大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮簡易裁判所 昭和38年(ろ)108号 判決

被告人 後藤酉男

昭一二・二・二〇生 無職

主文

被告人を拘留二九日に処する。

理由

一、罪となるべき事実

被告人は定つた職もなく定つた住居もなく諸所を放浪している者であるが昭和三八年九月一三日午后四時三〇分頃宇都宮市雀宮町二三〇五番地杉山勇方外近隣三軒において夫々各家人に対し物乞いをなし現金五円乃至一〇円の交付を受け以つてこじきをなしたものである。

二、証拠の標目(略)

なお、検察官は被告人の判示所為を併合罪と解し起訴状記載の如く

「被告人は

第一、昭和三八年九月一三日午后四時三〇分頃宇都宮市雀宮町二、三〇五番地杉山勇方において同人に対しこじきをなし同人より現金五円を得

第二、前記日時頃同市同町二、三〇四番地青柳富子方において同人に対しこじきをし同人より現金一〇円を得

第三、前記日時頃同市同町二、四二二番地星ヤヱ方において同人に対しこじきをし同人より現金一〇円を得

第四、前記日時頃同市同町二、三〇八番地伊沢コト方において同人に対しこじきをし同人より現金一〇円を得たものである」として起訴をなしているが軽犯罪法にいわゆる「こじき」とは単に個々の物乞い行為(人の同情心に訴えて金品の無償交付を求める行為)自体を指すのではなく、その概念には不特定多数人に対しある程度反覆継続的に物乞いをするという云わば業的な観念が内在していると解すべきでありかゝる犯罪の本質から又本件犯罪がこじきをするとの一個の包括的犯意の下に近接した日時、場所においてなされたという犯罪の態様から被告人の所為はむしろ包括的に一罪と解すべきである。

三、法令の適用

被告人の判示所為は軽犯罪法第一条第二二号前段に該当するところ、拘留刑を選択し刑法第一六条に定める刑期範囲内において被告人を主文掲記の刑に処し訴訟費用は被告人が貧困で之を納付することができないと認められるので刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人の負担とせず主文のように判決する。

(裁判官 武本俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例