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奈良地方裁判所 昭和38年(行)3号 判決 1968年4月05日

原告 栗島春吉

被告 国 外一名

訴訟代理人 氏原瑞穂 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求原因一の事実及び二の事実のうち、本件買収処分につき奈良県知事が買収令書の交付に代えて公告をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで以下本件買収処分に原告主張の如き暇疵があるか否かについて判断する。

<証拠省略>を総合すれば、奈良県知事は本件土地の公簿上(登記簿、土地台帳)に表示された大販市上汐町五丁目二七番地を原告の住所地とする買収令書を作成し、その住所地を管轄する大阪府知事宛に本件買収令書を送付して、原告へ交付方を嘱託して送達を実施したが、原告の居所不明のため返戻されたので前記のように交付に代えて公告したことを認めることができる。ところで<証拠省略>を総合すれば、原告が前記上汐町に居住していたのは大正一三年頃から四、五年の間でその後原告は再三転居し、本件買収当時には大阪府三島郡味舌村味舌に居住していたこと、原告はかように再三に亘り住居を変えながらその間一度も公簿上の住所変更の手続をしなかつたが、本件買収処分がなされた前年の昭和二二年一〇月二日、自創法三条に基いて買収された原告所有の奈良県生駒郡伏見村大字西大寺小字八栗一八五九番地田二六〇・七平方米(二畝一九歩)外畦二九・七平方米(九歩)他三筆の土地の買収令書はいずれも昭和二二、三年頃味舌村の原告の新住所に届いていること(なお<証拠省略>によれば、本件買収処分の後の昭和二三年七月二日に自創法三条に基いて買収された原告所有の前同所一八五七番地田八二・五平方米(二五歩)他一筆の土地の買収令書も原告に届いている)を認めることができ、右事実によれば、奈良県知事は前記買収令書を返戻された後、さらによく調査したならば、原告の新住所を知ることも不可能ではなかつたともいえるが、<証拠省略>を総合すると、原告は前記の通り再三に亘つて転居しながらその間一度も公簿上の住所につき変更の手続をしなかつたところ、伏見村の場合には原告は納税管理人を置いており、右納税管理人において偶々原告の居住地(大阪府三郎郡味舌下一五〇番地)を同村役場に申告し、それが同村の土地台帳に登載されていたため同村農地委員会において原告の新住居を知ることができ、その結果買収令書が原告に交付されたものであつて、かかる納税管理人が置かれていなかつた平城村(本件土地の所轄村)の場合には県知事において本件土地の所轄村たる平城村の農地委員会に照会しても原告の新住居は知り得る状況にはなかつたこと、また公簿上の原告の住所たる大阪市天王寺区上汐町一帯は空襲で焼失し、本件買収当時右附近一帯の土地は毎日新聞社主催の復興大博覧会場に使用されていて、原告の新住所を迫跡調査することは当時としては極めて困難であつたことが認められ、これに加え終戦直後の混乱期において一時に大量の農地及び未墾地につき急速に開放手続を遂行すべき,ことを要請されていた当時の事情を考慮すると、奈良県知事が本件の場合買収令書の交付ができないときに当るとして交付に代えて公告したことはやむを得ない処置であつたというべきである。したがつて本件買収処分は令書の交付手続につき重大な瑕疵があり無効であるとの原告の主張は理由がない。

以上の次第で、本件買収処分は有効であり、従つてその後なされた被告北野への売渡処分もまた有効である。よつて原告の被告らに対する本訴請求はいずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷野英俊 一之瀬健 森下康弘 )

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