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奈良地方裁判所 昭和49年(わ)73号 判決 1974年10月02日

主文

被告人を懲役八月に処する。

理由

(事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、

第一、昭和四八年一〇月上旬、奈良市西木辻町二一六番地藤本春好方で、六連発けん銃一丁(銃身白色、昭和四九年押第五五号の一)を所持し、

第二、一、同月中旬から同月二一日までの間、同市三条添川町一番一六号の自宅で、六連発けん銃一丁(銃身黒色、同押号の二)を所持し、

二、同月上旬から同月二一日までの間、右自宅で、火薬類である実包二発(同押号の三)を所持し

たものである。

(証拠)<略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件けん銃二丁は、いずれも現に弾丸発射の機能を有せず、また従前その機能を有したこともない未完成品であつて、かかるものは、現にその機能を有する完成けん銃、もしくは元来その機能を有しており現在一時的故障のためこれを喪失しているが通常の修理によつて容易にこれを回復しうる故障けん銃と異なり、銃砲刀剣類所持等取締法二条一項にいう「銃砲」に該当せず、その所持は犯罪を構成しない旨主張する。

しかしながら、前示真田宗吉の鑑定書(謄本)第4項の(5)によれば、判示第一のけん銃(回転式)は、その薬室中一個に通常の二二口径ショート実包を装填することができ、かつ装填された実包は異常なく撃発できたというのであり、証人真田宗吉の当公判廷における供述により、この鑑定結果に疑いをさしはさむ余地はないから、右けん銃が金属製弾丸を発射する機能を有し、銃砲刀剣類所持等取締法二条一項にいう「銃砲」にあたることは明白である。また、元来「銃砲」であるか否かは当該物体の発射「機能」の有無によつて定めるべきであつて、適合する弾丸所持の有無ないしその入手の能否は関係がないと解すべきところ(最高裁昭和二四年五月一七日三小判決・裁判集刑事一〇号一九九頁、同昭和二四年一〇月二五日三小判決・裁判集刑事一四号二九七頁、同昭和二六年八月九日一小決定・刑集五巻九号一七四四頁、福岡高裁昭和二六年三月二七日判決・高刑集四巻三号二四四頁)、前記鑑定書第4項の(4)および前記証人の当公判廷における供述によれば、右けん銃の薬室は、その内径が通常の二二口径ショート実包とほとんど同寸度であるため、一箇所を除き同実包を装填することができないけれども、撃針の位置は良好であつて、この薬室に適合する実包を用いさえすればこれを撃発することが可能であるというのであるから、右けん銃はこの意味においても弾丸発射機能を有する「銃砲」であるといわなければならない。

つぎに、判示第二の一のけん銃は、前示塩川俊男の鑑定書二通および同人の検察官に対する供述調書によると、撃鉄撃針部の形状に欠陥があり、弾倉に装填された実包の雷管部を正確に叩打できないため、一回の打撃ごとに確実に発射できるとは限らず、発射できないうちに実包底面が破損してしまう場合もあるが、数回の撃発操作によつて発射できる場合もあるというのであつて、このように弾丸発射が全く不可能なわけではなく、撃発操作によつて弾丸発射を生起させうる以上、右けん銃は発射機能を有するというに妨げなく、これが銃砲刀剣類所持等取締法二条一項にいう「銃砲」にあたることもちろんである。

なお、改造けん銃の類は、たとい現に弾丸発射機能を有せず、またいまだその機能を有したことのない未完成品であつても、それが玩具ないし銃砲製作の素材たるの域を脱して一応は銃砲たるの形態・構造を有し、ただ一、二点の不備欠陥のため発射機能を欠くにとどまり、その不備欠陥は容易に補正充足でき、これによつてただちに発射機能を有するにいたるものであるときには、所持禁止の対象たる武器としての危険性を有し、銃砲刀剣類所持等取締法二条一項の「銃砲」にあたると解するのが相当であるところ、前示各証拠によれば、判示第一のけん銃は、薬室内面を丸やすり等で研磨することにより通常の二二口径ショート実包を装填できる内径まで容易に拡げることができるというのであり、また、判示第二の一のけん銃は、撃針部に装着されている鉄片を適当な形状のものと取り換えることにより完全な撃発機能を有するにいたるほか、単に一、二発の発射機能を取得するためならば半田または熔接により撃針部に若干の肉盛りをすれば足り、そのための作業は一般に見られる通常の工作道具と僅少の材料を用いてせいぜい二時間程度で完成するというのであるから、この観点からしても本件けん銃二丁がいずれも「銃砲」にあたることは疑いを容れない。

よつて、弁護人の主張は採用しない。

(累犯前科および確定裁判)

一、昭和四三年二月一四日京都地裁宣告、自転車競技法違反罪、懲役六月、同年一二月二七日刑執行終了

二、昭和四八年一〇月二二日奈良地裁宣告、自転車競技法違反罪、懲役一年、同年一一月六日確定

前科調書および被告人の当公判廷における供述により認定。

(適条)

第一および第二の一の各事実  銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項

第二の二の事実  火薬類取締法五九条二号、二一条

第二の各罪の観念的競合  刑法五四条一項前段、一〇条(第二の一の罪の刑により処断)(最高裁昭和四三年一二月一九日一小決定、刑集二二巻一三号一五五九頁)

刑種選択  各懲役刑選択

各再犯加重(判示一の前科)  刑法五六条、五七条

併合罪処理  刑法四五条後段(判示二の確定裁判)、五〇条、四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の一の罪の刑に加重)

訴訟費用不負担  刑訴法一八一条一項但書

(田尾勇)

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