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宇都宮地方裁判所 昭和46年(行ウ)1号 判決 1974年1月31日

原告 矢野新商事株式会社

被告 宇都宮地方法務局栃木支局供託官

訴訟代理人 高野幸雄 外二名

主文

原告の被告国に対する請求を却下する。

原告の被告宇都宮地方法務局栃木支局供託官に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告は「被告宇都宮地方法務局栃木支局供託官が、昭和四六年二月四日付をもつて、原告の昭和四五年度金第一六一号供託金払渡請求についてなした却下処分を取消す。被告国は原告に対し昭和四五年度金第一六一号により供託せられた金八〇万円を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被告国は、本案前の答弁として、「原告の被告国に対する訴えを却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、被告両名は本案の答弁として「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

第二当事者の主張

一  原告は請求原因として次のとおり述べた。

(一)1  原告は、昭和四四年三月七日、宇都宮地方裁判所栃木支部に対し、訴外鈴木貴に対する売掛代金債権に基づき、同人所有の不動産の強制競売の申立をしたところ、同裁判所は同年四月七日、強制競売開始決定をした。

2  ところが訴外鈴木は、昭和四五年六月六日、右執行債権につき弁済の見込があるとして、栃木簡易裁判所に民事調停の申立をするとともに、民事調停規則六条に基づき強制競売手続停止の申立をしたところ、同裁判所は、同月八日、金八〇万円の保証金を立てさせて、強制競売手続停止決定をしたので、訴外鈴木は同日右保証金八〇万円を宇都宮地方法務局栃木支局に同支局昭和四五年度金第一六一号をもつて供託した(以下本件供託金という)。

(二)  原告は、昭和四五年七月六日、訴外鈴木に対する前記債権に基づき、本件供託金について右訴外人が有する供託物取戻請求権に対する債権差押命令を宇都宮地方裁判所栃木支部に申請し、同命令は、同月二一日、債務者鈴木貴、第三債務者国にそれぞれ送達された。次いで、原告は、同年一一月一二日、右供託物取戻請求権に対する転付命令を同裁判所に申請し、右命令は、同年一二月三日に債務者鈴木貴へ、同年一一月二六日に第三債務者国へ、いずれも送達された。

(三)  そして、昭和四六年一月一三日右供託金につき栃木簡易裁判所により担保取消決定がなされたので、原告は、同月一四日、被告宇都宮地方法務局栃木支局供託官(以下被告供託官という)に対し、本件供託金の払渡請求をしたところ、被告供託官は、同年二月四日付で理由も述べずに右払渡請求を却下した。

(四)  被告供託官の右却下処分は、以下の理由により違法である。

1 被告供託官は原告に対し、原告の本件供託金払渡請求を却下するに際して、訴外鈴木から同支局に対し債権譲渡の通知がきている旨を告げたのみで、卸下理由を文書上はもちろん口頭によつても明らかにしなかつた。

2 原告は、訴外鈴木に対し有する売掛金代金およびその遅延損害金の確定債権金五三二万四、七九八円、強制執行手続停止に伴なう右確定債権について日歩四銭五厘の割合による損害賠償請求権につき同人の本件供託金取戻請求権のうえに法定質権(民事訴訟法第一一三条)を有するところ、原告は、右担保権の実行のため差押・転付命令を取得したうえ供託官に右供託金の払渡請求をする方法と直接供託物取戻請求権を行使する方法とを重量的に行使しているのであるから、仮に、訴外鈴木が昭和四五年六月九日右供託物取戻請求権を訴外桜不動産有限会社(以下訴外会社という)に、譲渡したとしても、その譲渡は担保取消決定がなされた昭和四六年一月一三日までは法定質権の効力により無効であつて右訴外会社は本件供託金の取戻請求権を有しないから、被告供託官が、同年二月三日、訴外会社からの取戻請求に応じて本件供託金八〇万円を支払い、原告の払渡請求を却下したのは違法である。けだし、そうでなければ、民事訴訟法一一三条が被供託者は保証金に対し質権を有すると定めた趣旨が没却されることになるからである。

3 仮に、訴外鈴木から訴外会社への右取戻請求権の譲渡が有効であるとしても、右鈴木から原告に対し債権譲渡の通知がなされていないから、右譲渡は原告に対抗できないものである。

よつて、原告は、

被告供託官に対しては、原告の昭和四六年一月一四日付供託金払渡請求に対する同年二月四日付却下処分を取消すこと

被告国に対しては、本件供託金八〇万円を支払うことを、それぞれ求める。

二  被告国は本案前の抗弁として次のとおり述べた。

供託金払渡請求に対する供託官の却下処分は行政処分であつて、これに対する不服方法は抗告訴訟によるべき(最高裁判所昭和四五年七月一五日判決)であるが、被告供託官の却下処分が取消されても、それだけでは払渡請求に対する未処分の状態に復するにすぎず、当然に原告に払渡をすべきことになるわけではないから、原告の被告国に対する本件払渡請求は、行政庁の一定の行政処分があつたと同一の効果をもたらす行為を国に命ずることに帰し、許されないというべきである。

したがつて、原告の被告国に対する本訴請求は不適法であつて却下を免れない。

三  被告両名は請求原因に対する答弁および抗弁として次のとおり述べた。

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は認める。ただし、差押命令が第三債務者国に送達されたのは、昭和四五年七月一三日である。

(二)  同(三)のうち、被告供託官が却下にあたり理由を述べなかつたことは否認し、その余の事実は認める。

被告供託官は原告の供託金払渡請求について、原告は本件供託金の取戻請求権者と認められないことおよび本件供託金は他に払渡済であることを理由として却下したものであり、右却下理由は、却下にあたり原告代理人松永謙三に口頭で告知している。

(三)  被告供託官の本件却下処分は、以下の理由により適法である。

1 一般に行政処分をするにあたり、その処分の理由を明らかにすることを法が要求している場合には理由を明示しなければ、その処分は違法となるが、そうでない場合には理由を示さなかつたからといつて、その処分が違法となるものではない。

ところで、供託規則第三八条(昭和四七年改正前)は、供託金払渡請求を却下する場合に、その理由を書面に付記することを要求していないから、被告供託官が却下処分をする際にその理由を示さなかつたからといつて違法ということができないのはもちろんである。しかも本件では被告供託官は却下にあたり、原告代理人松永謙三に対して、却下処分の理由を「本件供託金の取戻請求権は供託者訴外鈴木から訴外会社に譲渡された旨の右訴外人の債権譲渡通知書が昭和四五年六月九日に被告供託官へ送達されているためすでに右会社に支払済である。したがつて、原告には右供託金の取戻の権利はないから却下する。」旨を口頭で告知しているのであるから、この点についての原告の主張は失当である。

2 原告は、被告供託官の右却下処分が違法である理由として、本件供託金は原告が訴外鈴木に対して有する売掛代金債権およびその遅延損害金債権を担保するものと主張するが、民事調停規則六条に基づく強制執行手続停止のための保証金について、同条等によつて被供託者が有する法定質権は、被供託者が強制執行手続停止によつて受ける損害の賠償請求権を被担保債権とし、原告主張の売掛代金債権等はこれに該当しないから、原告の右主張は失当である。

3 被供託者が、強制執行手続停止に伴つて受ける損害を担保するための保証金に対し、法定質権を実行して優先弁済を受けるためには、被担保債権について確定判決を得て直接供託官に還付請求をするか、または右確定判決に基づき供託者の有する供託金取戻請求権を差押え、担保権の行使によるものである旨を明示した転付命令もしくは取立命令を得て供託官に還付請求をするかであるが、本件供託金取戻請求権の譲受人である前記訴外会社が栃木簡易裁判所に担保取消の申立をした際、同裁判所が原告に一定の期間内に権利(法定質権)を行使すべき旨を催告したにもかかわらず、原告は右権利を行使しなかつたため右取消に同意したものとみなされ、昭和四六年一月一三日担保取消の決定がなされたものである。したがつて、このとき、原告が本件供託金のうえに有していた法定質権が消滅したのであるから、その後においても原告が法定質権を有することを前提とした原告の主張は失当である。

4 原告はまた、担保取消決定前になされた供託金取戻請求権の譲渡は効力がないと主張するが、担保取消決定前でも取戻請求権の譲渡は有効で、ただ供託金が強制執行手続停止の保証供託であることによる制限を受けるだけである。したがつて、担保取消決定等により供託原因である保証(担保)目的が消滅すれば、右取戻請求権の譲受人はこれを行使できるのであり、本件においても、右決定による供託原因消滅後にそのことを確認したうえで、訴外会社からの取戻請求に応じて供託金の払渡をしたものであるから、被告供託官の右手続には何らの違法もない。

5 原告の訴外鈴木に対する売掛金等の債権を執行債権とし、本件供託金取戻請求権を差押債権とする債権差押命令は昭和四五年七月一三日第三債務者国に送達され、一方訴外鈴木から訴外会社への右取戻請求権の譲渡通知は、その以前の同年六月九日内容証明郵便で債務者国に到達している。したがつて右債権差押命令の送達以前に対抗要件を備えた債権譲渡の方が原告の右差押に優先し、本件においては訴外会社が適法な供託金取戻請求権の譲受人としてこれを行使しうるから、被告供託官が担保取消決定確定後、訴外会社に供託金を払渡し、原告の払渡請求を却下したのは適法である。

なお、指名債権譲渡の対抗要件は、譲渡人が債務者に譲渡通知をするか、債務者がこれを承諾すれば足り、その他の利害関係人等には譲渡通知をする必要はないから、単なる利害関係人にすぎない原告に対する譲渡通知のないことを理由として、本件債権譲渡は対抗力がないとする原告の主張は失当である。

第三証拠関係<省略>

理由

(被告供託官に対する請求について)

一  原告主張の請求原因事実中、原告が昭和四四年三月七日に訴外鈴木を債務者とし、同人に対する売掛代金債権を執行債権として同人所有の不動産の強制競売を宇都宮地方裁判所栃木支部に申立て、同裁判所は、同年四月七日、強制競売開始決定をしたところ、訴外鈴木は、昭和四五年六月六日、右執行債権につき弁済の見込ありとして、栃木簡易裁判所に民事調停の申立をするとともに、民事調停規則第六条に基づく強制競売手続停止の申立をし、同裁判所は、同月八日、保証金を金八〇万円と定めて停止決定をしたこと、訴外鈴木は、右同日、右保証金八〇万円を宇都宮地方法務局栃木支局に同支局昭和四五年度金第一六一号をもつて供託したこと、原告は、同年七月六日、訴外鈴木に対する前記債権に基づき、本件供託金について右訴外人が有する取戻請求権に対する債権差押命令を、宇都宮地方裁判所栃木支部に申請し、同命令は、同月二一日に債務者鈴木貴に送達され、また第三債務者国にも送達されたこと(送達期日は、<証拠省略>より、同月一三日と認められる。)次いで原告は、同年一一月一二日に前記債権に基づく右供託金取戻請求権に対する転付命令を、同裁判所に申請し、右転付命令は、同年一二月三日、債務者鈴木に、同年一一月二六日、第三債務者国に、それぞれ送達されたことは当事者間に争いがない。

そして、<証拠省略>によれば、右差押・転付命令送達に先立つ昭和四五年六月九日訴外鈴木は本件供託金取戻請求権を訴外桜不動産有限会社に譲渡して同日その旨の被告供託官に対する債権譲渡通知を了したことが認められ、原告が、同月一四日、右転付命令に基づいて被告供託官に対して、本件供託金の払渡請求をしたところ、同被告は、同年二月四日付けで右払渡請求を却下したことは、当事者間に争いがなく、同被告が昭和四六年二月三日訴外桜不動産有限会社からなされた本件供託金の払渡請求に対し同日右訴外会社にこれを払渡したことは<証拠省略>により認められる。

二1  原告は、まず手続的瑕疵として、被告供託官は却下処分の際に原告に却下理由を明示しなかつたから違法であると主張する。

供託規則三八条(昭和四七年改正前)は、「供託官は二二条一項の請求が理由なしと認めるときは、請求書にこれを却下する旨を記載して記名押印し、その書面を請求者に交付しなければならない」と規定するにとどめ、請求書に却下理由を告知することまでは要求していないから、供託官が却下にあたり、却下理由を明示しなくても原則としては違法とはならないと解するのが相当であるが、却下の処分が行政処分であつて請求者にとつて不利益なものであることからいうと、請求者からあらかじめ却下理由を明示することを要求されたときは、場合により却下理由を口頭または書面で告知すべきであり、そのような場合に却下理由の告知を欠くときは却下処分が、違法となることもあると解すべきである。

しかし、本件においては、被告供託官が、却下処分の際に原告に対し「本件供託金の取戻請求権は、供託者訴外鈴木貴から訴外会社に譲渡された旨の債権譲渡通知が昭和四五年六月九日に被告供託官に送付されている」旨、口頭で告知したことは弁論の全趣旨により認められるから、右事実よりすれば仮に本件却下処分が理由の告知を要する場合であるとしても右の告知は本件却下処分の理由の告知として欠けるところはない、というべきである。よつて却下理由の明示がないから、本件却下処分は違法であるとする原告の主張は、理由がない。

2  次に、原告は、本件供託金還付請求権に対し原告が被供託者として有する法定質権の実行として前記差押・転付命令を得たものであるから、訴外桜不動産有限会社は原告に対し本件供託金取戻請求権の譲受けをもつて対抗できない、と主張する。

民事調停手続における強制執行停止のための保証供託金について、被供託者は質権者と同一の権利を有することは民事調停規則六条四項、民事訴訟法一一三条により認められるところであるが、右保証金は、強制執行停止によつて生ずる被供託者の損害を担保するためのものであるから、その被担保債権は被供託者が当該強制執行の停止によつて受ける損害金に限られる。

そして<証拠省略>によれば、本件においては前記強制競売の基本たる執行債権は原告の訴外鈴木に対する石油製品販売代金債権および昭和四三年一〇月一四日から昭和四四年二月二〇日までの日歩五銭の割合によるその遅延損害金債権であり、一方<証拠省略>によれば、前記差押・転付命令の基本たる債権も右と同一の売掛代金債権および昭和四三年一〇月一四日から昭和四五年六月三〇日までの日歩五銭の割合によるその遅延損害金債権であることが認められる。このような金銭債権を執行債権とする強制執行にあつては、執行停止による損害の内容は通常右債権について生じる遅延損害金にほかならないから、右差押・転付命令の基本たる前記売掛代金債権および遅延損害金債権中、売掛代金債権、およびその遅延損害金債権のうちの前記強制競売の執行停止決定がなされた昭和四五年六月八日の前日に生じた部分は執行停止による損害ではなく、したがつて以上の債権は本件供託金に対する法定質権により担保されるものといえないことは明らかであるが、その余の、執行停止決定がなされた右八日以降同月三〇日までの遅延損害金については、これを強制執行停止による損害であつて、その賠償請求権に基づく法定質権の実行として前記差押・転付命令の申立がなされたものと解する余地がないではない。しかし、<証拠省略>によれば、原告は、本件供託金についての担保取消に同意したものとみなされ、昭和四六年一月一三日付で本件供託金に対する担保取消決定がなされていることが認められる以上、原告が前記供託金の払渡請求した時点では法定質権はすでに消滅してしまつているのであるから、法定質権の存在を前提とする原告の主張は失当である。

3  そこで原告の得た本件供託金取戻請求権に対する差押・転付命令を、単に前記売掛代金債権およびその遅延損害金債権を執行債権とする強制手続であると解してその効力を考察するに、この点については右転付命令に基づく原告の本件供託金取戻請求権と競合する訴外桜不動産有限会社の取戻請求権との間の優劣関係が問題となる。

ところで、供託者の有する供託物取戻請求権はたとえそれが裁判所により命じられた強制執行停止の保証供託金であつても、それ自体が財産的価値をもつ民法上の債権の性質を有しているから、通常の債権と同様に供託者は右請求権につき譲渡、差押などの処分をすることができるが、ただ右処分は法定質権により担保される被供託者の執行停止による損害賠償請求権(還付請求権)には対抗できず、その行使は担保取消決定が確定し、供託原因が消滅した後でなければならないとの制限を受けるにすぎない。また、同一取戻請求権につき二以上の任意処分ないし強制執行がなされた場合、その優劣関係は専ら供託所での通知・送達の受理の先後により決されると解するのが相当である。

そうすると、本件供託金取戻請求権に対する原告申請の差押・転付命令が被告供託官に送達されたのは、訴外鈴木がこれを訴外桜不動産有限会社に譲渡した旨の通知が被告供託官に到達した後であることは前段認定事実により明白であるから、前示のとおり本件供託金に対する担保取消決定がなされて本件供託金に対する原告の法定質権が消滅した以上、前記本件供託金取戻請求権の譲渡は、たとえ右担保取消決定以前のものであつても、前記差押に優先し右訴外会社は正当な本件供託金取戻請求権の譲受人として適法にその払渡を受けうるものというべきである。

ゆえに、被告供託官のなした訴外会社への本件供託金の払渡および原告の払渡請求に対する却下処分は、いずれも適法であると解すべきである。

なお、原告は、債権譲渡の通知がなされなかつたから、右譲渡は対抗力がないと主張するが、債権譲渡の第三者対抗要件は、確定日付ある証書により債務者(本件においては国=供託官)への通知があれば足るから、右主張はそれ自体失当である。

また、原告は強制執行停止の濫用および法定質権を認めた民事訴訟法一一三条の立法趣旨を云云するが、<証拠省略>によれば原告が本件供託金の払渡を受けられなかつたのは少なくともその一部については原告が訴外桜不動産の担保取消の申立に同意したものとみなされたため本件供託金に対する法定質権を失つたことに基因するのであるから右非難はあたらない。

以上のとおりであるから、原告の被告供託官に対する、払渡請求却下処分を違法として、その取消を求める本訴請求は理由がないから失当として棄却すべきである。

(被告国に対する訴えについて)

まず、被告国に対して、供託金の支払を求める原告の本訴請求が適法であるかどうかを検討する。

被告国は、原告の国に対する本件請求は行政庁の一定の行政処分があつたのと同一の効果をもたらす行為を国に命ずることに帰する旨主張するが、保証供託も民法上の弁済供託と供託原因を異にするだけで、その本質は国との間になされる民法上の第三者のためにする寄託契約にすぎないから国が、担保取消決定がなされ供託原因が消滅した後に供託者、または供託者から供託金取戻請求権を譲受けた者の払渡請求に応じてこれを払渡す行為も、担保取消決定以前に被供託者が担保権の実行としてなす払渡請求に応じてこれを払渡す行為も、ひとしく国が寄託契約上の債務者の地位においてその債務の履行として単に金銭を払渡す行為にすぎず、これを拒否する却下処分が供託規則三八条により行政処分と解すべきであるとしても、そのゆえに右払渡をも行政処分またはこれと同一の効果をもたらす行為と解さなければならないなんらの根拠もない。

しかし、原告の被告国に対する本訴請求は、以下のとおり、権利保護の利益がない点において不適法である。

すなわち、本件却下処分は、前認定のとおり、原告は本件供託金の払渡請求権がないとする実体上の理由に基づくものであり、原告はこれを争い本件供託金の払渡請求権を有するとして右処分の違法性を主張するものであるから、本件の実体上の争点は、原告の右処分時における本件供託金の払渡請求権の存否である。そうだとすれば、原告が右処分時において本件供託金の払渡請求権を有していたとの理由で右処分を取消す旨の判決が確定すれば行政事件訴訟法三三条により、被告供託官は再び原告が右請求権を有しないとの認定のもとに原告の払渡請求を却下できず、これに応じて払渡さなければならない拘束を受けるから、原告が国から本件供託金の払渡を受けるためには、本件却下処分の取消訴訟を提起するのみで足り、そのほかに国に対して本件供託金の支払を請求する法律上の利益はないといわねばならない。

したがつて、原告の被告国に対する本訴請求は、権利保護の利益を欠くから、不適法であつて却下を免れない。

(結論)

よつて、原告の被告国に対する請求は、不適法であるから、これを却下し、被告供託官に対する請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 須藤貢 田辺康次 市瀬健人)

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