書に基づき平均売上原価率及び平均経費率を求めた結果は別紙2ないし4記載のとおりであることが認められる。

右認定の事実によれば、被告が本訴において主張する同業者の平均売上原価率及び平均経費率算出の対象となつた同業者は、いずれも金沢国税局管内に事業所を有する業者であり、その抽出基準には合理性があり、同業者の選定に被告の恣意が介在した形跡もなく、その抽出数も同業者の個別性を平均化するに足りるものということができるから、この同業者の平均原価率及び平均経費率は、正確性及び一応の普遍性が担保されているというべきであつて、右同業者の平均売上原価率及び平均経費率を基礎に原告の所得を推計することには合理性があるというべきである。

(四)  原告は、被告のした推計は合理的でないと主張し、その理由として同業者を抽出するに際し、原告が事業の六〇パーセントを占める男子注文服製造小売において加工工程を外注に依存していること、原告が生協の指定業者であつて、生協扱いの商品を六パーセント歩戻しして販売していること、洋品雑貨の販売価格も市価よりも低廉であることなど、原告の具体的業態を考慮していないこと、原告は他人労働費が大きく、土地建物につき賃料を支払い、販売店の維持費、生協手数料等、原告の特殊条件に係る経費(特殊経費)の割合が高いことを考慮していないことをあげる(売上原価に関する主張に対する判断は前示のとおりである。)。

しかしながら、本件のような平均率による推計の場合には、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は無視しうるのであるから、平均値算出過程の整合性等推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、納税者の個人別営業条件のいかんは、それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないものと解すべきである。

原告の主張する特殊事情のうち、男子注文服小売において外注に依存していること(したがつて他人労働費が大きいこと)については原告の自認する仕入金額から推認される事業規模と同程度の業者においては、外注に出すか従業員を使用するかの別はあつても、事業者本人以外の労働に依存する部分がかなりの割合を占めるものと考えられるから、これをもつて特殊事情とまでいえず、また、土地建物の賃料、販売店の維持費、生協手数料の支払いについても推計自体を不合理ならしめる程度の顕著なものであることを認めるに足りる証拠は存在せず、原告の前記主張はいずれも採用の限りではない。

4  以上認定したとおり、被告の推計方法は合理的なものということができるところ、原告の営む各事業毎に本件係争各年分につき、前認定の売上原価に前認定の平均売上原価率を適用して収入金額を求めた結果は別紙7の番号<1>ないし<3>欄記載のとおりであり、これに前認定の平均経費率を乗じて得られた洋品雑貨小売における経費は同<11>欄記載のとおりであり、洋品雑貨小売を除く事業の係争各年分の経費及び係争各年分の事業専従者控除額が被告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。

そうすると、本件各処分はいずれも別紙7記載の事業所得金額の範囲内でされたものであるから、所得を過大に認定した違法はないというべきであり、また本件各処分を前提としてされた本件各決定にもなんら違法はない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井筒宏成 裁判官 林道春 裁判官 丸地明子)

別表一

昭和五一年分

<省略>

別表二

昭和五二年分

<省略>

別表三

昭和五三年分

<省略>

注1 各年分とも総所得税金額の内訳は、事業所得の金額のみである。

2 昭和五一、五二年分の納付すべき税額が確定申告より不服申立がそれぞれ六〇〇〇円減少しているのは、所得税の特別減税の実施によるものである。

別紙1

事業所得金額の計算表

<省略>

別紙2

同業者率計算表(昭和51年分)

<省略>

別紙3

同業者率計算表(昭和52年分)

<省略>

別紙4

同業者率計算表(昭和53年分)

<省略>

別紙5

棚卸高の算定(推計)

<省略>

別紙6

事業所得金額の計算書

<省略>

別紙7

事業所得金額の計算表

<省略>

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